本来の性格
休憩が終わり、引き続きエルマリエの案内で工場の装置を見学する。
「これはボクが考案したものなんです!」
先ほどの反抗的な様子とはうって変わってエルマリエは俺にあれこれ率先して紹介してくれている。
エルマリエの説明じゃ良く分からないが、サチが更に噛み砕いて説明してくれるので何となく理解できる。
「ほう、凄いじゃないか」
装置の事が分かってこう答えるとエルマリエは満面の笑みを浮かべる。
まるで憑き物が落ちたみたいな見た目の年相応の快活な表情だ。
おそらくこれが本当のエルマリエの性格なんだろう。
今までは工場長という期待や重圧、それに加えて出来て当然と思われてしまっていた事が彼女の性格を歪めてしまってたのかもしれない。
そしてそんなエルマリエを見てて一つ気付いた事がある。
「なぁサチ」
「なんですか?」
「サチが彼女を苦手とする理由が何となくわかった」
「・・・それ本当ですか?」
「うん、多分だけど。あとで言うわ」
サチのためにもここで、エルマリエの前で言うわけにはいかないので、後で家に帰ってから言おう。
サチからすると認めたくない事だろうし。
「以上で案内終了です」
「うん、ありがとう。エルマリエ」
「うん」
「工場の管理はこのまま任せて大丈夫だと思う」
「本当!?あ、ですか?」
まだちょっと言葉遣いが慣れてないようだが、ここは見逃す。
「うん。ただし、課題ありだ」
「課題、ですか?」
「やはり従業員との関係が少し悪く感じる」
「そう、ですか・・・」
見学していて思ったのは従業員がエルマリエを見るときの視線だ。
あれは腫れ物を見るときにする視線だ。
本人はそういう視線にある意味慣れてしまっているのでその辺りの感覚が麻痺してしまっているのがよくない。
「なので次俺が来る時までに今よりは従業員達と仲良くしておくように」
「仲良く・・・どうやれば・・・」
この前行った学校の子達からすればなんとも無い事だが、この子にとってはかなりの難題だろう。
「そうだなぁ。自分が言った事を自分で聞き返してみたらどうかな」
「?どういうこと?」
「例えば最初俺とサチに会った時言った事を自分自身に言ってみるんだ」
「うん」
「どうだ?」
「・・・うん。むかつく」
「そう思ったら言う事があるよな」
そう言ってサチを前に出す。
「あの、サチナリア。ボクが悪かった」
俺もサチも目を閉じて首を横に振る。
「・・・ごめんなさい」
それを見てサチは小さく頷きこっちに視線を移す。
「許してくれるってさ。こうやって少しずつやるしかないが、焦らずにやれるか?」
「うん、頑張ってみる」
「よし。頑張れ。期待してる」
そう言って頭を撫でてやった。
これで少しは関係改善になるといいな。
また近いうちに様子見に来よう。
「ふんふんー、おれはーひとたらしー、ひとたらしまんー」
サチが風呂でふよふよ浮かびながら変な歌を歌う。
「なんだそれ?」
「ソウの歌です」
「いや、だからなんだよ人たらしマンって」
「そのままの意味ですよ。今日もソウの毒牙にかかった子が増えましたし」
「毒牙って。俺はそんなつもりないぞ」
「そこが恐ろしいところなのですよね。手当たり次第という感じが」
「うーん・・・」
「別に悪いとは言っていませんよ。みんなに好かれるのはいいことです」
そういうが何か言葉の端々に棘を感じるんだよなぁ。
「んー、俺としてはサチたらしであればそれでいいんだけどなぁ」
思ったことを口に出したら浮かんでたサチが突然沈んだ。
「お、おい、サチ?・・・ぶっ」
見に行ったら立ち上がったサチにお湯をぶっ掛けられた。
「そ、そういうところがですね!たらしだと、えほっえほっ」
「大丈夫か?」
「えほっ、大丈夫です。ありがとうございます」
息を整えたサチはいつものように俺を背もたれに座ってくる。
「そういえば私が彼女を苦手とする理由が分かったと言っていましたが」
「あぁ、あれか。・・・怒るなよ?」
「怒るかどうかは聞いてから決めます」
「うーん。まぁいいか。エルマリエってさ、サチに少し似てるんだよな」
「・・・」
言った瞬間サチが押し黙る。
あー、やっぱり怒ったかなぁ。
「サチ?サチさん?」
「・・・大丈夫です。大丈夫ですよ、ソウ」
そういいつつも俺の足の毛を引っ張るのやめてくれないかな。痛いんだけど。
「はぁ。薄々勘付いてはいたのですが、認めたくないというか、直視したくないというか。しかしソウに言われてしまっては仕方ないですね」
うん、両足の皮膚が地味に痛い。やめていただきたい。
「確かに彼女は小さい頃の私に似ている気がします。学校長が会えば同じ事を言うと思います」
「そうかー。足痛いんだけど」
「あぁ、すみません。無意識にやっていました」
本当かね。手離してくれたからいいけど。
「とにかくソウには感謝しています」
「うん、よかった」
「しかし新たな問題が出そうです」
「ん?そうなのか?」
「えぇまぁ。こればかりは負けるわけには行きませんので」
「よくわからないが、頑張れ」
「はい。いい加減上下関係も改めようと思っていたところですし」
「やっぱりあの呼び方は何かあったのか」
「私がまだ主神補佐官になる前に彼女に勝負を挑まれまして」
「へー」
「あの時は我ながら愚かだったと思います。勝てる勝負ではありませんでしたから」
うん、悔しいのはわかるけど俺の足首を強く握られるとそれはそれで痛いぞ。
「ですが、今度は負けません」
「うん、頑張れ」
「はい。ふふふ、吠え面かく様子が目に浮かびます」
背中からで見えないが、また悪い顔してるんだろうなぁ。
あんまり苛めないでもらいたい気持ちもあるが、二人には何か因縁めいたものがあるので黙っておこう。
とりあえず勝っても負けても後腐れなくなって欲しいものだ。




