16章 望むべきもの
エレベーターに乗り、2人はそのまま高層ビルの最上階に到着する。
ドアが開き、街を見渡す綺麗な展望が2人の目に映る。
「うわ~、綺麗な街並みですね~」
お空はそんな展望に感動していたが、彼女は気が気ではなかった。
「お空、そんなことよりも・・・奴の元に行くわよ」
最上階のフロアは閑散としていた。
その奥に看板が掲げられていた。
「PYT研究室」
彼女はそこへ赴いた。
周りとは違ってコンクリート剥きだしで出来たその部屋の扉を開ける。
重く、鈍い音が響き渡る。
中は薄暗く、緑色の光が渡っていた。
「チッ、来たか」
睨むような目で振り返ったのは、白衣を纏ったにとりであった。
「あんたがここで研究する学者ね?・・・ここに置いてあるGENESISの場所を教えなさい!
魔理沙が「にとりなら知ってる」と言ったわ!言い逃れなんかさせないわよ!」
「元々言い逃れなんてさせないつもりだろう・・・笑わせんな」
にとりはそんな彼女を嘲笑う。
「でも・・・来るのが遅かったな。・・・私はGENESIS細胞を開発し、今や、完全にその力を得た。
・・・お前ら如きに敵わない相手では無くなったのだよ」
「じぇ、GENESIS細胞・・・あんたが研究していた・・・」
農村で研究者から聞いた言葉・・・「GENESIS:PROJECT」。
にとりはGENESIS細胞を扱うマッドサイエンティストであった。
「この私にGENESIS細胞を移植し、その力を・・・驚異的な力を得たんだよ・・・霊夢、お空。
1000年後の人間は形容こそは気持ち悪いけどな、中にはとてつもないパワーを込めていたんだ。
・・・昔はいろんな研究者に移植したけど、最近は奴隷にも移植出来るようになって・・・経過が分かりやすくなった。
・・・パチュリーも、神子も、そして私も、このことは知っている。
・・・でも「本当のGENESIS細胞」が完成したことを知ってるのはこの私だけなんだよ」
「自ずから力を得ようとするのね・・・にとり」
「当たり前じゃないか。天からの贈り物を使わないでして何をしろって言うんだい?
・・・社長も哀れだよな、本当のGENESIS細胞の効力を知らないで・・・。
・・・私の本当の目的、知ってるかい?」
にとりは薄気味悪い笑みで2人に問いかけた。
「・・・知る訳ないじゃない・・・」
「じゃあ教えてあげよう。・・・私がここを乗っ取り、国家も全て、私の物にするのさ!
パチュリーも神子も魔理沙も、所詮は捨て駒・・・私の計略にかかった馬鹿さ。蟻地獄にはまった蟻同然だよ。
・・・魔理沙を中心に始めた奴隷貿易で、私がただで協力してくれると勘違いした阿呆だよ・・・。
・・・私がただで協力する訳ないじゃないか!いずれ、私の世界に陥れる為だよ!アハハハハハハハ!」
にとりは一人で大笑いする。―――まるでこの世の全てを手に入れたかのように。
「でもパチュリーも神子も魔理沙も病院送りだ・・・お前らがやったんだろう?」
「そうね、大正解よ」
「・・・別に消えたところで何にもならない。邪魔が消えて寧ろせいせいする」
「あんた・・・少しおかしいんじゃないの?」
霊夢はそんな彼女に問いかける。
「いくら悪いと言えど、それでも一応仲間と言える存在だったんでしょう?あんたにとっては。
・・・簡単に斬り捨てられる存在だったの?」
「そう、あんな奴ら・・・簡単に斬り捨てられる存在だったのさ。私にとっては」
「幾らなんでも・・・そんな言い方は酷いと思います・・・」
お空は自身が思ったことを正直に述べた。
「酷い?・・・お前らの仲間ではない、敵に同情するのか?・・・お前らの心情は分からん」
「私たちの心情は普通よ。おかしいと思ったことはおかしいと言う。実際に今の貴方はおかしいじゃない」
そう霊夢が言うと・・・にとりは左手で顔を押さえ、中指と人差し指の間から右目を覗かせる。
「そうか・・・ならお前らは・・・私に歯向かうということだな・・・!
