13章 因縁の戦い
ヘリから逃げ切り、郊外へと走っていく2台のバイクは幾多ものトンネルや陸橋を駆け抜けていた。
運転者である霊夢とお空の顔に当たる風が痛そうであったが、それでも猛スピードで運転していた。
「一体私たちは何処へ向かってるのよ?」
訳が分からないレミリアは運転手であるお空に問う。
「私たちは今、安全な場所に向かってるんで安心してください」
「今まではなんか機械を振り回したりしてた人たちが一杯いて怖かったけど・・・もうそんな心配は無いのね?」
「はい!」
お空は自信満々そうに返事をした。
が、行く先の道が段々と煙くなっていくのが4人には分かった。
「・・・何か燃えてるのかしら?」
「さあ・・・?」
4人はそのまま煙の中に突入する。
フランは煙の影響で咳をする。
「な、何なのコレ・・・」
「何か様子が変ね・・・」
4人が乗るバイクを取り巻く巨大な煙は異常であった。
そして霊夢は煙の奥に燃えている家々を見た。
「・・・まさか・・・!」
煙から出た4人は信じたくない光景を見てしまった。
―――今までお世話になった農村が焼き討ちされている。
それもただの火事では無かった。道端では関係のない農村の人たちが血だらけで死んでいる。
・・・誰かの仕業、だとしか思えなかった。
「・・・ど、どうして・・・」
「・・・嘘、だよね・・・そうだよね・・・」
「・・・酷い・・・」
「こんなことをする奴が・・・いるのね・・・」
4人はバイクから降り、そんな状況に絶句していた。
するとフラフラの状態で4人を見据えては炎の燃える音に紛れて小さな声で叫ぶ人がいた。
「・・・霊夢・・・さん・・・」
「よ、妖夢!あんたは生きてたのね!」
「はい・・・!」
何とか4人の元に辿り着いた妖夢は血だらけであった。
「ま、まず大丈夫なんですか!?」
「大丈夫なら・・・こんな血だらけでは・・・ありませんから・・・」
妖夢は何とか立っていたが、お空がバイクに座るよう勧めると遠慮なくバイクに座る。
「・・・皆さんは・・・この状況に戸惑ってるかもしれませんね・・・」
妖夢はそう4人に語り掛けた。
彼女は喋ることも辛そうであるのにも関わらず、何かを伝えたがっていた。
「当たり前よ、妖夢。一体何があったのよ!」
困惑している霊夢はその場にいたと思われる妖夢に問うと、彼女は口を開いた。
「・・・神子の仕業です。奴がこの村にバイクで来て、罪もない人たちと家々を爆弾で一気に焼き討ちました」
4人に起こる沈黙。
神子の仕業であったとは。
「・・・そう、なのね・・・」
PYT研究所が指名手配犯である霊夢たちを擁護するこの農村を焼き払い、彼女たちを追い詰めているとしか考えられなかった。
PYT研究所の残虐非道な裏の部分が垣間見えた行動である。
「・・・ここまで来たならば、最後のGENESISをぶっ壊して、奴らの野望を止めるわよ。
・・・私たちを助けてくれた人々をこんな風にする奴らを放ってはおけないわ」
霊夢はそう決心した。
「じぇ、GENESISって何よ?」
何も知らないレミリアは霊夢に問いかける。
「お姉さまはまだ知らなかったんだよね・・・。・・・フランが教えてあげる!」
δ
「そういう意味ね・・・。・・・つまり、私たち奴隷の力はGENESISに保管されている、ということね」
「大正解よ。それを破壊するのが私たちの目的」
霊夢は理解したレミリアにそう述べると、妖夢はバイクから降りて4人に聞いた。
「・・・今から皆さんはどうする予定ですか・・・?」
霊夢はそんな妖夢の問いに当たり前そうに答える。
「5つ目のGENESIS、GENESIS:INSANIAの破壊に行くわ。
場所はD区のPYTヘリポートの真下、ね。・・・そこまで行くわ」
「なら・・・」
質問に答えた霊夢に彼女は再び質問する。
「・・・私も連れて行ってくれませんか?」
「・・・あんた、大丈夫なの!?」
「・・・私は平気です。乗り物も・・・ありますから」
そう告げた妖夢は独りでにフラフラしながらその「乗り物」を取りに行った。
「・・・これは私たちの戦いなのよね、フラン」
レミリアはそう妹に聞くと、彼女は頷いた。
「・・・霊夢」
彼女も決心したようだ。
「・・・私も行くわ」
