15章 黒幕との死闘
これでPYT研究所の社長の正体が分かります
5人は対峙していた。
電灯が灯る、無機質な部屋の中で、お空は気づいた。
「霊夢さん、3人の背中にも・・・」
依姫、豊姫、サグメの背中にも特殊PDMが付けられていた。
そう、彼女たちも操られていたのだ。
「・・・この3人も操られてるのね・・・」
お祓い棒を構え乍ら彼女はそう呟いた。
「死刑執行前に何か言い残すことは無いかしら?」
豊姫が得意げになって聞くが、彼女は笑いながら答えた。
「言い残すこと?・・・そうね、「世界は私が変えて見せる」ってことね!」
霊夢は早速カードを掲げる。
「霊符、夢想封印っ!」
放たれた光弾が一気に3人に向けて襲い掛かるが、3人は飛び上がって回避する。
避けられた光弾が地面で炸裂する。
「あら、最後の最後までお行儀が悪いですね?」
豊姫はガンブレードを構えて霊夢に斬りかかるが、彼女はお祓い棒で何とか受ける。
「甘い!」
依姫はそんな彼女に向けて剣を振り下ろすが、彼女はお祓い棒で同時に受け止める。
今、お祓い棒1本で剣2本の攻撃を受け止めている状態だ。
「ここで死んでください!」
サグメはそんな霊夢の隙をついて拳銃の引き金を引くが、その前にお空が対処した。
「うにゅ・・・そんなことさせないよ!」
サグメの目の前でバズーカを構え、彼女は思いっきり撃ち放った。
サグメは目の前で撃たれるのを回避しようと後退するが、餌食になってしまう。
「きゃああああああ!!!」
撃たれた影響で彼女の特殊PDMは壊れ、意識を取り戻す。
「あれ・・・ここは・・・」
「よし、サグメが意識を取り戻したわ!ナイスよ、お空!」
しかし黙っていなかったのがINSANIAであった。
INSANIAはそんなお空に向けて破壊光線を放ったのだ。
不意打ちであった攻撃にお空も対処は出来ず、そのまま光線によって吹っ飛ばされる。
「うわあああああああ!!!」
お空はそのまま身を壁にめり込ませる。
「お、お空っ!」
「貴方の相手は私たちよ?」
豊姫は再び霊夢に斬りかかるが、霊夢はお祓い棒で受け止める。
しかし豊姫はガンブレード特有のトリガーを引くと、火薬の振動が発生し、彼女は狼狽えてしまう。
「何よこれっ!?」
そんな隙を作った彼女に依姫が斬り込んだ。
「一閃ッ!」
「そんな危ないことはさせません!」
一発の銃声と共に依姫は剣を構えていた右手の腕を撃たれる。
彼女の手から剣が落ちる。
「さ、サグメ・・・」
「よく分かんないですけど、危ないと思ったので、つい・・・」
「ウイイイイイイイン!!!」
怒ったのか、INSANIAはサグメを敵扱いした。
サグメに向かってガスを噴射したのだ。有毒ガスであろうか。
「うわっと!」
サグメは何とか回避し、霊夢の元にやってくる。
「サグメ、2人の背中についてる機械を拳銃で壊すのよ」
「わ、分かりました!」
膝を地面に付けて倒れている依姫はいいとして、問題はガンブレードを構える豊姫であった。
「妹を倒したのは面白いですが・・・私を倒せますか!?」
「あんたは倒さないわ、「意識を取り戻させる」わ!」
襲い掛かってきた豊姫のガンブレードをお祓い棒で受け止める霊夢。
摩擦音が響き渡る。
「い、今よ!」
「はい!」
豊姫の後ろに回り込んだサグメは彼女の特殊PDMを射貫く。
その瞬間、彼女は意識を失ったかのように倒れる。
「よし、あと1人よ」
「はい!」
サグメは倒れている依姫の特殊PDMを射貫き、これで全員の特殊PDMが壊れる。
「ウイイイイイイイン!!!」
そんな2人に不意打ちの如く破壊光線を放ったのがINSANIAであった。
「なっ・・・!?」
しかしそんな2人の前に立ちはだかったのが、壁に埋もれていたお空であった。
「あんた、傷は・・・」
