表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
FAINT SUNSET  作者: 長村 八
正体
22/22

七和なお、泣かないで』

 この状況に不釣り合いなくらい優しい声が、雨の音に紛れて聞こえた。

 さっきまで嵐のように騒がしかった心がだんだん落ち着いていく。初めて聞く声なのに、ずっと前から知っていたような感覚に陥る。

「……誰?」

『二人を、見つけてあげる』

 え?

 足が、ほんの少し暖かくなった気がした。

 あっと声をあげる間もなく、足が勝手に動く。

「ねぇ、あなた誰なの……?」

 尋ねる声には答えてくれない。

 導かれてついたのは、さっきまでいた場所から少し離れたところだった。

『早く、助けてあげて』

 声はそう言い残して、もう聞こえなくなった。

 助けてあげて? 二人は怪我でもしてるっていうの?

ゆえ? 夜人より? いるの?」

 恐る恐る暗闇に声を投げてみる。すると、

「七和?」

 とても小さい声だったけれど、私の耳はしっかりそれを拾った。

 ……結の声だ!

「結! 夜人は?」

 そう言いながら、声の聞こえた方に足を進める。幸い暗闇に目が慣れてきていて、探しやすかった。

「怪我してるの」

 結の声は少し震えてる気がした。それを隠そうとしてる必死さもわかった気がした。

 耳を頼りに二人の方へ向かっていく。

「結! 夜人!」

 木に囲まれて死角になりそうなところに、結と夜人が身を寄せあっていた。

 結のふわふわの髪の毛が雨で顔に張り付いている。その隣で夜人が力無く笑っていた。

「夜人が足を怪我しちゃって。もう戦ってられなくなってここに逃げて来たの」

 夜人の足首には結の手が置かれている。きっとそこを捻ったりしたんだろう。

 乾いたように笑って、夜人は溜息をついた。

「もう馬鹿みたいだね、久しぶりにちょっと暴れたらこれだよ」

「いいから、動かないで」

 立ち上がろうとした夜人を、結が止める。

 私も夜人の足に触れてみる。軽く圧がかかると痛そうに顔を歪めてはいるが、腫れ具合などから判断するに骨は折れていないようだ。

『手に力を集めて』

 ……まただ、さっきの優しい声。

 周りをふるふると見てみても、誰もいない。私の耳に直接囁いている感じの声だ。いるとしたらすぐ近くだと思ったんだけど……。

「七和?」

「どうしたの?」

 しかも、私以外には声が聞こえていない……?

 でも、この声の人物は信用してもいいみたいだ。さっきも二人のところまで案内してくれたし……。

「手に、力を集める……」

 小さく呟いてスッと目を閉じる。

 力なんて集めたことない。どうやってやればいいのか、わからない。

 一つ大きく深呼吸。全神経を右手に集中させる。

 すると嬉しそうに弾んだ声が聞こえてきた。

『そうそう、うまいわ』

 手が少しずつ熱を帯びてくる。暖かい日光に照らされている感覚がする。

「光ってる……」

 夜人の声が聞こえて、集中をとぎらせないように注意しながらそっと目を開いた。

 自分で驚いた。

 手のひらが光っている。

 え、なんで? もしかしてこれが私の能力?

『集中して』

 一人で色々考えていたら声に注意された。気を取り直してもう一度深呼吸して、同じように。

 そうしてしばらくたったとき、また声が聞こえた。

『もういいわ、お疲れさま』

 光がだんだん弱くなっていく。

 結が夜人の足首に手を乗せる。軽く押す。

「痛くない……」

 夜人の呆然とした声が聞こえたとき、物凄い疲れが襲ってきた。

 頭痛が酷くて頭を抑えると、二人に肩をつかまれた。

「大丈夫?」

「初めて力を使った時はそうなることが多いんだ。力に体がついていけてないから」

「夜人の足が……どういうわけか治ったみたいだし、七和、あんたここに残ってた方が……」

「い、いいのいいの、大丈夫だから」

 痛みは台風のように去っていく。どうやら一時的なもののようだ。

 ツキヨを放っておいてここに来て、しかも自分は体調が優れないので待っている、なんてできるわけない。

 なんとか一つ能力がわかった訳だし、どうにかして私も役に立ちたい。

「行く。私も、戦う」

 直接コウモリと戦うことはできなくても、せめて……。

 胸の前で拳を握ったとき、ツキヨがいるであろうところからドオンという音がした。

 何かがすごいスピードで地面に落ちたような……。そこまで考えてハッとする。

「ツキヨが危ないわね」

 皆考えていることは同じらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