11章 マスコミ
Et nomen ejus non loqui
その名を口にするなかれ
Quӕ cadens iterum
彼女は再び舞い降りる
外に止めてあったバイクにそれぞれ跨って、彼女たちは郊外の農村部へと向かった。
霊夢がお空のバイクを先導するような形で走行していた。
商業施設の中を搔い潜って郊外へ出て、信号無視しながら多くのトンネルや陸橋を渡り、お世話になっている場所に到着する。
2台のバイクは道端に止まり、4人が降りる。
たまたまそこにいた老爺が4人の姿を見つけてやってきた。
「・・・おお・・・今テレビで見たわい。・・・結構派手にやったのう」
彼は国会議事堂での出来事の中継を観たのであろう。
すると傷ついた妖夢の姿を見ては驚き、そして養護する。
「だ、大丈夫じゃのう!?その傷・・・」
「わ、私は・・・」
「婆さんや!婆さんや!」
老爺はすぐに老婆を呼び、老婆も呼応して家から飛び出してきた。
「な、何事じゃ・・・って大丈夫なのかい!?その傷・・・今すぐ治してあげるからね!」
「ささ、こっちへ来なさい」
「何だか悪い気もしますが・・・言葉に甘えます・・・」
妖夢は2人の家で傷を治して貰うことにした。
「出来るなら病院とかに連れて行きたいけど・・・何せPYT研究所の管理下にあるから行けないのよ」
「・・・そういや次は何を目標にするんですか?」
「フラン、早くみんなを助けたい!」
フランは全員を助け出すことに焦っていた。
「そう焦ったって何の意味も為さないわよ。・・・まずは残りのGENESISを破壊するわ。
・・・パチュリーが吐き出した2つのGENESISを壊しに行くことが目標よ。
・・・そのうちの1つが国営放送局にあるみたいだから、まずはそこに行こうかしら」
するとその言葉を聞いてかつての研究者がやってきた。
「・・・今から国営放送局に行くのか?」
「そうよ。あそこにGENESIS:AMITTIMUSがあるみたいだからね」
「・・・それなら国営放送局長の神綺って奴から暗証番号を吐き出させるといい。
場所はB区だ、ちょっと待ってろ」
研究者は持っていた白紙に持参していた赤ペンで地図を描き、それを彼女に渡す。
「ここに国営放送局があるからな」
「いつも有難いわね」
「じゃあフランたちは国営放送局って場所に行くの?」
「そうよ」
霊夢は休憩もせずバイクに跨る。
「お空!あんたは自分のバイクで私たちの後を追いかけなさい!流石に3人乗りじゃキツいわ」
「うにゅ!任せてください!」
お空は自分のバイクに跨り、フランは霊夢の後ろに乗る。
「それじゃ、行ってくるわ!」
「うにゅ~!」
「フランたちが世界を助ける~!」
3人はバイクに乗って、それぞれ旅立ってしまった。
「・・・奴隷にとっては彼女たちは希望かもしれないが、一般人からしたら彼女たちはただの迷惑なんだろうなぁ」
研究者は1人、物思いにふけっていた。
δ
「えー皆様、私はPYT研究所の開発課最高責任者の河城と申します。
・・・この度は指名手配犯を捕まえられず、皆様の恐怖となってしまったことを深く謝罪します」
にとりはテレビの中で記者会見を開き、霊夢たちにおける自分たちの非を詫びていた。
頭を下げている。
「・・・私たちは皆様の安全と安心を守るために活動していきますが、1つお願いがあります。
・・・今度、街頭でPDMをお配りします。それを指名手配犯の背中に付けてください。
・・・もし指名手配犯を見つけた場合、仲間2人を取り押さえてください。仲間は既に力を吸収されています。
・・・勿論、指名手配犯を捕まえた場合、およそ1000万円を用意します。
・・・どうか皆様のお力もお借りさせてください」
にとりは神綺が用意した緊急特番でそう告げると、多くの人たちが報酬金目当てで立ちあがった。
δ
「PDMを公布するんですね、河城博士」
「奴らを人々に食ってかからせることで、捕まえやすくするんですよ」
「・・・でも警察にPDMを持たせなかったのは何故ですか?」
「かつて1回あったんですが、警察がPDMという機械をもとに脅しをかける事案が発生しまして、回収したんです。
