神竜の襲来
密林調査隊がオアシスの街に帰還していった。
結局拠点から余り範囲を広げず、安全最優先で調査や採取を行い戻ったようだ。
この調子だと湖上の街の事を知るのはいつになるかわからないな。
オアシスの街では帰還した調査隊を住民達があたたかく迎えている。
どちらかといえば彼らが持ち帰った品々が目的だろうけども。
竜園地の一行も城下町に帰ったし、ひとまずこれで注意して見守る案件は無くなったな。
いずれ竜の島や密林も信者が訪れなければ視野範囲から消えるだろう。
ちょっと残念。
どうにか視野範囲を固定化できる方法があればいいんだがなぁ。
今日は特に予定もないし、仕事の方も落ち着いてきたから久しぶりに料理でもやろうかと思ってた矢先。
「キー!」
「キッキッ!」
突然案内鳥がやってきた。
一羽はいつもうちに来る子だけど、もう一羽の方は知らない子だ。
何か慌ててるようだ。
「え?それは本当ですか?」
案内鳥の話を聞いてサチも焦る。
「ソウ、緊急案件です!」
そう言い終わると同時ぐらいに空間が裂けて巨体が飛び込んでくる。
真っ白なドラゴンだ。
あまりの突然な出来事に呆気に取られているとドラゴンがこっちを見据えて口を開く。
「お主がここの神か。なるほど」
「なんなのですか、貴方」
サチが俺の一歩前に出てドラゴンと対峙する。
「ここの神の噂を耳にしたのでやってきた」
「用件はなんでしょうか?」
「退け小娘。我が用あるのはここの神だ」
「っ!」
サチの顎が下がり睨んでる様子が後ろからでもわかる。
「サチ。落ち着け。奴の素性を調べてくれ」
「わ、わかりました」
サチを下がらせてドラゴンと今度は俺が対峙する。
でかいな。
だが、恐怖や畏怖は感じない。
神の体になったからかな。
「で、何用だ」
「お主の事は他の神から聞いた。なんでも他の有力な神々を懐柔しているとな」
また変な噂が立ってるな。
「それで?」
「なればこそ我がその実態を確かめ、我が神眼に適えばその下に付いてやろうと思い、わざわざ出向いてきたのだ」
・・・。
・・・はぁ。
俺はドラゴンをしっかり見据えて口を開いた。
「帰れ」
数秒か、数分か、そんな時間を経てからドラゴンが驚いた顔から怒りへ表情を変える。
「今なんと言ったか!」
「帰れと言った。礼儀のれの字も知らん輩と話すことは無い。今すぐ帰れ」
「ぐっ、貴様!」
「無理ですね。貴方、帰る先がありませんね?」
冷静さを取り戻したサチの声に再びドラゴンが動きを止める。
「神竜ドリス。移民候補の中にありました」
サチが資料を見せてくれる。
ふむふむ、なるほどね。
資料をざっと見てからドラゴンの方を見るとバツの悪そうな顔をしている。
「確か移民は他の神からの紹介とか手続きが必要だったはずだ」
「知らぬ」
「既に二桁件数移民を断れているな。原因は何となくわかるが」
「・・・」
先ほどの威勢は無くなり、少ししょんぼりとした様子すら感じられる。
はぁ、どうしたもんかな。
資料を見るとどうやら帰る力すら残ってないようだしな。
案内鳥に頼めば連れて行ってくれるだろうが、変な噂とはいえ一応俺を頼りにしてきたわけだからなぁ。
「とりあえず話しやすい姿になれるか?首が疲れる」
「む。よ、よかろう」
俺の言葉に少し意外そうな顔をしてから体を白く輝かせ、人の姿に変わる。
輝きが消えると、女の子の姿があった。
長い白い髪が特徴のユキ達よりもう少し若そうな子だ。
「これでよいか?」
「うん。立ち話もなんだし、椅子のあるところに行こう。案内鳥もおいで」
「キ!」
移動した先は以前異世界の迷い人が来た時に応対した場所だ。
案内鳥の二羽は俺の椅子の背もたれに留まっている。
「さて、神竜ドリスと言ったか」
「うむ。我は神竜ドリス!高貴なる神竜一族の姫ぞ!」
椅子に座りながらも無い胸を張って偉そうにする。
なんか似たような動きをする奴を知ってるな。
アレの妹辺りと遭遇させたら大喧嘩しそうな気がする。
で、その姫さんが移民か。
資料を見ると移民理由が居住空間の消失とある。
つまり管理していた神が何かしらの要因により消えた事で移民せざるを得なくなったわけか。
「そのお姫様がお供も付けずにあちこちに迷惑かけてるわけか」
「迷惑などかけておらぬ!」
いやいや、事実うちは迷惑被ってますけど。
「それに、供はおらぬ」
そういうと急に威勢が無くなり肩や視線が落ちる。
「我以外は皆あの神と運命を共にした。我だけ置いて消えていった」
そう言う彼女の表情には様々な感情が入り混じっているのがわかった。
「・・・そうか」
参ったな。
若い女の子が肩を落としながらこんな事話されると同情してしまう。
現にサチが口を押さえて泣くのを我慢しているぐらいだ。
「色々な神々を訪れたが、どこも器の小さい輩で我は受け入れられぬと」
別の要因だと思うけど、話の腰が折れるので口には出さない。
「そんな時、ひとつ噂を耳にした。あの癖の強い有力な神々と渡り合う神がいると」
「それが俺か」
「うむ。特に特筆した能力も見当たらないのに有力な神々からの信頼は厚いという神に我は興味を惹かれた」
褒められてるのか貶されてるのかどっちなんだろうかこれは。
