17章 夢を喰らい尽す廃墟
ビルと一体化・・・
彼女は2人を吊り上げながら、崩れゆくビルを見つめていた。
連鎖爆発によって投げ出される社員たちの叫び声が響き渡る。
ビルに意思が持ったかのようにビルから無数のコードが生える。
うねうねしたそれらは気持ち悪さを連想させるが、GENESISを見慣れている彼女にとっては驚きも無かった。
「・・・自らをビルと一体化、ね・・・」
彼女はそのまま研究所前の公園に着陸し、2人を降ろす。
「た、助かったわ」
「うにゅ・・・」
彼女によって助けられた2人は安堵していたが、霊夢は目の前の「敵」を見据える。
自分よりも何倍も高さを誇るビルからはコードが沢山生え、足元にもコードの根を生やしていた。
大木はそんな霊夢を見据えていた。
「霊夢!これが・・・これが私の力だ!」
そんな大声が響き渡った。
その時、霊夢たちの後ろに大量の足音と同時に何かがやってきたのだ。
振り返ると、そこにはかつての幻想郷のメンバーたちが、フランたちを中心にやってきていたのだ。
「・・・全員ここに集まったのかしら」
「そう!フランたちが集めたの!それに、他の世界から集められた奴隷さんたちもここに来てる!
・・・もう奴隷の時代は終わりにさせるの!私たちが!」
「そうだーっ!」
大きな掛け声が上がる。
「・・・まあいいわ、後はアイツを倒すだけなんだもの。・・・それであんたたちの力は戻ってくるわ。
・・・今の私は飛べるようになったのよ」
「思ったんだけど、なんでパチュリーと一緒にいるのよ?コイツは敵じゃないの?」
「今は仲間よ。どうやら敵はこのビルだけのようよ」
そんな彼女の言葉を聞いて少し狼狽える仲間たち。
そう、今の敵はこのビルそのものなのだ。
「霊夢・・・仲間を沢山集めていい気になっている所だが・・・そんなお前をこの私がぶっ殺す!
・・・この私、GENESIS:NITORIがなッ!」
「出来るものなら・・・やってみなさい!にとりッ!」
霊夢はすぐにお祓い棒を構えて飛び立つ。
そして近くのビルの屋上に降り立ち、一騎打ちを図る。
GENESISとなったPYT研究所はもうビルとしての役目を失っており、それは1つの巨大生物に過ぎなかった。
「ぐぎゃあああああああああああああああああああああああ!!!」
δ
とてつもない咆哮を吐いたGENESIS:NITORIはビルの屋上にいる霊夢に向かってコードの触手を鞭のように振るわす。
霊夢はすぐに飛び立ったが、今までいたビルはにとりの攻撃を受けて崩壊していく。
「あんた・・・関係のない人までもを巻き込むのね」
「それはお前にも言えることだろうがッ!」
にとりはその巨大な図体を活かして一気に霊夢に向かってのしかかったのだ!
彼女に向かって倒れる巨大ビル。
「わ・・・わー!」
霊夢は迫りくるビルに焦りながらも逃げる。
その瞬間、とてつもない揺れが発生し、とてつもない量の煙が舞い起こる。
霊夢はにとりがどんな状況かを確かめるために周りを見渡すと、にとりは多くの民衆を下敷きにしていたのだ。
立ち並ぶビル群は最早彼女によって滅茶苦茶になっていく。
「うごああああああああああああああああああああああああ!!!」
そう叫ぶや否や、倒れたビルからコードで出来上がった巨大な足が4つ生え、四つん這いの形で霊夢と戦おうとしたのだ。
「何という・・・」
その哀れな姿に彼女は絶句していた。
フランたちはそんなにとりに恐怖を抱き、霊夢に希望を抱いていた。
「霊夢――――――――――――――――ッ!」
彼女の名を叫ぶ咆哮と共に、浮遊していた彼女に向かって前右脚で襲い掛かってきたのだ。
「危ないッ!」
彼女はすぐに身を反らし、襲い掛かってきた巨大な足を避ける。
「あんな図体・・・一体どうやって倒せば・・・」
しかし考えている暇は無かった。
「死ね―――――――――――――――――ッ!」
さらにもう1撃が彼女に向かって飛んできたのだ!
