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TOHO FANTASY Ⅰ  作者: PHIOW BJIJ LHJIJ LJIJ
ACC 東方近未来 -The cruel Nativity TOHO FANTASY ⅠAnthology Complete Edition-
37/40

[Aix Trine=15 降誕のレクイエム]

英雄は強い(確信)

「・・・!」


彼女の顔を見た時、目から瞬間的にあの忌まわしき3年前を思い出した。

蒼い眼の奥に存在した、冷酷と未来への果てしなき羨望。

光ファイバーの中を駆け抜ける光のように、すぐに悍ましきあの事件を思い出した。


攻撃を受け止められていた彼女は英雄に薙ぎ払われ、遠くへ飛ばされる。


「うわぁっ!・・・っと!」


彼女は空中で何とか態勢を立て直し、地面にしっかりと着地する。

壁の破片は未だに残っており、爆発を免れたであろう、ガラスケースのガラスと垂直になるように刺さっている壁に破片に英雄は降り立った。

右手に構えたのは、かつて外界と幻想郷を滅ぼしかけた西瓜の大剣。

下から抗力が彼女をゆっくりと降り立たせる。


上から、生贄(サクリファイス)となった幻想郷の住民たちと残された勇者を見下し、彼女は静かに語りだした。


「怒りに震えるか?・・・霊夢」


「あんたの目的は何なのよ・・・チルノ!」


お祓い棒を右手に持ち、水色の髪を小さな風に靡かせ、青いリボンを目立たせる英雄を見据えて言い放った。

怒りがそこには存在したが―――彼女はまた、英雄も1人の被害者だと思っていた。


「1000年後の夢―――希望を築き、我らは祖先となる―――。

・・・この世界を1つの箱舟として、我らがGENESISの希望を抱いて旅すること―――。

・・・お前が世界を救うようにな!」


チルノは左手を上に掲げると、天井が完全崩落し、瓦礫が落ちていく。


「あ、危ない!」


霊夢はすかさず二重結界を張り、何とか瓦礫から全員を守り切った。

二酸化炭素臭い地上の空は黒雲で覆われ、英雄の心情を示しているかのようであった。


彼女は天井を壊し、剣を構えたまま両手を広げて空を見上げる英雄を見た。


「・・・私の夢はな、霊夢。

全ては未来・・・『今』と言う『過去』を生贄(サクリファイス)に、永遠の夢を織り成すことだ」


「この世界はどうなるのよ・・・」


「・・・さあ・・・お前次第だな」


英雄はそんな霊夢を見据えて言い放った。

その言葉の裏には冷酷さが含有し、元の彼女の純粋な気持ちなど微塵も存在しなかった。


「・・・霊夢、受け入れろ。我らを、そして新世界を受け入れろ。

・・・全ては『作り変えられる』。創造を遥か超えた限界の限界に・・・」


彼女が左手を再び黒雲に差し伸べると、真上の雲は渦を巻いた。

それはPYT研究所の真上に出来上がった渦そのものであった。


「・・・旧世界でまだ生を得たいか・・・霊夢」


「当たり前よ」


「・・・そうか。・・・残念だ。

―――霊夢、世界はもう、変わる・・・!

―――私の下、旧世界は全ての事象を受け入れ、そして新生する!

・・・霊夢、お前が唯一の邪魔だ。・・・ここで、お前の墓標を築き上げよう!


・・・この私は―――英雄だ―――ッ!」


◆◆◆


英雄はすぐさま降下し、彼女に大剣の刃を向けて斬りかかりに行く。

しかし霊夢はすぐさまお祓い棒で受け止め、青い閃光が解き放たれる。


「終わりなき使命を・・・受け入れるのか」


「私はこの幻想郷を―――そして全員を守る存在!

・・・チルノ、あんたなんかには負けないわ!」


「・・・面白い」


英雄はすぐさま彼女を力強く薙ぎ払い、霊夢は魔理沙たちが避難していた元へ飛ばされる。

しかし空中で着地態勢を整え、何とか立ったまま降り立った。


「・・・霊夢」


呼ばれた声に反応して後ろを振り返れば、彼女に向けられた希望と夢が、確かにそこにあった。

潤った眼差しが多数向けられ、幼き稚児は涙すら流していた。


奥に佇む、未来と夢に囚われた英雄。

彼女に敵う力を携えていたのは―――自分一人だと改めて感じたのであった。


「・・・分かってるわ、『魔理沙』」


親友にそう一声かけた瞬間、英雄はすぐさま斬りかかってきたのであった。

僅か数秒の出来事であった。


大剣と霊力が籠った棒がぶつかり合い、エネルギーが分散する。


その迫力は今まで異変を起こしてきた元凶たちとは並外れた力であり、それすら彼女たちは受け入れられ無かった。

魔理沙たちからは彼女たちの姿が捉えられなかった程、2人の戦いは凄まじいものであった。

エネルギーが所々から溢れているのは、そこで剣戟が行われた証拠であった。


そして再び、彼女たちは姿を見せたと同時に大きな青い閃光が解き放たれる。


「・・・霊夢、お前は―――どうしてそこまで我々を拒絶する?

