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FAINT SUNSET  作者: 長村 八
ようこそ夕暮れ会へ!
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 青い空、白い雲、ぽかぽかとほどよく暖かい太陽の日差し、そんな光に輝く満開の綺麗な桜、生徒で賑わう校門前。

 これぞ、春。

 この春咲(はるさき)高校の真新しい制服を着た私、天羽(あまは)七和(なお)は入学式に浮かれる周りの雰囲気を大きく吸い込んだ。

 すると、周りの興奮が私にも伝染したのか、次第にわくわくしてきた。

 この高校は市内でもそれなりに名が通った全寮制の学校で、進学率もまあまあ。勉強が命っていうような学校ではないけれど、それなりに学力がないとやっていけない……そんな学校。

 決して成績がいい方ではない私が入学できたのは、まぁ運も実力のうちってことで。

 入学式はついさっき終了し、今は自由に校内を見て来ていいと言う。

 ついさっきクラスの人と顔を合わせたばかりだし、まだ友達もいない。

 寂しいことだけど、そのうちできるだろう。人見知りはしない方だし、人当たりもそれなりにいい方だと自負している。

 もう男子が『どの子が可愛いか』なんて話していたけれど、私は、人は中身だと思う。幾ら外見が良くても性格が悪ければ意味ないじゃない。

 なんて、そんなことはどうでもいい。

 今、目の前に見えるのは沢山の人、人、人、人ばかり。入学生だったり、先輩だったり、保護者だったり、先生だったりと実に様々だ。

 だが、一番目につくのは、目立つように工夫をこらされた大きな看板を持った部活勧誘の人たちだろうか。

 なぜか、この高校には尋常じゃないくらい部活がある。

 そのため、少しでも多く新入部員を獲得しようと、先輩たちは必死に……いや、鬼の形相で入部を勧めている。

 運動部は野球部、サッカー部、バスケ部……あれは、ラクロス部? 山岳部や弓道部、アイスホッケー部まである(夏場はどうするのだろう)。

 文化部はメジャーなものでいうと吹奏楽部、美術部、文芸部など。マイナーなものではヘア&メイクアップクラブ、折り紙研究会、魔術部(?)など、色々だ。

 私もバトミントン部、茶道部、写真部、合気道部などに声をかけられる。

 それに曖昧に笑って答えながら、手作りらしい看板を見た。どの部活にも『詳しくは本部、体育館まで!』と書いてある。

 どうやら部活紹介の本部は体育館らしい。説明会みたいなことでもやっているのかな?

 まだまだ部活があるのだろう。私がやりたいと思うものはあるだろうか。

 中学のときは帰宅部だったから、部活に入って青春をする……というのもいいかな。

 興味を引かれて見に行ってみることにした。



 体育館に着くと、まず最初に背の高い男子に目が止まった。

 何、何なの、あの人。

 身長一五八センチの私を嘲笑うかのような、恐ろしい背の高さだ。

 茶色っぽい髪は少し長くて、後ろでヘアゴムで一つにまとめている。

 制服はゆるゆるのだぶだぶ。きっと特注だろう。

 なんか……チャラい。ああいう人とは関わるなって、おばあちゃんが言っていた。お金を巻き上げられちゃうからって。

 だが、本人は気にしていないらしく、手に持ったビニール袋から何かを取り出して食べていた。ふわりとチョコレートの香りがした。甘い物好きなヤンキーか……ふむ。

 そのチャラい人はもっさもっさとチョコレートを食べながら移動する。すると、その人が壁になって見えていなかった視界が、一気に開けた。

 壁にそってそれぞれの部活が小さなテーブルを並べ、説明会のようなことをしている。私は端から順に、見ていくことにした。

 料理クラブ、裁縫同好会、……算盤部って、何をするんだろう。演劇クラブ、軽音部、ダンス部(ダンスとひとまとめに言っても、社交ダンス部やヒップポップ部など、ジャンルが色々あった)、マジシャン育成会、陸上部、ミステリ同好会……。

