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2.ウサギ人間

 暗闇から浮かび上がるように姿を表したウサギ人間。


 真っ赤な瞳、長い耳。それでタキシード。

こうやってウサギの顔見ると、ウサギってちっとも可愛くないのな。怖いわ。


「いらっしゃいませー!!!」

ハイテンションで叫ぶウサギ人間。うん、やっぱりウサギ顔だけど喋れるのね。


 えーっと、とか言いながら手帳をめくるウサギ。

「大変遅くなりまして申し訳ございません。わたくしご案内を担当させていただきます『宇崎うざき』と申します。よろしくお願いたします」

 恭しく頭を下げるうさぎ。いやうざき。わかりにくいわ。


「では道々説明しながら参りましょうか。さ、こちらへどうぞ」

そう言いながら暗闇の空間に歩き出すうさぎ。いやうざき。もういいか。


 すでに体の半分が暗闇に飲まれて消失している。


「ちょちょちょ!」

あわてて宇崎を呼び止める。なんの説明もないままあんな空間に身を投じるとか無理すぎる。もうちょっと優しい異世界プリーズ。


「はい、いかがいたしましたか?」

「だからちょっと説明をですね……」

「はい、ですから移動しながらご説明差し上げますと申し上げましたが。あまり時間もないのですが……」

胡乱な目をするうさぎ。てめえが大変遅くなりましたって言ってたんじゃねえか。


「それにしてもですね。ここがどこかもわからないまま、そのような得体のしれない物体に入っていくのはちょっと心の準備が……」

「はあ」

めんどくさそうな宇崎。うん、あれだな。意外とウサギの顔って表情豊かなのな。


「では手短にお願いしますね。みなさん多忙ですから」

多忙知らんわ。こっちもこんなとこに送り込まれる場合は多忙だったわ。文句の一つも言ってやろう。

「そんなこと言われましてもね。こちらも突然こんなところに送り込まれて困惑しているんですよ。多忙といえば、俺だって暇なわけでもないので」


 暇じゃないのは本当だ。たかだか高校生の身分ではあるが、学校に塾に勉強に部活にサキにといくら時艱はあっても足りないのだ。


「ブッハッハ」

突然笑い始めるウサギ。いや宇崎。ムカつくわー。その人を蔑んだような表情ムカつくわー。


「何笑ってるんですか?」

「いえ、大変申し訳ございません」

よっぽどおかしかったのか、目元を拭いながら答える宇崎。


「いやー、この場所に来て多忙というのは会心のジョークでございました。さっ、参りましょう」

言うなり、宇崎は再び暗闇に向かう。


「ちょちょっ!」

「はい?」

「だから説明してって! そんなところ入る前に! あんたそこ行ったら体半分消失してるから!」

叫ぶ俺。話が進まなくて面倒になってきたぜ。

 世界を救うために召喚された勇者様じゃないんかい俺。


「はあ。消失といいますか、こちらがゲートになっておりますので。こちらもご説明させていただく前に皆さんがご一緒されますと混乱されるかと思い、各自にこのような形で待機していただくことになっておりますもので」

 始まった。わけのわからないまま急に説明が始まった。


 なに、みなさん? 他にもいるってこと? あー、パーティね。勇者ご一行様。もしかしたら俺勇者じゃないのかもね。魔法使いがいいな。超弩級の魔法炸裂させたい。


「みなさんというと? 他にも人がいるんですか?」

「はい、それはもうたくさん」

「たくさん?」

「はい、たくさん」

ん? 多人数パーティ? ていうかギルドでも作るのかな? まあ強大すぎる魔王相手とかならそういうこともあるだろう。


「それはどのくらいの人数で?」

「今、タロウさんのように待って頂いている方だけで数百人おりますね」

「すうひゃくーーー!?」


 予想外の数字来た。数百! 勇者多すぎ!!


「ですから忙しいんですよ。ここと来たら休みもありませんからね。まさに働き蟻、ならぬ働き蜂、ならぬ働きウサギでございます。ブアッハッハッハ」

一人で笑い出す宇崎。やべえ、異世界ジョークわかんねぇ……。


「さ、そういうことでございますので、お急ぎくださいますよう」

「いやいやもうちょっともうちょっと!」

「はあ……」

「で、こことは? ここはどういった世界で? 日本じゃないですよね。やはり異世界ですか?」

首をかしげるうさぎ。いや宇崎。


「先程から言われているその……『異世界』というのは分かりませんが……」

そりゃそうか、地球の日本の東京から見れば異世界だけどね。こっちの人にしたら異世界なんて失礼な話しよね。


「それではここの地名など教えていただけますと……」

もうそれで判断していくしかない。とりあえずそれで順応していこう。

「はい。ここは『煉獄』でございます。煉獄一丁目でございますね」

レンゴク? レンゴクね。一丁目とはまた下町風味溢れる感じなのね。


「なるほどー、レンゴクというのですね」

とりあえず相槌を打つ。

「やはり俺の元々いた世界とは違う軸に飛んでいるようですね。レンゴクという地名も、こんな風景も俺の元いた日本にはなかったように思いますし」

「はい、存じております」

「は?」

「ですから、日本の東京、世田谷は三軒茶屋から17時24分にこちらに参られたのは存じております」

「は?」

 なに。分かんないのは俺だけ? 時間まで宇崎知っちゃってんの?


「本当に煉獄ご存知ありませんか? 今は現世でもよく名前が通ったものと認識しておりますが……」


 はて、レンゴク……。……。というか現世? 現世。嫌な予感がしてきたぞ。


「レンゴクというともしかして煉獄?」

「はい。もしかしなくても煉獄でございます」

「あの死後地獄の前に通って裁判だかなんだかする煉獄?」

 おれは、その辺りの知識も(ゲームやってたからね)豊富なのだ。だてに高スペック、高知識じゃないぜ。学校も進学校さ!


 いや、今はそれはいい。……とすると?


「そうすると、ここは死後の世界?」

「そうなりますね」

「さっきの17時24分とかいうのは……」

「はい、タロウさんがご臨終されたお時間ですね」


「ご臨終……」


「はい、ご臨終」



……。

死んでた。



俺死んでたわ。異世界すぎる。死後の世界かよ。



俺、死んでたわーーーーーーーー!!!!

タロウ「俺1話目から死んでんじゃん」

宇崎「まあ、死なないと話が進まない物語ですし」

サキ「タロウが帰れるまで出番なしの可能性……」

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