「・・・あんたは他に何処にも行く場所無いでしょ」
正論を前に決心のかっこよさが少し薄れてしまった。
「・・・まあ戦うならこれを使いなさい」
霊夢はレミリアに社員から盗んだ、自己防衛用の拳銃を渡す。
「あ、ありがとう」
レミリアはそれを受け取ると自身の懐にしまった。
すると4人の前に大きな白塗りのバイクに跨った妖夢が姿を露見させる。
エンジン音を響かせ、4人の前に停泊させる。
「・・・霊夢さん、これですよ」
「・・・随分と立派ね」
「あの科学者さんが隠し持っていたコレクションらしいですけど・・・もう死んじゃってたので、借りさせて頂きます」
「・・・神子・・・あんただけは許さないわよ」
霊夢は神子に対して憎悪を持っていた。
「こうとなれば早速出発しましょう!」
お空はバイクに跨り、INSANIAを壊さんとする為に出発したがっていた。
「・・・そうね、最後に少しだけ祈らせてもらうわ」
神子に殺された人々に、今までの協力に対する感謝を込めて彼女は合掌した。
そして彼女も出発する為にバイクに跨った。
「・・・フランは私の後ろ、レミリアはお空の後ろね。・・・妖夢、血だらけだけど運転出来るかしら?」
「任せてください・・・」
「そう、なら任せるわ。・・・いつかその傷を治すことを約束するわ」
「じゃあ、出発ですね!」
お空の声と共に3台のバイクは再び煙の中へと姿を晦ませた。
δ
B区に出た彼女たちは猛スピードで駆け抜けていた。
そんな3台のバイクに気付いた多くの町の人たちがそんな5人を捕まえようとする為にPDM片手で襲い掛かるが、轢かれ撃たれで撃退されていく。
「・・・めんどくさいですね・・・!」
妖夢は右手でハンドルを操りながら左手で楼観剣を構えて邪魔な民衆を斬り刻んでいた。
「・・・でも私たちには行かなければいけない場所があるのよ・・・邪魔なんて乗り越えてやるまでよ!」
霊夢は運転しながらそう叫んだ。後部座席からはフランが邪魔を射撃して撃退していく。
商業施設に囲まれた一本道を駆け抜ける彼女たち。
すると何者かがそんな彼女たちを嘲笑うかの如く立ち塞がった。
「久々ですね・・・指名手配犯さん」
バイクで3人の行く手を遮るように現れた為、彼女たちはバイクに急ブレーキをかける。
「・・・神子・・・あんたなのね、あの村を焼き払った犯人は!」
霊夢は立ちふさがる神子に食い掛かる。
「そうです。貴方たちがよく訪れるあの農村一帯を敵と認識しましたので、やっただけのことです」
何も悪くなさそうに話す神子。だが彼女たちは怒り心頭だ。
「罪もない人たちを殺すんですか!」
「それは貴方たちにも言えることでは?邪魔、と言われる人々にも死はあるんです」
「やっぱりあんたとは分かり合えないようね・・・神子」
霊夢はお祓い棒を構える。
それを最初に他の4人の武器を構える。
「・・・早速戦うんですね・・・皆さん。悪いけど手間はかけたくないので!」
神子は上に爆弾を投げた。
真っ黒いそれは空中を舞い、そのまま5人の元に落下しようとする。
「ば、爆弾だ!」
焼き討ちを見た妖夢は直感でそれが爆弾だと分かった。
「爆弾!?」
3台のバイクは一気にスピードを上げ、爆弾から退避する。
その直後、大爆発が真後ろで発生したのだ。
「・・・逃げさせませんよ・・・!」
神子もバイクのスピードを一気に上げて、5人に追いつく。
「・・・ここで死になさい!」
本気で殺しにかかった神子はすぐ隣を走行していた妖夢のバイクに向かってタックルする。
「うわあああああああ!!!」
妖夢のバイクはバランスを崩し、バイクはフラフラしていた。
血だらけの妖夢は判断能力が鈍っており、運転もあやふやになっていた。
「よ、妖夢さん!こっちに来てください!」
妖夢の隣を走行していた霊夢のバイクの後ろに座ったフランは倒れそうな妖夢の手を掴み、妖夢は霊夢のバイクへ移動した。
そして妖夢の運転していたバイクは転倒した。
「この剣の前で失せてください!」
神子は自身の剣を構えて一気に霊夢に斬りかかるが、そこでフランが拳銃で妨害する。
「フランたちの邪魔なんかさせないよ!」
拳銃から撃たれた銃弾が剣を妨害する。
「ちっ・・・!」
神子は舌打ちすると、5人の頭上へ向けて機関銃が放たれたのだ!