「そんなこと気にしちゃいませんよ!それよりも・・・!」
お空は迫りくる破壊光線に向けてバズーカを放つ。
放たれた轟音と共に空中で相殺し、爆発音が空間内で響く。
「ええい!もう1発!」
お空は黒煙が立ち昇る中、さらにもう1発バズーカを放ったのだ。
それは聳え立つINSANIAに直撃し、INSANIAは機能停止寸前に陥っていた。
電流が外に漏れ出している。
「とどめは私が貰うわね・・・霊符、夢想封印っ!」
彼女が放った虹色の光弾はそんなINSANIAに炸裂する。
「ウイイイイイイイン!!!」
INSANIAは爆発寸前のモーター音を響かせ、そのまま大爆発した。
「・・・ん、ここは・・・?」
「何処何でしょうか・・・?」
やっと起きた豊姫と依姫は霊夢たちを見上げていた。
「今すぐここを出るわよ!2人とも!」
そう言った彼女はすぐに階段を駆け上っていった。
「ま、待ってください~」
弱音を吐くような感じで呟いた2人も、そんな彼女の背中を追いかけて行った。
δ
階段を駆け上った先、外には大量の警察官や警備員たちが集まっていたが、霊夢は気にしなかった。
「・・・いいわ、こんな無双を出来るなんて・・・!霊符、夢想封印っ!」
彼女はカードを掲げるや否や、周りの邪魔な人々を一瞬で一掃する。
「うわあああああああ!!!」
複雑な断末魔の声が上がる。
「問題はここからどう帰るか、ね・・・」
するとヘリコプターのプロペラ音が響き渡り、目の前でヘリコプターが止まったのだ。
中から見覚えのある科学者が白衣を風に揺らせて舞い降りる。
「久々ですね・・・」
「あんたは研究者!生きてたのね!」
神子が焼き討ちをする前の農村でひっそりと生きていた研究者が今目の前でヘリコプターから降りてきたのだ。
「生きてるさ。あ、このヘリコプターは俺が知り合いから借りたもんでな。今負傷者はいるか?」
「いるわ。あんたたち、このヘリコプターに乗りなさい」
霊夢は豊姫と依姫とサグメに乗るよう勧めるが、彼女たちは訳が分からずにいた。
「・・・これに乗って、何処へ行くんですか?」
「C区のスラム街だ。多分、今のお前たちを匿ってくれる場所だ」
「ナイス判断ね、それが1番よ。・・・とにかく3人はお世話になりなさい」
強く勧める彼女に頷きを見せた3人はそのままヘリコプターに乗る。
「安全運転、頼むわよ」
「そこは任せておけ」
研究者もヘリコプターに乗り込み、ヘリコプターは颯爽とヘリポートから飛び立った。
「ナイスタイミングよ」
助けに来た研究者を小さく褒めたたえると、彼女は早速白バイに乗ろうとする。
が、警備員が使っていたバイクの方が大きく、とても安定性がありそうであった。
「こっちは警備員の共用だから鍵が刺さってたりするかな・・・?」
彼女はキーの差し込み口を覘くと、マスターキーが差し込んであった。
「こっちにも刺さってます!」
お空も他のバイクが差し込んであることを確認すると、霊夢は早速バイクに跨る。
「今度は最終目的地、PYT研究所に乗り込むわよ!中央のGENESISをぶっ壊すのよ!」
「とうとう本拠地に・・・うにゅにゅ・・・」
お空も覚悟し、バイクに跨る。
「行くわよ、ここでモタモタしている理由は無いわ」
霊夢はそのままバイクのエンジン音を響かせ、走り出した。
それに続くようにお空もバイクで走りだした。
δ
2台のバイクはそのまま道路を疾走していた。
やはり民衆はそんな2人を邪魔しようとするが、お空のバズーカで一掃されていく。
「どうして蹴散らされると分かってて尚歯向かおうとする馬鹿がいるのかしら・・・?」
霊夢はそんな疑問を抱きながらバイクを走行させていた。
だが彼女たちは渋滞に巻き込まれてしまう。
どうやらPYT研究所に近くになるにつれて混雑するらしい。
