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今日は一角さんがいるはずだったのだが、
「え、用事?」
「うん、なんかとっても怖い人に呼び出されてるみたいでー」
一角さんが怖いと思う人って、どんな人だろう。上司かな? もしかして夕暮れ会の会長からの呼び出しとか……?
「ということで、今日は僕が七和の先生です」
……初めに突っ込ませてもらうと、先生はお菓子を食べながら授業なんてしないからね? 心也。
とりあえず礼儀ということで頭を下げる。
「よろしくお願いします」
「はい、いい子ー」
「あ、ありがと」
チョコレート貰った。ちょっと嬉しくなった途端、絶望にたたき落とされるような台詞が聞こえた。
「今日はこの二日分のテストをしまーす」
「え」
思わず驚く。
何でそういうことを昨日のうちに言ってくれなかったの……!?
「今から十問、問題出すねー。八問合格、それ未満はもう一回テスト」
……何っ?
慌ただしく本を捲り、昨日までのところをざっと見直す。
ああでも、短期記憶ってしてもあんまり意味ないっておばあちゃんが言ってたな。その日のうちに復習をすることが知識を身につけるための一歩だって……。
って、そんなこと考えてる場合じゃない!
「じゃあいくよー、第一問」
「ちょ、ちょっと待って!」
「夕暮れ会の会長は誰でしょうかー?」
ああよかった、これならわかる。
「アルビノ!」
自信満々な私の答えを聞いて、心也の肩ががっくりと下がる。え、間違った?
心也の溜息まじりの声がする。
「あのね、ホワイトタイガーとか聞いてことあるでしょー? ああいうのをアルビノって言うの。突然変異で白くなっちゃうやつ。
夕暮れ会の会長はね、『アルビレオ』。ちゃんと正しく覚えようねー」
「……はい」
「第二問、天使と悪魔の違いは?」
ああ、夜人と一緒にやったときの話だ。ええと、確か……
「天使は人間と関わっちゃいけないけど、悪魔は人を利用しようとする……?」
「うん、大体そんな感じ。あってるよー」
よし。
なんか、テスト前に友達と問題出し合ってるみたいだ。……いや、今は本当にテストなんだけど。
「三問目。魂保管室って、なーんだ?」
その時、なんだか急に目の前が真っ暗になった。
魂保管室……知ってる。だって、この前結と勉強したもの。
でも、きっと私は教えてもらったことよりももっと多くのことを知っている……と、思う。
「凶暴な怪異を封印して閉じ込めておく所……とっても怖い、死神がいるって聞いた」
「うん、あってるよ」
「でもその死神は、怖いんじゃない。真面目でちょっと人と接するのが苦手なだけで、本当はとても良い人なの。確かに部屋は真っ暗で不安になるときもあるけど、周りの怪異はみんないい子たちで……話をちゃんと聞いてあげれば、皆にもそうだってわかってもらえる筈」
「七和?」
心也に肩をつかまれて、我に帰った。あれ、私今何か言ってた?
そう訊くと、心也は少し経ってから首を横に振った。
「ごめん、ぼうっとしてた。次は?」
「……うん、じゃあ四問目ね」
気が付くと、日が沈んでいた。
ちなみにテストは五回受け直してやっと合格……思わず溜息をついた。
心也はそんな私をニコニコしながら見ていたが、いきなり血相を変えて私にこう訊いてきた。
「今日って何日だっけ!?」
「えっと、十日だったと思うけど」
どうかしたの?
私が尋ねる間もなく、心也はバタバタと荷物をまとめ始める。
「ごめん、帰る!」
そう言ってドアが外れそうなくらい勢いよく開けて、飛び出していった。
……変なの。なにか用事でもあったのかな。
考えながら私も帰り支度を始める。先生役がいなければ、何もできない。
結と夜人は調査が終わったらそのまま寮に帰るって言ってたし、もうここには誰も来ないだろう。
私は鍵を持って、選択教室を出た。しっかりと施錠。
おばあちゃんの教えを思い出して一度ドアが開かないかどうかを確認する。よし、大丈夫。
そのまま職員室へ鍵を返して、玄関まで行く。
四月とはいっても、さすがに日が沈んだら寒いし、暗い。
もう大方の生徒は下校したんだろう、廊下は電気が消えていた。
薄暗い中を歩く。夜の学校って、怖い。早く帰ろう。
次第に早足になっていく。
玄関はもうすぐだ。僅かに外の灯が見えた時、
「う、わあああっ」
何か柔らかいものに躓いて転んだ。
思いっきり打った肩をさすりながら障害物を振り返って見ると、見慣れたカーディガン姿の彼がそこにいた。
「心也!?」
うつぶせに倒れていて、表情はわからない。近くには彼の鞄が転がっている。
「ねぇ、ちょっと、大丈夫?」
心也の手に触れると、燃えるように熱かった。もしかして、風邪引いてたの?
どうしよう。寮まで運ぼうにも、女子でしかも小柄な私が、男子でしかも背の高い心也を運べる訳がない。
誰か人を呼ぶか……。
そう結論に達し、大きく息を吸い込んだ時、心也にぐいと腕を引かれた。吸った息を驚きで飲み込んでしまう。
そのまま私は壁に押し付けられるように座り込んだ。
すぐ近くに心也の顔がある。チョコレートの匂いがする。
「ね、ねぇ……心也?」
戸惑いながら口を開くと、ギラリと睨まれた。
その目はまるで獲物を狩る獣みたいに爛々と輝いていた。
その時思い出した。
心也は、狼男に取り憑かれている。




