8章 国会にて
ここまでの復習
「国家もグルだった!国会に乗り込んで『野郎ぶっ殺してやらぁ!』」
あと高校生が内閣総理大臣を務める時代なんて世も末だよね
霊夢は早速スピードを上げ、信号無視を当たり前のように繰り返しながら国会議事堂へと向かった。
国会が開かれるのは2時間後・・・それまでに首相を倒して補助金を廃絶しなければ、奴隷がさらに増えるに違いない。
「内閣よりも国会からの補助金の方が圧倒的に多いに決まってるわ!
・・・どいつもこいつもめんどくさいわね!」
霊夢は苛立たせながらバイクを走らせる。
「・・・今は連子首相という人を倒すの?」
「そうよ。そいつが専ら奴隷制に賛成してる人間よ。要するに、私たちの敵」
「でも国会って大事な場所でしょ?・・・入れるの?」
「入れないことなんてないわ。・・・無理やりにでも突っ込む」
彼女は当たり前のように言い放った。
運転するバイクは山林を超え、B区へと突入する。
上の青い看板標識には国会議事堂への行き方が示されていた。
「・・・行き方に合わせて行くわ」
霊夢は標識通りに交差点で曲がる。
―――その瞬間であった。
「いたぞ!指名犯だ!」
野太い声と同時に、発見したパトカー2台がそんな霊夢を追いかける。
「見つかっちゃったわ・・・!・・・フラン!」
「任せて!」
フランは後ろを向いて、追いかけてくるパトカー2台のフロントガラスを拳銃で撃った。
フロントガラスに罅が入り、その罅で前方が見え辛くなった。
「うわああああ!!!」
運転していた2人の警察官は見え辛いフロントガラスのせいでそのまま他の一般乗用車と衝突した。
「・・・フラン、なかなかやるわね」
「それくらいフランだって分かるよ」
だがしかし、警察も諦めなかった。
「こちらB区より!只今指名手配犯が逃走中!方向はA区、直ちに応援を要請します!」
δ
警察から逃れられたと思った2人はスピードを100に固定しながら運転していた。
「・・・警察も弱いものね」
「・・・待って」
フランは何か嫌な気配を感じた。
「・・・何か来るよ!」
フランの焦りを受けて彼女はバイクのバックミラーを見た。
そこには後方から自分たちを追いかけるパトカーや白バイの群れがあったのだ。
「しつこい奴らね!」
フランも後ろを見て気づいた。
「・・・あんな数、フランじゃ対処出来ないよ・・・」
「フラン・・・あんたは運転出来る?」
時速100km上のバイクで彼女は問う。
「フラン・・・少しは出来るよ」
「ならあんたに任せるわ!」
霊夢とフランは操縦を高速で入れ替わり、フランが運転する。
霊夢は後ろから来る敵たちに向け、上にカードを掲げた。
「霊符、夢想封印っ!」
放たれた虹色の光弾が追いかけてくる警察たちに炸裂し、パトカーや白バイたちは爆発し、それらが混ざりあって1つの大爆発となった。
「・・・まとめて来た方が倒しやすかったり、ね」
彼女は爆発する光景を見た後、髪を少し整えた。
δ
「これはこれは河城博士、我が国営放送局にわざわざ来てくださりありがとうございます」
「そこまで丁寧でなくてもいいですよ、神綺さん。寧ろ頭を下げるのはこっちですから」
にとりは国営放送局長の神綺に向けて話していた。
「・・・で、本日はどういった御用で?」
「・・・例の巫女の件です」
「ああ、あの指名手配犯のことですか。・・・連日、速報や中継をヘリから伝えたりしていますが、何か足りなかったでしょうか?」
神綺はにとりに聞くと、にとりは申し訳なさそうな感じで頷いた。
「中継や速報では有難いです、ですがあれじゃ巫女の暴走をテレビで確認しているようなものです。
・・・ですから今度、私がテレビで巫女についての細かい情報を発信したいのです」
「そのような件ならお任せ下さい、我々は喜んで緊急特番を用意しますよ」
「それは有難いです、流石は神綺様」
にとりは満悦そうな笑みを浮かべていた。
「・・・これで住民たちにも積極的に協力してもらい、奴を徹底的に追い詰めます」