彼女たちのバイクは止まっているトラックの後ろで待機していたが、このままではいつ民衆に襲われるか分からない。
「お空、突っ切るわよ」
「ど、何処をですか!?」
「車の横を抜けるのよ!」
赤信号で止められている車の脇を2台のバイクが走行していく。
そして最前列まで来るが、彼女たちは急いでいた。
「事故に遭わないでよね!」
そのまま十字路を彼女は突っ切ったのだ。
横から来る車の群れを避けながらそのまま突っ込んだ彼女の後ろをお空も続く。
が、それは非常に危ないことであった。
「あ、危なかった・・・」
「こんなことが「危ない」だなんて、あんたは今までの戦いを何だと思ってるのよ」
すると彼女たちの視界に中心に聳え立つ、ガラス張りの大きなビルが映る。
それこそが、彼女たちの目指す「PYT研究所」に他ならなかった。
「・・・見えてきたわ、「宿敵」が!」
そのビルまでは一本道であったが渋滞で混んでいる。
が、そんなことは彼女たちの眼には映っていなかった。
車の脇を通り抜け、赤信号の時でも颯爽と横切って走行する。
そうしていく内に、大きな公園に到着する。
「このまま突っ込むわよ!」
「び、ビルの中に・・・」
「あんた、国営放送局の時でもやったじゃない!」
霊夢は彼女に聞く耳を持たないまま、PYT研究所の自動ロックの硝子ドアに向かってスロットルを回した。
硝子の割れる音が辺りに響き、それに続いて悲鳴が上がる。
中にいた受付や社員たちはそんな乱暴にやってきた客人に困惑し、戸惑っていた。
「随分派手な登場の仕方だな・・・霊夢・・・お空・・・」
周りにいた社員たちが騒ぎ出すと同時に、2台のバイクの前に現れたのは社長であった。
帽子を調整し、懐のミニ八卦炉を構えて立ち塞がる。
「・・・あんた・・・」
霊夢は絶句せざるを得なかった。
何せ立ちはだかっているのは・・・紛れも無い・・・
―――魔理沙なのだから。
「・・・魔理沙・・・どういうことなのよ・・・!」
「こういうことだぜ」
魔理沙は胸につけられた「社長」と刻まれた名刺が入ったケースを見せつける。
「・・・魔理沙さんが・・・ここの社長・・・!?」
お空も驚きを隠せなかった。
「じゃあ魔理沙が・・・魔理沙が奴隷貿易を始めた第一人者なの・・・!?」
「残念だが霊夢・・・運命は時に残酷なこともあるんだぜ」
魔理沙はそんな霊夢を見据えていた。
2人はバイクから降り、目の前にある「真実」を受け止めようとしていた。
「確かに以前からあんたの家は留守だったけど・・・その間にあんたは・・・」
「そう、霊夢の思ってることが全てだぜ」
魔理沙は霊夢に残酷そうに言い放った。
「なぁ、霊夢。最初から、こういう運命だったんだぜ」
「・・・あんたね・・・!・・・どうしてこんなことをするのよ!」
今まで魔理沙に見せたことのなかった、彼女の本気の怒り。
眼からは不意の涙を覘かせている。
「今まで!一緒に遊んだり本を読んだりしたじゃない!なのに・・・どうしてこんなことを・・・!」
「だーかーらー、霊夢、落ち着けって。これが全てなんだ」
衝撃の黒幕に驚きを隠せない霊夢。
「でもな、霊夢。ここまで来てお前に同情する意思は無いぜ。私にだって意思はある」
「そうなのね・・・そうなのね魔理沙・・・」
全てを受け入れた霊夢はお祓い棒を構える。
「あんたと・・・戦う運命しか無いのねッ!?」
凛々しくも、涙を落とす彼女の眼にもう友人時代の魔理沙は映っていなかった。
「そうだぜ。もう・・・こういう運命しか無かったんだよ!霊夢っ!」
魔理沙はミニ八卦炉の先を2人に向ける。
「戦わないといけない・・・私も戦います!」
お空もバズーカを構え、戦う姿勢を整える。
「ならいいわ・・・魔理沙、ここで決着をつけましょう!」