霊夢とお空はすぐに気づいて機関銃の雨を避け続ける。
「今度は何よっ!?」
霊夢は運転しながら機関銃が撃たれる方向を振り向くと、そこにはヘリコプターに乗り込んで神子の援護をする神綺の姿があった。
「また会いましたね!そう、私たちは分かりあえない存在なのですから!」
「援護助かります、神綺さん」
「いえいえ、お互い様です」
ヘリコプターに備え付けられたメガホンから聞こえる神綺の声。
2台のバイクを見据えて機関銃を撃ち放つ神綺。
ヘリコプターはまた別のパイロット2人が操縦しており、神綺が単独で攻撃しているという状況だ。
「またアイツね・・・」
「めんどくさい奴です・・・!」
霊夢とお空は神綺の存在に腹を立てるも、今は神子にも気を配らなければいけなかった。
神子は神綺が放つ機関銃の雨あられで2台のバイクに接近は出来なかったが左手で拳銃を構え、右手に持ち変えて霊夢たちに銃口を向ける。
「死ねッ!」
神子は雨あられを必死に避ける霊夢たちに向けて引き金を引いた。
1発の銃声と共に銃弾がフランの方へ飛んでいった。
「夢符、二重結界ッ!」
霊夢はそんな神子の銃弾を防ぐために結界を張り、なんとかやり過ごした。
「チッ・・・」
舌打ちする神子に対し、今度はフランが拳銃を構える。
「もう手を出さないで!」
フランが引き金を引いたと同時に彼女が運転するバイクの前輪に穴が開き、そのままバイクは遅くなっていく。
「ぱ、パンクしやがった!?」
そして彼女はそのまま2台のバイクに置いて行かれてしまった。
「ナイスよ、フラン」
「でもまだ敵はいますね・・・」
そう、空にまだ敵は残っていた。
疾走する2台のバイクを目の敵にする神綺が赤い目で睨みつけていた。
「抵抗をやめなさい!」
機関銃は逃げ続けるバイクに向けて穿たれるが、彼女たちの運転技術によって避けられていく。
「レミリアさん、レミリアさんは運転できますか?」
「私?私は・・・やろうと思えば出来るわ」
「なら今交代してください!」
お空の願いに彼女は戸惑ったが、やむなく承諾した。
「わ、分かったわ」
運転がお空からレミリアに瞬間的に変わり、お空はレミリアの後ろでバズーカを構えてヘリコプターを見据えていた。
機関銃の雨はバイクの後ろで降っている。
「・・・今から唐揚げにしてあげましょう・・・!」
お空はヘリコプターに向けてバズーカを発射させる。
後方を飛んでいたヘリコプターの真正面にバズーカが飛んできては、空中で大爆発を起こす。
操縦士である2人のパイロットの断末魔の声が響くが、神綺はそのまま空中から飛び降りたのだ。
「甘い!」
神綺は高いところから飛び降りたにも関わらず、すぐに2台のバイクに向かってショットガンを放ったのだ。
2台のバイクの後輪に穴が開き、そのままパンクして動かなくなってしまう。
「パンクよ!」
「こういう時に限って・・・!」
5人はすぐに降り、パンクさせた犯人である神綺と道の真ん中で対峙する。
当の神綺は爆発の影響を受けて傷を負っていたが、まだ戦える状況であった。
民衆はそんな光景に戸惑っていた。
「・・・バイクが使い物にならなくなったじゃない」
「・・・仕方ないですね、私のヘリコプターも使い物にならなくなったんですから」
神綺はショットガンを5人に向けて構えていた。
「神子さんはパンクで一時離脱のようですが・・・私はそうはいきませんよ」
δ
「神子が退院したらしいから早速病院に出かけたら・・・もういなくなっていたとは」
にとりは神子について独り言を言っていた。
「・・・でも別にアイツなんかどうでもいいんだよなあ・・・。
・・・だって、もうすぐ私の天下になるんだからな・・・GENESIS細胞のお陰でさ!」
するとにとりがいた研究室に1人入ってくる。
「にとり、邪魔するぜ」
「あ、社長様。一体何の御用で?」
「GENESIS細胞の件だが・・・今どんな様子か確認しに来たんだぜ」
「GENESIS細胞は完璧な状態で完成しています」
「そう、ならあとは移植だけだぜ」
「はい」
「後は任せるぜ、信頼してるからな」
社長はすぐに身を消すと、にとりは騙されている社長を見て哀れそうに独り言を呟いた。
「哀れだな・・・GENESIS細胞は完成してるけど、その能力を間違えて信じ込んでる社長さんよ・・・」
河城技工士はそんな社長を憐れんだ。
ラスボスがあれなんだよね…
なんか、あれなんだよね…




