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6.現世完了証明書

 現世完了証明書という名の書類がマルちゃんから提示されたが、まだ内容に一つも触れられていない……ティロン以外。


 もうサクッと内容の確認をして、サクッと反魂への道筋を聞いて、ここから旅立ちたいんだけど。



「では、ガチャから説明して貰っていいですか?」

「あ、そうね。ガチャね。そうそう、この項目から説明を……」


 やっとマルちゃんによる説明が始まった。ここからも寄り道しまくり、脱線しまくりの紆余曲折だったわけだが、要約すると次のようになった。



 ・ガチャ……次の輪廻転生先を決定するくじのこと。魂魄値によって提供内容が変わる

 ・難易度……転生先での人生を送るにあたっての難しさ。Sが最も難しく、Fがもっとも簡単。地域や出自で左右される

 ・享年……現世での修行が完了した年数

 ・徳……修行によって獲得できるもの。生前の行いや修行年数によって左右される

 ・魂魄値……輪廻転生や反魂再生に必要なポイント数。上記の4項目の数値等をベースに算出される



 もう、外を見れば日が暮れかけている。夕焼けが綺麗だ。煉獄にも穏やかな一日の終わりが訪れるんだな……。


 説明された内容は上記のとおり、数行で済んでしまった。

 もう一日無駄にしてるわけだが。


 マルちゃんは書類一枚を説明しきって満足した表情を浮かべている。

 お疲れ様でした、大変わかりにくかったです。



 さて、これによると今の俺の魂魄値は56000ということらしい。これがどのくらいの値なのか不明だが、反魂可能ならすぐにでも現世に戻りたいところだな。


「で、マルちゃんさ。俺の反魂に必要なポイントなんだけど」

「うーん、そうねー。一言で反魂って言ってもいろいろあってさ。タロウくんの場合は、死んじゃった近辺の時間軸に行けばいいわけよね?」


 半日ほぼ雑談でみっちり会話してるおかげで俺とマルちゃんはすっかり打ち解けていた。


「そうですねー。死ぬ5分前とかでもいいくらい。あの自転車のアホさえ回避できればいいんで」

「そう。それならポイントもおそらく最小限で済むわよ。これが幼稚園に戻りたいとか、産まれた時に戻りたいとか言うと莫大なポイントが必要になるんだけど」


 なるほど。遡及すること事態は可能だけど、大きな変化を望むならば、ポイントを多く献上しろというわけね。


「で、どのくらい必要?」

「詳しくは裁判所行かないとわからないけど、反魂に必要な最小ポイントだったら100000ね」


 100000!

 10万!!


 足りない!!!


 圧倒的に足りない!!!!


 倍くらい足りない!!!!!



「……あの、今の僕って56000しか持ってないわけですよね……」


「そうね。でも初期値としては少ない方ではないと思うわよ」


「でも、倍くらい足りない……」


「何言ってんのよ、反魂再生なんてそんな簡単にできるわけないじゃないw」


「でも、どうすれば……」


「魂魄値は現世だけじゃなくてこっちでも貯められるのよ。というより、現世で稼いだ魂魄値を元にこちらで装備を整えて、来たるべき選択に備えるのが普通ね」


「装備?」


「そうそう。装備を整える。ミッションを達成する。魂魄値を上げる。より有利な状況でガチャを引く。輪廻転生をする。それを繰り返して魂魄値を高めまくって、解脱達成を目指すのよ!」


 マルちゃんは目をキラキラさせて握りこぶしをつくる。


 まあ、解脱は別に目指してないけどな、俺の場合。


 でも装備にガチャってやっぱりここ異世界なんじゃねえの?


 というか装備か。

 なに? ひのきのぼう? たびびとのふく?

 どっちも初期装備にすらないですけど。持っているのは身につけた制服と、飴ちゃん、充電できない使い切りスマホの3点です!


 あ、てっきり異世界では充電できないと思ってたけど、もしかしてこの様子なら行けるかもな。

電気、明らかに通ってるし。


 ともあれ。


「ミッションってなにすればいいの?」

「いろいろあるけど基本的には仕事ね。ギルドに行って仕事を受ける、労働対価としてポイントをもらうのよ」


 世知辛い……。死んでまで労働はつきまとうのか。いや、現世ではアルバイトもしたことありませんけども。


「ギルドって?」

「職業斡旋所のことね。タロウくんにわかりやすく言うと『ハローワーク』かな」


 だから世知辛いって。仕事にあぶれて自殺したサラリーマンとかこの時点でもう消滅しちゃうんじゃないの?