ですが今回は特例です、警察にもPDMを配布する予定です」
「本気ですね・・・」
神綺はそんな河城博士の様子に本気を感じた。
「・・・これは私たちの戦いだ。・・・霊夢!」
にとりはそう言うと、局長室から去ろうとする。
「私は今から戻ってGENESIS細胞の研究をするので・・・協力、感謝します」
「いえいえ。何せ相手は同じ敵、協力して当たり前ですよ」
にとりはそのまま部屋から去り、放送局前に止まっている黒塗りの車に乗り込んだ。
δ
彼女たちはそのままB区へバイクを走らせ、地図通り行こうとするが、彼女たちを見つけた人々は何か様子が違った。
全員が彼女たちを見つけると、あの機械・・・PDMを持って襲い掛かろうとしたのだ。
バイクで進むにしても人の波で埋め尽くされ、進めない。
「これ・・・力を抜くアレじゃない!」
「いくぞーーーっ!」
人々は一気に3人に襲い掛かったのだ。
「わあああああ!!!」
フランはそんな人波に怯えるが彼女はすぐにカードを掲げる。
「霊符、夢想封印っ!」
放たれた光弾が波打つ人々に炸裂し、塵のように彼らは吹き飛んでいく。
が、残りの人々がすぐにそんな彼女たちに襲い掛かる。
「フラン、掴まってなさい!お空、行くわよ!」
「うん!」
「うにゅ!任せて下さい!」
そう言った霊夢は一気にスピードを上げ、何人かを轢きながら国営放送局に向かう。
「逃げたぞ!追え!追え!」
誰かの声が叫ぶと同時に暴徒と化した人々は群れでバイクの後を追った。
「何がどうなってるのよ!?」
今までは寄っても来なかった人々が襲い掛かってくるようになるとは思ってもなかった彼女は仰天していた。
その間にもバイクは進むが、人々はそんな3人に気づいては追いかけていく。
まるでゾンビのようであった。
すると他の巒巘と並ぶビル群よりも一段と高い大きなビルを見つける。
そこには「国営放送局」・・・彼女たちが求めていた建物であった。
「あそこね!」
「はい!」
「フランたちは今からあのビルに行くの?」
「そうよ!しっかり掴まってなさい!きっと局長室は最上階よ!入り口はそのままバイクで突破よ!」
暴徒化した人々をフランの拳銃やお空のバズーカ、霊夢の夢想封印で片付けていきながら、彼女たちはそのビルの玄関にやってくる。
「お空!猛スピードよ!」
「はい!」
2台のバイクは猛スピードを上げ、そのままオートロックの硝子扉を割って通り抜ける。
その瞬間、硝子の割れる音がそのフロア全体に響き、中にいた社員たちは悲鳴を上げる。
そして目の前のエレベーターが2台、扉を開けたのだ。
「そのまま乗るわよ!」
「ダイナミックですね!」
2台のバイクは大きなエレベーターにそのまま乗り、エレベーターの扉は閉まる。
その2つのエレベーターは急行エレベーターであり、そのまま最上階に止まることなくバイクで姿を現す。
最上階・・・プロデューサーやディレクター達の会議室の中をバイクのエンジン音を響かせて行き、神綺の部屋の壁をそのまま突き抜けて姿を晒す。
多くの人たちは驚きながらもやってきた客人が指名手配犯であることに驚きを隠せない。
「・・・ここの局長はあんただったのね、神綺」
神綺は回転いすを回転させ、バイクから降りた3人に顔を見せる。
「ていうか、バイクでそのまま建物内に来るなんて、発想が凄いですね」
「こういう場所は大体入り口にオートロックがかかってるから仕方ないのよ」
「そういう所はしっかりと見抜くのね」
神綺は近くにあった護身用のショットガンを構える。
「私が魔界を作った創造神であることを知らずに襲い掛かるなんて身の程知らずですね、指名手配犯さん」
「それはどうも、ここは魔界でも何でもないのよ。過去の栄光に囚われ続けている哀れな奴は御免よ」
彼女たちは戦う姿勢をとった。
「で、本日はどのようなご用件で?」
「フランたちがお前をぶっ倒したら言ってあげる!」
「・・・神に歯向かうのですね」
「ショットガンで戦う神なんて初めて見ましたよ」
お空はさり気無くそう呟くと、神綺は言い放った。
「大体何も、この世界で何の為に貴方たちは暴れているのですか!」
