[Aix Trine=12 遥かなる幻想を経て]
もうすぐ終わりかな?
「こちらインサニア、月からの実験台を送る」
「了解。・・・これで生贄も充分集まった、そろそろエクストラインを行う時だ」
「しかし、既に3人も消えたが・・・」
「そこは私に任せろ」
アミティムスと連絡し、月の都を完全に鎮圧したインサニア。
アクアブルーの長髪は彼自身の闇を現してるかのようであった。
深き闇の中の眼に映る、幻想的な母星。
「・・・我々は・・・遥かなる未来を築き上げる。・・・邪魔はしないで貰いたいものだ」
そして彼は真っ暗な闇を潜って、GENESISが持つ力を使って光速移動を行ったのだ。
これも未来の力―――星々を線と見立てて、アミティムスが実験場を構える幻想郷へと舞い降りた。
着地時、地面からの柔らかで大きな抵抗が彼をゆっくりと降り立たせる。
「・・・もうこの世界は何もないか。・・・エクストラインも近いな」
「あんたが月へ侵略した犯人ね・・・」
霊夢は疲弊した身体を何とか回復させたものの、夢想封印のカードは破られていたままであった。
どうしようも出来ないが、彼女は戦う意思を向けた―――。
「・・・如何にもそうだが」
「あんたたちの所為で世界は滅茶苦茶よ。・・・ふざけないでほしいわ」
「我々はあくまで希望を織り成す役に就いてるだけだ」
インサニアは炎と共に風が吹き荒れる死の大地の上でゆっくりと語った。
使命感に追われた彼の心情がそこから滲み出ているかのようにも見えた。
「・・・希望なんて何処にも無いじゃない!この世界に!」
「未来に出来上がる。・・・今を犠牲にしてな」
「ふざけないで!あんたたちは今を考えないで未来に希望を求める、愚か者よ」
「・・・そう言えるのも今のうちだ、もう直に英雄は降誕する・・・。
・・・世界は変わるのだ。・・・数多の世界を駆けてきた我々の臨んだ、最後の世界が・・・出来上がる」
「そうさせるつもりは無いわ」
「なら選べ。我々を受け入れるか、世界と共に塵となるか」
インサニアは両眼を充血で真っ赤に染め、宿敵を睨みつけた。
彼の怒りが―――彼女に向けられた事を示す瞬間でもあった。
彼は自身が持っていた折り畳み式の大鎌を取り出し、肩で担いだ。その刃は彼の胴体ほどの直径であった。
「・・・『塵』、ね」
「・・・そうか」
δ
彼は大きな鎌でそんな彼女の命を削ろうと斬りかかった。
しかし彼女はそんな攻撃をあっさりと避け、地面に鎌の先端が刺さる。
「チッ・・・」
インサニアは鎌をすぐに地面から抜き、そんな霊夢に向かって青白いエネルギーを放つ。
怒りに満ち溢れた、GENESISの最高なる攻撃だ。
「・・・アルテマ」
「来たわね・・・!」
霊夢の元に集うエネルギーは段々と膨張を見せていた。
彼女はすぐに反応した―――飛び立ち、その場から猛スピードで離れた。
―――しかし忘れていた。相手はGENESISであることを。
彼は瞬間移動を用いて、避難しようとする彼女の前に現れた。
「・・・な!?」
「・・・そうはさせない」
インサニアは大鎌で彼女を思いっきり斬りつけた。
彼女の身体を大きく斬り裂いたと同時に、衝撃でアルテマの爆発地点まで吹き飛ばされたのだ。
―――そして、アルテマは爆発した。
青白いエネルギーが世界を掘削するかのように解き放たれたエネルギー。
その中の中心部に、彼女は存在したのだ。
「・・・無様だな」
その残虐な景色を眼に投影していた彼は目的の遂行に於ける唯一の邪魔の死を見たような気がした。
しかし爆発による煙からボロボロで服も半分は破けており、血だらけの彼女が精神力だけを頼りに立っていたのだ。
フラフラでありながらも、その生きようとする意志が彼女に生を与えたのかも知れない。
「・・・流石は我らが英雄を倒しただけに、他の奴らとは比肩にならない程の実力だ。
・・・だが、その姿で戦うのか?・・・馬鹿馬鹿しい。淫らな服装は余り好きじゃないんでね」
黒いレザー服にアルテマの残照が残っていた。彼はそんな霊夢を見据え、そう言い放った。
実際、彼女は殆ど肌が露出していた。
「・・・あんたがどうとか関係ないわ、私が決めることだから―――!」
ボロボロになろうが、彼女は構わなかった。
肌が幾ら露出しようが、一心不乱に彼との戦闘の事だけを考えた。
「・・・これで終わりよ!」
霊夢は曾て英雄にとどめを刺した技―――お祓い棒を霊力で8本作り出したのだ。
それは彼女が生み出した『幻影』・・・。・・・それらがインサニアを囲むように周りに浮かんだのだ。
「こ、これは・・・!?」
そしてその8本は結界を作り出し、インサニアは金縛りにあったかのように動けなくなってしまう。
彼女はそんな無抵抗なインサニアに向かって滅多斬りをした。
8本のお祓い棒の幻影を回収していきながらすれ違い様に攻撃し、全てを回収し終えた9回目の時―――。
「・・・あんたの負けよ」
真上から―――彼を一閃した。
呪縛に閉じ込められた彼は脳天から貫かれ、脳漿すら噴き出さないまま、無言で空気と一体化した。
「・・・後1人ね。・・・チルノ・・・あんたの野望は・・・私が止めるわ」
静かな木霊が、そこに響いた。
果てしなき剣戟も終焉を迎えようとしていたのだ。
―――悔恨も、死の世界を見ていくうちに何か変わったような気がしたのも事実であった。
彼女の中で揺れ動く心は―――あの幸せな日々を想像していたのだから。
 




