じゃれ合い
今日は森の村の様子、特に最初の信者の祭神役の女の子の一日を追ってみようと思う。
この村の人達の朝は早い。日の出と共に起床する。
女の子の家族も起きたね。自分で起きるのか、偉いな。
俺なんてほぼ毎朝サチに起こされてる気がする。お恥ずかしい。
起きて身なりを整えたら村人達は畑にその日に食べる分だけ取りに行ったり、狩りの道具の手入れをする。
そしてその帰りに女の子の家に多くの人が寄っていく。
家の外に置いてある筒から出ている植物の棒を取り、それを半分に折って隣に置いてある箱の中に横にして入れてる。
中には畑で取れたものを一緒に置いていく人もいるね。これはこの家へのお裾分けかな?
朝食を済ませると女の子は外に出て村人達が置いていった箱の中の棒を束にして持つ。
向かった先は祭壇。
俺が最初見たときとはもはや完全に別物という程綺麗になってる。
祭壇の横に置いてある壷のような入れ物の中に束にした棒をいれ、下から火を入れる。
・・・今、何も持たずに火点けた気がするんだけど。気のせいかな。
しばらくすると棒が燻されて白い煙が昇る。
それをみてから女の子は祭壇に祈る。
そして俺のところに願いが届く。
全ての人が幸せになれますように。
今日はちゃんと心構えして見たので大丈夫だが、弱ってる時とかにこんなの見たら俺泣くかもしれない。
祈りが終わると村に戻り、他の子供達の集まりに加わる。
しばらくするとその子供達の集まりに村の人より少し服が洒落た、草原の街でよく見る格好の人が来る。
子供達はその人の話を真剣な眼差しで聞いている。何話してるんだろ。
板に何か書いて見せたりしてるな。これあれか、勉強教えてるのか。
そうか、草原の街との交流が盛んになった事で子供達に勉強を教える人とか来るようになったのか。いい傾向だ。
そう思ってたら広場に移動した子供達が木の棒や板を持って戦い始めた。
結構本気じゃないか?怪我してる子もいるけど・・・あぁ、教師が治癒魔法使えるのね。
少し離れたところで数人の子が別の教師から何か教わってる。女の子もこの中にいる。
え、地面に手置いたら少し先が隆起したけどこれって魔法?指先から火出してるし、魔法だな。
そうか、この子達は魔法の素質があるのか。なるほどね、さっきの火入れの謎が解けた。
昼前になると授業は終了し、子供達も各々の家に帰って昼食を取っている。
午後は授業は無く、家の手伝いをしているようだ。
女の子の家は父親が狩猟、母親が織細工をして生計を立てている。女の子も織細工を手伝ってるな。
あれから母親も病気という病気もしてないようでよかった。
そういえばあれから結構な時間が経ってるよな。
よくよく見ると女の子も最初見た頃よりかなり女性らしくなってきている。
結構可愛いし男からもてそうな気もするが、そういう気配は今のところない。祭神役だからかな。
しばらく母親を手伝ったら女の子は家から出て各家をまわって何かもらってる。
それを持って屋根上に上ったら敷いてあるござに並べて干してる。
それとは別のござには既に干してあったのがあるな。これ、朝村人が半分に折ってた奴か。
ちょっと何なのか詳細画面で見てみる。
ふむ、ダイコンのような野菜の茎か。食べられない事もないが薬膳的な意味合いが強いから基本は食べないのか。
で、それを干して燻すといい香りがすると。なるほど。
朝村人達が半分に折ってたのはあれで祈った事にする略式祈りみたいなものか。
ただ、それだと信仰で神力は溜まるが祈りはこないからな?願い事がある時はちゃんと願うんだぞ。
棒について調べてる間に女の子は屋根でそのまま昼寝をしてる。猫かお前は。
日が傾いてくると父親が帰ってくる。それに気付いて女の子は屋根から下りて棒を筒に入れてから父親を迎える。今日は収穫なしか。残念。
夕食は貰った畑の野菜と保存してた肉で作ったスープとパン。ちょっとうまそう。
食べたら片付けて濡らした布で体を拭く。
あの、サチさん、そんな望遠にわざわざしなくても俺やましい目でみるつもりなかったんですけど。
画面を戻してる間に布団に入ってもう寝息を立ててる。
さっき昼寝してたのに。魔法使うからしょうがないのかな。
ざっと一日を追ってみたがまさか女の子に魔法の素質があるとは思わなかった。
他にも草原の街から教師が来てたり、村人の信仰の仕方とかも新たにわかった。
たまにはこうやって日常単位で観察するのもいいかもしれないな。
「むー・・・」