「なっ・・・きゃああああああ!!!」
霊夢はその1撃をお見舞いされ、近くのビルに衝突する。
ガラスを突き抜け、彼女はそのフロアにいた人々に不思議そうな視線を浴びる。
「チッ・・・何なのよ・・・!」
頬に傷を負った彼女に対し、にとりは猛攻を続けた。
彼女がいたビルに向かって、そのまま突進したのだ!
そのビルは崩壊し、周りのコンクリートが剥がれていく。
「ちょ・・・!」
彼女はすぐに飛び立ったが、そのビルにいた大勢の人々は悲鳴を上げて落ちていった。
「ここで失せろ――――――――――――――ッ!」
巨大なGENESISは空中にいる霊夢に向かって引掻こうとするが、身を反らして何とか避ける。
「こちらも攻撃しないとまずいわね・・・!霊符、夢想封印っ!」
彼女はカードを掲げると、周りから放たれた光弾がビル目がけて飛んで行く。
光弾は巨大なビルに炸裂するが、一部のコンクリートが削れただけで彼女は全く狼狽えもしなかった。
「・・・やっぱり・・・」
想定内であった。
自分の攻撃がただの悪戯レベルになり下がっていたことは承知であったが、現実を見せられると困惑してしまう。
「どうすれば・・・どうすれば・・・」
その時、真下から声が上がった。
「霊夢!これを使いなさい!」
それはパチュリーの声であった。
すぐに真下へ降りるが、そこで邪魔するのがにとりであった。
「そうはさせん!」
パチュリーたちの前に姿を現したビルそのものは手伝おうとする彼女たちに向かって襲い掛かったのだ。
前左足で無抵抗な彼女たちを踏みつけようとする。
・・・が。
「同じPYT研究所で働いていた社員を舐めないでほしいわ!にとり!」
パチュリーは1発の赤い何かをにとりに向かって投げたのだ。
それは・・・ダイナマイトであった。
ダイナマイトは襲い掛かったにとりの元で炸裂し、彼女は狼狽えを見せる。
ビルの前身部が崩れ落ちていたのだ。
「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ・・・」
その隙に彼女はパチュリーの元へ降り立った。
「これを使うのよ!」
「これは・・・爆弾?」
「そうよ!今のあのにとりに勝てる方法は、あのビルを根本的に破壊する、それだけよ!」
「わ、分かったわ!」
幾つかのダイナマイトを貰った彼女はすぐに狼狽えたにとりの上に向かって飛び立つ。
「一斉に食らい・・・!?」
霊夢はパチュリーから貰い受けたダイナマイトを一気に投げようとしたが、にとりは2足で立っていたのだ。
そして前右脚を天に掲げ、堂々と言い放った。
「夢を拒絶し、世界を壊せ!フラッシュオーバー・エクスプロージョン!」
究極の1撃が今、解き放たれたのだ。
彼女の周りを包む謎のオーラが醸し始めたその時、着火した瞬間にとてつもなお大爆発が発生したのだ!
