[Aix Trine=2 無に帰る刻]
今回のお話の概要は、世界を壊す宣告者となった存在であるチルノの暴走を止めるお話です。チルノの無双劇が、今ここで始まります。
終わりを告げに舞い降りた聖告者は、あらゆる生命を無に帰そうとした。
GENESISの前では最早邪魔でしか無かった存在は、スイカを象った剣の前で踊るしか無かったのだ。
―――彼女は、自分に与えられし〝使命″を執り行う、『執行人』でもあったのだ。
紅き館は諸共崩れ去り、その崩れた瓦礫の上で彼女は遠き世界を見渡していた。
全てを統べたような感覚に襲われ、口から笑みが零れていた。
「・・・世界は尚、美しくあるべきだ。・・・この世界は穢れで満たされている」
彼女に従うかのように頭を下げ乍ら飛び散る火の粉。燃えあがる業火。
地獄と思わせるその光景に、チルノは赤き眼で遠くの地平線を見据えたのであった。
紅魔館の近くに存在する、妖怪たちが多く住む森も一夜で―――炎の海と化した。
命からがら逃げた妖怪たちは、そんな悲しき世界に涙したのであった。
「・・・ど、どうしてチルノちゃん・・・!」
ルーミアはそんな彼女に泣きながら訴えた。
純粋で、誰にでも優しかった彼女の豹変―――彼女の『英雄としての存在』は消えたものだと思っていたのだ。
「今まで一緒に遊び続けたのに・・・何で急に・・・こんな事をするの・・・!」
ルーミアと同じように、涙で視界が朧げになっていたミスティアもまた、親友である彼女に必死に問いかけたのだ。
燃え盛る木々の中、瓦礫の頂点に立っては両手を広げ、世界を見渡す彼女に向けて―――。
炎が燃える中、そんな鮮烈な声はチルノに届いてが、それを嘲笑って返すのみであった。
「・・・フフッ、全て―――こういうことだよ、2人とも。・・・綺麗な世界じゃないか」
「こんな世界・・・誰も望んでないよ!」
一緒にいた大妖精も、そんな彼女に反論を述べた。
泣き叫んでいた彼女の心―――動揺を隠せないのも事実であった。何せ大妖精とチルノの仲を知らぬ者は幻想郷中にはいないからだ。
「・・・そうか、それは残念だ―――我々GENESISを踏みにじった、過去の生き物どもがよく言えたものだな」
「私たちは過去なんかじゃない!今を生きてるんだ!」
リグルも精一杯チルノに言い放った。臆病な彼女の勇ましい声は炎を貫いた―――が、依然として瓦礫の山の頂点は笑っていた。
その笑いに含有されていたもの・・・征服で満たされる、心の余裕なのであろうか。
「・・・黙れ、所詮は私以下の〝雑魚″に過ぎない・・・、・・・お前らに世界の行き先を決める権利など・・・『無い』」
そしてチルノは・・・眼下に見える『雑魚』を・・・睨みつけた。
おどろおどろしく、そして穢れた物を見るような蔑んだ眼で・・・。
「・・・邪魔なんだよ・・・!」
そして彼女は目の前で自分に必死に呼びかけていた、『親友』たちに向けて彼女が手に入れた最高の力を解き放った。
「・・・目障りは・・・『消す』。・・・アルテマ」
青白いエネルギーが、炎の色合いと対照的に描かれる。
全てを破壊しようとするエネルギーはそんなルーミア達の足元に集まっていく。
「に、逃げるしか無いのだ・・・!」
「・・・ち、チルノちゃん・・・!」
悍ましい気を察知したのであろう、ルーミア達はそんな燃え行く森から逃げ出したのだ。
後ろすら振り返らず、一心不乱に・・・。
そして彼女たちが元々いた森は・・・アルテマと言う爆発で一瞬にして―――無くなった。
青白い爆発が、幻想郷中の何処からでも見えるような高さまで昇り、とてつもない衝撃波が周りを襲った。
核爆発では無い・・・爆弾の皇帝「ツァーリ・ボンバ」に比喩した方が近いのかもしれなかった・・・。
衝撃波にルーミア達は勿論、森にいた多くの妖怪たちも、そんな爆発から逃れられるわけでは無かった。
聞こゆる断末魔の声―――それが彼女の耳に届いた時、崩れゆく世界を見据えて・・・笑みが耐えられなかった。
「・・・無様なものだ」
―――もう彼女は妖精では無い。破壊の道化になりすました英雄であった。
幻想郷の空気とは齟齬した関係であった彼女は、「科学」という真理の下、全てを壊す存在であったのだ。




