地の精の救出
何事にもバランスというのは大事だなと思う。
料理をしていても思うが、単体では厳しい尖った味の食材も別の食材とあわせることで良い物になる。
下界の五人組を見ながらそんな事を思う。
盾と剣を持った子、体術で戦う子、弓や罠が得意な子、回復が出来る子、魔法が使える子。
どの子も一人では尖った能力しかないが、協力することで非常に安定感のある徒党になる。
冒険者が徒党を組むのはこのように不得意なところを補うという意味合いが強い。
ただ、その分報酬が山分けになったり、関係でトラブルになったりする。
そういうところではこの五人組は最初から一緒に活動しているので問題無いようだ。
「最近のお気に入りはその子達ですか」
「ん?まぁね。ちょっと珍しいなと思って」
「そうですね。詳細情報取得してありますよ」
「お、どれ、ちょっと見せてくれ」
サチがこの五人組の情報をくれる。
内容を見ていくとなかなか面白いことが色々と書かれている。
「魔法使いの子は闇属性が得意って書いてあるが、これは?」
「彼女、左目を髪で隠していますが、そちらの目が若干特殊な眼になっているようです」
「ほう。詳しく」
「隔世遺伝の影響だと思いますが、左目で見ると軽度の魅了や意識操作が行えるようです。また、そちらに書いてある通り、内気な性格をしているのでそれの影響もあって他にも精神作用や妨害系の魔法が得意なようです」
「なるほど」
闇属性の魔法というのは基本的に相手を不利にする魔法が多く、その使い手は草原の街やオアシスの街では少ない。
西の方に行けば使い手は増えるとは思うが、月光族の多くは肉体派だし、北の領は冒険者が少ない状況なので正確な確認が出来ていないのが現状だ。
情報を見ていくとこの五人組は結構個性的な集まりなのがわかってくる。
剣士の子は指揮や場をまとめる能力に長けてるが、声が大きくて隠密行動に向かないとか。
弓使いの子は腕こそ確かなのだが、街中にいると時たま大ボケをやらかすとか。
回復の子は緩い雰囲気を纏っていながら、鈍器を振り回すのが好きだったりとか。
格闘家の子はボーイッシュで腕っ節も強く、男女共に人気があるが、自分の事はズボラだったりとか。
魔法使いの子は先の説明のように内気で闇魔法を扱えるものの、それに頼り切らずに頑張るストイックさを持っていたりとか。
どの子も一見欠点と思える部分もあるが、それすらも魅力と思わせるような何かを持っている気がする。
・・・あぁ、そうか。
みんな楽しそうに笑顔でいるからか。
今も得た報酬の半分ほどを飲み食いに使っているが、みんな楽しそうにしている。
これが彼女達の冒険者としてのスタイルなのだろう。
このように快活にしている様子を見るとこちらもなんだか楽しい気分になってくる。
恐らく今彼女達を遠巻きに見ている他の客達もそんな感じなんだろうな。
彼女達にはそんな不思議な力を持っている気がする。
「最近雨の日多くないか?」
「あぁ、それは新しく島を召喚したからですよ。成長を促す必要があるので召喚後は雨の日が増えます」
「そうなのか。大丈夫か?」
「もう平気です。雨の日はソウが普段以上に優しいですし」
「そうかな?」
「そうですよ」
「そうか」
今日は雨なので家でゆっくりする。
料理をしたり、お茶しながら談話したり、膝枕してもらったり。
雨の日は雨の日の楽しみを見つければ苦にはならない。
サチもそのあたりを分かってきたようだ。
そんな日の夜、突然の来客があった。
「サチナリアちゃん!サチナリアちゃん!」
聞いた声が強めに戸を叩く。
「こんな時間に何用ですか」
戸を開けるとルミナが立っていた。
「ごめんね、こんな時間に。ソウ様も申し訳ありません」
「いや、いいよ。それよりどうしたんだ?」
「はい。とりあえずこの子の話を聞いてくださいませんか」
「キュ」
そう言ってルミナが差し出した両手の上には地の精が乗っていた。
「キュッ!キュッキュッ!キュキュキュキュ!キュー・・・キュキュッ!」
