表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
FAINT SUNSET  作者: 長村 八
ようこそ夕暮れ会へ!
10/22

 明日から授業スタートだ!

 そう思って六時に目覚ましをセットしたのが昨日の夜。

 そして今は、(ゆえ)の呆れた顔が見える。窓から差し込む光が何とも気持ちがいい。こういう朝は、二度寝が最高に幸せなんだよね。

 ……って、え、朝?

「結おはよう! 今何時!?」

「八時。今すぐ起きないと遅刻するわよ」

 その言葉を聞くまでもなく私は飛び起きた。

 確か昨日読んだプリントに登校は八時半までと書いてあった筈だ。

 華の高校生に(いや、まだなりたてなんだけどね)。しかもこの歳が一番美しいとまで言われる乙女に、たったの三十分で支度をしろと?

 とりあえず洗面所に駆け込む。そして鏡を見て絶句。

 何故こんな日に限って寝癖って物凄いんだろう。誰か私に答えを教えて。

 歯を磨いて洗顔して、寝癖を無理矢理直す。……まだ直ってないけど、まぁいいや。うん、いいってことにしよう。

 洗面所から出たとき、結はもういなかった。さすがにもう出たんだろう。少しだけ待っててくれてもいいじゃんか、と思ったけれど、起こしてくれただけでも有り難い。

 朝ご飯は諦めるしかない。お昼まで保つかな……頑張れ、私。エネルギーを節約する一日を送ろう。

 クローゼットから制服を取り出す。ワンピースタイプって、がぼっと被ればそれなりに見えるから不思議だ。

 鏡の前で一応全身をチェック。うん、どこも変じゃない。

 鞄は昨日用意しておいた。忘れ物がないか、もう一度確認する予定だったんだけどそんな時間はない。

 私が慌ただしく寮を駆け出したのは、八時二十分のことだった。



 寮から学校って、近いように見えて結構遠い。

 直線距離で見たら目と鼻の先なんだけれど、その間にはグラウンドや食堂、男子寮、弓道場などがあるから、大きく周り道をしなくてはならないのだ。

 ああもう、鳥だったら空飛んで最短ルートで行けるのに。

 そんなことを考えながら全速ダッシュしていると、少し前の方に背中が見えた。男子だ。

 さらさらとした、白髪。……夜人(より)

「おーい、夜人ぃ!」

 大声で叫ぶと、その人は振り返った。白っぽい灰色の目が私をとらえた時、彼はあのにっこりスマイルをした。

「おはよう、七和(なお)も道に迷ったの?」

 あんたは道に迷ったんだね、でも私は違うのよ。というか、どうしたらこんな簡単な一本道を迷うの?

 私は夜人に追いつき、一緒に隣を走る。

「私は寝坊したの。変だよね、目覚ましが鳴った記憶がないの」

「それは……無意識のうちに止めたからじゃないかな」

 夜人の苦笑いが心に刺さる。

 腕時計を見ると、あと五分しかない。さすがに息も上がってきた。

「……大丈夫?」

 なんで男子ってこんなに体力あるんだろう。

 ふるふると首を横に振ると、夜人は少し考え込んだ。

「ホントは駄目なんだけど、使っちゃっていいかな……」

「え?」

 何を、と訊こうとしたら、夜人が人差し指と中指を唇に当てた。そして鋭く一度息を吹いた。

 何が起きるんだろうと思っていたら、後ろからバサバサと何かが羽ばたく音が聞こえてきた。

 振り返ると、

「こ、コウモリ?」

「うん。ほら、乗って」

 夜人はさっさと彼らの上に足を乗せてるけど、これって乗ってもいいものなの? 落っこちそうなんだけど……。

「大丈夫だから。ほら、遅刻するよ」

 そう言われて恐る恐る足を出すと、夜人に腕を引っ張られた。彼も彼なりに焦っているらしい。

「うわっ!」

 足元がふにゃふにゃする。うまく立っていられなくて座り込んだ。

 でも、夜人はそんなことなど気にならないように再び指笛を吹く。

 するとコウモリは物凄いスピードで前に進み始める。

「しっかり掴まってないと振り落とされるよー」

「掴まるって、どこによ! 大体、コウモリって夜行性じゃなかったっけ?」

 風の音に負けないように大声で言いながら夜人の顔を見上げると、彼は胡散臭く笑って、

「純血舐めんなよ」

 ……はーい。



 玄関の死角になるところでコウモリから降り、そこからはまた全力ダッシュ。

 下駄箱の場所を張り出されていた紙で確認し、靴を履き替え、クラスまで走る。

 夜人はB組だったらしく、私とは反対方向に走っていった。

 私はF組だ。

 ドーナッツ状に真ん中を中庭にしてその周りに教室を作っているため、すぐには行けない。

 体育の授業でこれくらい速く走れたらいいんだろうと思う。

 勢いよくドアを開き、私の両足が教室に入った瞬間、チャイムが鳴り響いた。

 はーはーと肩で息をする私に向かって、クラス中の目が向けられる。

 恥ずかしいのと、困ったのと。ごちゃごちゃした頭で、考える。

 おばあちゃんが、困ったときは笑顔だって言ってたっけ。

「え、っと……おはよう!」

 笑顔で挨拶すると、歓声が沸き上がった。

「すっげー、よく間に合ったな!」

「いやいや、それよりも初日にギリギリで来るその根性に敬意を示したい」

「凄い走るの速かったよ!?」

 次々に投げられる言葉たちにぺこぺこと頭を下げる。

「朝っぱらからうるさくしてすみませんでした」

 ……明日から目覚まし二個使おう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