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さらっと読む短編集

終末の白昼夢

作者: 麦ちよこ

最初に言い出したのは胡散臭い自称預言者だった。次に終末論者が古代の遺物だとかを証拠にあげた。いつものパターン通り、雑誌やテレビでそれっぽい特集が組まれて、感化されやすい人だとか前のブームを知らない若者が飲まれていった。

 毎度毎度起こる世界の終末騒ぎ。もういい年で97年は激しかったななんていう感想を持つ俺たち一般人は、そんな中で普通に働いていた。終末だろうがなんだろうが、結局社会は動かなければならないのだ。全くもって信じちゃいない。だけども世界が終わるとき、電気が止まったら?交通が麻痺したら?昔の終末ブームを知る人間はそういう結論を持っているのだ。世界が終わるかもしれないからって仕事を放り出していいはずが無い。だから、このブームでごちゃごちゃ言ってる若者よ、とりあえず目の前のことをしろ。どうにもならないからと言って散財するな。当たっても外れても働くことに意義があるんだよ。俺たちの言葉はあの時のように耳に入れてはもらえなかった。まぁそれもわかってはいたことだった。

 しかしながら、事態は97年を超えるものとなっていた。基本的に予言だとか神の警告だとかを自称預言者やらおかしな宗教の人間が騒いだり、眉唾な惑星機動のCGを使った似非科学VTRが証拠だと今までは決まっていたのに。今回は世界中の人類すべてが同じ日の同じ時刻に同じ夢を見たのだ。

 当然俺も見た。世界の終わりを迎える夢を。集団的に心理状態がパニックになり感染した夢だろうという言葉のほうが胡散臭くなった。何故なら起きて仕事をしていた奴も、車の運転をしていた奴もいきなり目の前でその白昼夢をみたからだ。CGが得意な奴や映像技術を持った奴がその白昼夢を再現した動画をインターネット上にばら撒いた。製作者はバラバラ。細部は技術力の差なのか若干違う。けれどもその動画たちは全て同じ中身だった。そして俺が見た夢も当然その内容だった。動画はネット上で纏め上げられ、「これと違うものを見た者はいないのか?」と問いかけられた。

 あの白昼夢から世界の終末を信じないものが少数派になっていた。そしてぽろぽろと社会を動かすことを放棄するものが増えてきた。電気の供給も怪しくなった。シャッター街が急速に増えた。会社も連絡なしに来なくなる奴や急に辞表を書く奴も増えてきた。世界の終末なのだ。残りの人生を楽しもうとする自分勝手な奴らが増えていった。

 白昼夢騒ぎから1週間たった頃、あの白昼夢動画のまとめサイトに目新しい動画が増えていた。それは「これと違うものを見たものはいないのか?」という問いかけに対する答えであった。正直、ただの目立ちたがり屋が救世主を名乗っているのだろうという思いだった。

 途中までは俺たちの見た夢と同じ。そしてその続きがあった。俺たちの見た白昼夢では、日の出と共に世界が終わる。それをただ静かに白い部屋の小さな窓から見守るものだった。その動画にある続きでは、その白い部屋から飛び出して滅びた大地を再び踏みしめるものだったのだ。

 ネット上ではそれまで白昼夢の考察をしていた奴らが続きの部分の考察も始めた。同時に別の続きや、全く別の夢を見たと言う奴も出てきた。一体何が真実なのか世間は見失った。



 1ヶ月がたった頃、空に大きな白い円盤がいくつも現れた。円盤をみた人々はUFOだ宇宙船だと騒いだが、ただその白い円盤は空に浮いたまま停止していた。例の白昼夢との関連性ははっきりとはわからなかったが、更に終末が近いのだと世間は囃し立てた。

 誰かが言い出した。あの白昼夢で過ごした白い部屋はあの円盤の内部なのではないか。あの円盤は世界が終わる日に我々人類を匿い、終末後の世界へ返してくれるのではないか。円盤に入ろう。そうすればあの夢のように終末を観戦する未来につながるのだろう。何もしなくてもあの白昼夢は未来であり、いずれ我々を乗せるだろう。あれは神からの啓示であり、我々はそうなるべく努力をするべきである。あの部屋は小さかった、数はあるがきっと全員が乗るわけではない。円盤にはきっと小部屋が沢山あるのだろう。いや、選ばれたものだけが乗れるのだ。

 人々は円盤へ乗船することを渇望し始めた。その騒ぎの中、俺の勤める会社は人員不足で閉鎖した。最後まで社会を動かすべきだと思う俺は再就職活動をすることにした。


 円盤に強引に乗り込もうとする国が出た来た。お国柄軍隊を強く押し出しており、当然のように戦闘機で円盤に接近した。「我々の国民全てが終末までに全員乗り込めるように事前に開放する」という理由を述べていたが、そんなに高尚な理由ではないだろう。国民全てをのせるらしい大事な円盤なのに乗船口を探し、見つからなかったので攻撃をした。中に入ってから構造を理解すればあとはなんとでもなるとでも思ったのだろうか。その爆撃は円盤に触れる前に消えた。昔見た映画でUFOが張っていたバリアーみたいだななんて思った。そして意外なことに爆撃を行った戦闘機は何が起きたのか消えた。

 世間はその戦闘機が消える動画を一番の話題にした。俺も動画を見て知ったクチである。戦闘機は攻撃したため消されたのだという意見が大多数を占めた。同時に、一瞬で消えたのだ、もしかしたら円盤の中には入れたのかもしれないという意見もちらほらでた。どれだけ大げさなノックなのだ。俺はどう考えても敵対行為としかとられないと思えた。それと同時期に世間が必要だろうインフラ関連に俺は再就職を決めた。


「以上が私から見た事の顛末です」

「なるほど。一応パニックには巻き込まれた。しかしあなたは社会性を重要視した。結果は後から知らせます」

「ありがとうございました」


 俺の目の前には宇宙人が立っていた。彼は地球から遠い星からやってきて、俺たち地球人に白昼夢からどう思いどう過ごしたのかを質問した。人々が渇望したあの白い円盤の中でだ。

 少々の時間待たされた後、宇宙人は再びあの白昼夢で見たような白い部屋に再び入室してきた。


「結果が出ました。あなたは合格です」

「合格とは?」

「今回の顛末をご説明しましょう。まずあなた方が見たと言う白昼夢。あれは我々が作り皆様に見せたものです。未来の景色ではなく、我々が作ったただの映像です。大丈夫ですね?お怒りではないですか?」

「まだ話が見えていませんから」

「いいですね。やはりあなたは社会性がある。知性ある皆さんを我々と同じだけ文明が進むまで待っているつもりでしたがそうも言ってられなくなったのです。知性の無い宇宙生物の生活圏にこの地球が入ってしまったのです。文明が我々に追いついていないあなた方を受け入れることに意見は分かれました。そして、今回の白昼夢を見せる実験により一部を受け入れることとなったのです。おめでとうございます。あなたは宇宙生物の駆逐が終わるまで我々の保護の下疎開していただくことになりました」

「それはこの星を捨てるということでしょうか」

「いいえ、いずれは帰っていただきますよ。ただ宇宙生物を駆逐するための薬が人体にも毒なのです。あの夢も全てが嘘ではないのですよ。さぁ、窓の外を御覧なさい」


 白い部屋にある小さな窓。その向こうには朝日が昇り、あの夢のように一時的に地球は終末を迎えていた。

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