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明日から授業スタートだ!
そう思って六時に目覚ましをセットしたのが昨日の夜。
そして今は、結の呆れた顔が見える。窓から差し込む光が何とも気持ちがいい。こういう朝は、二度寝が最高に幸せなんだよね。
……って、え、朝?
「結おはよう! 今何時!?」
「八時。今すぐ起きないと遅刻するわよ」
その言葉を聞くまでもなく私は飛び起きた。
確か昨日読んだプリントに登校は八時半までと書いてあった筈だ。
華の高校生に(いや、まだなりたてなんだけどね)。しかもこの歳が一番美しいとまで言われる乙女に、たったの三十分で支度をしろと?
とりあえず洗面所に駆け込む。そして鏡を見て絶句。
何故こんな日に限って寝癖って物凄いんだろう。誰か私に答えを教えて。
歯を磨いて洗顔して、寝癖を無理矢理直す。……まだ直ってないけど、まぁいいや。うん、いいってことにしよう。
洗面所から出たとき、結はもういなかった。さすがにもう出たんだろう。少しだけ待っててくれてもいいじゃんか、と思ったけれど、起こしてくれただけでも有り難い。
朝ご飯は諦めるしかない。お昼まで保つかな……頑張れ、私。エネルギーを節約する一日を送ろう。
クローゼットから制服を取り出す。ワンピースタイプって、がぼっと被ればそれなりに見えるから不思議だ。
鏡の前で一応全身をチェック。うん、どこも変じゃない。
鞄は昨日用意しておいた。忘れ物がないか、もう一度確認する予定だったんだけどそんな時間はない。
私が慌ただしく寮を駆け出したのは、八時二十分のことだった。
寮から学校って、近いように見えて結構遠い。
直線距離で見たら目と鼻の先なんだけれど、その間にはグラウンドや食堂、男子寮、弓道場などがあるから、大きく周り道をしなくてはならないのだ。
ああもう、鳥だったら空飛んで最短ルートで行けるのに。
そんなことを考えながら全速ダッシュしていると、少し前の方に背中が見えた。男子だ。
さらさらとした、白髪。……夜人?
「おーい、夜人ぃ!」
大声で叫ぶと、その人は振り返った。白っぽい灰色の目が私をとらえた時、彼はあのにっこりスマイルをした。
「おはよう、七和も道に迷ったの?」
あんたは道に迷ったんだね、でも私は違うのよ。というか、どうしたらこんな簡単な一本道を迷うの?
私は夜人に追いつき、一緒に隣を走る。
「私は寝坊したの。変だよね、目覚ましが鳴った記憶がないの」
「それは……無意識のうちに止めたからじゃないかな」
夜人の苦笑いが心に刺さる。
腕時計を見ると、あと五分しかない。さすがに息も上がってきた。
「……大丈夫?」
なんで男子ってこんなに体力あるんだろう。
ふるふると首を横に振ると、夜人は少し考え込んだ。
「ホントは駄目なんだけど、使っちゃっていいかな……」
「え?」
何を、と訊こうとしたら、夜人が人差し指と中指を唇に当てた。そして鋭く一度息を吹いた。
何が起きるんだろうと思っていたら、後ろからバサバサと何かが羽ばたく音が聞こえてきた。
振り返ると、
「こ、コウモリ?」
「うん。ほら、乗って」
夜人はさっさと彼らの上に足を乗せてるけど、これって乗ってもいいものなの? 落っこちそうなんだけど……。
「大丈夫だから。ほら、遅刻するよ」
そう言われて恐る恐る足を出すと、夜人に腕を引っ張られた。彼も彼なりに焦っているらしい。
「うわっ!」
足元がふにゃふにゃする。うまく立っていられなくて座り込んだ。
でも、夜人はそんなことなど気にならないように再び指笛を吹く。
するとコウモリは物凄いスピードで前に進み始める。
「しっかり掴まってないと振り落とされるよー」
「掴まるって、どこによ! 大体、コウモリって夜行性じゃなかったっけ?」
風の音に負けないように大声で言いながら夜人の顔を見上げると、彼は胡散臭く笑って、
「純血舐めんなよ」
……はーい。
玄関の死角になるところでコウモリから降り、そこからはまた全力ダッシュ。
下駄箱の場所を張り出されていた紙で確認し、靴を履き替え、クラスまで走る。
夜人はB組だったらしく、私とは反対方向に走っていった。
私はF組だ。
ドーナッツ状に真ん中を中庭にしてその周りに教室を作っているため、すぐには行けない。
体育の授業でこれくらい速く走れたらいいんだろうと思う。
勢いよくドアを開き、私の両足が教室に入った瞬間、チャイムが鳴り響いた。
はーはーと肩で息をする私に向かって、クラス中の目が向けられる。
恥ずかしいのと、困ったのと。ごちゃごちゃした頭で、考える。
おばあちゃんが、困ったときは笑顔だって言ってたっけ。
「え、っと……おはよう!」
笑顔で挨拶すると、歓声が沸き上がった。
「すっげー、よく間に合ったな!」
「いやいや、それよりも初日にギリギリで来るその根性に敬意を示したい」
「凄い走るの速かったよ!?」
次々に投げられる言葉たちにぺこぺこと頭を下げる。
「朝っぱらからうるさくしてすみませんでした」
……明日から目覚まし二個使おう。




