回顧章 彲 -AFTER GENESIS ANOTHER DIMENSION-
にとりは思っていた。
―――自分が犯した、とてつもない間違いを。
彼女はおかしくなってしまった。
自己として受け入れられぬGENESISを無理やり受け入れさせ、恐るべき力を持たせてしまったのだ。
千年後の人間のエネルギーを得た氷精はただの妖精に戻っていたが、それがいつ元の姿に回帰してしまうのか、それはGENESIS細胞を作った本人でも分からなかった。
「・・・」
孒のように欠けた彼女の心を無事に取り戻した霊夢は本当に凄いとしか言えなかったのであった。
そして自分の心が腐っていたこと―――恐るべき廱疽が出来上がっていたことに後悔と絶望を覚えた。
「あ!にとりだ!ねぇ~暇だから鬼ごっこしようよ!」
彼女の元にやってきたのは、羽をパタパタ動かして飛ぶ、元あった人工の神の姿。
全ての記憶を神に為ったことによる一新化によって失い、無邪気さを示す彼女のその姿は何とも哀れなものなのであった。
その笑顔の裏にあった出来事をゼロの概念として捉えるその人工神は欠伸をしながら元凶にただ問うのであった。
「あ、ああ・・・今日は、やめとくよ」
「う~・・・あたいだって暇なのに・・・」
「ご、ごめんな・・・今日は少し悩み事があってな」
「ぶ~」
頬を膨らませ、彼女に斷られた悲嘆を示すが、何処にも罪な表情は見せなかった。
本来の彼女の純粋で美しき翡翠のような心―――それと比べて自分は汚泥のようなものであった。
「じゃああたい行くから~バイバイ」
そのままにとりに背を向けて飛び立ち、次の新たな友人を探しに行った氷精―――。
太陽の元で飛ぶその後ろ姿は彼女にとって儚げに見えたのであった。
―――彼女は妖精だ。しかし、それに加えてGENESISでもあるのだ。
―――あの頃の自分を、あの頃のふざけきった自分の横っ面を思いっきりぶん殴ってやりたかった。
大罪を犯した自分に何も与えられぬ罰は寧ろ彼女の心を圧迫し、そして束縛していたのだ。
「クリューソプラソス・プラエテリトゥム・・・緊急用最終処理GENESISの名称だったな・・・。
・・・アイツは、あの時に既に真実を見つけていたのだろうか」
どこまで顧みよう、しかし時計は針を逆方向に回したりしないのだ。
だからこそ私たちは―――限りある過去の中で、後悔の無いような、自身の持てる道を選ばなくてはいけないのかも・・・しれない。
飛び立った彼女の瞳の中の翡翠―――
―――その翡翠が、にとりの過去を永遠に証明し続けるのだ。




