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FAINT SUNSET  作者: 長村 八
日が暮れたら気をつけて
11/22

 授業スタートとは言っても、初めは全部ガイダンスだ。

 基本的に教室でやるのは国語と数学だけで、その他の教科は特別教室で行われるらしい。

 朝のSHRで小さな地図をもらったが、それでも広すぎてわからない。更に残念なことに、私は地図を読むのが不得手なのだ。

(ゆえ)ー、……場所、わかんない」

 朝に変な注目を集めてしまったため、普通に話せるのが結しかいない。

 彼女も地図とにらめっこをしていたが、私よりは読めるだろう。

「次の授業ってなんだったっけ?」

「音楽よ。二階みたいね、上がればわかるかしら」

 そう話しながら、手近な階段を上がる。すると、上からコツコツと足音が聞こえてきた。

「あれ、二人とも。結はおはよう、今日も美人さんだね。七和(なお)は朝ぶり、だね」

 夜人(より)だった。綺麗な白がふわりと揺れる。

 結は、夜人の存在を確認すると同時くらいに私の背後に隠れた。それを見た夜人は少し傷ついたような顔をした。

「酷いなぁ、そんなに警戒しなくてもいいじゃん」

「だってあんた、顔を合わせる度にろくでもないことばっかり言うんだもの」

「ろくでもないなんて……僕の正直な気持ちなのに」

 ああ、そうそう、そうだった。

 夜人は光のような速さで結に一目惚れしてたんだっけ。きっと息をするみたいに好きだとか言ってたんだろう。さっきもそんなことが聞こえたような……。

「まぁまぁ、結は素直じゃないからさ。きっと愛情の裏返しってやつだよ、夜人」

「ああ、そうか。ありがとう七和。君とはいい友達になれそうだ」

 まぁそれは光栄ですわ。

「で、夜人は何でこんなところにいるの?」

「うーん……第二地学室って知らない?」

 え、それって確かここと正反対のところにあるんじゃなかったっけ?

 結が夜人に地図を突き出す。彼はそれをじぃ、と見つめ、困ったように眉を下げた。

「あれ、間違ってた。えーっと、そっち行けばいいんだよね?」

 そう言って夜人が指差したのは、地学室とは全く別の方向だった。

「違う! この廊下を真っ直ぐ行った突き当たり!」

 イライラしたように結が怒鳴る。

「わかった、ありがとう」

 ひらりと手を振って夜人は歩き出した。……大丈夫かなぁ。

「そういえば朝も道に迷ってたな……」

「そうなの?」

 うん。一本しかない道をどう間違えたのか、遅刻ギリギリくらいまで迷ってた。

 ……もしかして。

「夜人って、物凄い方向音痴だったりするのかな」

「可能性は十分に高いわね」

 って、こんなとこで油売ってないで速く音楽室行かないと!



 四時間目。これが終わればお昼ご飯だ。

 財布は持ってきているから、購買でパンでも買って食べよう。結は……お弁当持ってるだろうな、うん。誘って一緒に食べよう。

 あー、お昼のこと考えたらお腹空いたなぁ。

 時計を見ると、授業が始まってからまだ十分と経っていない。ああ、なんて長いんだ残りの四十分。

 なんて、こんなこと考えてないで集中しなきゃ。

 そう思っても体は正直なもので、ぐうとお腹が鳴った。何人かの目が私の方を向く。は、恥ずかしい……!

 赤くなって俯いていると、後ろから小さく肩を叩かれた。

「これ、天羽(あまは)さんに。蛇ノ目(じゃのめ)さんからだって」

 小さく囁く私の後ろの女子。手には小さい巾着袋があった。

 『あまは』と『じゃのめ』だ。出席番号順で座ったら当然結の方が後ろになる。

 どうして女子高生って、こうやって手紙とか見つからないように回すのがうまいんだろう。あ、私も女子高生か。

 なんだろうと思って巾着を開けると、飴玉がこぼれ落ちそうになって慌てて口を締めた。

 え、結、これ何?

 後ろを振り返ろうとしたら、また肩を叩かれた。

「また来たよ。よかったね」

 よかったね? 何が……。

 渡されたのは小さな付箋だった。小さく文字が書いてある。

『朝ご飯食べてないんでしょ? 一個か二個、食べなさい。勿論バレないように』

 食べなさいって、なんで命令口調なわけ? でも、とてもとてもありがたい。

 私は再び巾着袋を開く。中から苺味の飴玉を取り出し、そっと口に放り込んだ。

 甘い苺の味は、結の優しさの味だった。

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