10章 パチュリー
人って何にでもなれるんだね
議員たちや警察官たちはGENESISとなったパチュリーを見て心底から恐怖が沸き上がった。
彼女は最早普通の人間ではない。・・・モンスターだ。
「さぁ・・・剣を抜け!」
妖夢は楼観剣で戸惑う霊夢たちに牙を剥いた。
「くっ・・・!」
霊夢は反射的にお祓い棒で防ぐが、相手は剣の達人。
すぐに巫女のお祓い棒を斬り払うと生身となった彼女に斬りかかる。
「夢符、二重結界っ!」
彼女はすぐに結界を張り、妖夢の攻撃を防ぐ。
結界を斬ろうとする楼観剣の摩擦が響き渡る。
「そうはさせない!妖夢さん!」
フランは拳銃で妖夢の腹部に向けて引き金を引いたが、妖夢は銃弾を見切って楼観剣で一閃する。
青い閃光が瞬間的に光り、銃弾は真っ二つに割れてそのまま議場の壁に刺さった。
「・・・何で・・・」
「腕が甘いッ!」
妖夢は霊夢への攻撃を止め、フランに楼観剣を向ける。
「先にお前から始末してやろう!」
妖夢はフランに斬りかかるが、巫女はそこで動いた。
「霊符、夢想・・・」
「キュピラアアアアアアアアアアア!!!」
GENESISとなったパチュリーは霊夢が妖夢の攻撃を妨げようとしているのを確認すると、自身のエネルギーをEXGENESIS.exeファイルで変換し、溜められた力を基に破壊光線を放つ。
議場に聳え立つ偶像から全てを破壊する勢いで・・・。
「なっ・・・!?」
霊夢は目を疑った。
そしてフランに構ってられないことに気づいた。
「フラン、自分で避け続けなさい!」
彼女はそう言うと、永遠の輝きである破壊光線に向けて結界を張る。
「夢符、二重結界っ!」
巫女は襲い掛かる光線に結界を張るが、結界は崩壊寸前であった。
「ううううう・・・!」
必死に耐える霊夢。その間、妖夢はフランに斬りかかる。
「この剣の元で水の泡となれ!」
フランは拳銃で乱発しながらも必死に逃げるが、彼女は銃弾を見切って真っ二つにして回避してしまう。
最早彼女にとって術は逃げること、それだけであった。
「妖夢さん・・・!・・・落ち着いてください!妖夢さんっ!」
フランは諦めて拳銃を降ろし、妖夢に必死に訴える。
・・・が、彼女に届くまでも無かった。
「死ね!永劫永遠の華の前で散るがいい!」
妖夢はフランの逃げる方向を見切って攻撃していたため、フランと楼観剣は擦れ擦れであった。
するとフランは逃げている最中に戦いで歪んだレッドカーペットに躓き、転んでしまう。
「いてててて・・・」
フランは襲い掛かる敵に背を向けてしまったのだ。
「・・・吸血鬼よ、私に背を向けるか。・・・それもよかろう。・・・運命を受け止めるがいい!」
妖夢は両手で楼観剣を構え、背中を勢いよく貫かんとする。
巫女は未だにパチュリーの破壊光線を受け止めている為、動けない。
「ふ、フランっ!」
霊夢は必死に叫んだ。
「・・・お姉さま・・・ごめんなさい・・・」
フランは泣きながらそう言うと、妖夢は一気に剣に力を込めた。
――――――そうはさせないよ!
δ
議場に一つの声が叫ばれたと同時に、妖夢の前に何かが現れてフランを遮った。
「何者だっ!?」
妖夢は前をふと見ると、そこにはお空がいた。
「お、お空・・・ナイスタイミングね!」
「お空さん・・・」
フランはお空が立ちはだかっている間に起き上がり、お空とフランは妖夢の相手をする。
「私に力はありません・・・!・・・ですがこれがあります!」
お空は制御棒を取り外していて、肩にバズーカを乗せていた。
「あ、あんた・・・」
「向こうで研究者さんに貰った武器です!・・・だからここまで来ました!」
お空はバズーカの砲口を妖夢に向けると、妖夢は怒る。
「調子に乗るなよ・・・鳥頭風情が!我がパチュリー様に・・・逆らうなァァァ!!!」
妖夢はそう言って斬りかかるが、お空はすかさずバズーカを撃ち放つ。
「所詮は剣!至近距離なんです!」
お空は一発、妖夢に穿つと妖夢の元で粉塵と共に炎の粉が舞い上がり、轟音を響かせる。
議場は滅茶苦茶になっていた。
「ぎゃあああああ!!!」
妖夢は叫び声をあげて吹き飛ばされると、今度はパチュリーに向けて穿つ。
霊夢は破壊光線を防いでいたが、結界の1枚目は既に欠け、残りの1枚も時間の問題であった。
「いきますよー!」
お空はバズーカをGENESISとなったパチュリーに穿つと、破壊光線をやめて狼狽えた。
「ウオオオオオオオオオォォォォォォォォォォ・・・」
GENESISはバズーカの1撃で狼狽える。
「助かったわ!お空!あんたを置いて行って悪かったわね!」