―――この荒廃した世界で、お前は何を見つけたい?」


「・・・『笑顔』よ。・・・全員の、『あの幸せな日々』と『笑顔』よ!」


彼女はそう怒号を放つと、爆発的な大きさとなった霊力が英雄に勝り、彼女を薙ぎ払った。

しかしGENESISの力を受けた彼女は下からの抗力によってゆっくりと降り立った。


「・・・流石だ、幻想郷・・・いや、この世界に於いて最強の存在だ」


「最強なら世界を守る資格があるわ・・・。・・・あんたのような侵略者からね!」


霊夢はすぐさまカードを掲げた。

夢想封印は失ったが、霊力を遥か多く消費する代わりにとてつもない攻撃を放つ必殺技―――


「―――夢想天生ッ!」


彼女の身体から解き放たれた、色取り取りの光弾のオーブ。

それらは幻想的な空間を作り出したと同時に魔理沙たちの眼にも映った。


―――霊夢の夢想天生には誰にも敵わない。その分、彼女は使わない。


そんな噂が二回も裏切られようとしていたのであった。

そして光弾は一気に矢の如く英雄に迫った。が―――


「・・・アルテマ」


対抗して煌めく青白いエネルギー。それは世界を幾度も崩壊に導いた攻撃であった———。

彼女たちの本気がぶつかった時―――相殺した瞬間に生まれた三次エネルギーが爆発した。


それは2人も、更には魔理沙たちを巻き込み、あちこちで咳の音が聞こえる。

霊夢は黒煙の中にうっすらと浮かんだ輪郭を見据えた。


―――そして彼女は英雄を一閃した―――


「・・・どうした霊夢?・・・私はここだ」


霊夢が見たのは幻影であった———。

背中から胸を裂くように差し込まれた西瓜の大剣。

西瓜の果汁のように真っ赤な血が剣から垂れて零れていく。


「あ・・・ああ・・・」


彼女は即座に力を失った―――それは残酷にも、魔理沙たちの目の前であった。

鈍い音を立てて仰向けに倒れる勇者の背中から大剣を差し抜く英雄。

滲み出る紅色が―――英雄の眼の色を染めたかのようであった。


「・・・愚かだ。・・・私に歯向かうことなど」


◆◆◆


英雄はそんな彼女を後にしてずっと勇者を信じ続けていた魔理沙たちを睨みつけた。

立ち竦む大群。最早英雄にとっては―――雑魚であった。


「・・・チルノ、お前は・・・」


「ほざけ。幾らでもほざくがいい。・・・それは世界への恨みか?この運命の残虐さへの妬みか?

・・・下らない。・・・所詮は下等生物の単なる思考、意味すら持たない。

―――喜べ・・・お前らは『死んだ』。そして我らがGENESISが繁栄する刻が来たのだから」


目の前に存在した「親友」を嘲笑いながら胸倉を掴む英雄。

彼女の天下であった。それは誰にも否定できない事象であった―――。


「・・・ああ、お前は今まで私を馬鹿にして来たよな?・・・感謝しよう、私を生まれ変えさせてくれて。

・・・お前への贈り物を考えていた」


チルノは反対の手で青白いエネルギーを集める。


「そ、それは・・・!」


「そうは・・・させないッ!」


血に埋もれた勇者はそんな英雄に叩きかかり、不意を突かれた英雄は攻撃を受けた。


「なッ・・・!?」


その瞬間にアルテマは放たれ、上へと見当違いな場所へ飛んだアルテマは頭上で悍ましき爆発を遂げる。

その間に魔理沙は離され、全員が英雄から幅を取った。


「霊夢・・・ッ!」


怒りを露にした英雄は妨げになった弱った彼女に思いっきり大剣で斬りつけた。

果てしなき衝撃は彼女に直撃し、有無も言わさぬまま魔理沙たちの元へ吹き飛ばされた。


霊夢は何も喋らなかった。

そんな彼女の元にゆっくりと足を進めた英雄。


―――しかし、そんな彼女の身体の近くに、萎れた花の冠が落ちていた。


「・・・!」


刹那、英雄の脳裏を遮った「思い出」が暗闇の中を駆け巡る閃光となって迸った。

花の冠・・・自分が霊夢に渡した―――あの春の日の―――


・・・その時、自分の親友の顔をふと、思い出した。


―――えへへ・・・大ちゃんの輪っかはやっぱり上手だな~


―――そ、そんなこと無いよ!それよりもチルノちゃんの輪っかも上手だよ!


―――そ、そう・・・?


―――可愛いよ、チルノちゃん!


―――そ、そんなこと言わないでよ大ちゃん・・・照れちゃうよ・・・


仄かな、春の思い出。

その時には―――いつの間にか―――


今までの残虐な行為とは裏腹に優しそうに掬って花の冠を拾う。

そこには、あの時に共に過ごした日々が結晶としてなっていた。

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