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TOHO FANTASY Ⅰ  作者: PHIOW BJIJ LHJIJ LJIJ
東方近未来 ~Aliquando mundi~ -いつかの世界- 
19/40

再臨章 再臨:創世の天使 -THE TERRIFYING CHILDREN- 

因みに名前の意は「翡翠の過去」。「翡翠」が何を示してるか分かりますか?


はじめに神は天と地とを創造された。

地は形なく、むなしく、やみが淵のおもてにあり、神の霊が水のおもてをおおっていた。

神は「光あれ」と言われた。すると光があった。

神はその光を見て、良しとされた。神はその光とやみとを分けられた。

神は光を昼と名づけ、やみを夜と名づけられた。夕となり、また朝となった。第一日である。


外界での奴隷騒動は治まり、全員が幻想郷に帰れていた。

それは霊夢が思う「平和」であり、彼女たちは以前と同じ生活を遅れていた。

黒幕の魔理沙やにとり、パチュリーと神子は色々な面に於いて謝罪を要求されたが、仕方ないことなのかもしれない。


あの悲劇から1年―――。


彼女たちはその出来事―――悲劇を忘れようとしていた。


世界が優しく治まった時、1人の非力な妖精が―――湖の畔で遊んでいた。

蛙を眺めては少し手を加えて蛙の行こうとしていた進行方向に妨害を加えたり。


凍らせてはいけない、と何処かの土着神が言っていた為、素直に聞き入れた彼女。

本来は心が純金のように美しい彼女は暇そうにしていた。


その時に不意に右腕に赤い「何か」が浮かび上がっている事に気づいた。

赤い模様みたいなものが彼女の右腕に出来上がった時、不思議そうに思ったが気にしなかった。

が、突然天から声が聞こえたと同時に彼女は上を振り向いた。


「だ、誰!?」


「―――チルノ、貴方こそ、我々GENESISの中の夢。そして英雄。

―――貴方は本来の心を隠している。それは我々GENESISに於ける夢と言う存在。

・・・今こそ、全てに仇を為し、世界を混沌に陥れる時です!」


安らかな聖女のような美しき声が彼女の耳に入ったと同時に、あの時の感覚が蘇ってきた。

恐ろしい。それは彼女自身も考えたことであった。


「・・・じぇ、GENESIS・・・」


心底から湧き上がったエネルギー。

彼女の心を貪るかのように出来た大きな廱疽。

そして彼女は全てに仇を為す英雄と為りあがった。


―――GENESISは、彼女を受け入れたのだ。


「・・・私は、全てに仇を為す英雄・・・。

・・・この世界も、GENESISの名の下に壊されなければならない真実・・・。

・・・GENESISの英雄が、全てを変えてやる!」


               δ


霊夢は神社で寝ていた。

神社に戻ってからは巫女の仕事はせず、だらだらとした毎日を送っていた。

が、そんな時に焦ってやってきたのは魔理沙であった。


「おい!霊夢!起きろ!」


魔理沙に叩き起こされ、霊夢は不機嫌ながらも起き上がった。

欠伸をしながら、目の中でぼんやりと見える魔理沙を見据えた。


「何よ?私は眠いのよ」

「それどころじゃないんだ!奴が・・・奴がまた暴れ出した!」

「奴って誰よ?それにあんたも戦えるじゃない・・・私は眠いの。お休み」


霊夢は再び寝ようとするが、魔理沙はどうしても起こしたいようであった。


「今、人間の里や紅魔館、それに命蓮寺に守矢神社が大変なんだよ!」

「・・・何がどう大変なのよ?」

「全員が!全員が血だらけで、燃えてるんだよ!凄い業火が!

あんなのは普通の火事では起きない!兎に角霊夢も来い!今元気なのは私くらいなんだよ!」


それを聞いて飛び上がるように起きた彼女は詳しく話を聞くことにした。


「それってどういうことよ!?」

「そのまんまの通り、滅茶苦茶なんだよ!妖怪の山も、里も森も湖も!

