異世界神からの召喚
「よくきた勇者よ」
目の前には白く長い髭に禿げた頭の老人が座っている。
その横には美人秘書のようなたたずまいの金髪で背に羽を生やしたメガネの女性。
辺りは半透明の白くぼやけた床以外何も無い空間で上にも下にも光が点々と見える。
宇宙空間っぽい雰囲気で落ち着く。
俺のまわりには誰も居ない事からこの老人の言葉は俺へ向けてのものだとわかる。
「・・・勇者?」
「お主の事じゃ」
目の前の爺様はにこやかに答える。
勇者。
俺の認識じゃこの単語で呼ばれていい気分はしない。
どちらかといえば率先して馬鹿をする奴、危険を顧みず飛び込む奴、そういう奴らを囃し立てるときに使う。
少なくともそういうのを極力避けようとする俺とは対極に位置する言葉だと思っている。
「お主にはこれから地上に降りて魔王を倒してもらいたい」
今度は魔王と来た。
これで何となく察しが付く。
ここは異世界の天界とか天国とかそんな類の場所なのだろう。
まさか俺があのよくある展開になるとは思ってなかった。
なので俺は問いにこう答える事にした。
「お断りします」
俺は長田壮一郎。今は死者ってことだろうな。
それで神様と思わしき目の前の爺さんとその助手の美女の天使が絶句した状態で俺を見ている状況。
「え?今断るって言った?」
爺さんが明らかに動揺しながら隣の美女に聞く。
「え、えぇ、私もそう聞こえましたが・・・」
俺と相方を何度見すれば落ち着くんだお前ら。
「か、確認のためもう一度聞かせて貰うが、お主には勇者として魔王を倒してもらいたいのじゃ」
「嫌です」
間髪入れずに答える。
「な、なぜじゃ!?」
なぜって言われてもなぁ。
「勇者じゃぞ?誰しもが憧れる職業で能力も一般人をはるかに超え、人々からは崇められるような存在じゃぞ!?」
理解できないといった感じで聞いてくる爺さん。
「いや、俺そういうの別にいいですし」
「わしの神パワーで色々特典が付くんじゃぞ?望めば強い武器からモテモテになる能力まで何でも付けられんじゃぞ!?」
正直言って興味がない。
それにこの慌てっぷりは何かあるな。
利点ばかり推し進めて承諾を取り、あとから欠点が見つかるというのは良くあることだ。
まずは探りを入れねば。
「待ってください。いいですか、いきなり目の前に爺さんが現れて自己紹介もなしにお前が勇者とか言われて誰が信じろっていうのですか」
俺の言葉に爺さんがはっとなって前のめりの体が戻る。
「ぬ、そ、そうじゃな。すまなかった。わしはこの世界の神じゃ。こっちは助手の天使のサチナリアじゃ」
「サチナリアです」
軽く会釈するメガネ美女の方は比較的冷静さを取り戻してるな。
「お主も大体把握してるじゃろうが、残念ながらお主は前の世界で天命を全うしたのじゃ」
うん、だと思ったよ。
「しかしお主の死を残念と思ったわしはこちらの世界で改めて生きてもらおうかと思ったのじゃ」
さあ来たぞ。よくあるパターン。
「こちらの都合で転生してもらうのじゃ。勿論普通の一般人ではなく誰しもが憧れる勇者、そして神パワーによる特別能力付きじゃ」
いわゆるチート能力ってやつね。
「ここまでの説明はよいか?」
「ええ、良く分かりました」
頷く俺にほっとした顔で神様が改めて聞いてくる。
「それで、お主には勇者になって魔王を倒してもらいたいのじゃ」
その言葉に食い気味で答える。
「嫌です」