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FAINT SUNSET  作者: 長村 八
日が暮れたら気をつけて
12/22

 チャイムがなんだかとても神のお告げのように聞こえた。

(ゆえ)! 私、お昼ご飯買ってくるから! 一緒に食べようね!」

 そう一方的に告げて購買へダッシュ。と、お財布を忘れたことに気付いて急いで引き返して、また走る。

 沢山並んだパンの中から美味しそうなものをいくつかセレクトし(いやいや、全部美味しそうだから迷った)、自販機で飲み物を買って結の待っているだろう教室に急ぐ。

 教室へ帰った時、結は誰かと話し込んでいた。彼女と話していたのは……夜人(より)心也(しんや)だ。

「どうしたの?」

 会話に入ろうと話しかけると、結と夜人に両腕を掴まれた。せっかく買ってきたパンたちが腕の中から落っこちそうになる。

「ちょうど良かった」

「選択教室行くわよ」

「え、え?」

 なにがなんだかわからなくて心也を見ると、彼はとにかく行けばわかると言うような目を私に向けた。

「話は教室で。いいわね」

 結の言葉に従うしかなかった。



 選択教室は空いていた。

 ゾロゾロと四人が入り、ドアを閉める。……あ、鍵までかけた。

「で、何?」

 状況を把握できてないのは私一人だけだ。

 結が手近な椅子に腰掛けたので、私たちも座る。

七和(なお)夕暮(ゆうぐ)れ会について色々教えようと思うの」

「え?」

 夜人がビニール袋からコンビニおにぎりを取り出して包装紙を剥ぐ。……おにぎり好きなのかな?

「結から話聞いたんだ。能力のこととか知りたいんでしょ? だったら、まずはこの会のことを知らなきゃね」

「それでー、これ」

 心也が持っていた鞄から、電話帳くらいの厚さの本を取り出した。表紙には『夕暮れ会』と綺麗なフォントで大きく書かれている。

 ページを捲ってみたら細かい文字がびっしりと並んでいて、目が回りそうになった。

「これを、覚える……とか?」

「覚えまではしなくていいわ。聞いた時に、ああ、そういえばこんなことが書いてあったなと思い出せるくらいに頭に留めておけばいいのよ」

 それってつまり覚えるってことじゃないですか、結さん。

 ただでさえ私、物覚えが悪い……というか勉強ができないんですけど。

 少しでも現実から目を背けたくて、パンを齧る。あ、美味しい。

「ふぁいふぉうふぁよ」

「ごめん心也、なんて言ってるかわかんない」

 心也はむぐむぐと口の中のチョコレートサンドイッチを飲み込み(え、それお昼なの)、優しく笑った。

「大丈夫だよー、俺たちもサポートするし。調査の片手間で悪いけど、一緒に頑張っていこう?」

「うん……ありがとう」

 嬉しかった。皆にそうやって思ってもらえることが。

 ……でもね、口の端にチョコレートつけて言われても、あんまり心に響かないよ。

 綺麗な箸使いでお弁当の鮭をほぐしていた結が、こちらを向く。

「それで早速だけど、今日の放課後から。一角(いっかく)さんは火曜日と木曜日にしか来ないらしいの。だから、あたしたちでローテンションを組んで教師役を決めようと思うんだけれど……それでいい?」

「うん、いいよ」

 文句なんて言えない。皆が考えて決めてくれたことなんだし。

「じゃ、決まりだね」

 夜人のその一言で、この話はお終い。

 ということは……

「結、その卵焼き頂戴!」

「え、わっ!」

 私は結のお弁当箱から卵焼きをかっさらった。

 口に入れるとほんのり甘くて、かつおだしの味もする。うーん、美味しい。

 後ろでなんだか抗議の声が聞こえるけど、気にしたら負けだって。

「これ、結が作ったの? 食堂でつくってくれるお弁当?」

「あたしが作ったわよ。なんだか、他の人が作ったご飯ってあんまり好きになれなくて」

 それは潔癖性と言うのか、それともわがままだと言えばいいのか。

 私たちのやり取りを見ていた夜人が、割って入ってくる。

「そういうおかずシェアってありなの? じゃあ結、僕にも唐揚げを……」

「誰があげるもんですか!」

「えー、酷い。そういうのを差別っていうんじゃないのかな」

「あれは不意をつかれただけであって、七和にあげようと思ったんじゃないわ!」

「まぁまぁ、二人とも落ち着いてー。チョコレート食べなーい?」

『食べない!』

 心也の提案はふたりのぴったり揃った声で一刀両断。

 まぁね、うん、私でもあの状況だったら断ってたけど。

 でもね心也。……そんな目でこっちを見ないで!

「七和ー、二人ともチョコいらないって。嫌いなのかなー……」

「いや、そういう問題じゃなくてね、間が悪いっていうか……」

「七和はチョコ好き?」

「うん、好きだよ。でもあんまり食べ過ぎると太っちゃ」

「じゃあ一緒に食べよう!」

 そういって心也は板チョコを私の口の中に突っ込む。

「だから!」

 口の中で溶けていくチョコレートを美味しいと思うよりも、これでどのくらい私の体脂肪率が高くなるかの方が気になる。

 ……そういえば心也はあんなにチョコレート食べてるのに、太ってない。むしろ痩せている方だろう。

「わーっ、これこそ差別だよ、遺伝子の差だよーっ!」

 私の両親はそんなに太ってなかったと、思う。曖昧であんまり覚えてない。

 でも、おばあちゃんは毎日お風呂上がりに体重計にのって溜息をつき、おやつを抜いていた。

 ということは、少しはその遺伝子が入ってるという訳で。

「遺伝子の差?」

「そうだよっ、結は美人だし、心也は太らないし!」

「僕は?」

「うーん……何とも言えない」

「ひどっ」

 だって夜人って普通な人なんだもん。血以外は。

 皆でわいわいやっていると、チャイムが鳴った。

 え、まだ全然食べてない!

 急いで口の中にパンを押し込むと、心也に笑われた。

「栗鼠みたいー」

 うるさいな、早く行かないと授業に遅刻するよ?

 ペットボトルのお茶を流し込みながらドアの引き戸に手をかける。……あれ、開かない。

 すると後ろからくつくつと笑いを堪える声が聞こえてきた。

「……あたし、入った時に鍵かけたんだけど」

 ……そういえばそうでしたね。ごめんなさいね、こんな短時間にそんなことまで忘れるような残念な脳味噌で!

 こんなんでちゃんと勉強なんてできるんだろうか……。

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