ルミナの手の上で身振り手振りで説明する地の精。
一見可愛くも感じるが、その様子は焦りや慌てているように見える。
「なんだって?」
「どうやら今日の雨で浮遊島の一つに問題が発生したようです」
「うちの農園にいたこの子がその島の子から助けを聞いて、それを私に教えてくれたの」
「分かりました。その島へ至急向かいましょう」
「待て。サチ、外はまだ雨降ってるぞ」
「知っていますが緊急事態なので」
「しかしだな・・・」
幾ら雨の日に慣れて来たとはいえ、外に出るとなると心配になる。
「大丈夫ですよ、ソウ様。サチナリアちゃんはいつものようにソウ様を抱えて。あ、翼は出さなくていいわよー」
「・・・わかりました。すみません、お願いします」
俺がサチの心配をしている間に二人の間で何かが決まったようだ。
「お願いしてるのはこっちだからこのぐらいお安い御用よー。その方が早いしねー」
「キュッ!」
ルミナがバサリと羽を広げるのを見て地の精が早々にルミナの胸元に潜り込んだ。・・・ちょっと羨ましい。
そんな事考えてる間にサチは俺の後ろにまわり、いつもの飛ぶ体勢になる。
「それではルミナテース、案内をお願いします」
「はいはーい。いくわよー!」
俺を抱えたサチの更に後ろからルミナがサチを抱えてふわりと飛び立つ。
俺とサチを持っているのに全くぶれる様子が無く、安定している。凄いな。
そしてみるみると加速していくとある事に気付く。
「さ、サチ!雨が!雨が痛い!」
「あ、すみません。ソウの分の防護膜を張るのを忘れていました」
ぬぅ。いつもならお仕置きコースだが緊急事態に加えて雨という状況に余裕が無かったんだろう。
しょうがない、今日だけ特別に許してやるか。
「この島です」
着地したところは島全体が見渡せる近くの別の島。
問題の島の周りには他にも天使がおり、島を光の念で照らしている。
「彼女らは?」
「うちの農園の子と警備隊の子達です。隊長さーん、連れてきたわよー」
ルミナが島の周りにいる天使に声を向けると二人の天使がこっちにやってくる。
フラネンティーヌとルシエナだ。
「こんな時間にわざわざご足労頂いて大変感謝しています」
「状況を」
パネルを出して島の状況を解析しながらサチがフラネンティーヌから状況を聞く。
「なるほど。島の土が水を吸いすぎて崩れそうなのですね」
「はい。念のため何があっても大丈夫なように警備隊および農園の方々で島の状況を監視しています」
「わかりました。・・・さて、ソウ、どうしますか?」
「どうって言われても。とりあえず何が出来るか案を出してくれ」
「案はいくつかありますが、手っ取り早いのが再召喚になります」
「キュッ!キュッ!」
再召喚と聞いてルミナの胸元から地の精が飛び出して何か懇願している。
「何か止めて欲しいみたいだけど」
「そう言ってますね。他には様子を見ながら少しずつ乾燥するのを待つという案もありますが、土の性質上それには時間を要するため、次雨が降ると持たない可能性が高いです」
「そうか・・・。なぁ、どうして再召喚はダメなんだ?」
ルミナの手の上に移動した地の精に聞いてみる。
「キュッキュッ!キュキュキュ、キュ、キュー・・・キュ」
「地の精は土壌管理が出来るが、この島の担当の地の精はまだ若く、土の安定化に時間がかかっているらしいです」
「その地の精は今どうしてるんだ?」
「キュキュキュ!キュ!」
「島の中にある精霊石に避難していますが、周囲が水を多分に含んだ土になっているせいで脱出が出来ないそうです」
「ふむ。そうか」
「どうしますか?」
「うん、ちょっと待ってくれ。考えるから」
正直言えばサチの出した案のように地の精にはちょっとお休みしてもらって再召喚するのが一番手っ取り早いとは思う。
しかしそれを行ったら地の精からは嫌われてしまいそうだ。それは困るので出来ない。
そうなると土をどうにかするしかないのだが、この土の性質が厄介なようだ。
水を吸い易く放出し難い土か。まるでスポンジみたいだな。
・・・スポンジ?
