[Aix Trine=11 あの日…]
穏やかな、春麗らかな日の時であったのであろうか。
花畑の中で、親友の大妖精と共に花を摘んでは花の冠を作って遊んでいた英雄―――いや、氷精の姿があった。
頬を温かな色に染めて、笑顔で大妖精と冠を交換したのだ。
「えへへ・・・大ちゃんの輪っかはやっぱり上手だな~」
「そ、そんなこと無いよ!それよりもチルノちゃんの輪っかも上手だよ!」
「そ、そう・・・?」
お互いに交換し合った輪っかを被り、蝶が舞う中笑顔で花を摘み合った2人。
綺麗な空と共に描かれた2人の表情は、お互いが嬉しそうにしていた。
「可愛いよ、チルノちゃん!」
「そ、そんなこと言わないでよ大ちゃん・・・照れちゃうよ・・・」
真っ赤な頬が、彼女の恥ずかしさをしっかりと示唆していた。
綺麗な翡翠のような眼で、少し嬉しそうに大妖精を見乍ら。
「あ、あんたたちここで遊んでたのね」
そこへやって来たのは、博麗の巫女であった。
花畑の真ん中で遊ぶ2人に惹きつけられ、好奇心でやってきたのだ。
「あ、霊夢さん。こんにちは」
「今あたいたちね、お花で輪っかを作って遊んでるの!」
「それは良かったわね。あんたたちにその輪っかは―――お似合いね」
霊夢もまた、そんな2人を褒めたのだ。
そんな巫女に「そ、そうかな?」と2人は照れていた。
そして笑顔で約束しあったのだ。花畑の真ん中で―――
「また遊ぼうね!大ちゃん!」
「うん!チルノちゃんもね!私、この輪っか、ずっと大事に持ってるよ!」
―――私、この輪っか、ずっと大事に持ってるよ!
・・・そんな過去が全て世界が作り上げた幻で出来ていたのであれば――
―――残酷極まりないことであった。
コンコルディアが話すように、もしチルノが幻影なのならば・・・あの思い出は・・・偽りであるのだから。
GENESISであるパチュリーと対峙していた霊夢は、ふとそんな懐かしい出来事を脳裏に浮かべていた。
あの春麗らかな日々は―――もう帰ってこない。それは分かっていた。
悲しくとも―――それが運命であったから。
「・・・来たか。我らが宿敵―――『博麗霊夢』」
「あんたたちを止めるわ。・・・この世界を好きにはさせない為にも、ね」
霊夢はすぐにお祓い棒を右手でしっかりと握った。
そんな彼女にショットガンの銃口を向け、余裕を醸していたパチュリー。
「我々を妨げるのならば―――許してはおけない」
「それはこっちの台詞よ!」
「我々は希望を与える存在・・・。・・・何故希望を拒絶する?」
「それはあんたたちが未来しか考えていないからよ・・・!
・・・悪いけど、私たちは今を生きてるのよ!邪魔して貰っては困るのは・・・こっちなのよ!」
「・・・そんな鑿みたいなどうでもいい生を生きて楽しいか?」
「あんたには分からないわ・・・!・・・あんたがどうでもいい存在だからよ!」
「・・・黙れ」
δ
パチュリーはすぐさまショットガンの引き金を引いた。
誰もいなくなった新地獄で響き渡る銃声。
身を華麗に動かしてかわした巫女は銃の雨の中を搔い潜り、パチュリーに殴りかかった、が彼女はショットガンを剣代わりに受け止めていた。
「我々がどうでもいい存在?・・・ふざけた事を言うものだな。
・・・我々は執行人、この世界に於いて有益なる存在」
「世界はそう思っていようとも、私は邪魔としか思わないわ」
霊夢はすぐさまカードを構えたが、そのカードは一発の銃声と共に木っ端微塵になった。
哀れ無常にも吹き飛んでいったカード。その出来事は、僅か数秒の出来事であった。
「・・・か、カードが・・・!」
夢想封印が刻まれたスペルカードは―――一瞬で微塵となり、地獄を舞った。
「・・・私にとってはお前が邪魔としか思わないがな」
彼女はすぐさま引き金を引いた―――。
一発の銃声は、戸惑った彼女の身体を貫こうとしたが、咄嗟な彼女の動きが銃弾を右腕だけで済まさせた。
右腕を負傷し、煙が起こる。
右腕の筋肉に刺さり込んだ銃弾によって血が溢れていく。
「・・・クッ・・・!」
「終焉だ」
パチュリーは負傷して痛がる霊夢に容赦なく撃ちこんだ彼女。
しかし銃弾の間を見切って身体を反らしながら霊夢はパチュリーに近づいた―――
「これで・・・!」
「―――そうはさせるか」
青い閃光が解き放たれた―――
銃とお祓い棒が勢いよくぶつかった衝撃が、新地獄に渡る。
静かな空間に、右腕から零れる鮮烈な紅。
「・・・終わりだ。・・・『アルテマ』」
至近距離で放たれた青白いエネルギー。
幻想郷を新たなる世界へ変わるきっかけを作った攻撃が―――彼女の逃れられぬ範囲で放たれたのであった。
しかし彼女もまだ、対策手段は存在した。
「・・・悪いわね、二重結界!」
もう1つのカードを掲げ、自身の周りに地面を直径とした半球状の結界を作り出す。
その結界は博麗結界そのものであり、そんな結界を破壊せんとアルテマは牙を剥いた。
青白いエネルギーは悍ましい爆発と共に解き放たれ、新地獄はその地の輝きを失った。
結界にそんな悍ましい爆発が地を捲りあげながら襲い掛かるが、結界は表面の1枚を失っただけで、2枚目が彼女を守り切った。
しかし自身の防衛に霊力を使った彼女も疲弊していた。
「な、何故だ―――何故死なない!?」
「悪いが私は力は無くとも霊力だけはあるのよ―――」
霊夢は疲労を隠せずにいたものの、彼女の持つ力全てを込めてパチュリーに殴りかかった。
刹那、お祓い棒に霊力が籠り、パチュリーの身体を―――貫いた。
「うわああああああああああああああああああああああああ!!!」
彼女は貫かれた後、血すら流さずそのまま消え去った。
思念体である彼女は霊夢の持つ霊力に負け、この世界から消え去った。
後に残ったのは、果てしない疲弊と敗れたカード、そして元の形を失った新地獄であった。
「・・・チルノ、あんたは・・・」
何かを呟こうとしたが、言葉が続かなかった。
そこには、悔恨に囚われた彼女の心―――悲壮に覆われた世界と共に果てしなき懺悔が存在した。