「・・・もう本格的ですね、にとりさん」
「当たり前です。・・・奴は私たちを今、ピンチに追い込んでいる元凶ですから」
δ
バイクを走らせ、ビル群の中を縫って進んでいった彼女たちの視界に薄茶色の建物が映る。
その建物の前の交差点の看板には「国会議事堂入口」と書かれていた。
「・・・あの建物が国会議事堂ね」
彼女は近くの路地裏にバイクを止め、2人は降りた。
路地裏から見つからない程度に顔を覘かせ、様子を確認する。
国会議事堂は柵で封じられており、柵の中には警備員が2人、暇そうに警備していた。
すると柵が急に開き、黒塗りの車が5台、国会議事堂の中へと入っていった。
国会議事堂の真上では国営放送局のヘリが浮遊しており、撮影していた。
路地裏にあった居酒屋からテレビの情報が漏れてくる。
「只今、宇佐見菫子内閣総理大臣が降り、国会議事堂へと入っていきました」
テレビでの中継で、あの車に乗っていた人物が董子だと分かった彼女はバイクに再び跨る。
「え!?・・・霊夢、どうしてバイクに乗ってるの?」
「フラン、あんたも乗りなさい。・・・そして拳銃で敵をどんどん撃ち倒すのよ!」
「ま、まさか・・・」
「そのまさか、よ。・・・早く行くわよ!」
「う、うん・・・」
フランは少し心配そうにしながらもバイクに跨る。
「中には眩暈がする程沢山警備員がいるに決まってるわ。私は門を夢想封印で破壊するから、あんたに援助を任せるわね!」
「・・・わ、分かった!フラン、やってみるよ!」
フランは拳銃を構え、巫女はカードを構えてバイクを走らせた。
「・・・一気に行くわよ!」
国会議事堂の入口と一直線の位置で彼女はカードを構えた。
「霊符・夢想封印っ!」
光弾が行く手を拒む柵を壊し、近くにいた警備員が叫びを上げて吹っ飛んでいった。
「ぎゃあああああ!!!」
その声も気に留めず、彼女たちは門を潜り抜けていった。
入り口に止めてあった黒塗りの車は別の出口から出て行った為、彼女たちの前を封じるものは警備員だけだ。
「行くわよ!」
国会議事堂の中へと突入し、音を聞いて駆け付けた警備員たちをフランが銃で撃って薙ぎ倒す。
バイクのエンジン音と銃弾が国会議事堂内で響く。
「邪魔よ邪魔よ邪魔よ!」
猛スピードで駆け抜けるバイク。赤塗りのカーペットの上を暴走する。
中は大混乱に陥り、議員たちは議場にいた為多くの人間がパニックに陥っていた。
敵はマスコミが報道する、あの指名手配犯だ。
フランは邪魔な警備員たちを300人程度撃ち、最早敵はただ1人のみとなっていた。
「逃げさせないわ!」
霊夢は議場の入り口の天井を夢想封印で崩壊させて瓦礫の壁で完全封鎖し、逃げ遅れた議員たちは目の前の絶望にどうしようもなかった。
「・・・いたわ、菫子!・・・あんたがPYT研究所に補助金を送って支援をしようとした犯人ね!」
「・・・そうだよ、霊夢。如何にも、だ」
菫子は戸惑う議員たちの中を潜り抜け、2人と対峙する。
「・・・それにしても、結構派手に殺したようね。・・・あんたの罪は死刑よ」
「こんな世界で死に切れる私じゃないわ」
「フランは・・・全員を助けたい!こんな場所で死んでられない!」
「・・・そうか、その理想はいいな。・・・誰だって理想を持つことは大事だ。
・・・でも、それを「実践」出来るかどうかはまだ別の問題なんだよ」
来ていたスーツ服を目立たせ、彼女は眼鏡を調整した。
「・・・菫子、あんたの為の援軍は暫く来ないわよ。・・・ここを完全封鎖したもの」
「・・・それにしてもバイクで入ってくるなんて、随分派手ね」
菫子は首相とは思わせぬ笑みを浮かべた
「・・・霊夢、フラン。覚悟は出来ているのかしら?」
「当たり前よ!」
「うん!」
「そう。・・・ならいいわ」
菫子は急に真剣な眼差しになり、テレビや世間では一切見せない、本気モードになる。
「・・・私がこの手で潰してあげるわ!指名手配犯っ!
