小説投稿サイトでの「タイトルのつけ方」
これは「旧来の読者」か「新しい読者」かという問題より、数分に一本は新しい小説が投稿されて古い小説が押し流されていく、サイトの特性によるところが大きいと思うが、大切なのは、上品さより「一目で分かる面白さ」だ。
例えば、以下のようなプロットの小説を書くとする。
桜の木が、折れた枝を治してくれた樹医の青年に恋をする。満開の時期を迎えた春の夜、桜は思いあまって人間の女になった。ところが、年齢は樹齢と同じ三〇歳、見た目も残念。しかも、人間の姿でいられるのは、散ってしまうまでの一週間。その間に、どうやって魅力的な女になる……!?
この小説に文学っぽいタイトルをつけようとすると、『桜の恋』などとしたくなる。上品で、余韻がある。ところが、膨大な小説が投稿される中に、そんなタイトルを投げ込んでも、印象に残る前に流れ去ってしまうだろう。
『桜が人間の女に生まれ変わったけどブスだった。どうやって一週間で魅力的な女になる!?』くらいのタイトルをつける方が、読まれる可能性が高まる。
いや、この小説はダメだ……。
設定からして受けそうもない。
「新しい読者」にとって大事なのは「身近さ」だ。主人公が、自分と等身大の誰かで、感情移入がしやすい、ということ。主人公が桜の木だったり、恋した相手が樹医という特殊な職業だったりすると、身近さを感じにくくなる。
こんな感じはどうだろう。
典型的なダメ大学生である田中竜夫は、72時間ぶっ通しでゲームをしていたとき、心臓発作で死んだ。生まれ変わると、そこは今までプレイしていたゲームの世界。しかも、魔王になっていた。勇者に殺されるのは嫌なので、とりあえず善政をしいてみた。ところが、魔界の神官や国民たちに阻まれて、結局は悪政になってしまう。シナリオは変えられないのか……!? そうこうしているうちに、魔界の者たちに愛着が湧いてくる。それを次々に殺しながら近づいてくる勇者たち。魔王こと田中竜夫は、全力で勇者を倒すことにした。
文学っぽいタイトルをつけようとすると、『魔王の善政』などとしたくなるが、それでは目に留まる前に流れてしまう。『魔王に転生して善政をしこうとしたけど無理だったから、勇者を倒す!』くらいの方が、たぶん良い。
もちろん、この法則が当てはまらない人気作品もいくつかある(そういう作品は、ファンタジー世界を構築する圧倒的な力量がある上、身近さを感じさせる要因も上手く仕込んでいる)。けれど、これから書く人が、とにかく読んでもらいたい、という場合、「一目で分かる面白さ」を重視する方が良い。
次に、文章について。