霊夢はすぐにお空とフランの元に駆け寄ると、正面には傷つきながらも立っている妖夢がいた。
「・・・私は・・・ぅぅぅ・・・負けない・・・!」
額や腕といった所々から血を流している妖夢。
「・・・その傷でも、まだあんた・・・」
妖夢の背中の特殊PDMは電流を放ちながらも壊れていなかった。
彼女はフラフラしながら剣を構えるが、彼女の進むスピードはゆっくりだった。
「・・・ならもう1発浴びせてあげましょう!」
お空は再びバズーカで撃ち放つが、GENESISとなったパチュリーがそれに対してビームを放ち、相殺して空中で爆発する。
「いい加減あんたは邪魔よ!終わりにしてあげるわ!霊符・夢想封印っ!」
彼女は高くカードを掲げると、色とりどりな光弾がパチュリー目がけて放たれる。
光弾はGENESISとなったパチュリーに着弾し、彼女は世にも奇妙な声を上げて沈没する。
「ギィギュアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァ!!!」
パチュリーは爆発し、そのまま元の姿になって議場に落ちる。
「この戦いも終わりにしましょう!」
お空は再び妖夢に撃つと、妖夢は迫り来るバズーカに目を埋めて、彼女は再び吹っ飛ばされる。
「ぎゃあああああ!!!」
その瞬間、彼女を洗脳していた特殊PDMが壊れ、彼女は元の意識に戻る。
―――戦いの幕が下りたのだ。
δ
「あれ・・・ここは・・・?」
傷つきながらも彼女は起き上がると、そこには安心した3人の顔があった。
「よかったわ、あんたも正気に戻って」
「うにゅにゅ・・・助かって何よりです」
「・・・良かった・・・」
「・・・?」
妖夢は何が起きたのか分からなかった。
そして周りを見渡すと、壊れかけた議場、怯える議員と警察官。
「・・・一体、何が起こったのですか・・・?」
「・・・あんたは操られてたのよ」
霊夢がカミングアウトすると、妖夢は「えっ!?」という声を上げた。
「・・・操られていた!?」
「そう。あんたは操られていたのよ。・・・それはお空にも言えることよ」
「うにゅ・・・そうです」
お空は恥ずかしそうにしていた。
「・・・でも怖かった・・・妖夢さんの本気の姿・・・」
フランは怯えていた。
「・・・何か、すみませんでした。・・・ところで、何故私の下にパチュリーが?」
そう妖夢は問うと、霊夢はハッとした表情をしたと同時に彼女の胸倉を掴みあげる。
「・・・あんたの負けよ、パチュリー」
「・・・ごめんなさい・・・」
「・・・今から聞くことをしっかり教えなさい。さもないと拷問をかけるわよ」
さり気無く恐ろしい言葉をふっかける巫女に違和感を覚えた3人だったが、彼女は気にしない。
「・・・これでGENESISを計3台壊したわ。・・・他の2台と中央のGENESISは一体何処にあるのかしら?」
「・・・それは・・・。
・・・GENESIS:AMITTIMUSは国営放送局の最深部・・・。
・・・GENESIS:INSANIAはD区のPYT研究所ヘリポートの真下・・・。
・・・中心のGENESISはPYT研究所の最深部・・・これでいい・・・?」
必死に答えたパチュリー。とうとう残りの場所を吐き出した。
霊夢は彼女の胸倉を掴むのをやめると、お空に聞いた。
「・・・あんた、乗ってきた乗り物は何処にある?」
「うにゅ?それはバイクだよ?・・・私が運転したの。研究者さんのバイクを貰って、ね」
「・・・そうね」
霊夢は決めた。
「・・・妖夢、あんたは傷だらけね。・・・暫く休むことを推奨するわ」
「それはありがとうございます・・・」
「だからお空のバイクの後ろに乗りなさい。・・・お空、フラン、あの場所に戻るわよ!」
「うにゅ!」
「分かった!」
2人は了承すると、議場から出ようとするが警察官たちが立ちはだかる。
だが彼らは奇形のパチュリーを倒した霊夢に対して戦意を喪失したらしく、彼女から離れていった。
「・・・怯えてやんの」
彼女はいい気になってそのまま外へと向かった。
δ
「只今、国会議事堂の中から議員たちが救い出されました!
・・・そしてパチュリー氏と宇佐見菫子内閣総理大臣が担架で運ばれていきます!」
ヘリからの中継は運ばれる2人の姿を鮮明に捉えていた。
病院から出られない彼女はその速報を聞いて呆然とした。
「・・・菫子首相とパチュリーが・・・倒された・・・」
そして彼女は机の上のメモ書きを見た。
「貴方の退院は明日です」
怪我もとうとう治り、彼女も動ける時が来る。
「・・・奴らの本拠地を暴き出してやる・・・霊夢!」
彼女はそう胸に誓った。