・・・幻視せよ!異世界の狂気を!」
δ
「速報です!只今、指名手配犯と思われる女が国会議事堂で立てこもりました!
犯人は中の警備員たちを多数殺害しながらバイクで侵入、議場の天井を爆破させて籠城しているとのことです!
中には多数の議員、それに宇佐見菫子内閣総理大臣がいます!」
テレビで早口で喋る女性アナウンサー。
それを見ていたパチュリーは目を疑った。
「霊夢・・・私たちへの補助金を断絶しようっていうの・・・!?・・・許せないわ!」
PYT担当課のパチュリーは憤怒し、そして急いで外へ向かった。
「私が応援に行くわ!霊夢、待っていなさい!」
δ
菫子は超能力やサイコキネシスが扱える超能者であった。
自身の身体を浮遊させ、周りの議員たちを呆然とさせる。
「・・・そういやあんた、そういう能力だったわね」
「そうよ。・・・それに何か不満でも?・・・こちらは不満だらけだがなっ!」
菫子はサイコキネシスで歪みを作り、そこから電柱を呼び出して霊夢たちの元に飛ばす。
2人は回避したが、議場に電柱が刺さるという異端な光景になる。
「とっととやっつけるわよ・・・!」
霊夢もカードを構えて宣言しようとするが、菫子はそんな彼女に再び電柱を飛ばす。
「うわああああ!!!」
彼女は電柱に腹部を突かれ、壁に激突する。霊夢は壁に埋め込まれた。
「れ、霊夢っ!」
「お前も例外じゃ無いんだよ・・・!」
菫子は戸惑うフランに躊躇なく電柱を飛ばす。
「うああああ・・・・」
力を奪われて何も力がないフランは恐怖で竦むが、霊夢はその間にカードを掲げて宣言した。
「霊符・夢想封印っ!」
光弾の1つがフランに向けて飛ばされる電柱を破壊し、他の光弾が菫子に牙を剥く。
「・・・流石は巫女、侮れないわね・・・!」
彼女は復帰した巫女に向けて懐から銃を取り出す。
そして彼女に向かって連射したのだ。
議場からは首相のまさかの行動に戸惑いつつも混乱している議員たちが端で見ていた。
霊夢は銃弾を避けながら走って彼女のもとへ向かう。
「首相という人物が拳銃保持なんて、ね・・・」
「拳銃?これは3Dプリンターで作った拳銃さ」
「どっちにしろ同じようなものよ」
霊夢は銃弾の雨を避けながら董子に飛びかかる。
「あんたはこの攻撃が1番効きそうね!」
霊夢はお祓い棒で菫子の頭を勢いよく叩くと、菫子は頭を押さえて蹲った。
「ひぃ・・・痛いよう・・・」
「高校生の癖して何が「痛いよう・・・」よ。・・・まあいいわ、これで最後ね!」
霊夢は至近距離でカードを構えた。
「そうは・・・!?」
董子はサイコキネシスで防ごうとしたが、急に力がスッと抜けていく感覚になった。
「・・・もう手出しはさせないよ・・・!」
フランが拳銃の口を菫子の方に向けていた。
彼女は右腕を撃たれ、力が抜けていったのだ。
「霊符・夢想封印っ!」
霊夢は菫子に夢想封印を決めると、彼女は議場の中で吹っ飛ばされた。
傷だらけの彼女は新品のスーツ服を汚し、敗北した。
「・・・あんたがいけないのよ。・・・奴隷賛成派なんて、性根が腐っているんじゃないかしら?」
そして霊夢は周りにいた怯える議員たちを見回した。
霊夢の顔を見て怯え震える議員たち。
「・・・どいつもこいつも心が腐ってるわね。・・・まあいいわ、邪魔はしてないから殺しはしないわ。
・・・ただ、また変なこと・・・PYT研究所に何か加担でもしようとしたなら、その時はその時ね。
・・・覚悟してなさい」
すると霊夢が崩した議場の入り口が爆発し、そこに魔法使いの姿が露見した。
「・・・菫子首相に・・・なんてことをしたのよ霊夢!」