「奴隷解放の為よ!・・・私たちがここの最深部にGENESISがあることを知らないとでも?」
「何故それを・・・!・・・暗証番号を吐かせるつもりね!」
神綺は右手で構えたショットガンの銃口を3人に向ける。
「ここで死になさい!指名手配犯たちよ!反逆が如何に愚かであるか教えあげましょう!」
δ
神綺は早速ショットガンで霊夢たちを射貫くが、すぐに彼女たちは回避する。
ショットガンの銃弾はそのまま局長室の壁に当たる、
「一気に決めましょう!」
お空はバズーカで神綺に向けて撃ち放つと、神綺は空中回転で回避し、バズーカは後ろのガラスを粉々に破壊する。
最上階の局長室に外の冷たい風が入る。
「とっとと死んでください!」
神綺はやけになってショットガンで3人に向けて連射するが、銃弾の雨あられを避け続け乍らフランは拳銃を構えた。
「隙を狙うよ!」
銃弾の雨の中の僅かな隙を見計らって撃った一発の銃弾は神綺の右肩に着弾する。
神綺が撃ったショットガンの弾は全て壁に埋め込まれていた。
「神綺様!神綺様!」
外で神綺を呼ぶ声がすると思いきや、部屋の外には反逆者である霊夢たちを追い払う為に武装した社員たちがいた。
「援軍ね!たかが一般人風情で・・・!・・・霊符・夢想封印っ!」
霊夢の放った光弾は応援に来た社員たちに炸裂し、断末魔の声を上げる。
「・・・社員たちに手を出したな・・・霊夢!
・・・私に手を出すのはいいが・・・他の社員に手を出すなァッ!」
本気で怒った彼女は自身の魔界の力を込めて一気に闇に包まれる。
そして闇を投影した6枚の翼を広げる。
―――これが魔界の神の姿そのものであった。
「・・・遂に正体を示したわね・・・!だけど屈したりしないわ!」
霊夢は博麗アミュレットを神綺に放つが、彼女は闇の力でアミュレットそのものをかき消してしまう。
「何よあのチート効果は!?」
「失せろ!霊夢!」
言葉遣いも荒くなり、彼女は闇の力でさらに威力を上げたショットガンを撃つ。
「うわっ!」
「ちょっ!?」
先程よりも強い雨あられが3人に襲い掛かる。
「それでもショットガンで戦うのね・・・」
「闇の力を使えばこの世界は真っ暗になる。そうすれば影響が出るだろう」
「他の人のこともちゃんと考えてるのね」
雨あられで机や絵が被弾し、援軍は本気の神綺を見て驚愕し、立ち竦んでいた。
すると神綺のショットガンの銃弾が切れ、彼女は動きを止める。
「あれ!?あれ!?」
「燃え尽きちゃえ~!」
お空はその隙にバズーカを放ち、神綺は吹っ飛ばされる。
「うわあああああああ!!!」
そして彼女はそのまま外へ飛び出る。
お空がガラスを割ったため、彼女は最上階の外へ放り出されたのだ。
が、彼女は何とか左手で縁に掴むが、落ちそうになっていた。
「助けて!助けて霊夢!」
命乞いをする神綺に霊夢は反応し、条件を提示する。
「じゃあここの最深部にあるGENESISの案内と暗証番号を教えてくれたらいいわ、助けてあげる」
「分かりました!ですから、ですから・・・!」
「仕方ないわね・・・行くわよ、フラン、お空」
「フランたちも頑張っちゃうぞ~!」
「うにゅ!」
3人の助けで彼女は命からがら助かった。
「・・・じゃ、約束は守ってもらうわね」
「・・・はい・・・」
神綺は悲しそな表情で3人を案内した。
「ごめんなさい・・・河城博士・・・」
δ
「フハハハハハ!やっぱりGENESIS細胞は期待を裏切らないな!」
GENESIS細胞を移植した、密室に閉じ込めている実験台をテレビモニターから覗いて観察していた。
植え付けられた実験台は膨大な力を発揮し、部屋の中に送り込んだ人間たちを俊足で斬りつける。
0.2秒位での出来事であった。
剣を華麗に扱う彼女の足元に血が流れる。
「・・・あたいは・・・どうしてここに・・・閉じ込められて・・・うわあああああああ!!!」
行き場の無い怒りを剣に込め、壁を斬ろうとするが頑丈なコンクリートは斬れなかった。
「・・・これでOK!後は私の天下だ!あはははははは!」
河城博士は1人、研究室で大笑いした。




