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みりん作り

竜園地挑戦中の一行が風竜の領域を突破したみたいだ。


火竜ではてこずってたが、今回は比較的早く突破できたようだ。


風竜の領域では基本的に耐え凌ぐものばかりで、体力や精神力を削る内容の仕掛けだった。


特にエグいのは精神攻撃の方。


とにかく風竜が挑戦中の一行の近くを飛んで煽り立てるのだ。


言葉で煽る事もあれば、お菓子を食べて見せたりする事もあった。


一度腹を立てた一行がその風竜に直接攻撃を仕掛けたが、通じるわけもなく中継地点の宿からやり直しとなっていた。


ただ、回数をこなしていくと次第に慣れるもので、そうなるとこの領域は火竜ほど厳しくないのでそのまま通過できたようだ。


風竜はちょっとつまらなさそうにしてたが、すぐさま領域のドラゴン達とじゃれあって遊んでいた。


今度は氷竜の領域か。頑張ってほしい。




「むー・・・」


「やはりダメですね、これでは体に害が出ます」


今日は風の精の協力で発酵を色々やっている。


成果はこの通り難航中。


一朝一夕でいいものが出来るとは思っていないが、そもそものスタートラインに立ててないというのが辛い。


うーん、やはり異世界だから色々と勝手が違うんだろうなぁ。


しょうがない。もう一つの方法を試してみるか。


「サチ、下界の方のやり方で試してみよう」


「了解です」


異世界の方法がダメなら下界の方法で試してみる。


正直下界の方がこちらと近しいので下界準拠でやる方が成功率が高い。


しかし、異世界の情報を頼りにやってみるという作業も必要だと思っている。


何が出来るのか、何が出来ないのか、まだまだわからないことだらけだから少しでも知識や情報を得たい。


良く言えば研鑽の一つ、悪く言えばただの我侭だ。


そんな事にサチに付き合ってもらってるわけだが、文句一つ言わずに付き合ってくれている。


ありがたいことだ。


さて、下界の情報を頼りに用意したのは果物の実。


既に食べられるほどに熟れているが、これを更に熟させたものを酒の中に完全に入れた後、穴をあけて混ぜるとみりんのようなものが出来るらしい。


これを発見したのが下界に降りた勇者らしいのだが、彼は一体何者なんだろうか。少し気になる。


とりあえず今はこの通りにやってみよう。


「今度はこれを熟させてくれるか?」


皿に数個並べた実を見せて風の精に頼むと、腐る寸前のところまで進めてくれる。


ひとつをそっと酒に入れて箸で突くと穴があいて、中から果汁が染み出る。


これを混ぜればいいわけか。


ん?風の精は皿に残った実を気にしてどうした?


気にして見てたら実に小さな腕を鋭く差し込み、俺が箸でやった同じ作業をやってみせた。


次の瞬間実から霧状の果汁が吹き出た。


「くっさ!なんだこれ!」


果汁と共に強烈な腐りかけの果実のガスも吹き出て来た。


あまりの臭いに鼻を塞いで手で仰ぐ。


当の穴のあけた風の精はガスを全身で受け止めて恍惚な表情を浮かべてる。


どうもこの風の精はにおいに対して変態的な部分があるようで、さっきからちょくちょくにおいを嗅いでは興奮していたが、今回のは最高らしい。


うん、ガスを浴びながら喜びを表現しなくていいから。


サチはというと咄嗟に念で膜を張ったらしく、平然とした、ちがうな、これは俺と風の精の様子を見て笑うのを我慢している顔だ。


あーもーみりん作りどころじゃなくなってしまった。


とりあえず換気しよう換気。




「うん、いい感じ」


ガス騒ぎでドタバタしたが、何とか無事にみりんが出来た。


早速それを使って作ったのがかぼちゃの煮物。


醤油はまだ無いので塩気は塩で代用したが、なかなかいい感じに出来た気がする。


サチも気に入ったようで三切目を摘んで口にしている。


風の精はというと皿に顔を近づけて煮物の匂いを嗅いでいる。


満足そうな顔を見るとこれはこれでいいらしい。


においならなんでもいいのだろうか。よくわからん。


とにかく、これでみりんは作れるようになったわけか。


今度はいよいよ醤油や味噌作りに着手したいところだ。


しかし、本当に出来るのだろうか。


少なくとも異世界の、会合で貰った資料の方法ではこっちの世界で上手く作るのは難しそうなんだよな。


一応ダメもとでやってみようとは思うが、また下界頼みになりそうだ。


ま、作れればそれでいいけどね。


仕事の時にサチに念入りに作り方の情報を入手しておくよう頼んでおこう。


で、そのサチはというと空になった皿をこっちに差し出してくる。


俺一切れしか食べてないんだけど。


うん、口をもくもくさせながら目で訴えるんじゃありません。


あー、風の精もか。


しょうがないな、おかわり作るか。




「うー・・・」


夕食後、サチがテーブルに突っ伏している。


「だから残しておけって言っただろうに」


「ぅー・・・」


まともな返事すら出来ないのか。


現在サチは食べすぎて相当苦しいようだ。


みりんが手に入ったので色々試しながら作っていたら夕飯が煮物尽くしになってしまった。


残しておけばいいものを、サチは鼻息荒く摘んでは口に運び、結果限界を越えて今の状態になっている。


特に芋やカボチャ、栗などの煮物類は思ったより腹にたまるので少量を摘めばいいのだが、食の初心者はその辺りの加減がわからないのかもしれない。


今度農園で教える時は気をつけておこう。


「念で綺麗にすれば楽になれるだろうに」


「いえ、これはこれで、ぅ・・・ふぅ。なんとも言えない、満足感があるので」


どうやら今の状況を楽しんでいるようだ。


確かに腹一杯に飯を食べると多幸感があるからな。わからんでもない。


その気になれば念を使っていくらでも食べたりする事も出来るが、サチはそれをしない。


それは以前、俺が食後に浄化の念を使おうとするサチに少し待ってもらうよう頼んだ事に起因する。


俺個人の考え方ではあるが、食事は自力で消化するまでが食事だと思っている。


そのことを伝えるとサチは一瞬驚いたような表情を見せたが、理解してくれたのか、それ以降は食後すぐに俺に浄化の念をする事は無くなった。


サチ自身は当初胃に固形物が入る事の違和感で浄化の念を使っていたようだが、今ではすっかりこの通り俺と同じようにしている。


食事の時に手を合わせる所作もそうだが、特に俺が強制したわけでもなく、サチが理解、納得した上で一緒にやってくれる事はとても嬉しい。


今の様子は若干みっともないとは思うが、それも俺の前だけの事で、原因も作った飯が美味かったとなれば愛おしく見えるものだ。


そんな風にサチの事を見ていたら俺の視線に気付いたようで急にちゃんと座りなおした。


あぁ、自分でも少しみっともないと思ったのね。別にいいのに。


はいはい、凝視するなって事ね。


ただ自然と視線が向いてしまうのは諦めてくれ。うん。

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