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台風とお姉さんとクロワッサン

二人の関係性がどんなものなのか、正直作者も手探りです。


「ねーねー傘持った?」

リビングのソファに寝ころびながら天音が言った。


「は?」

外はこんなに晴れているのに何を言い出すのか。


「台風。来てるよ。今日の夜から雨になるって、7時のニュースのきれいな気象予報士のお姉さんが」

天音はクッションを抱き枕みたいにして抱えて寝転びながらテレビを見ている。

残暑厳しい折に入ってだいぶ経つが、大学生の夏休みはまだ続くらしい。


朝寝坊してぼんやりした頭でお昼の情報番組見ながらぼーっとごはん食べるのも良いけど、敢えていつも通りの時間に起きてカフェオレ飲んで、特にやることない1日をどう過ごすかだらだら考えるのも楽しいよね!

と言う天音は休み中も俺が出勤する8時前には部屋から起き出してくる。

結局だらしなくソファに寝そべってはいるが。


寝間着がわりにしているのだろう、パイル地のショートパンツから伸びた足が艶めかしくて、『落ち着け俺。』などと考えてしまう。表情には出さないが。


天音の足から意識を逸らして先ほどの話を考える。

そうか、台風来てるのか。でもなぁ。

「大きい傘は持って行くの面倒だしな。会社に折り畳みがあるし、それで大丈夫だろ」


「でも7時のニュースのきれいな気象予報士のお姉さん(推定年齢28歳たぶんそろそろお肌も心も曲がり角、大学時代は学祭のミスコンで準ミスに選ばれましたがそんな栄光も今は昔、職場では先輩たちが結婚ラッシュであらまぁそろそろどうしましょ)は帰宅ラッシュの時間帯ぐらいにはもう土砂降りで風も強くなるって。」


「長いわ。あと、何気にお姉さんに失礼なこと言うな。」

お姉さんも頑張っているんだぞ。


朝食のクロワッサンをコーヒーで流し込みながら答える。

2LDKの我が家は各個室はそんなに広くないが、キッチンやダイニングと一続きになっているリビングはまあまあ広い。

俺も天音も自室に入るのは眠るときぐらいで、朝もリビングでお互いに話しながら朝食を取ったり身支度をする。


何故か両足を上げてぶらぶらさせながら鼻歌を歌いだす天音を背にして、俺はネクタイを締める。


「で、ほんとに持ってかないつもり?」と、背後から声がかかる。

「おう」

「じゃあ折り畳みでは耐えれないくらい降ってきたらこの天音様が駅まで迎えに行ってあげよう」

振り帰った俺に向けられた、いたずらっ子のような笑みに、既視感を覚える。


「ソレハソレハアリガトウゴザイマス」

「うっわ、心こもってなーい。」

天音の笑い声を背に家を出る。

「行ってらっしゃい」


天音と暮らし始めてもう14年になるが、毎日かけられる見送りの声は変わらない。

あいつはどんなに朝寝坊したいような日でも、体調が悪くてもそれを言うために起きて来るのだ。


きっと今日も土砂降りの中で文句を言いつつもいそいそと迎えに来るであろうと思うと、その素直じゃないいじましさに、ついニヤけてしまう。


「台風、良いタイミングで来てくれよ」と、休みを狙う小学生みたいなことを、空に願った。

読んでいただいてありがとうございました!

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