[Aix Trine=repentance これで終わりなら]
ACC最終章です。
果てしなき懺悔が彼女に襲い掛かります。
左手の小さな掌に、萎れた輪っかを乗せて何かを思い出した英雄。
そして眼差しを魔理沙たちに向けた。
その眼の奥には―――今まで存在した冷酷さが混じりながらも本来の彼女の純粋な優しさが滲んでいた。
西瓜の大剣を持っている右手を震わせ、この事象を急に受け入れ難くなったかのように―――。
「・・・全て、最初から定められたのならば―――我々は・・・我々は・・・」
英雄は今まで持っていた使命に疑問を抱くようになっていた―――。
GENESISの操り人形とされた彼女が、元の世界に柔軟さを示した瞬間でもあった。
「・・・ち・・・チルノ・・・」
背中と胸を貫かれ、血まみれになっていた勇者はゆっくりと立ち上がり、様子を一変させる英雄に優しく話しかけた。
「・・・霊夢」
「・・・あんたは・・・何も悪くないのよ・・・悪いのはあんたを操ったGENESIS・・・あんたは只の被害者なのよ・・・」
「・・・どうして私に同情を見せる」
英雄は目の前に立つ紅色に向けて口を開いた。
彼女の息は異常なまでに過呼吸になっていたが、それでもしっかりと話したのであった。
「・・・笑わせないで欲しいわ、こんな時に・・・。・・・あんたは何か『自分から』悪い事をした?
・・・あの時も、健気に友達を待つために雪の中、一人で雪だるまを作ってたあんたが―――」
「・・・」
英雄は黙り込んでしまった。
次々と思い出す、懐かしい過去。大波のようにとてつもない懺悔が彼女の心を覆いかぶさった―――
「・・・あんたは優しい『妖精さん』よ・・・チルノ・・・」
・・・そんな声が響いた時、膝から力を落として倒れた彼女の周りに魔理沙たちが沢山集まった。
今まで悔恨に囚われていた彼女は同じ境遇であった彼女に・・・そう言い残して、呼吸を無くした。
「心肺停止した!誰か!誰か!」
「このままじゃ・・・!霊夢が・・・霊夢が・・・!」
繰り返される悲劇。
彼女はその場に立って―――何も出来なかった。
輪っかを持った左手を胸に押し当てれば、今まで持っていた使命は消え、その代わりに幻想郷への想いが増えたような気がした。
―――想い出が、彼女をGENESISの呪縛から解き放ったのだ。
「・・・」
何も、言えなかった。
只、虚ろな目で下を俯くことしか、今の彼女には出来なかった。
◆◆◆
GENESISの被害は散々たるものであった―――。
焼き野原と為り、水平線が見える世界。今まで住んでいた世界が、たった1人の英雄の所為で滅んだのだ―――
改めて、その姿を見ては涙を隠せない者も多かった。
―――今回の異変は、最悪なシナリオであった。
慧音を失った。妹紅を失った。多くの妖怪や妖精、人間や天人、鬼たちが犠牲になった。
―――そして何よりも―――
―――霊夢を、失った。
魔理沙はそんな彼女の血塗れた亡骸を持ちながら、虚構が蔓延る世界を見据えた。
どうしようもない未来に、ただただ絶望するしか無かった―――。
「・・・霊夢・・・どうすればいいんだよ、私たちは・・・!」
届かぬ声。彼女の眼は閉じたままであった。
賢明な救命活動も傷には及ばず、それに荒廃した世界で治療など不可能であった―――。
さよならすら言えぬまま、綺麗な空に白鷺となって飛び立ったのだ。
黒雲は晴れ、真っ青な空には綿あめみたいな優しい形の雲が浮かんでいた。
「・・・」
無言で、自らの力が及ぼした世界を見つめた英雄。
大剣を背中の鞘に仕舞い、遠い地平線を臨んだ。
誰も、彼女を咎めなかった。しかし、誰も彼女に話しかけなかった。
―――紅い煉瓦の瓦礫を踏み、英雄は孤独に1人で前へ向かった。
何もない世界で、彼女は自ずが導いた幻想郷に、淋しげに―――。
魔理沙たちに悲嘆と後悔の籠った背を見せ乍ら、彼女は歩んでいく。
炎こそは止んでいたものの、何もない世界を只歩いていた英雄を、魔理沙たちもまた、見つめていた。
―――遥かなる懺悔が、そこには存在した。
「・・・霊夢」
青いサラサラの髪を、寂寥感を伴った風が靡かせる。
そこには、彼女が犯した、残虐で悲愴な罪咎が顕現していた。
如何だったでしょうか?続編を書くのはまさか思っても無かったので本編とは繋ぎが変かもしれませんが…
一応、ボス戦BGM(これらの曲をモチーフに作りました)
・擬人化GENESIS5人戦…更に闘う者達-FF7AC
・チルノ戦…再臨:片翼の天使-FF7AC
では、お疲れ様でしたー。




