[Aix Trine=5 創世の幻影]
今回のお話は「コンコルディア」「イドラ」「パチュリー(別思念体)」、「アミティムス」、「インサニア」の5人が出てきます(今更感)
この5人は3年前に霊夢が戦ったGENESIS体です。
因みに「アルテマ」は「とてつもない大爆発を起こす」という攻撃です
「お前が我々を産んでくれた―――感謝しよう。全ては此処から生誕した」
薄水色の長髪で顔を隠し、口元で笑みを浮かべる男性。
右手には最新鋭の科学の結晶、ビームサーベルを持っていた。
この武器は粒子に重い質量を与えたことで出来上がった、一種の剣であった。
「生まれ、変わった・・・!?」
「・・・この姿はお前が作ってくれた身体じゃないか・・・」
目の前の「母」を髪の垣間から見据えた男性。
黒いレザー服はそんな彼の心の中の闇を投影してるかのようであった。
「・・・お前が・・・GENESIS:IDOLAなのか・・・!?」
彼を自分の欲望と羨望で作りだした『母』は・・・そんな彼に絶望の眼差しを向けた。
火の粉が舞う炎の世界を背景に、両手を広げて天を見ゆる彼は―――一種の恐怖であった。
湖は消えた。一瞬で彼のアルテマで蒸発し、そこで遊んでいた妖精たちは涙を流し、共にそんな彼に畏怖を示していた。
「・・・私か?・・・私はイドラ、未来を変える英雄を降誕させる幻影、さ。母さん」
「私は母さんなのでは無い・・・!・・・私は・・・私は・・・!」
母はそんなイドラの言葉に悩まされていた。葛藤していたのだ。
「・・・嘘を言ったって無駄だ、母さん。・・・自分の過去が我々を産みだした。もう後戻りは出来ない」
「もう・・・これ以上私の過去を貪り荒らさないでくれ!」
必死に声を振り絞って言い放った元科学者。イドラはそんな『母』に笑みが耐えきれなかった。
「フフフ・・・ハハハ!そうか、過去を荒すな、か!・・・勝手な真似をしといてよくも言えた台詞だな!」
持っていたビームサーベルでそんな『母』を―――一閃した。
突き抜けた粒子。彼女は後ろでそんなイドラに怖気ていた妖精たちの中を突き抜け、一部の妖精を巻き添えにそのまま燃え行く畔の木々に衝突する。
血を額と胸から流し、彼女は仰向けになって倒れた。
「・・・母さんにとってはこんな最後が相応しい。・・・くだらない人生だったな」
そう『言い切った』彼は不敵な笑みを浮かべていた。
そして後ろを振り向き、彼の姿を見て怯える妖精たちにゆっくりと、静かな足音を立てて近づいた―――
オッドアイで睨まれた妖精たちは―――動けなかった。
蛇に睨まれた蛙、と言う表現が一番正しいであろう。
「・・・全ては我らがGENESISの、そして我らが英雄の為に―――コイツらも、何かは役に立つだろうな」
そして鼻で少し笑ってから、妖精たちに言い放った。
「―――にとり・・・河城技工士の墓でも立ててやれ。・・・お前たちは・・・我々の再興に役立つ」
そして、炎の海に身を消していったのだ。
黒いレザー服が、そんな炎と合わせて、瞋恚と絶望を示唆しているかのようであった―――
δ
天界―――遥か空に於いて、彼は1人笑っていた。
天人たちが住まう世界で、幻想郷の真上にある、雲の上の夢でもあった。
彼はそこをも―――『壊し去った』。
驚異的な飛翔能力を持ったイドラはそんな世界に赴き、世界を一瞬で砕いた。
―――その名も『アルテマ』。
天人たちが空から雨粒のように降りしきり、炎の海の中に―――まるで地獄の大釜に堕ちる罪人たちのように落ちていったのだ。
天から見れば『穢れた世界』そのものであったその世界で、彼らは抵抗出来ないまま落ちるしかなかった。
妖怪たちが・・・妖精たちがそんな天人たちを見つけ、そして只、泣き寝入りするしかなかった。
こんな卑劣な行為が繰り返される運命―――世界はここまで残虐で暴力的であったのか。
全てに恨むしかなかったのだ―――
イドラはそんな事象に包まれた空間の中、水に混ざる墨のように舞い降りた。降臨である。
天界を滅ぼし、その出来に満足がいったようであった。
老若男女、そんな破壊者イドラを憎悪の目で見つめた―――
「お前たちは何も分かっていない。未来を考えずに生きる、はっきり言って邪魔でしかない連中だ」
イドラは眼下の『雑魚ども』に―――演説をするかのように語った。
天界から降り落ちた家々の瓦礫が積もった山の頂点に身をおわせ、軽蔑さえしていた。
「・・・『屑』、この言葉がお前たちの立場に一番よくあてはまる言葉だ」
「何でさ・・・何でこんな事が出来る訳!?」
天界崩壊の巻き添えを食らった天子は、身を馳せるイドラに食って掛かった。
お転婆な所も含めて、彼女は勇敢であった―――。
「我々は1つになる。やがて『エクストライン』を行う事で、英雄を降誕させる―――。
・・・我々は未来のGENESISの栄華の為に、この世界を開拓する者に過ぎない」
「英雄の降誕、って・・・!」
衣玖も天子と共にいた。彼女は「英雄」と言う言葉から過去の暗い記憶を脳裏に浮かばせた。
―――あの悲惨な出来事から3年が経った今、再び―――舞い起ころうとしていた。
「我らがGENESISは、未来の始祖となる存在だ。そして英雄は、この世界に於いて必要とされる存在。
・・・悪いが、エクストラインにはお前たちのような生贄が必要だ。・・・実験台として使うためにな!」
イドラは眼下の天人、妖精、妖怪―――誰彼構わず、自身の持つ驚異的な力で―――
―――『実験台』とした。
それは未来の為に、そして英雄の為に―――
そこに流るるは―――終わりなき静寂であった。
戦えるのは―――
―――彼女1人だけであった。