・・・なら・・・この私が直々に相手してあげよう!」
GENESIS細胞によって覚醒したにとりは右目を真っ赤に染め、2人を睨みつける。
「楽しい楽しいお遊戯会の始まりね・・・!」
「全力で・・・止めて見せます!」
2人も戦う姿勢を取る。
「お前らの命そのものを奪い取ってやる!覚悟しろ!霊夢!空!」
δ
にとりはGENESIS細胞のパワーによって大量の剣を作りだす。
「夢みたいな力も自由自在なんだ!今の私にとっては!」
空中に浮く、大量の剣はにとりの合図と共に一斉に2人の方向に飛んで行く。
「よっと!」
2人はすぐに身体を回避させ、剣は壁に刺さる。
「まだまだ終わらない!」
にとりはGENESIS細胞のパワーによって自身の前の地面に大きな魔法陣を描く。
そしてその魔法陣から大量の電気が溢れだしたのだ!
雷と見紛うが如く、電光石火のように舞う電流は荒れ狂いながら2人に向かって走っていく。
「今度は電流!?」
「これも避け続けましょう!」
2人はそれぞれ電流を回避し続けた。
電流は壁を舞い、刺さった剣にも纏っていた。
「危なっかしいわね!とっとと終わらせるわよ!霊符、夢想封印っ!」
霊夢はカードを掲げると、周りから虹色の光弾が放たれる。
それらの光弾は一気ににとりの方へ飛んで行くが、にとりは避けるどころが突っ立って待機していた。
「こんなもの・・・この手で止められる!」
目の前に迫る光弾に、にとりは右手を差し伸べると右手で光弾を受け止めたのだ。
「なっ・・・!?」
霊夢はそんなにとりを見て狼狽えてしまう。
「今の私に敵うとでも思ったか!霊夢!」
「好き勝手にはさせません!」
お空はそんなにとりに向かってバズーカを撃ち放った。
「今度はバズーカか・・・私に勝てるとでも思ったのか!」
にとりは目の前に巨大なオーラで出来上がったシールドを展開し、バズーカから身を守る。
シールドに着弾したバズーカはそのままシールドを破壊して爆発する。
「この力!見てみろよ・・・もう私は超次元の力を手にしたんだ!」
「そう浮かれてると痛い目に遭うわよ・・・!」
「ならお前らが直々この私に遭わせてみろ!」
にとりは右目を真っ赤に輝かせると、薄笑いを浮かべる。
「・・・erasure.exeをわざとこの体に読み込ませることで、私は傷を負わない身体を得た!
・・・最初からお前らに勝ち目など無かったんだよ!」
「・・・人はそうやって相手の心理に負担をかけて勝とうとするけど、私たちはそんなんじゃ諦めないわよ!」
霊夢は再びカードを掲げる。
「霊符、夢想封印っ!」
彼女が放った光弾は最早無敵となったにとりに炸裂する。
が、彼女は一歩も動かないまま、それらを受け止めたのだ。
黒煙が晴れ、2人の前に姿を露見させた彼女だったが、一切の傷が無い。
「・・・どれだけやったって無駄。私の発明したerasure.exeは便利なのだから」
「チッ・・・」
霊夢は舌打ちをした。
彼女の言ってることが本当のように思えてきたのだ。
その証拠に、目の前に元気そうに立つにとりがあった。
「じゃあ今度は私から行くかな!」
にとりはGENESIS細胞のパワーによって2人の周りに大量の爆弾を設置したのだ。
2人は爆弾に囲まれ、動けない状況だ。
「何なのよ・・・これは・・・!」
「爆弾だよ、霊夢。・・・パチュリーも神子も倒していい気のようだけど、今度はそうはいかないんだ。
・・・まぁ、使い捨てのパチュリーや神子なんかと比べてもらっちゃ困るけどな!」
爆弾は刻一刻と時間を経過させる。
無理に手を加えたら爆発し、それこそ一間の終わりである。
「誰か・・・」
お空は小さな声で呟いた。
「誰も助けに来てなんかくれない!それはお前らも分かってるだろう!」
「いいえ!ここにいるわ!」
そんな逞しい声と同時に2人の周りに設置された爆弾は泡のように消えていったのだ。
「な、何事だッ!?」
にとりは焦って周りを見渡した。
後ろには・・・あの・・・
―――パチュリーがいたのだ。
「ぱ、パチュリー・・・あんた・・・」
「話はよーく聞かせて貰ったわ、にとり。ここを乗っ取るために私たちを捨て駒扱いしたことも、ね。
あんたの体からはerasure.exeは完全に抜いたわ!