 結構広い体育館なのにびっちりと机が並んでいるから、まだまだあるんだろう。

 大勢の人がいるので、少しまいってきた。

 私は少し下を向き、目元を押さえた。目が疲れている。チカチカする。

 何処かに人がいない所はないか、と周りを見渡す。身長がないのが恨めしい。あまり周りが見渡せないからだ。

 だが、かろうじて見えた、入口から一番遠い隅が空いていた。



 だがそこに行ってみると、正しくは『空いていた』ではなく、テーブルを出していなかっただけだった。

 床に一畳の畳を敷き、その上に男が肘掛けにもたれながら座っていた。だから高さがなくてわからなかったらしい。

 畳の隅っこの方に、黒い家紋のようなものが書かれた小さな紙が置いてあった。黒丸の中に複雑にまた丸が組み合わされたものだった。なんだろう、海に夕日が沈んでいくような風景を連想させる。

 男は群青色の鮮やかな着流しに黒い帯を巻いており、端正な顔立ちも合わさって、時代劇から抜け出してきた人のようだった。

 少し動く度に、頭の上の方でまとめられた長い黒髪が揺らめく。

 口にくわえた煙管からは煙が出ており、男はそれを上手そうに吸った。

 ……って、煙管? ここ、というか校内中は禁煙だけど。

 驚いて上を見上げると、ばっちり火災警報機。これって、煙草の煙でも反応するように出来ている筈。

 もしかして壊れてる?

 そう思ってじっと目を凝らしても、正常に動いているようにしか見えない。

「あの」

 声をかけると、男が私を見る。

 眼鏡の奥の瞳に、神経質そうな光を見た。

「それ、火災警報機大丈夫なんですか?」

 上を指差しながら言うと、彼もつられて上を仰ぐ。

 薄く開いた唇から「ああ」だか「うむ」だか言って、煙管から口を離す。そしてそれを私の方に示しながら、

「お前、これがミエルのか」

「あ、はい、煙管ですよね?」

 何を言っているんだ、この人は。

「……そうか。お前、名前はなんという?」

「天羽七和です」

 もう一度男は「そうか」と頷き、煙管を口にくわえた。息を吸う。

 それを大きく吐きながら、彼は薄い唇の端をきゅっと引き上げた。

 綺麗だけれど裏のありそうな、意地の悪そうな顔だ。

 ……嫌な予感がする。

「この会に入れ」

 予感的中。速攻で断るべし。

 でもこの人、断るの面倒くさそうだなぁ。

 思わず溜息をつきそうになった時、

夕暮(ゆうぐ)れ会ってここよね」

 後ろからいきなり声がかかって、吃驚した。

 振り返ると、女子にしては背の高い子が立っていた。ふわふわの髪に、白くて小さい顔、華奢だけどスタイルがいい。左目は猫のようなつり目だけれど可愛らしい瞳だ。きっと右目も同じような目なんだろう。

 なんだろう、と推測になってしまうのは、右目にガーゼの眼帯を当てていたからだ。

 それがまた病弱な感じがして、彼女の美貌を引き立たせているような感じがした。

「貴女、邪魔なんだけど。興味だけで立ち止まったなら、さっさと立ち去ってくれないかしら?」

 小鳥が鳴くみたいに綺麗だけどツンとした声は私に向かって発せられたらしい、とわかるのに時間がかかった。

 え、私?

「ここは貴女みたいな凡人が来るような所じゃないの。わかったら早く……」

「いや、こいつは能力持ちだぞ。この煙管をミタからな」

 呆れたようにまくしたてていた彼女の言葉を、その一言で男は止めた。いや、逆か。女の子はその言葉で止まった。

 そして信じられない、という目で私を見る。

「この子が? どんな」

「まだわからないが……間違いはないだろうな。ただ、夕暮れ会の存在は知らなかったみたいだが」

 能力持ち? 夕暮れ会? わからない言葉がどんどん出てくる。

 じゃあ、この美人ちゃんはなにか能力を持ってるってこと? 時を飛べるとか? 超能力が使えるとか?

 ……まさかね、中二病じゃあるまいし。

「お前も入会希望者か?」

「ええ、話は通っている筈よ。蛇ノ目(じゃのめ)(ゆえ)

 じゃのめゆえ? 蛇ノ目ってあの大企業の会社名よね。まさかお嬢様?

 男はその名前に「ああ」と頷いてまた煙管を吸った。

「とりあえず、色々な話はこの後だ。三時、選択教室Cに来い。時間厳守だ」

 ……なんだか、勝手に入会することになっているような気がする。

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