表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
FAINT SUNSET  作者: 長村 八
正体
21/22

 不穏な空気が街全体に伝わっているのか、それとももともと人口があまり多くないからなのか、通行人とはすれ違わなかった。

 さっきまであんなにすっきりと赤が見えていた空が、私の心を描いたようにどんどん薄暗く曇っていく。

 二人に何かあったらどうしよう。大怪我とかしてないよね、大丈夫だよね。

 自分にそう言い聞かせるけど、心臓は納得してくれないらしい。どんどん脈が速くなる。

「おい、大丈夫か、怖いのか? 震えてるぞ」

 ツキヨにそう言われて気が付いた。

 ツキヨの背中の毛を掴んでいる手が、ブルブルと震えていた。

「無理するな、降りるか?」

「降りない」

「でも……」

「大丈夫だから!」

 二人が頑張ってるのに、私だけ安全なところにいるなんて、駄目だ。

 仲間だもん、助けなきゃ。



 山へ入った。

 流石に昔よく来ていただけあって、ツキヨはずんずん走っていく。

 真っ直ぐに大きな土煙の方へ向かっていく。

「っ! ツキヨ、上!」

 なぎ倒された木が私たちに向かって降ってくる。

 ちっと舌打ちをして彼は素早く横に飛んだ。ふわりと舞い上がる感覚がする。一気に地面が遠くなった。

 思わず目をつぶったとき、ドオンという音とともに気持ちの悪い感覚が終わった。

「おい、怪我ないか」

 肩を揺すられる。目を開けると狼の姿ではなく、心也の姿に戻ったツキヨが私を見ていた。……いや、戻ってないか。頭には狼の耳が、腰には立派な尻尾がついている。

 いきなり出現したそのリアルな獣耳と尻尾を唖然と眺めていると、ツキヨは焦ったように私の手を取った。

「これが一番動きやすいんだ、ほら、行くぞ」

 手を引かれて走り出す。

 ぽつりぽつりと降り始めた雨のせいか、足元の土はぬかるんでいて走りづらい。

 でもツキヨのしっかりとした足どりにつられて、私も進んでいくしかなかった。

「見えた!」

 ツキヨが叫んで見つめた先の光景は、私には見えない。

 オオカミの目だけにしか見えないその先で何が起こっているのか、私は不安で仕方がない。

 急がないと……!



ゆえ! 夜人より!」

 木の大群を駆け抜けて、広い場所に出た。……と思ったけれど、そこはもともと広かったのではなく、木が倒されて広く見えているだけのようだ。

 いきなり暗くなったと思ったら、雨でただでさえ明るくない空が大きな黒で覆われていた。

 これが、コウモリ!

 私はいきなりのことに固まってしまい、動けない。あまりの大きさに目を見開いた。

 夜人が乗せてくれたのはもっと小さかかった。可愛いとさえ思える大きさだったのに、今目の前にいるのはただただ恐ろしい。

 そいつがどれだけ大暴れしたのかはわからないけれど、周りは酷い有様だ。

 私は急いで周りを見渡す。結も夜人も返事がないし、見当たらない。

 二人は……二人はどこ?

七和なお、オレが引きつけるからその間に二人を捜せ!」

 ツキヨはそう言ってコウモリに向かって駆けていく。

 探せって言われたって、どこをどう探せばいいの!?

 考える前に足が動く。とりあえず走り回ってみる。

 あ、携帯!

 そう思って二人に電話をかけるが、携帯からは録音された『今電話に出られません。ピーという音声の後に……』という無機質な音が聞こえてくるだけだ。

 上で激しくぶつかりあっているコウモリとツキヨのせいで、音が紛れて着信音がどこから鳴っているのかもわからない。

 五回かけて諦めた。

 もしかして、木と木の間にいたりしないよね? つぶれたりなんて、してないよね?

 二人の声をもう二度と聴けないなんて、そんなことはないよね?

 嫌な想像が思考を支配していく。木と木の間から見える鮮やかな赤と、結や夜人の手……。

 ………目を醒せ!

 自分で自分の頬を叩く。喉に何かが引っかかったような気持ち悪さを感じる。

 頭のすぐ上をコウモリの足が通った。

「ツキヨ!」

 コウモリの翼にはねとばされて地面になんとか着地したツキヨは、もうぼろぼろだった。

 思わず駆け寄ろうとしたとき、彼はぴしゃりと言い放つ。

「馬鹿、はやく探せ!」

 そう言ってまたコウモリに向かって飛んでいった。

 急かされれば急かされる程、頭はパニック状態になっていく。闇雲に走って、二人の名前を呼ぶことしかできなくなる。

「結……夜人……!」

 不安で不安で仕方がなくて、知らずに涙がこぼれる。

 何泣いてんの、馬鹿。

 おばあちゃんだって言ってたじゃない。泣いて解決できるものなんてないんだ。

「誰か、助けてよ……」

 呟く声は、騒がしい音に紛れて消えていく筈だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