全てが焼き払われ、全員が何者かによって斬られたんだよ!」


その時、彼女は外界での最終決戦を思い出した。


「私に跪く姿を見せてくれ。そして私たちGENESISに跪く姿を見せてくれ」


そして彼女は身震いした。


「・・・まさか!?」


そして彼女はすぐにお祓い棒を構えた。


「霊夢!兎に角私についてきてくれ!」

「ああ!分かってるわ!」


霊夢は魔理沙を追いかけるようにして神社から飛び立った。

よく見ると、遠くでとてつもないエネルギーが爆発していた光景が見えたのであった。


               δ


彼女は想像していた以上に壊れた世界に驚いたと同時にその悲惨さに悲しみも込み上げた。

燃え盛る里の家々。路頭に倒れる人々。

まるで世紀末の世界のような光景が視界に広がっていた。


「ど、どういうことよ・・・!?」


地面に降り立ち、倒れている里の人間の1人の傷を調べる霊夢。

腹部からは大量に血が滲み出ており、大きな剣で貫かれたことを予測させる。


「・・・この剣の大きさ・・・」

「・・・あの悲劇が再び甦ったのかもしれないぜ・・・」


魔理沙は恐怖で一杯であった。

あの悲劇を引き起こしたのは黒幕である自分が間接的に起こした事であったからだ。


「と、兎に角何が起こったのか誰かに聞きに行かなきゃいけないわ!