「望むところだぜ・・・霊夢っ!」
PYT研究所の1階で・・・戦いが始まろうとしていた。
δ
魔理沙はミニ八卦炉をフル稼働させ、エネルギーを充填させていた。
「夢はいつか終わる・・・そう、あの日々は、もう帰ってこない!」
「あんたが勝手に終わらせてはこっちが堪らないわ!こっちはまだゆっくりしたいのよ!」
「霊夢・・・まだ夢を信じてるのか・・・哀れだぜ・・・」
その時、魔理沙はミニ八卦炉からエネルギーを放出した。
「哀れ無残にもその身を打ち砕け!恋符、マスタースパーク!」
ミニ八卦炉から放出した、極太のレーザー光線。
光の大蛇は暴れ狂いながら、2人に向かって襲い掛かってくる。
「危ないわっ!」
「うわっ!」
2人はすぐさま避けるが、今まで乗ってきたバイクやPYT研究所のガラスは一気に光線の餌食となってしまう。
「こうなったら・・・霊符、夢想封印っ!」
霊夢もカードを掲げると、色彩豊かな光弾が現れ、一気に魔理沙に襲い掛かる。
が、魔理沙は回転回避で避け続け、光弾は地面に炸裂していく。
社長のアクロバティックな動きに周りの社員たちも驚いていた。
「・・・流石は霊夢・・・期待を裏切らないぜ」
「私もいます!」
お空はバズーカでそんな魔理沙目がけて撃ち放つ。
「おっと!」
魔理沙は慌てて体を反らし、バズーカを回避する。
バズーカはそのまま着弾し、地面で爆発する。
「あんたとは分かり合えそうにないわね・・・霊符、夢想封印っ!」
再びカードを構えた霊夢に対し、魔理沙も反撃する。
「そうはさせないぜ!恋符、マスタースパーク!」
霊夢の光弾と魔理沙の光線が空中でぶつかり合い、相殺して大爆発を起こす。
その影響で1階で灯っていた電灯は一時的に消灯してしまった。
「・・・なかなかやるんだぜ・・・」
「あんたもやるわね・・・」
黒煙が舞う中、2人は褒め合っていた・・・それはお互いの信頼の上であろう。
「隙あり!」
お空は黒煙に紛れて魔理沙の後ろからバズーカを放ったのだ。
「うわあああああああ!!!」
魔理沙は不意を突かれ、何も抵抗出来ないまま研究所内で吹っ飛ばされる。
「でも・・・私には仲間がいるわ!覚悟しなさい!霊符、夢想封印っ!」
とどめの夢想封印―――彼女はカードを掲げると、3度目の光弾がボロボロの魔理沙に飛んで行く。
「あ・・・あああ・・・」
何も出来ない。
彼女は・・・負けたのだ。
「運命は時に残酷だったわ。・・・でも、運命は変えられるのよ」
δ
完全に負けた魔理沙は倒れていた。
魔理沙の元に向かう2人。
「魔理沙・・・あんたの負けよ」
「それは分かってるぜ・・・」
「負けたからには、言ってもらいたいことがあるのよ」
「わ、分かったぜ・・・」
彼女は気になっていたことを魔理沙に問う。
「あんたたちが保管する、ここに置いてあるGENESISって何処にあるのよ?」
「それは・・・」
負傷した魔理沙は首を横に振った。
「私にも分からないんだぜ」
「は?あんた、ここの社長でしょ!?」
霊夢は驚くが、魔理沙は何も知らないらしい。
「・・・担当に任せているんだぜ・・・」
「じゃあその担当が何処にいるか、教えなさいよ」
「最上階の研究室にいる・・・にとり・・・河城博士だぜ・・・」
霊夢の目が輝いた。
「にとりに聞けばいいのね・・・まだ敵はいるみたいだわ。
・・・魔理沙、研究室までの行き方は?」
「エレベーター・・・直行エレベーターが・・・すぐそこにあるから・・・」
魔理沙は必死に指でエレベーターを示していた。
「お空!行くわよ!」
「うにゅ!」
2人は魔理沙に言われた通り、そのままエレベーターに乗り込んだ。
「・・・にとり・・・後は・・・お前だけ・・・だぜ・・・」
社員たちに囲まれた魔理沙は、その後、病院に搬送された。




