[Aix Trine=13 思い出]
彼女の本当の気持ち…
コンコルディアが殺戮を行った証は、依然として残っていた。
アルテマは数多くの命を奪い、そして人々から「生」に対しての希望を悉く削り取った。
更地となり、未だに燃えていた荒廃した大地で、遠い地平線を眺めた。
突如として現れ、反比例的に消え去った幻想郷の住民たち。
青い閃光が脳裏に迸り、思い出が数々と脳裏を駆け巡った。
失ったものを補おうとする「思い出」は、悔恨に囚われた霊夢を変えようとしていた。
―――彼女は魔理沙なんて信じられなかった。
だからあの時も、彼女が弱気な態度を見せた時に非情な顔を見せたのであろう。
・・・怖かった。彼女は怖かったのだ。
魔法と言う概念だけで生きていたこの世界に、本来は介入されないはずの別の次元が送られた時―――
―――信じていた親友でさえも、変えてしまったのだから。
・・・霊夢・・・霊夢・・・!
そんな彼女を呼ぶような声が―――テレパシーで聞こえるような気がした。
周りにあったのは無機質に燃え上がる炎だけであったが、聞き覚えのある声が聞こえるのだ。
「・・・ま、魔理沙!?」
不意に彼女はそんな声を聞いて反射的に呼び返した。
―――心にはまだ、悔恨に覆われていない純粋な部分が残っていたのだ。
完全に悔恨と憎悪に囚われた人形にはなっていなかったのであった。
「何処!?魔理沙・・・何処にいるの!?」
しかし彼女の声は聞こえない。
そこに残ったのは彼女の静かな木霊。
「・・・魔理沙・・・返事を・・・返事をしなさいよ!」
瞬きをすると、勝手に涙が一滴、頬を伝って涙腺を描いていた。
1人の英雄が全てを崩壊させ、新たなる世界を作ろうとした幻想郷で、1人静かに・・・泣いていた。
やはり、悔恨もそうだが思い出に勝るものなぞ存在しなかったのだ。
笑顔で過ごしあった日々が、お金などと言った物理的な物よりも彼女にとって余程価値があったのだ。
「・・・魔理沙・・・萃香・・・アリス・・・レミリア・・・」
思い返してみれば、数々の仲間たちと神社や紅魔館、魔理沙やアリスの家、湖など多岐に渡った場所で弾幕ごっこや話をして楽しんできた。
そして記憶には、この異変の元凶の笑顔も充分と脳裏に浮かべられた。
「・・・チルノ・・・」
懐に手を突っ込めば、そこにあったのは萎れた花で紡がれた冠・・・。
あの時、英雄が・・・いや、チルノが暇潰しの為に来た自分の為に作ってくれた、優しさの塊・・・。
彼女は悪では無い。一概には否定できない闇が、そこにはあった。
が、この世界の惨状は酷いものだった。・・・彼女はその2つの感情に板挟みになっていた。
彼女は右手を胸に押し当て、目を閉じて耳を澄ました。
燃え盛る音の中に1つ、声が聞こえたような気がした。
・・・霊夢・・・!・・・紅魔館だ!紅魔館・・・
あり得ないかも知れない。しかし彼女は信じていた。
今聞こえた声が自分の妄想、幻聴に過ぎないとしても、何処か信じたい心情が存在した。
「・・・紅魔館、ね。・・・待ってなさい・・・今助けに行くわ!」
あの思い出を・・・蘇らせたかった。
―――幻想郷でしか実現出来ない・・・『今』と言うこの時にしか出来ない、思い出。
再び、全員の笑顔を取り戻すために―――
―――彼女はお祓い棒に誓った。