「移民の手続きとやらはしたが、そこの鳥モドキが頑なに拒否しよるからに」
「そうなの?」
「キッ!キッ!」
「違うって」
「なに!?」
「移民には一定数の他の神々の推薦と受け入れ先の神の許諾が必要です。うちの神様はまだ神様の中では新人です。皆さんそれを考慮してくださっているのです」
「キ!」
そうだったのか。ありがたい気遣いに感謝だな。
「なんであれ強引に非正規に来てしまった事には変わりません。まさか神竜一族が次元跳躍できるとは思いませんでしたが」
「ふふん。我は神竜一族の姫ぞ。この程度造作もないわ」
帰りの事を考えず全力使ってしまったわけだが、それについての追求はしないでおこう。
「それで、どうしますか?」
「どうしようね」
俺とサチの視線が向くと胸を張るのをやめて視線をあちこちに巡らせている。
まぁ悪い子じゃないのは何となくわかる。
姫という事から恐らく礼儀作法とか一般常識とかそういうのをちゃんと教えられて来なかったんだろう。
それにここで帰すとこの子はまた一人で路頭に迷ってしまうんだよな。
「しょうがない。とりあえずうちの生活空間に仮に住んでもらうか」
「ほ、本当か!?」
「はぁ。そう言うのではないかと思いました」
「はは、すまんな。ただし、あくまで仮で、試用状態という事を忘れないように」
「うむ、うむ!」
目を輝かせて何度も頷いている。
やっぱり悪い子ではないな。
「後はそうだなぁ。ちゃんと生活出来るようになって貰わないと他の居住者に迷惑がかかるから、色々と勉強してもらおうか」
「べ、勉強?」
「そうだ。他にも次元跳躍して逃げられても困るから力の大半を封印させてもらう」
「そ、そんな・・・」
「もちろん永久に封印とは言わない。俺が良しと思ったら順次解除して行くつもりだ」
「それは本当か?」
「頑張り次第だな。もちろん解除中に何かやらかそうものなら再封印や最悪永久封印もある」
「う、うむ。肝に銘じておく」
「うん。それでもいいなら迎え入れよう」
「よかろう。この神竜ドリス、お主の空間に順応してみせようぞ!」
「あぁ、頑張れよ。それと、名前がまだだったな。俺はソウ。こっちは俺の補佐してるサチナリア」
「サチナリアです」
「怒らせると怖いから気をつけろよ。さっき小娘って言った事根に持ってるから」
「ちょっと、ソウ。私の印象を悪くしないでください。・・・事実ですが」
「そ、そうか。サチナリアとやら、お主をぞんざいに扱った事詫びようぞ」
「・・・どうも釈然としないものがありますね」
「ははは。その辺りも今後の勉強次第だな」
「はぁ。とりあえず移民の受け入れ準備が出来ましたので私は彼女を移民担当官に預けてきます」
「うん、よろしく」
「ではドリス。手をこちらに」
「うむ。苦しゅうない」
サチはドリスの手を取るとパネルを操作して何やら施している。
あれが力の封印か。
施し終えるとこっちに承認パネルが出るので承認する。
「では参りましょう。転移!」
サチが転移を念ずると二人の姿が消える。
「ふー・・・」
大きく溜息を付いて背もたれに体を預ける。
「キ!」
「あぁ、ふたりもお疲れ様」
「キキッ!」
「キー・・・」
「気にするな。遅かれ早かれ受け入れる事になっただろうし。そうだな、他の神達に事後承諾と言う形で推薦を貰わないといけないから、後押ししてくれると助かる」
「キキ!キェー!」
「そうか。ありがとな」
案内鳥と話しているとサチが一人で戻ってきた。
「戻りました」
「おかえり。馴染めそうか?」
「移民補佐官は優秀ですから大丈夫だと思います」
「そっか。会った事ないから今度様子見ついでに挨拶しておきたいな」
「わかりました。では後日にでも」
「うん」
俺とサチの会話が落ち着いたのを見計らって案内鳥が背もたれから飛ぶ。
「キ!」
「お、帰るか?」
「キッキッ」
「うん、じゃあまた会合の時に頼むよ」
「キキッ!キェー!」
二羽はくるりと回った後帰っていった。
「・・・ふぅ」
「お疲れ様でした。他の神様への打診はこっちらでやっておきます」
「あぁ、頼むよ。色々順番が狂ってしまったが、大丈夫だろうか」
「そこは大丈夫でしょう。また妙な噂が立つかもしれませんが」
「えぇー・・・勘弁してほしいなぁ」
「これについては諦めて受け入れてください」
しょうがない。箔が付くと思っておくかな。
「それにしてもあの神竜を前に一歩も引きませんでしたね」
「まぁね。不思議と怖くなかったし。竜の島を見ていたおかげでドラゴンへの耐性が上がってたのかもな」
「ふふ、そうかもしれませんね」
「一応いつでも念が使えるようにしておいたし、十通りぐらいの攻撃は対処できたんじゃないかなぁ」
「・・・」
「どうした?」
「いえ、ちゃんと対策も考えていた事に少し驚きまして」
「さすがにな。とはいえ対策はあってもちゃんと対処出来たかはわからんしな」
「それでもあの短時間でそれほど思いつくとは」
「日々色々な願い事を見ているおかげじゃないかな」
「なるほど。何事も無駄にならないのですね」
「そゆこと。さ、疲れたし帰ろう。風呂に入ってゆっくりしたい」
「そうですね。今日は念入りにマッサージして差し上げますよ」
「お、それは楽しみだ」