あんた、『紅魔館』も被害を受けたって言ってたよね?」

「ああ、紅魔館も火の海だったが・・・」

「アイツらならきっと生きてるわね、何が起こってるのか話して貰うわ!」


里の悲惨さを目にして彼女は再び飛び立った。

その後に続いて彼女も背中を追いかけに箒に乗って飛び立つ。


「紅魔館・・・アイツら、大丈夫かな」

「だって吸血鬼に空間を操れるメイド、それに死ねない魔法使いがいるわ。

あんな化け物染みた奴らが死ぬ訳ないじゃない」


霊夢は当たり前のように言い返すと、魔理沙は「まあな」と言って頷いた。


「でも・・・一体犯人は誰なんだぜ・・・?」


そう不思議に思っていた魔理沙だったが、霊夢は薄々気づいていた。


「―――悲劇は繰り返されるものじゃないのかしら」


                δ


紅魔館の上空に着いた時、予想していた程度に燃え盛っていた。

只の火事では証明出来ないほど燃え上がった館。

この中に彼女たちはいるのであろうか。


「アイツらのことだから大丈夫だとは思うけど、心配だから中に入って捜すわよ!」

「そ、そりゃあ分かってるぜ!」


2人は紅魔館の玄関前に降り立った。

改めてその炎の激しさが身に染みて分かった。


「うわあ・・・こりゃあ酷いぜ」

「兎に角中へ入るわよ!もしまだ中にいたら大変じゃない!」


燃え盛る邸宅の中へと急いで歩み始めた霊夢。

崩れていく玄関の扉を壊し、炎で熱気が籠る中へと急いだ。


「レミリア!咲夜!パチュリー!美鈴!こあ!フラン!いるなら返事をしなさい!」


しかし声は燃える炎によってかき消されてしまった。


「捜すに損は無いわ!魔理沙、行くわよ!」


中に入ることを躊躇していた魔理沙は霊夢の後ろ姿を見て焦った。


「わ、分かったから置いて行くなだぜ~!」


                δ


あらゆる場所・・・色々な部屋や厨房、寝室などを見回っても彼女たちの姿は見当たらない。

魔理沙と手分けして捜すも、何処にも姿を見せないのだ。


「やっぱりもう逃げたんじゃ・・・?」


通路で落ち合った2人。だが霊夢には心当たりがあった。


「もしかしたら地下に避難しているかもしれない、私が行ってくるわ!」


霊夢は自分の思い込みで1人、紅魔館の地下へ続く階段へと疾走していった。

炎は燃え盛る。地獄を連想させる館内のレッドカーペットの上を彼女は無心で走っていた。

部屋は段々と倒壊を始め、彼女の行く手を遮ろうとする。


「チッ・・・邪魔ね!」


カードを掲げ、夢想封印を宣言して行く手を遮る障害物を破壊していく霊夢。

自分が感じた、強大な鼓動・・・。


彼女が信じた先にあった階段を急いで降り、地下の牢屋に出る。

蜘蛛の巣が張ってあったり、煤だらけであったり、全く人が来なかったことを連想させた。

その奥にあったもの―――それは大きな空間であった。


以前レミリアに用途不明のその場所を紹介され、鮮明に脳裏に思い浮かぶ彼女。

そこから高ぶる鼓動を感じ取った。


「・・・」


無言で歩む霊夢。

地下に炎は通っていなかったが、ひんやりとした空気が彼女を不安にさせる。


そして奥の扉の取っ手を掴み、鈍い音を開けた時―――。


・・・そこに映ったのは、悲しき運命。


「ち、チルノ・・・」


元に戻ったはずのチルノがそこに佇んでいた。

周りには彼女が捕まえたであろう実験台の数々。

霊夢と魔理沙以外の殆どが―――牢に閉じ込められていた。


巨大な空間。

牢が幾多も設置されたここに於いて、中心にいたのは蒼髪の天使。

GENESISの希望を受け、全てに仇を為そうとする創世の天使であった。


「・・・この世界は美しい。

・・・あらゆる生き物や事象を受け入れ、そして変化すら受け入れる。

何もかも、世界は夢と1つになれたその時に・・・変わっていく。

過去の夢が現在の常識と為ることすらあるのだから・・・」


スイカを象った剣を右手で構え、目の前にいる霊夢に向かって言い放った。


「ど、どうしたのよ!ここの牢屋に入っている皆は!?」


牢の中に1人1人閉じ込められた、哀しき光景。

全員霊夢を見ては何かを言ってるが、何も聞こえない。


「・・・私の実験台。・・・コイツらが私同様にGENESISに変化するかどうか、のね」

「まさか・・・全員にGENESIS細胞を!?」

「そう。私はGENESISの英雄・・・GENESISの夢なの」


チルノは両手を広げて大笑いした。


「クックック・・・フハハハハハハ!!!!」


「な、何が可笑しいのよ!?」


「霊夢・・・これを見てごらん」


チルノは左手にGENESISの力を込めると、それによって引き摺られた魔理沙が霊夢の前に姿を現した。


「な、何がどうなってるんだぜ!?」


チルノのサイコキネシスみたいな力によって浮かせられ、自由に動けない魔理沙。

それを見て嘲笑う創世の天使。


「このまま白黒は牢の中に入れておこう・・・。・・・邪魔だからな」


そして彼女は魔理沙が抵抗できないまま牢に入れ、彼女の前に格子を降ろした。


「い、一体全員をGENESISにしてどうするつもりなのよ!?」

「夢になるんだよ、世界の・・・!」


チルノは薄笑いを浮かべながら言い放った。

口元に浮かぶ彼女の本性―――もう妖精の身を捨てた彼女のオッドアイは静かに煌めいていた。


「私はGENESISの臨む世界と一体化する。

コイツらは簡単に言えば世界に捧げる供物の一部。GENESISに対して奴隷ともなるべき人材さ」


「言ってることが訳分からないわよ!」


霊夢はチルノの発言の意味が分からなかった。


「供物、ってどういう意味よ!?何で生贄にするのよ!?」

「それがコイツらが取ってきた行動の報復・・・ふさわしい運命だからだ」


チルノは当たり前のように言い放った。


「愚かな思考だな、霊夢。コイツらにあるのは腐った闇じゃないか。

科学でコイツらの心は変わっていった・・・。

私も所詮は科学実験で失敗した、GENESISの慣れの果て。

・・・だけど私はGENESISそのものに認められ、やがて全てを受け入れた・・・。

・・・そう、世界は変わる。

・・・1000年後の世界は、私たちGENESISの名の下、生まれ変わる!」


すると突然、彼女の身体が白く光り始めたのだ!

光陰のエネルギーを纏った彼女の身体は光に埋め尽くされていき、それは牢の中の視界にも鮮明に映っていた。

最早彼女は「弱い」と言う存在ではなくなった。

GENESISを受け入れて、彼女はこの世界に存在してはいけない存在に成り上がったのだ。


暗い空間で、彼女は全てを遍き、照らす神と為った。

光を放ち、神々しさも身に染みて感じ取れる白翼。

スイカを象った剣を右手で構え、10本の巨大な白翼を靡かせる。


彼女のオッドアイに映るのは宿敵、霊夢。


「・・・全ての・・・淵源は・・・何処か・・・?

