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FAINT SUNSET  作者: 長村 八
正体
19/22

 なんとか全員の連絡先を貰ったその後は作戦会議だ。

「力の差的に俺と七和(なお)夜人(より)(ゆえ)で行動した方がいいと思うんだー」

「そうね、あたしと七和はたいしたことできないから……」

「大丈夫、結は僕が守るからね」

「夜人、うるさいわよ」

 結にどれだけ冷たくあしらわれようと、夜人は気にしていないようだ。「冷たいなぁ」とニコニコ笑っている。

心也しんや、ツキヨに頼って大丈夫なの?」

 結が私を見ながらそう言った。……心配してくれてると思っていいのか?

 すると、心也は困ったように笑った。

「アイツも俺にあれだけ言われたらもう何もしてこないと思うよー」

 そんなに怒ったの? ちょっとツキヨに申し訳なくなってきたな……。いやまぁ、悪いのはツキヨなんだけど。

 心也って怒ったら怖そう。

「じゃあ明日からにでも七和も混ぜて調査に行こうか」

 夜人がそう締めくくって、会議は終わった。

「あの、さ」

 自然に口が動いて小さく声が漏れた。きっと、誰も気付いてない。

 きっと、言いたいことはあの傷のことなんだと思う。やっぱり仲間なんだし、言っといた方がいいよね。

 でもそこでもう一人の私が待ったをかける。気持ち悪いとか思われたらどうするの。

 いや、でも夕暮ゆうぐれ会の中にはそんな人沢山いるだろうし。

 確信がないのにどうしてそんなこと言いきれるの。

 そんなことをうじうじと考えていたら、夜人が立ち上がった。

「じゃ、そういうことで」

 そしてナチュラルに結の手を取る。……あ、振りほどかれた。

 結が怒ったように立ち上がり、そのまま二人は話しながら(夜人が結に罵倒されながら?)教室を出て行った。

「……仲いいよね、なんだかんだ言って」

「……そうだねー」

 いいなぁ、ああいうのって。青春してるって感じ。

 溜息をつきながら机に額をつけた。

「どうしたの?」

「んー、なんか私って本当に高校生なのかなーって思った」

 不思議そうに首を傾げてるんだろうな、心也は。

 だってさ、こんなよくわからない会に入って任務やってるんだよ? なんかもう立派な社会人の気分。

 田舎からいきなり出てきてこんなに大層な役目に就いたら、そりゃあ疲れるよ。

 また大きな溜息が口から出そうになった時、頭に何かがのった感覚がした。

「そうだねー、忙しいもねー。昼は学校で放課後は調査だもんね。ましてや宿題にテストもあるし。社会人でもこんなに忙しくないと思うよー」

 はははと笑いながらポンポンと頭を撫でられる。

 ちょっとくすぐったくて口元が緩んだ。急に元気が漲ってくる予感。

「明日からはもっと忙しくなるよ。覚悟しておくことー」

「……うん」

 私の声を聞いて、心也は元気になったね、ともう一度頭を撫でた。



 授業なんて頭に全然入ってこなかった。考えるのは怪異のことばかり。

 夜人はコウモリだって言ってた。しかも凶暴だって。怪我の一つや二つは付き物だろう。

 自分の能力のことを何もわからない状態でいきなり挑むのは、ちょっと怖いなぁ。まぁ、しょうがないんだけど。

 怪我が早く治るっていったって、怪我した瞬間はやっぱり痛いんだし。

 しかもそれを皆に気付かれないようにしなきゃ……気持ち悪いって思われたくないもん。

 コウモリの位置を探す時はツキヨに頼るんだよね。うまく話せるかなぁ。

 また食べられそうになったら、心也には悪いけど思いっきり殴らせてもらおう。

 問題は山積みだ。

 でも、

「おい天羽あまは、聞いてるのか?」

 今は数学の問題の方が重要みたい。



 SHRの終わりのチャイムが鳴るのとほぼ同時に、私と結は教室を出た。

 荷物を置いて、学校の校門前集合ということになっている。

 時間がないので、なるべく急ぐ。

 結の説明によると、怪異は一番夕暮れ時に活動をしやすくなるらしく、その時間が最も発見できる確率が高いらしい。

 学校が終わるのは三時半くらい。しかも今は春になったばかりで、日が沈むのは早い。

 急いで寮に行って鞄を置き、動きやすい格好に着替えて外に出た。

 校門前はがらんとしていた。当たり前だ、全寮制なんだから。しかも寮へと続く道は校門とは逆方向。

 だからだろうか、見慣れた制服を着ていない二人もすぐに見つけることができた。

「こっちこっち!」

 夜人がいつものニコニコ笑顔で手を振る。

 横には心也がむすっとした表情で立っていた。……あれは、

「いやー、話してたんだけどツキヨって面白いやつじゃない」

 いつも異常に夜人がご機嫌なのはそのせいらしい。

 バンッと心也……いや、ツキヨの背中を叩く。

「いてぇ」

 ツキヨは大して痛くもなさそうに呟く。目にこの間みたいなぎらついた光は、ない。

 不機嫌そうにしながらも、攻撃はしてこない。ほ、本当に大丈夫かなぁ……。

 おどおどして彼の様子をうかがっていると、ギロリと睨まれた。

「……もうしねぇよ。心也に怒られるのはもう御免だ」

 想像よりも数段優しい声でそう言ったので、ちょっと安心する。

 結が驚いたように心也に駆け寄る。

「……本当に外見は心也のままなのね」

 感心したように溜息をつく。

「んだよ、文句あんのかよ」

「いいえ、なんでもないわ。とにかく、これからよろしく」

 そう言って真っ直ぐに手を差し伸べる結。

 ツキヨは目を見開いて固まっていたが、ワンテンポ遅れてその手を握り返した。

「あ、ああ、よろしく」

 たどたどしく言ったその言葉が、普通の男の子みたいでちょっとおかしかった。

 結は満足したらしく、夜人の腕を掴んだ。

「じゃあ、私たち東側を探すから。あんたたちは西側を回ってね」

「何かあったらすぐ連絡すること。一角いっかくさんもすぐに出られるようにしておいてくれてる筈だから」

 こう……二人から指示をされると、妹的立場になってしまう気が……。

 私がしっかりしてなさすぎるだけなんだろうけどね。

 ぼんやりと二人の遠ざかっていく背中を見送る。

「おい」

 ぶっきらぼうな声で我に帰る。

「行かないのか?」

 ツキヨは二人が歩いていった方向とは反対の方を指差した。ああそうだ、早く出発しなきゃ。

「ツキヨはどれくらい鼻が利くの?」

「オレは所詮狼だからな。狼並だ」

「うーん? そうなんだ」

 そんな会話をしながら一歩を踏み出す。

 ツキヨとぴったり一歩目が揃って、ちょっと嬉しかった。

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