仕事が終わって片付けながらサチが何かに気付いて悩んでる。
「どうした?」
「いえ、ルミナテースの農園からまた招待がありまして」
「ほう、なんだって?」
「なんでも建ててた建物が形になってきたので一度見に来て欲しいと」
「おーそうなのか。今日の予定が特にないなら行くとしよう」
「えぇ、それはいいのですが・・・」
「どうした?」
「いい加減あのルミナテースの攻撃を防ぐ方法はないかと」
「あー・・・」
あれか・・・。
「何か良い方法はないですか?」
「無い事は無いが諦めて受け入れた方がその後が楽だと思うが」
「むぅ。一応その案を聞きたいです」
「あんまり効果的じゃないと思うけどなぁ」
俺は思いつく案をいくつか提示した。
「例えば弱点を突いてみるとか」
「弱点は無いと思います」
うん、俺も言っててそうじゃないかと思った。
「後はくすぐってみたり、念で虚像を作り出してみたり」
「両方やってみましたが効きませんでした」
色々やってんのね。
「あとは俺が止めるように言うとか」
「それはダメです」
「なんで?一番手っ取り早いぞ?」
「そうかもしれませんが、なんと言うか対等ではなくなる気がします」
「そっか」
そう言うかなと思ってたがあえて聞いてみた。
なんだかんだでサチもルミナを嫌っているわけじゃないからな。
嫌というよりはあれは一種の勝負で、サチはそれにただ勝ちたいだけなんだろう。
「この前の氷の針はいい線行ってたんじゃないか?空気の盾を作ってみるとかどうだ?」
「空気の盾?」
「念で空気を圧縮して見えない盾にするんだよ」
「盾・・・あ、いい方法思いつきました」
「そうか、じゃあ農園に行くか」
「はい。ふふふ、ルミナテース、今度こそ」
不敵な笑みを浮かべてるが多分今回も突破されるんじゃないかなー。
「サチナリアちゃーーーー・・・おっとっと」
「ふっふっふ、ルミナテース、これなら近寄れないでしょう」
「くっ・・・」
いつものように走ってきたのを止めた上にルミナの攻撃の手も止めた。
これがサチのいい方法かー。そうかー。
「ずるいわよ!ソウ様を盾にするなんて!」
ルミナが言うように現在俺の後ろにサチがいる。
しかも俺が避けたり逃げたりしないように飛ぶ時みたくがっちり掴んでいる。全く身動きが取れない。
「ふふん、どうですか、参りましたか?」
俺の肩の横から物凄いふてぶてしい笑いを浮かべてるのが見える。あーほっぺた引っ張りたい。
さっき対等がどうのとか言ってたのにこれはいいのか。
俺が何か言いたげな視線を送ってたのに気付いたようだが止める気はないようだ。
じりじりと横にずれながら距離を詰めるルミナ。それに対応して俺をルミナの方に向けるサチ。
一触即発の空気。俺を巻き込まないでもらいたい。
先に動いたのは痺れを切らしたルミナだった。
「ソウ様、すみません。少し我慢してください!」
深く礼をしたと思ったら俺とサチの横に瞬間移動してきた。本気すぎないか?
「えい!」
そのまま俺とサチごと抱きしめるように腕を回して来た。
が、その腕は俺に触れることはなかった。
「え?あぅっ!!」
次の瞬間ルミナが凄い勢いで弾き飛ばされた。
「な、なに?今の」
空中でくるっとまわってふわりと着地しながら今起きた事に少し驚いた様子。
「ルミナテースの事です。どうせソウごと私を狙いに来ると思っていましたので」
サチがやったのは空気圧による弾き飛ばしだ。
俺とサチの周りにさっき俺が言った圧縮した空気の層を作っておいて、ルミナが近付いた瞬間それの範囲を一気に広げたのだ。
さっきから俺のまわりに見えない圧力が掛かってて身動きが取れなかったのが、ルミナが飛んだ後にはその感覚が無くなった事で気付いた。
「むー・・・」
ルミナが頬を膨らまして不貞腐れてる。
「あの、そろそろ移動したいんだが」
二回戦が始まりそうだったのでその前に止める。
「・・・わかりました。サチナリアちゃん、今日のところはこれで勘弁してあげるわ!」
「やりました!完全勝利です!」
ルミナの捨て台詞に満面の笑みで喜ぶサチ。
確かに二段構えで対処したのはいい。
しかし俺を盾にした上に本来の空気圧による弾き飛ばしの隠れ蓑にするという作戦はどうかと思う。
「嬉しそうだな、サチ。でも次回から俺を盾にするの禁止な。今度やったらルミナに差し出すから」
「えぇ!?そんな!」
当たり前だ。何度もこんなのに付き合うつもりはない。
仲がいいのはいいことだが、勝負に俺を巻き込むのは勘弁して欲しい。