・・・教えてあげる・・・。・・・この"私"だよ・・・!」


霊夢はお祓い棒を構えた。

悲しき神―――望まぬ改造をされ、神となってしまった妖精の末路。

世界はどうしてこんな残酷な運命を好むのか―――。


「・・・チルノ、あんたは運命に惑わされた哀れな奴よ・・・。

・・・GENESISという概念から離れられなくなった悲しみはよく分かるわ・・・。

・・・ただ、私にも仕事はあるのよ。

・・・悪いわね、私は『異変』(チルノ)を止めなくちゃいけないのよ!」


神に向かって歯向かう、愚かな巫女。


そう彼女の目には捉えられたのであろう。


「・・・反逆するか。巫女の癖に神に反逆を示すか・・・」

「私が巫女だからと言って姿を見せる神を信仰したことは1度も無いわ。

何故なら、姿を見せる神こそ力を民に見せつけて信仰を集める、愚かな神だからだわ!」


「・・・そうか。全てを拒む、か・・・」


チルノは右手に構えたスイカを象った剣の先を霊夢の額に当てる。

翼によって空中に浮いていたチルノは霊夢を見下すような形であった。


「でも世界は変わってしまう。信仰をしても、しなくても。

結局は普通の民に変える力などもっていないのだから。

所詮は只の平民、神と為った私の以下の以下の存在じゃないか。

・・・何を隠そう、私は神、霊夢は人間。

・・・最初から私たちの物語は始まっていたが、結末は誰にでも分かるじゃないか。

推理小説を真逆から読むのと同じように、この物語の最後の勝ち組は既に決まっている」


「・・・それは誰のことかしら?」


わざとらしく聞く霊夢。

その問いに勢いよく神は答えた。


「この私、クリューソプラソス・プラエテリトゥムだ―――――――――――――――――――ッ!!!!!」


               δ


神は自身に込められたGENESISの力を解放した。

両手を広げ、込められたエネルギーを一気に霊夢に向けて撃ち放った。


「消えるがいい!」


放たれたのは幾多もの羽根。

光を放ち、神々しさの下襲い掛かるフェザーは霊夢に牙を剥いた。


「めんどくさいわね・・・夢符、二重結界ッ!」


霊夢は襲い掛かる羽根に向かって結界を張った。

結界は飛ばされてくる沢山のフェザーを跳ね除けていく。


「チッ・・・!」


結界によって自身が放った羽根が防がれたことに憤りを覚えたプラエテリトゥムは剣を両手で構えた。

そして霊夢の張る結界を一刀両断したのだ。


結界は一瞬にして崩れ去り、霊夢は剣の一撃を被ってしまう。


「きゃああああああああああ!!!」


彼女は神の攻撃を受けてレミリアの牢屋の格子に吹き飛ばされ、そこで倒れかかった。

右肩から右足の太腿にかけてまで大きな斬り傷を負った彼女は流血しながらも神に歯向かった。


「流石は神、いい力を手に入れたじゃない・・・!」

「霊夢、お前を倒せば全てが終わるんだ。―――邪魔しないでくれ!」


彼女は元から持っていた能力をも増幅させていた。

自身のエネルギーによって彼女の下に氷結の槍を地面から作りだした。

足元から襲い掛かる氷の槍に霊夢は気づき、すぐに身をかわしながら神の下へ近づいた。


彼女が辿った道に血が零れる。


霊夢は氷結の槍に追われながらも、目の前に佇む神に向かってカードを構えた。


「これで終わらせる!霊符、夢想封印!」


放たれた色彩は虹を描くように神の元へ飛んでいく。

プラエテリトゥムはそんな攻撃を嘲笑うが如く、剣を左手に持ち変えて右手を天に掲げた。


「笑わせるのが得意なようだね・・・」


彼女の右手の掌の上に集まったのは光のエネルギー。

そして彼女は迫りくる光弾に笑いながら反撃した。


「目障りだ・・・」


右手の掌の上から放たれた光陰の矢は霊夢の夢想封印とぶつかり合った。

空中で相殺し、色鮮やかな爆発が空中で舞い起こった。


「連鎖的に続けるのが私のモットーでね!霊符、夢想封印!」


プラエテリトゥムの真後ろに避難していた彼女は再びカードを構え、光弾を放ったのだ。

そして光弾は不意を突かれた彼女の背中に直撃し、黒煙が巻き上がる。


霊夢は咳をしながらもその神を見据えようとした。


―――その瞬間。


「霊夢、霊夢は泥団子を投げるのが得意なようだね・・・」


煙の中から姿を現したのは、傷一つ追わぬ光の神。

何一つ辛そうな顔をせず、煙の中に身を置く霊夢に向かって笑みを―――余裕な嘲笑を醸していた。


「泥団子・・・あんたはどんな力を得たのよ!?」

「お前が想像する以上に恐ろしく、そして悍ましきエネルギーだ・・・!」


プラエテリトゥムはもう1度右手を天に翳すと、目の前にいる霊夢に向かって光の流星群が降り注ぎ始めたのだ。

夜空に流るる流れ星が光として生まれ変わった光景。

その美しさに呆気を取られると同時に何かの狂気も感じていた。


「さあ!その身を幻想・・・ファンタズムに流せ!

