警備隊の訓練
和人族の城下町がなにやら賑やかだ。
注目してみてみると和菓子祭りなるものが開催されている。
どうしよう、気にはなるが醤油がない現状、作ってと言われても再現できないからサチに見せるのは酷な気がする。
ウィンドウを小さくしてこっそり見よう。
城下町の飲食店の前では特設の販売所と長椅子が設けられ、持ち帰りでもその場でも食べられるようになっている。
他にも公園や広場など人が集まりやすい場所に出店が並んでおり、賑わいを見せている。
店では団子、餅、大福、煎餅、たい焼き、どら焼き、あられ、かりんとう、おはぎ、羊羹など様々な種類の和菓子が売っている。
更に見たこと無い和菓子っぽいものもあるな。
これは下界の人達が新たに作った和菓子かな。
醤油や味噌、餡子など使っているから多分そうなんだろうな。どれも美味しそうだ。
うーん、こういう料理や菓子類を見ていると思うが、やはり本職の人が作る料理というのは凄いと思う。
俺はこの域には行けそうにない気がする。
・・・いや、そうでもないか。
人だった頃なら老化や寿命というものがあったので諦めていた事だったが、神の体になったことでそういう制限が無くなったからやれなくはないか。
つまり後は熱意と向上心か。ふむ。
いずれユキ達には料理技術では追い抜かれるだろうが、そこで足を止めずに俺なりのペースで技術向上をしていけばいいかな。
以前学校長のミラが師弟関係から同志関係に変わればいいと言ってたし、困ったら今度は俺が教えてもらう側になろう。うん。
またサチに神様らしくないとか溜息交じりに言われそうだが、俺としては努力する姿を見せる方がいいと思うんだけどなぁ。
ま、コツコツ続けてそういう神だと認知してもらおう。そうしよう。
「美味しそうでしたね」
仕事が終わって開口一番サチがそんな事を口にした。
「・・・気付いてたのか」
「気付かない方がおかしいかと。おなか鳴っていましたし」
「げ、それ本当か」
「はい。一応私に気を使ってくださっているのが分かりましたので黙っていましたけど」
何から何までばれていて穴があったら入りたい気分だ。
「それと、私はまだ醤油や味噌というものを知らないので、見たところでそこまで良さはわかりません」
「そういうものか」
つまりさっきの美味しそうというのも自分ではなく俺が思った感想を口にしたというわけか。
「いずれはこちらでも口にする事ができるようになるでしょうし、私は気にしませんよ」
「そうか。じゃあいずれ手に入るようになった時は何か作ろう」
「よろしくお願いします」
ふーむ、そういうもんか。
生きる時間が長いと気長に待つという感覚がかなり緩やかになるのかもしれないな。見習おう。
「それで、今日は何か予定入っているのか?」
「はい。今日は警備隊の訓練に参加します」
「例の話か。付いていけるかなぁ」
「大丈夫ですよ、基本は視察ですから」
「うん。なんであれ多少の心構えはしておくよ」
何するんだろうなぁ。不安だ。
「ようこそおいでくださいました」
「お待ちしておりました」
転移した先にはフラネンティーヌとルシエナが既に待機していた。
「歓迎ご苦労様。案内頼むよ」
「はっ」
まだサチほどじゃないが俺もそれなりに上の者らしい振る舞いが出来るようになってきたと思ってる。
以前程このように振る舞う事に抵抗が無くなったのは、相手が俺にこういう振る舞いをする事を望んでいるとわかってきたからだ。
相手がそういうのを望むのであれば叶えてあげようと思う。その結果がこの振る舞い方になっている。
ま、最初と最後ぐらいなんだけどね、この威厳のある状態が維持できるのは。
「それで、今日は何をするんだ?」
「本日は見習いの訓練を行います。訓練と言っても普段行っているものではなく、試験のようなものです」
「ほうほう。で、俺は何をすればいいんだ?」
「サチナリア様から参加のご意向を頂いていましたので、お二方には見習いを見つける係をしていだきたいのです」
フラネンティーヌの説明を要約するとこの島全体を使ってかくれんぼやおにごっこのようなものをするらしい。
俺とサチは隠れている警備隊見習いの子達を見つければいいとのこと。
「わかった。やってみよう」
「よろしくお願いします」
「集合!」
広場に到着するとルシエナが集合をかける。
すると辺りに居た見習いの子達が集まり整列する。俺もついつい背筋が伸びてしまう。
ふむ、見習いの子達は若い子が多いな。エルマリエと同じぐらいかな?
