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家出少女

サチがいないので作れる物が大分限られたがプリンとクレープなら作れたので作り置き分も含めて多めに作っておいた。


何せ大収穫祭で作り置きしておいた分が全部掃けてしまったからなぁ。


若干失敗気味のものまで喜んで食べてくれたみんなには感謝してるが、少し恥ずかしい。


教えている立場上もう少しいい物を出したいものだ。


「すみません、気を使わせてしまって」


次は何を作ろうかと考えてたところでサチが飲み物の用意をしにこっちに来た。


「いや。それより何かわかったか?」


「えぇ、色々と。とりあえず警備隊に連絡して保護者に連絡してもらうよう伝えておきました」


「そうか。一人で飛んでた理由は?」


「家出だそうです」


「家出?」


「どうやら保護者の方と喧嘩したらしく家を飛び出して来たようです。それで行くあてもないので適当に飛んでいたらあのような状態になったそうです」


「なるほどね」


子供の家出か。


普通なら浮遊島内に隠れるぐらいで留まるのだが、相当腹に据えかねたんだろうな。


「どうしますか?」


「どうするって言ってもなぁ。保護者が来るまでうちで保護するしかないだろう」


「わかりました。ではちゃんとソウを紹介するので一緒に来てください」


「あいよ」


サチに温めた砂糖入り牛乳とプリンを乗せたお盆を持たせて女の子のところに向かう。


「落ち着いたか?」


「あ、う、うん・・・」


まだ俺を見て緊張するようだ。


うーん、俺怖がられるような見た目してるかなぁ。


「アン。こちらが私達の神様のソウですよ」


「は、はじめまして、ソウ様。えっと、アンジェリカ、です。アンって呼んでください」


「はじめまして。よろしく、アン」


たどたどしい自己紹介になるべく優しく応対する。


「こちら、よかったら食べてください」


お盆にアンの分だけ乗せて渡す。


「大丈夫です。私達の分もありますので」


アンに見せるようにしながらプリンを頬張るサチ。


今は冷静な補佐官状態だがよくよく観察すると小刻みに震えてるのがわかる。


美味いか、そうか、よかった。


アンもサチが食べてるのを見てから砂糖入り牛乳に口をつける。


「わっ、甘いくておいしい」


そこからは早かった。


あっという間に牛乳の飲み干し、プリンに手を付けて口に頬張り。


「!!美味しい!」


初めてプリンを食べた時のサチに負けず劣らずの早さで食べ終えた。


「よかったら俺のも食べるか?」


「え!?いいの?」


「いいぞー」


渡してやるとにこやかな笑みを浮かべながら口に運ぶ。


よしよし、緊張がほぐれてきたようだな。


「はー・・・美味しかったー・・・」


食べ終えて余韻に浸るアンを見て俺もサチもほっと一息付く。


「落ち着きましたか?」


「あ、うん、ありがとう、ソウ様、サチナリア様」


この子はちゃんとお礼も言えるいい子だな。


ふむ、となると保護者と喧嘩した理由が気になってくるな。


「それで、アン。どうして家を出てきたか教えてもらってもいいですか?」


「うん。えっと、です、ね」


「アンが話しやすい口調でいいよ」


頑張って丁寧な言葉を紡ぎ出そうとしているのが分かったので無理せず話しやすいように促してやる。


「うん。それでえっとね、お母さんがうるさくて出てきたの」


「うるさく?どんな風に?」


「あれしなさいこれしなさいってガミガミグチグチ言ってきて」


「ほうほう」


「自分だって上手く念を使って出来ないのに、私にはもっと上手くやれるとか言って来て」


あー・・・。


「それでもうやんなっちゃって、出てきたの」


「そっかー」


何か凄くよく分かる言い分だ。


子供の成長は早いからな。


大人が同じようにしつけてるつもりでも子供の感じ方が変わってきて、ちゃんと言われた事に対して考えるようになってくるものだ。


そうすると言われてることの理不尽さに腹が立ってきて今回のように癇癪を起こす。


特に言う側が出来てない事を出来ると言われてやらされるというのは納得できないからな。


「よーくわかる」


「ほんと?」


「うん。何を偉そうにって思っちゃったんだろ?」


「うんうん、そうそう!」


その後も母親に対する愚痴が止め処なく出てきてどれもこれも子供の頃に感じるあれこれだった。


ただ、俺がこれを感じたのはもう少し年が進んでからだった気がする。


やっぱり女の子は心の成長が早いんだなぁ。


アンが一通り喋ったところでサチがお茶を淹れに席を立つ。


「・・・なあ、アン。それでお母さんの事はどう思う?」


色々喋っていくうちにこの子の中に不安が芽生えてきたのが表情を見ていれば分かる。


「うるさいから嫌い」


「ふーむ。じゃあうるさくなくなったらどうだ?」


「うるさくなくなる?そんな事あるの?」


「アンよ。俺を誰だと思ってるんだ?神だぞ?」


ちょっと演技調で言ってみる。


「!!」


それを聞いて驚いてこっちを見る。良い反応だ。


「で、そうなったらどうだ?」


「・・・それなら嫌いじゃない、かな」


「そうか。じゃあ神の俺がうるさくしなくなる方法を教えてしんぜよう」


「ホント!?」


驚いたり悩んだりする度に表情がコロコロ変わって見ていて楽しい。


「今アンはお母さんも出来ないのにやれって言われるから怒ってるんだよな?」


「うん?うん」


「じゃあこれがもしアンが出来ちゃったらどうだ?アンの方が凄いって事になるよな?」


「うん」


「そしたらもうお母さんはうるさく言ってこなくなるぞ」


「え?それだけ?」


「それだけ」


何を指示されたかはわからないが、何であろうとそれだけと言い切れるこの子は将来有望な気がする。


「えー、本当かなぁ」


「そう思うなら一度やってみたらいい。もしそれでもうるさいままなら俺に文句を言いに来ていいぞ」


「んー・・・うん、わかった。やってみる」


「うん、がんばれ」


話がまとまったのを見ていたサチがお茶と一緒に情報も持ってきた。


「ソウ、ルシエナがもう直ぐこちらに来るそうです」


「あいよー」

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