・・・流るる儘にその身を滅ぼせ!」


霊夢はプラエテリトゥムの言葉によって目が覚め、呆然としていた自分の身を動かした。

すぐさま彼女は疾走するが、流星群は彼女に向けて軌道を変更させる。


「軌道が動いた!?」

「あれは私が操っているのよ・・・。・・・そう、私は全てを司れる力を得た!」


光陰の流星群は彼女目がけて墜ちていくが、霊夢は着弾地点からすぐに離れ、避け続けていく。

光の爆発が背の後方で生じ、プラエテリトゥムは面倒くさそうな目で見ていた。


「素直に当たればいいものを・・・何故私の邪魔、妨害を行うか?」

「あんたが馬鹿だからよ!」

「昔の私は馬鹿だったな。同時に強がりの阿呆とも言えた。だがその私はもういない。

―――何故なら、私がGENESISを受け入れた瞬間、妖精の身分と共に捨てたからだ!」


流星群を避け切った霊夢は彼女の真正面に立ち、お祓い棒を構えていた。

そして目の前にいる神に向かって言い放った。何も怖さすらその言葉には込められていなかった。


「捨てた・・・?それはあんたが自分の心に捨てただけじゃない・・・。

・・・私は向こうの世界で学んだけど、パソコンのゴミ箱に要らないファイルを捨ててもいつでも復元出来るように、あんたもいつでも思い出せば元の姿と身分を取り戻せるのよ」


「黙れ!黙れ黙れ黙れ――――ッ!!!」


霊夢の発言を頑なに拒んだ、白銀の神。


「私はいなくなった!あんな弱い・・・そして馬鹿な身は既に消え去った!」

「何を現実逃避しようとしてるのよ・・・。・・・幾ら神と言えど世界は変えられても過去は変えられないのよ」


「・・・過去は変わらない・・・クックック・・・フハハハハハハ!!!

・・・面白いね!霊夢!神の怒りを買ったことをその心の中の後悔.exeファイルに刻みこんでやる!」

「圧縮されたファイルなら解凍しなきゃいけないわね・・・!あんたは真逆しか出来なそうだけど!」


霊夢は再びカードを掲げ、宣言した。


「霊符、夢想封印!」


放たれた光弾は余裕そうな表情を浮かべるプラエテリトゥムに炸裂させようとする。

が、彼女は右手で指パッチンをした。

そして何も抵抗をしないまま彼女に夢想封印は炸裂したのだ。


「・・・何もしなかった!?」


霊夢はプラエテリトゥムが取った行動に疑問を浮かばせていた。

だがその疑問は煙が晴れた瞬間に後悔と憤怒になった。


プラエテリトゥムの前で倒れる魔理沙とアリスとパチュリー。

3人は夢想封印を受けて負傷しながら倒れていた。


「・・・な、何で3人が!?大丈夫!?魔理沙!アリス!パチュリー!」

「哀れだな・・・今お前が放った攻撃が3人に怪我を負わせたのに・・・。

・・・お前も現実逃避をしているじゃないか。笑わせてくれる」


プラエテリトゥムは3人を心配する霊夢を馬鹿にしていた。


「・・・チルノ、あんた、私の攻撃の身代わりとして・・・」

「そう。でも霊夢はサイコキネシスでは操れないの。お前は霊力が強すぎるからな」

「・・・いい加減にしなさい!」


霊夢の目が真剣な目に変わる。

いつもは怠けている彼女の本気―――今まで見せたことが滅多に無い眼。


「あんたは・・・あんたは・・・!」


言葉に表せない悲しみと憤り。彼女の言葉を詰まらせる2つの感情。

3人を身代わりにして攻撃を防いだ彼女も赦せなかったが、攻撃して3人に傷をつけてしまった自らも赦せなかった。


「・・・あんたは、自分に勝てない愚か者よ!」


霊夢は今までの発したことのないような大声で叫んだ。


「・・・愚か者?」


「そうよ!自分と言う存在を完全に否定して、全て自らを完璧に仕立て上げようとしてるじゃない!