「ふむ・・・」
「ソウ?」
「ちょっと静かにして」
目を閉じて出来るかどうかを確かめる。
・・・よし、いけるな。
「フラネンティーヌ、周囲の天使達に島から離れるように通達してくれ。ルミナも農園の子達にそう伝えてくれ」
「はっ」
「はいはーい」
「ソウ、何をするのですか?」
「サチ、これは緊急事態でいいんだよな?」
「え?えぇ、そうですね」
「じゃあ俺が念を使ってもいいよな?」
「!・・・そうですね、緊急事態ですから仕方ありませんね」
「よし、じゃあサポートしてくれ」
「はい。お任せください」
サチが幾つもパネルを出して俺に見易いように神力の値を示してくれる。
・・・思った以上に神力あるな。
これなら気兼ねなくやれそうだ。
「ソウ様ー、退避完了しましたー」
「あいよー」
ルミナの声を聞いて手を前に出して集中する。
先ほど確認したのと同じように念を使う前段階まで意識を高める。
感覚としてはゆっくり優しく握り締めるような感じ。
よし、やるぞ。
念を発動させると神力の数値が減っていく。
規模が大きい分減りは早いが今は念を使う事に集中する。
少しずつ握る力を強めていくと、島からギギギと鈍い音が聞こえてくる。
そして更に続けていくと島の下部から水が溢れ出て来て小さな滝のようになる。
まるで果汁を絞ってるような感じだ。
そのまま続けていくと溢れ出てきた水が次第に減り始めたので力をゆっくりと緩めて念の使用を停止する。
「・・・ふぅ」
「お疲れ様でした」
「結構神力使ってしまった気がする」
「それでも島二つ召喚する程度で済んでいますので気にしなくて大丈夫ですよ」
「そっか」
そのぐらいなら必要経費ってとこかな。
「そ、ソウ様!今のは何だったのですか!?」
一部始終見ていたルシエナが興奮強めに聞いてくる。
「ん?ちょっと島を絞って水を出してみた」
「し、絞る?」
「感覚的には果物を絞る感じでね」
「か、神様はそんな事もできるのですね・・・」
「え、出来ないの?」
「出来ませんよ。島の下半分に均一かつ安定的に力を加えるなんて芸当普通は無理です」
サチが俺がやった念の作業を分かりやすく説明してくれる。
「そうなのか。ま、上手くいってよかったよ」
後は閉じ込められてた地の精が無事かどうかだな。
「ソウ様ー。おつかれさまでしたー」
ルミナが戻ってきた。
両手それぞれに地の精が乗っている。
「キュンキュン!キュルン!」
「キュッキュッ!キュー!」
「とても感謝していると言っています」
「うん。無事でよかった。ただ、また雨降ると水吸ってしまうだろうから、早々に水を排出するようにしないとな。頑張れよ」
「キュルン!」
「ルミナ、すまんが落ち着くまで手が空いたときでいいから気にかけてやってくれないか」
「はーい。丁度この近くを配達の時に通る子がいるからその子に任せてもいいかしら?」
「うん。頼む」
「了解ー」
さてと、いつの間にか雨も止んだみたいだし、後は任せて帰ろうかな。
「んじゃあとはルシエナ達に任せよう」
「そうですね。後は警備隊にお願いします」
「はっ。本日はありがとうございました!」
「ソウ様ーまた近いうちにー」
「キュッキュッ!」
「キュルンキュルン!」
みんなが見送る中、サチの転移で帰路についた。
ちょっと夜の天界をゆっくり飛んで見たかったが、サチが去り際の見栄えは大事と後から言われた。
そういうものなのか。
帰宅後、いつもの風呂の時間。
「島の水を絞り出すなんて発想普通思いつきませんよ」
「そうなのか」
「それにあんな高度な念を見たのは初めてです」
「これでも神様らしいからな。やれる事の幅が広いんだろうな」
「それもありますが、加減の制御が難しいはずなのですが」
「あぁ、それは割と簡単にイメージできたから。これで」
後ろから手を出してイメージしていたものを掴む。
「あっ、ちょっと!?またそれですか!?」
「日々やっている事の賜物だな。うんうん」
「何、一人でしみじみして、んぅ」
今日ものぼせるギリギリまでの長風呂になった。




