表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
FAINT SUNSET  作者: 長村 八
日が暮れたら気をつけて
17/22

「しっ、心也(しんや)!」

 昼、購買で彼の姿を見つけた。

 ツキヨのことが少し怖かったけれど、今日の心也の周りの空気はいつものふわふわとした雰囲気だ。

七和(なお)……昨日ぶりー」

 心也は私の顔を見ようとしない。いつもなら目を合わせてにっこり挨拶してくれるのに。

 私もなんだか心也の顔がまともに見られなくて、視線を落とす。と、あることに気付いた。

「その手……」

 心也の手には包帯が巻いてあったのだ。

 確か昨日私が逃げ出すきっかけになったのは、ツキヨが自分で自分の手を噛んだからだった。

 何故? そう考える暇もなく昨日は逃げ帰ったけれど、今考えると不思議だ。

 話したいことが沢山ある。聞きたいことも、話してほしいことも、聞いてほしいことも。

「とりあえず、お昼食べよう。……屋上でいいー?」

 選択教室に行こうとしないのにも何か理由があるのだろうか。

 何もわからない私はただ頷くしかなかった。



 屋上は意外と風が強くて寒かった。そのためか、人がめっきりいない。

「あれ、屋上に来たの失敗だったかなー」

 それは心也も同様だったらしく、少し苦い顔をした。

「あの、心也」

 とにかく何か話さないと。時間は待ってくれないんだから、本題には早めに入っておいた方がいい。

 沢山の疑問を投げかけようとしていた私の口は、心也の一言で閉じた。

「うん、話す。全部ね。でもこういう話って人にするの初めてで……よくわからなかったらごめん」

 心也は落ち着くためか、いつものチョコレートを口に放り込む。

 そして深呼吸を一つして話し始めた。

「俺はね、狼男……まぁ、勝手にツキヨって名前付けて読んでるけどー……そいつと体を共有して生きてるんだ。普段は俺が前に出てくるけど、新月と満月の夜だけ、ツキヨに完全に体を貸すようにしてる。一つの体に魂が二つ入ってるんだ。

 どういうことだか俺が生まれた瞬間にツキヨが俺に取り憑いたらしくて。小さい頃からあいつと一緒に育ってきた。だから俺には家族みたいなものなんだけどー……七和も昨日知っちゃったかな、ツキヨはたまに人を食べようとするんだ。俺は毎回毎回それを必死に止めてきた。でも、昨日のは止められなかった。ごめんね」

 ふと気が付く。昨日ツキヨが自分の手を齧った理由。

 私の心情が顔に出たのか、心也は優しく頷いた。

「この手は俺がなんとか動かせたところ。七和にあれ以上傷ついてほしくなかったから、ツキヨに噛ませちゃったー」

 心也は能天気にひらひら手を振ってみせる。ツキヨに噛ませたといっても自分の体であることに変わりはないのだから、痛いだろう。

 私はなんだか泣きたくなった。

 あの時自分で逃げていれば、心也は自分を傷つけずに済んだのに。

「痛かったでしょ、ごめんね。今度ツキヨに会う時があれば、謝らせるよ。説得しておく」

 そう言って心也はサンドイッチを一口食べた。パンの間にはさんであるのは、チョコレートクリームだ。

 ……なんだか、謝り慣れている気がする。そんなにこんなことが何度もあったのだろうか。

 私も自分のお昼ご飯である焼きそばパンに視線を落とすが、こんなに美味しそうなのに、食欲がわかない。

「あの……(ゆえ)が、狼男は取り憑いた人の精神を喰うって」

 心也は

「私はさ、」

 気が付いたら口が動いていた。心也がいきなり話しだした私をびっくりしたように見つめている。

「いなくなったほうがいのかな。どこか遠いところに引っ越して一人で生きていけば、皆に迷惑かけることもなくなるのかな」

 そうしていれば、夜中に皆を走らせて自分を探させることもなかったし、心也の手も傷つかずに済んだのに。

 下を向いていた私の頭に、何かがのった。心也の手だった。

「七和は、ここに来るまでは夕暮(ゆうぐ)れ会のことなんて知らなかった訳でしょー? だったらしょうがないよ。あとね、夕暮れ会っていうのは、互いに助け合うためにあるようなものなんだよ?」

「助け合う?」

 ただ所属するだけの会だと思っていた。

「そう。三人よれば文殊の知恵って言うでしょ。だからどんなに弱い能力の人でも、どんなに飛び抜けていても、一緒に夕暮れ会の中でやっていくんだ。そうすることでお互いでお互いを守れるようにね。まぁ……言い方を変えたらお互いに利用し合ってるっていうことなのかもしれないけど……」

 心也は少し気まずそうに顔を歪めるが、すぐに笑顔になった。日だまりみたいな、あったかい笑顔。

「でもさ、前向きに考えたいじゃん。一緒にいるうちにやっぱり仲良くなって、この人のためになりたいなぁって思うしー」

「それは、私に対してもそう思ってくれてる?」

 言ってから後悔した。

 私たちまだ知り合って一週間くらいなのに、なんて図々しいことを訊いて……。

 自分一人でへこんでいると、思いもよらない言葉が降ってきた。

「当たり前でしょ」

 吃驚して思わず心也を見上げる。

 そこには少し赤くなった彼の顔があって、ああ、照れてるんだなぁって思った。そんな姿がちょっと可愛いな、とも。

「私も、心也のこと守りたいなって思うよ。だから、何かあったら話してね」

 自然と笑顔になってそう言えば、心也も柔らかく笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