それこそが―――この世界で於ける、本来の意味での「馬鹿」に相応しいわ!」


「・・・私を嘲笑うのか?この『神』を?」


「嘲笑ってやるわ!あんたは大馬鹿者よ!今のあんたの方が・・・前のあんたよりも馬鹿よ!

・・・何故なら、以前は自分を肯定し、自らの特徴を・・・個性を売りにして多くの友人を得ていたから!

・・・でも今は違う、あんたは自分を完全に否定し、自らの個性を隠し、完璧な神になった!

・・・完璧な事は凄い。だから人は神を崇める。・・・それは紛れも無い真実よ。

・・・だけどね、あんたの人生に於いては『落魄れた』、そのものよ!」


霊夢は言い放つと、プラエテリトゥムはその迫力に少し押されていた。

が、彼女はそんな霊夢に対して意見を完全否定した。


「・・・そうか、神を冒涜するんだな。・・・ならば、藻屑となって消えよ!」


すると彼女はGENESISの力を使用し、目の前の霊夢に向かって破壊光線を放ったのだ。

その勢い、規模は今まで戦ってきたGENESISが放ってきた破壊光線とは比べものにならない程の大きさであった。


だが、彼女も最後の最後の力を使用する。


「夢想天生!」


彼女は覚醒し、今までに見せたことのない2つ目の姿を露見させた。

そして襲い掛かる破壊光線に向かって、彼女は覚醒によって威力が上がった夢想封印を放つ。


「おしまいだ!霊夢!神に反逆せし冒涜者よ!」

「あんたを正しい道に戻す!それが私の役目よ!」


色彩豊かな光弾はとてつもない勢いで破壊光線と衝突し、空中で爆炎が発生した。

が、生き残った残りの光弾がプラエテリトゥムに向かって牙を剥いた―――。


「嘘、だ・・・!?」


その瞬間、神の元で大爆発が発生し、彼女は翼を捥がれ、そのまま地面に堕ちる。

霊夢はお祓い棒を構えて、元の姿に戻って倒れているチルノに向かって言い放った。


「あんたは馬鹿ね。それと同時に悲しいわ。

・・・科学が生み出してしまった、哀しき藝術品だから、ね・・・」


                δ


チルノによって攫われた全員を牢から助け出し、彼女たちは元凶チルノを責め立てようとした。

町は滅茶苦茶になり、妖怪たちや妖精たちは燃え盛る幻想郷に困惑し、泣き、そして絶望した―――。


が、霊夢がそれを止めさせ、チルノを背負って彼女を燃えていない神社まで運んだ。

そして誰もいない、静かな畳の上で激闘した敵を寝かせた。


「・・・後は・・・この幻想郷を元に戻すことね。

・・・科学は時に世界や人格、そして人生や未来を壊す、とんでもないものだったこと―――。

・・・それに気づいたような気がするわ。やっぱり外界は危険ね」


科学を捨てた世界―――。


結界を張り、外界と完全に分離された世界に於いて、彼女はそう思った。


美しき満月が、夜空の中で輝いている。


翡翠のような美しさに彼女はただ見上げていた。


滅茶苦茶になった世界も落ち着き、発展した魔法の治療で大体の人間は助かったとか。


科学は何かしらの証明が必要だが、魔法なら証明など無い。


そこも幻想郷が誇れる素晴らしい場所だとつくづく感じた。


霊夢はチルノを責めたりはしなかった。寧ろ彼女の心はチルノに同情していた。


科学が人を変えること・・・それをPYT研究所の1階で味わったから。

科学は人を変える。

便利になる世界の中、いずれ人が動かなくても何でも出来る世界が訪れてしまうかもしれない。

それを霊夢は感じ取ったのかも・・・しれない(作者にも分からない)


これで「東方近未来」のお話は終わりです。ここまで読んでくださり、誠にありがとうございました。

なお作者はこういう完結するRPG風小説を書くのが好きです(配役やラスボス設定が一番好きだったりする)

またこういう小説を書くかもしれないので、見て頂ければ幸いです(多分書きます)

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