「先日話しした通り、本日はソウ様とサチナリア様がいらっしゃっています。お二人には訓練にも参加していただくので心して掛かるように」
「はい!」
「では本日の訓練の内容を説明する」
フラネンティーヌの挨拶が終わるとルシエナが手元にパネルを開きながら説明をする。
「今日の訓練は実力測定も兼ねている。まずこれが一回鳴ったら各自散開。二つ目が鳴るとソウ様、サチナリア様が探しに出るので見つからないようにすること。三つ目が鳴ると私、四つ目が鳴ると隊長も加わる。五つ目が鳴るまで各自に配った木札を守り抜く事」
なるほど、追う者が次第に増えていく方式か。面白そうだ。
でもその鳴らすやつ、フライパンとおたまに見えるんだけど、気のせいだろうか。
「三つ目が鳴るまでは見つかった時点で失格とする。三つ目以降は見つかっても木札が奪われたり破壊されなければよしとする」
「・・・俺奪える気しないんだけど」
「要は私達は三つ目が鳴るまでに見習いを見つけるのが仕事ということです」
「なるほど」
俺の小言にサチが小声で答えてくれる。
「次に注意事項だ。まず島外に出る事は全面的に禁止とし、出た時点で即失格とする。また、木札は肌身離さず持っておくこと。終了までに手元に無いと失格だ。それ以外なら飛行、念の使用など基本的に何をしても良しとする。何か質問はあるか?」
え、念使っていいの?
「あの、副隊長。何をしても良いということは、応戦しても良いという事ですか?」
「そうだ。島を損壊させないなら構わないぞ」
え、抵抗あるの!?
というか損壊て。ダメだぞそんなのは。
ルシエナの回答に見習いの子達はざわつく。
「あぁ、一応言っておくか、先ほど飛行してもいいと言ったが見つけ次第打ち落とされると思っておいた方がいい。サチナリア様は皆知っての通り念のエキスパートだ。ソウ様に至っては神様だからな、どうなっても私は知らないぞ。まだ私や隊長を相手にした方がマシかもしれん」
ざわついていた子達の声がぴたりと止まり青い顔をしている。
俺そんな酷い事するつもりないから脅かすのはやめていただきたい。そもそも出来ないと思うし。
「あと居ないとは思うが、他人の妨害工作などする者がいれば見つけ次第優先的に狙うからな。逆に協力するのは推奨するぞ」
ふむ、仲間意識を強めるのもこの訓練に含まれているのか。
「副隊長、木札を守りきれたら何か良い事があるのですか?」
「無い。訓練だからな。むしろ失格すると後日追加訓練だ」
「えー!」
きっぱりと答えると見習いの子達から不満の声が上がる。
それを見てサチが俺にだけ聞こえる声で話しかけてきた。
「ソウ、何か褒美を出しては?」
「ん、そうだな。何がいいかな」
「シャーベットアイスがいいかと」
「ん、じゃあそれで。ルシエナ、無事木札を守れた子には俺が作ったアイスを出すというのはどうだ?」
不満の声が一気に止まる。
「よろしいのですか?」
「うん」
「皆の者!今聞いた通りソウ様が褒美を出してくれる事になった!正直私も欲しいので全力で取り組むように!」
「おぉー!」
なんだか凄い盛り上がりになってしまった。ルシエナの本音も漏れちゃってるし。
一気に場の空気が熱くなったな。見習いの子達の顔もやる気に満ちている。
サチめ、さては事前にルシエナと相談してあらかじめ褒美を出す事を伝えていたな?
こうすることでやる気を出させ、俺への印象が良くなる。
まんまと利用された気分だが、結果として訓練するには良い状態になっているので気にしない事にする。
さて、どんな訓練になることやら。




