3.遺してきたモノ
異世界ってか、冥界じゃん。チートどころじゃねぇ。
「ここは死後の世界と。僕死んじゃった?」
「はい。死んじゃいましたね」
そっかー。やっぱり死んじゃってたかー。トラックつえー。
「そうすると宇崎さんてもしかして」
「何でしょうか?」
「死神……とかですか?」
「はい。そうですね。死神総本部煉獄部署、今は一丁目、こうしてこちらに来たての方のご案内をさせて頂いております」
死神でしたか。
ウサギ顔の死神でしたか。
鎌とか持ってないんですね。
「あの……残してきた彼女とか、受験勉強とか、片付けてない部屋とかいろいろありましてね。一度戻していただくわけには……」
「……」
無言で見つめる宇崎。無表情のウサギの顔こわいねー。
「だめ……ですよね。死んでるんですものね……」
「……はい」
だめかー! やっぱりだめかー!!
あ、あれだ。サキが助かってるかどうかだけでも聞いておこう。
「あの。死ぬ前一緒に彼女とおりましてね。山川サキちゃんっていうんですが」
「はい」
察したのかパラパラと手帳を捲る宇崎。
「山川サキ様はまだこちらにはいらっしゃってませんね。また現世にご滞在中でございます」
「ホントですか!?」
おー! やった。やったよママン。俺の死は無駄じゃなかった。サキを助けられただけでも、もう本望。やり残したことない感じになってきた。
「どうもタロウさん、死んだ実感薄いようでございますからね。特別にこちらをご覧になりますか?」
そういって手帳の一番最後のページを開く宇崎。
6インチほどのスマホが取り付けられている。
死後の世界にまでスマホ普及しているとは。すごいぜアイフ◯ーン。いや、機種はなんだか知らんけど。
画面にはサキが映る。
制服に身を包んだサキ。周りには黒一色の衣装に見を包んだ多くの人たち。泣き崩れるサキの姿が映る。
これは……おれの葬儀か。
「そうですね。タロウさんのご葬儀が今ちょうど行われるところですね」
しばらく画面に見入る。
サキ。泣きっぱなしだったんだろな。目が腫れすぎだろw
普段は怖い父親も歯を食いしばって寝っ転がる俺を見ている。
横にはおやじに支えられている母親の姿。
妹は棺桶に突っ伏して声を上げて泣いている。
なんだよ。
普段は俺のこと嫌いとか言ってたくせに。そんなに泣いてくれるのかよ。
思わず俺の頬にも涙が伝う。
あぁ、死んでしまったんだな、俺。
優しい家族だった。
優しい彼女だった。
不自由なく生活させてくれて、高校3年生まで育ててくれた両親。喧嘩しながらも16年間一緒にいた妹。
幼稚園で初めて出会って、これからお互いおじいちゃんおばあちゃんになるまで一緒にいると思ってた彼女。
みんな失ってしまって俺一人こっちに来てしまったんだな。
父親がサキを慰めている。
そうだよ。俺が死んだのはサキのせいじゃない。俺がしたかったんだ。おもわず体が動いた俺を褒めてくれよ。あ、あの自転車のアホは捕まったのかな。サキのせいじゃないよ、あのアホのせいだから泣かないでくれよ。
……あぁ。帰りたいな。
戻れる方法はないのかな。
「宇崎さん。やっぱりもう、本当に戻れないのかな? 戻れる方法はないのかな?」
涙を拭いながら尋ねる。
どうやら完全に死んでしまったのは実感できてきた。棺桶に寝ている自分の死に顔見たら嫌でも実感するわ。だから無駄かもしれない。聞くだけ無駄だとわかっていても、それでも聞かずにはいられない。家族にもサキにも笑顔になってほしい。なにより俺がみんなにもう一度逢いたい。
「ございますよ」
「だよな……は!?」
思わずベタなノリツッコミしちゃったぜ。あるのかよ! 言ってくれよ。最初に。
「あるのかよ! ……あるんですか?」
ちょっとここは丁寧に話しておこう。ウサギ顔の、いや、宇崎様のご機嫌を損ねるわけにはいかねーぞ。
「そうですね。まぁ、現世に戻るに限らずいろいろございますね、選択肢は」
ほうほう。死んで終わりじゃないってことね。なにやら選べるルートが複数あると。
「では、その辺りの説明をしながら役所に向かいましょうか」
そういって裂けた空間に歩き出す宇崎。
今度は俺もそれに素直に従った。
タロウ「やっぱ悲しいな」
サキ「タロウ……」