学校のプール
オアシスの密林調査隊の第二陣が前回の休息地点に到着した。
前回と比べて人数も多いし、ここを拠点にしばらく滞在するようだ。
今回は末裔の他にも男がいるが、どれも特定の相方女性が同行している。
どうやら街が選考する際の条件にしたようだ。
相変わらず目隠しされながら飯を食わされてる姿は見ていて面白い。
特に双子と思われる女性二人に左右から飯を次々詰め込まれている男がいる。がんばれ。
翌日から戦闘出来る者と学者は周囲の探索、淫魔の姉妹は料理人と一緒に拠点で作業している。
探索隊は相変わらず木々に襲われているが、対策をしっかりしてきたのか前より優位に戦えているようだ。
これなら大丈夫そうかな。無理して先に進む事もないみたいだし。
「ソウ、ちょっといいですか?」
「どうした?」
「信者達の活動によって新たに広がった密林の視野範囲の端の方なのですが」
「む・・・これは崖か?」
「はい。恐らくこの先は別の地形になっていると思います」
「気になるね」
「そこで一時的に視野範囲の拡大をしてみてはどうでしょうか」
「神力はどんな感じになってる?」
「供給が安定しているのでかなり潤沢です」
「ふーむ。もう少し様子見てから決めるわ。とりあえず今日はこのままで」
「わかりました」
調査隊がどれだけ動き回るかにもよるし、気になるがもう少し様子見しよう。
「なんか暑くないか?」
学校のある島に到着するとむわっとした暑さが襲い掛かってくる。
「今日のために少し気温を高めにするようにしてもらいました」
今日は学校に水泳を教えに来た。
確かにこれだけ暑ければ水浴びの一つでもしたくなるな。
「でもこれ念で遮断したら効果ないんじゃないか?」
「・・・」
「・・・」
そうだったと言わんばかりの顔をこっちに向けてくる。
どうやらサチは大分俺に感化されてきたようだ。
「こんにちはー」
「こーんにーちはー!」
うお、びっくりした。
学校長のミラの軽い話の後にサチと一緒に教室に前回と違って熱烈な歓迎を受けた。
子供達の顔を見ると嬉しそうな子が多い。こっちも嬉しくなる。
「今日はソウ様に泳ぎ方を教わります」
今日やる事をミラが伝えると子供達は隣の子と顔を合わせたり小声で話す。
「疑問に思う人もいるかもしれませんが、案外水というのは怖いものです。先日うちの主人も溺れかけました」
そういえばヨルハネキシが風呂作ったときに外の湖に落ちたとか言ってたな。
「溺れたのは慌ててしまったからです。そこで慌てないために今日は泳ぎ方を学ぼうというわけです。何か質問ありますか?」
ミラが聞くと控えめに手を上げる子がちらほら現れる。
「念を使えば溺れないんじゃ?」
「良い質問ですね。確かに主人は念で事無きを得ましたが、必ずしも念でどうにか出来るとは限りません。ね、サチナリア様」
「え、えぇ。そうですね」
ミラに突然振られて少し動揺しながらサチが肯定する。
サチが肯定したことで子供達も納得したようだ。
「さすが有名人」
「茶化さないでください」
小声で言うと照れくさそうに返してきた。可愛い。
「他に質問が無いようなのでプールの方へ移動しましょう」
ミラに促され一斉に移動となった。
そもそも泳ぎを教えるのが今回初なのにプールなんてあるのかと思いながら移動したところ。
「ヨルハネキシ?」
「おぉ、これはこれはソウ様。ご無沙汰しております」
移動先にはヨルハネキシをはじめとした造島師が数人いた。
「どうしてここに?」
「妻から急な依頼がありましてな。今し方完成したところです」
造島師達が作ったのは地面を直方体にくり貫いた後、四方を固めた即席プールだ。
「悪いね急に」
「いえいえ、子供達のためですから。それに授業の内容も気になりましたしな」
「あなた、ソウ様をお引止めになってはいけませんよ」
「おぉ、これは申し訳ない。それではお手並み拝見させていただきます」
「あぁ。作ってくれてありがとうな」
教員達がプールに念で水を張っている様子を見ながらサチの元に向かった。
「それでは皆さん水着に着替えてください。水着は男女それぞれ二通り用意したので好きな方を選んでください」
事前に家で打ち合わせした時に決めたデザインの水着を子供達に見せて着替えてもらう。
男子はブーメランパンツ型かスパッツ型。
女子はワンピース競泳型か上下分離の旧スクール水着型。
どれもオアシスの街で得た服装情報を元にしたものだ。
他にもビキニとかパレオとか色々あったが、泳ぐのにはあまり適していないので二種類に絞った。
男子の多くはスパッツ型を選んでるな。
「尻!」
「ははは、馬鹿でー」
一部お調子者がブーメラン型を選んでわざと食い込ませてる。男子だなぁ。
一方女子は半々といったところか。
競泳型が多いかと思っていたが、大人しい子は旧スク型を選んでいる。
ちなみに俺を含めた男性教員はスパッツ型、サチを含めた女性教員は競泳型を着ている。
ラインが入っているので子供達と違いがわかりやすい。
「それでは準備体操をします」
進行はサチにやってもらう事になった。
俺がやるより手馴れてるし、皆大人しく従ってくれるからな。
「まず最初に皆さんには泳ぐというものがどういうものなのかを見てもらいたいと思います。ソウ、お願いします」
「あいよ」
水を体に付けたあと、飛び込んで数往復泳ぐ。
やはり神の体になってから泳ぐのが楽になったなぁ。快適で楽しい。
「こんなんでいいか?」
「はい、ありがとうございました」
一度あがって戻ってくるとサチ以外驚いた表情でこっちを見ていた。
「あの、ソウ様。今、念の使用は・・・」
「もちろん使ってないが」
恐る恐る聞いてきた教員に答える。
そもそも俺は念をサチに禁止されてるから使えないし。
「今泳いでもらったのは念を使わずともこのぐらいの事が出来るという事を知ってもらいたかったからです。もちろん今回の授業で出来てくださいとは言いませんので安心してください」
サチがそういうと皆ほっとした表情を、特に教員達がしている。
一部の子供達は目を輝かせてプールを見ている辺り、泳ぐ事に対して前向きに考えてくれてるみたいだ。
「それでは実際に水に入ってみましょう」
さて、これからが大変だ。