「まぁ、行ってみるのが分かりやすいと思う。ギルドにはこういったお役所勤めとかの長期の仕事も、賞金稼ぎのような単発の仕事もあるけど、タロウくんみたいな反魂希望者の場合は単発がお勧めね」


「なんで?」


「うん、煉獄定住希望者の場合は長期が安定してていいんだけどね、長期の仕事に携わると『税金』取られるのよ。単発は一部の高額報酬ミッションを除いて免除」


「税金?」


「そう、税金。収入の多寡に関わらず、定住者は月3000魂魄。払えなかったら最低レベルで強制輪廻ガチャ。でもこれならまだラッキー。最悪は消滅ね。大変なのよ定住者も」


「ふーん。でもマルちゃんは好んでこっちに留まってるわけでしょ?」


「そうね。もう現世には戻りたくないわね」


「なんで?」


「だって私自殺で現世修行終わらしちゃったから。いい思い出ないのよ」


 ……。



 おも。

 突然重いよマルちゃん……。


「修行効率は向こうの方がいいのは分かってるけど。まだ行きたくないな……。もう辛いのも痛いのも嫌なのよ」

「あの……差し支えなければ自殺の理由は?」

「いじめ、ね。14歳で飛び降りて修行完了。徳は0、魂魄値は4000から煉獄スタートだったわ。あやうく税金払えなくて、もう消滅するとこだったわよw」


 笑えないんですけど、煉獄ジョーク。


「まあそんなこんなで300年以上も経っちゃったのねー。……それでも前世のことは昨日のことのように思い出せる。私は多分もう一生煉獄で過ごすと思う」


 300年以上経っても癒えない傷……。イジメ、ダメ、ゼッタイ。


「あー、ごめんね。なんかせっかくのタロウくんの門出なのに湿っぽくなっちゃって。普段はこんな事言わないんだけどなー。もうタロウくんたらー、聞き上手なんだからー」


 いや、ほぼほぼマルちゃんが独走して喋ってましたけど。


「でも、あれだね。こっちに来てこんなこと言う友達いなかったからさ。なんか肩が軽くなった気がするよ」


 いつの間にか受付のお姉さんと友達になっていた。いや、それでマルちゃんが楽になるならこちらとしても嬉しいけども。


 もうすでに俺もマルちゃんのこと(友達として)好きになっちゃってるしな、本当は。


 でもそんなに長くは俺はこっちにいられないけどな。


「じゃあ説明はこんなところね」

そう言って書類の束を揃え始めるマルちゃん。おい、その大量の書類は何だったんだよ。


「あー、これね。輪廻のときのガチャ条件とか、消滅しないためのしおりとかそんなのだけど、タロウくんはもう今回の煉獄の目的ははっきり決まってるわけだからね。時間かかるから省略省略」


 省略されてしまった。

「でも一応一式持ってく。時間あるとき読む?」


 マルちゃんに抱えられた書類は結構な量である。

 紙……重いよね。


 ファンタジーな異世界なら、ここで転生者はアイテムボックスを呼び出して手ブラで移動だぜ~、とかありそうなものだが、もちろんリアル煉獄はそんな親切設計はないようだ。


 それでも見知らぬこの土地で、情報を仕入れておくのは何よりも重要な気がする。


「一応、もらっといていっすか?」

「うん、わかったー。じゃ、この紙袋あげるね」


 およそ10cmぐらいの高さにもなるA4書類の束を受け取る。


「それじゃ、これは今夜にでも見せてもらうとして……。僕の次の目的地はギルドってことになりますよね」

「そうね。でも今日はもう遅いからギルドに行くのは明日にしたら?」


 外を見るともう夕焼けどころか星空が広がっている。こっちのお役所は営業時間長いな。


「そうですね、そうしてみます。ところで……」

「うん?」

「ホテルとかって、こっちの世界にもあるんですかね。もしかして修行の一環……とかで野宿?」

「ホテルあるよ。民宿みたいなところもあるし、結構高級なところもある。私は高級ホテルなんて泊まったことないけどねw」


 ホテル完備の煉獄。すばらしい。

 しかし考えてみれば金がない。無一文である。

 

 というか通貨のようなものはこちらにあるんだろうか?

 

「お金ってあるんですか?」

「ないね。通貨は魂魄。魂魄を消費して、生活も食事も娯楽もするのよ、ほら税金も魂魄で払うでしょ?」


 なるほど。そういうことなら俺にも泊まれそうだ。

 早く現世へ戻るためにも、あまり消費はしたくないところだが。安い宿を探してみるか。


「この辺で一番安い宿ってどのくらい魂魄かかるんですかね?」

「うーん、多分50コンってところだと思うけど……。でもタロウくんにはもっといいところあるよ。ただで泊まれて、他にもいろいろ付きのところが」

「?」


 マルチャンがニマっと笑う。




「わたしのうちにおいでよ」


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