核爆発とも見て取れる爆発に彼女は飲みこまれてしまう。
「な・・・何よ!」
ダイナマイトを放り投げた彼女は爆発から逃げる。
ダイナマイトは爆発の影響で吹き荒れる風に飲みこまれ、周りに散乱し関係のないビルを粉々にする。
それはフランたちも例外では無かった。
にとりが行った、史上最悪の大爆発は彼女たちを飲みこんだのだ。
「ゴホッ・・・ゴホッ・・・」
彼女たちは咳が止まらなかった。
黒煙が舞い上がり、視界は完全に塞がれている。
「にとり・・・最終手段を使ったわね・・・!」
「一体何なのよ・・・「フラッシュオーバー・エクスプロージョン」って・・・!」
レミリアはパチュリーに問うと、彼女は鮮明に答えた。
「簡単に言えば「PYT研究所の自爆」、よ。何かしらの被害・・・とてつもない被害が発生した時に自主的に爆発を起こす・・・と言っても1度もやったことは無いけど・・・。
・・・まさかにとり自身がやったとは・・・私も驚きよ」
霊夢は爆発から何とか難を逃れ、赤熱の中から覗かせるGENESISを空中から見据えた。
その時、まだ手元にダイナマイトが残っていたのだ。
逃げることに夢中になっていた彼女であったが、必死に掴んでいた2つのダイナマイトが残っていた。
「爆発で少しは脆くなったはず・・・!・・・畳みかけるわ!」
彼女は爆発の中心部に自ら赴き、そこにいた巨大なGENESISに向かってダイナマイトを投げる。
「これで終わりよ!にとり!」
ダイナマイトは爆発の影響で怯んでいたにとりに炸裂する。
「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ・・・」
狼狽えの声を上げる彼女。
「これでとどめよッ!」
ボロボロの廃墟となっていた彼女に向かって最後のダイナマイトを投げた霊夢。
赤い爆弾は空中で弧を描きながら、そのまま狼狽えるGENESISに炸裂する。
「うごああああああああああああああああああああああああ!!!」
δ
とてつもない大声と同時にビルは完全に崩壊し、大爆発を起こした。
煙が一斉に巻き上がり、彼女は両手で顔を押さえて守っていた。
風が吹き荒れ、視界は遮られていた。
煙が晴れ、爆発で出来上がった中心には倒れている、元の姿のにとりがいた。
彼女はボロボロであり、何よりも失望していた。
彼女はすぐにそんなにとりの元へ降り立つ。
「・・・あんたの負けよ」
「・・・私の負けだ」
にとりは失意のまま、彼女の前でゆっくり立ちあがった。
そして両手を広げ、大声で言い放った。
「私を好きにしろ!煮るなり焼くなり、な!」
負けを込めた悔しみは彼女をより一層悲しませた。
「あんたを好きにするつもりは無いわ。・・・ただ、みんなで幻想郷に帰ればいいわ。
・・・幻想郷に帰れる装置を用意しなさい」
「・・・そんなことだけでいいのか、霊夢・・・」
にとりは霊夢に問いなおした。
「私はお前に酷い目を遭わせた!お前は私に何をしてもいい!なのにお前はそれを選ぶのか・・・!」
「何をしてもいいんでしょ、私は神社でお茶とか飲みたいの。だから帰らせてよ」
にとりはそんな霊夢に対して承諾した。
「分かった。・・・私が直々に用意しよう。元々PYT研究所があった場所に来い」
にとりはそう言うや否や飛び立った。
「にとりは飛べるのね・・・」
彼女はそんなにとりについていった。
2人はフランたちの前に降り立ち、これから行う事を告げた。
「今から帰れるわよ。あんたたちの力も戻ったでしょう?」
しかしフランたちの表情は固いままであった。
「・・・どうしたのよ?」
「・・・力が、戻ってこない・・・」
フランたちにまだ力が戻っていていなかったのだ。
「どういうことよ!にとり!」
「いや、それだけは分からない、私も・・・」
「担当はあんたでしょーが!」
彼女はにとりの胸倉を掴んで必死に問いかけるが、にとりも「知らない」の一点張りであった。
「・・・まだ、何かあるわ・・・」
瓦礫の山となったPYT研究所の跡地の前で、彼女たちは寒気がした。
そして、大妖精が口を開いた。
「まだ・・・まだチルノちゃんが来てないよ・・・」
その時、にとりに衝撃が走った。
「・・・まさか、アイツ・・・!」
急に晴天であった天気はPYT研究所の跡地の真上で黒色の渦が出来上がり、世界は真っ黒に染まったのだ。
赤い雷が鳴り響き、にとりとの戦いで滅茶苦茶になった町の民衆は豹変した天気を見上げた。
何処かの公園でブランコを漕いでいた少女も、不安そうに空を見上げた。
マンションで布団を干そうとしていた主婦も、不安そうに空を見上げた。
霊夢たちを追わんとする民衆や警察官たちも、不安そうに空を見上げた。
真っ黒な瘴気が空を覆い隠し、電気を通らなくさせ、轟音と共に鳴り響く赤雷が唯一の光源であった。
町は一気に真っ暗になり、人々は黒と1つになった。
―――混乱の世の中、英雄が舞い降りたのだ。
「久しぶりだね、みんな・・・!」
 
次章、最終章です。
 