・・・あんたはもう無敵ではないわ!」
ノートパソコンを構えて彼女はにとりに堂々と言い放った。
「パチュリー・・・!」
強い怒りを口にしたにとりは恐ろしい形相でパチュリーを睨んだが、パチュリーは霊夢たちに呼びかける。
「これでにとりの無敵状態は解除したわ!後は貴方たちの出番よ!」
「かつての敵が仲間になるなんて・・・燃える展開ね!」
「うにゅ!」
2人はにとりに向かって構える。
「パチュリー・・・お前が裏切るのは予想外だった。・・・でも、まだ私の予測範囲内だ!」
にとりは周りの機械を操り、2本の剣を機械に用意させ、両手で構える。
「・・・なら手で戦うまでだ!」
GENESIS細胞によって比較的に大きな身体能力を得た彼女は俊足で2人に斬りかかる。
が、お空はバズーカでにとりの剣を受け止めたのだ。
「なっ・・・!?」
「霊夢さん!今のうちに・・・ッ!」
「任せなさい!お空!」
とどめを刺さんとばかりに彼女はカードを掲げた。
「霊符、夢想封印っ!」
放たれた光弾はそんなにとりに向かって飛んで行く。
「逃げはさせませんよ!」
お空はそんなにとりに足払いをかけ、にとりは尻もちをついて転んでしまう。
「どうして・・・どうして・・・!」
迫りくる光弾はそのまま怯えるにとりに炸裂する。
爆発音の轟音が研究所内で響き渡る。
「ぎゃあああああああ!!!」
erasure.exeを抜かれたにとりは傷だらけになっていた。
さっきまでの余裕が無くなった彼女はボロボロの体を引き上げ、3人の前に露見させる。
「哀れね、にとり。社長までも欺くなんて」
「最初からただで協力する馬鹿が何処にいるってんだ・・・!」
にとりは霊夢に問いかけた。
「霊夢、聞きたいことがあるんだろう」
「そうよ。中央のGENESISの場所を教えなさい!」
霊夢の声に対し、彼女は―――大笑いした。
「あっははははははははははははははははははははは!!!!!」
狂ったかのような大声に3人は引いてしまう。
「・・・貴方、おかしくなったわね」
「パチュリー、あんたは知らないのかしら?」
「私は知らないわ。こういうのは全てにとり担当だったもの」
パチュリーもどうやら中央のGENESISの場所は知らないようであった。
にとりは右目を未だに真っ赤に研ぎらせ、大声で叫んだ。
「霊夢!中央のGENESISはな・・・ここだ!」
するとにとりの体が急に白く発光し、空中を浮遊したのだ。
それはパチュリーがGENESISに生まれ変わった時と同じ状況であった。
そして3人がいた研究室が急に揺れだしたのだ!
「じ、地震!?」
「な、何が起きてるのよ!」
パチュリーも分からない、この地震。
最上階の研究室にこんな大きな地震など、滅多にあるはずがない。
「答えを教えてやるよ!」
にとりは大声で3人に告げた。
「GENESISはな・・・このPYT研究所のビル「そのもの」だ!
そして私はこのビルと一体化し・・・最強の力を得る!
世界の中心になり、この国家を支配するのさ!」
すると研究室のあらゆる場所で爆発が発生し、3人のいた場所は滅茶苦茶になる。
「と、兎に角外へ出ましょう!」
「その前にお前らを殺すがな!」
にとりの両目が赤く輝くと、3人の元で大爆発が起きる。
その影響で3人はガラスを突き破り、そのまま最上階から外へ飛び出してしまう。
「た、助けて―――ッ!」
お空の声が空気中に響き渡るが、霊夢は体を浮かせていた。
・・・どうやら彼女の飛ぶ能力を司っていた機械が先程の爆発で壊れ、彼女は能力を取り戻したのだ。
霊夢の手を掴むお空。
「どうやら私は飛べるようになったみたいね・・・」
反対の手にはパチュリーが掴まっていた。
「あんたは飛べるんじゃないの?」
「私もにとりに力を管理されたみたいだわ・・・。PDMをつけなくても、社員は最初、自分の力を保険で会社に預けるのよ」
「なら飛べるのは私だけね・・・」
霊夢は2人を吊り上げ乍ら、豹変していくPYT研究所を見た。
ガラス張りの高層ビルで連鎖爆発が発生し、多くの社員たちが外に投げ出されていく。
ビルそのもの、となったにとりの最後の力である。
「・・・倒すわ、私が・・・このビルを!」
霊夢は決心した。




