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第三章:さらにつづくエデン(その3)

お気に入り登録とか総合評価とか、それらの数値が上昇していく様を見ていると、何だか気持ちが良くなります。ありがとうございます。

たぶん折り返し地点だと思います。今回はいつもより少なめ。

そしてもうしばらくお付き合い下さいませ。

 結局、真夜はもう一度風呂に入った。それはオレが風呂からあがった後だった。

 浴室から出て階段で二階へと上がる階段で真夜とすれ違ったが、完全に無視された。

 まさか妹のお願いを聞いている最中に、妹と仲が悪くなるなんて思ってもみなかった。

 後悔先に立たずだが、とりあえずヘコんでまともに歩く気力がない感じに自室に辿りついた。

 風呂の中でのやりとりは正直、理想の中の理想に近かったんだ。

 茜や明のような積極性はないが、かといって消極的でもない。

 煩悩に苛まれてしまった所は確かにあったけど、ただ本当に理想していた通りだった。

 そして、あわよくば……なんて考えてしまっていたが間違いだった。洗ってくれる可能性を、オレは少しだが視野に入れてしまった。アホだ。

 なんとも情けないことをしたなと、オレは感じた。

 とりあえず、今日はふて寝するしかない。

 そう思って学校の準備をし終え、すぐ床に就けるようにした。

 電気を消して寝ようとする直前、ガタっと扉の開く音がした。

「夜遅いんだから、ノックぐらいしてくれよ」

 そう言って扉の方へと目をやると、そこに立っていたのは真夜だった。

 パジャマ姿に温かそうな動物の耳の形をかたどった帽子を被って、そして何故か枕を持ってきている。

 そんな真夜の登場にオレは、衝動的に身を退いてしまった。

 いや、仕方がない。ついさっき険悪なムードになった人が部屋にやってきたのだから。

 でも、ここで突き放してはいけない。兄妹はそうあってはいけない。

「真夜、どうか、したのか?」

 歯切れが悪い言葉を発するオレ。カッコ悪いな、ホント。

 そんなオレに対して、うつむき加減で真夜は話してくれた。

「いや、兄さんにさっきは色々とやってしまってその……すまなかったと思っている」

 そう言って、真夜は深々と頭を下げた。

「いや、こっちも、ごめん」

 真夜は素直だった。逃げるのではなく、すぐ謝ってくれた。

 そして真夜はそのまま、言葉を続けた。

「とっさにあんなことやられると……いや、事故だとはわかっているんだが、私だって心の準備が必要だったんだ」

 確かに心の準備があれば、何とでもなったんだろう。

 ……って、心の準備があれば、何とでもなるものだったのか?

「それに兄さんのアレも洗ってあげられなかったし、兄さんに私の体を洗ってもらうことも結局してもらえなかった。心残りだと思うと同時に、兄さんの期待を裏切ってしまって申し訳ない気持ちでいっぱいなんだ」

 確かに期待はしちゃってはいたけど、だいたいは真夜のお願いであって、オレの期待ではないよね?

「だから今日はその……お互いの心残りを払拭するために、一緒に一夜を過ごそうかと思ってやってきたんだ。今夜は一緒のベッドに寝ていいか?」

 以前までなら驚いていたと思う。

 しかし今は「うーん」と、何か考え込んでしまった。

 何だか方向性は違っても、茜たちとあまり変わらない事態になりつつあるこの状況に、妙な違和感を少しだけ覚えた。

 ただ、やっぱりこれも断る訳にはいかないと思った。

 オレの方の心残りはさておいても、やはり兄妹の絆として。

 あと正直に言うと、理想に一番近い妹と一緒に寝るという、この機会を逃したくないと思いもあったりする。いや、決して手は出さないけど。

「うん、まあ別にいいよ。オレは心残りなんて、それほどないんだけどね。ただ、ベッドって言っても一人用だから、少し狭いと思うけどそれでもいいのか?」

「大丈夫だ。枕があれば私は寝れるからな」

 そう言って枕をオレに示す。

 そしてすぐに、真夜はオレのベッドに入り、寝る体勢となった。

「兄さんも一緒に」

 と、ポンポンとベッドを叩いて、オレに一緒に寝るよう合図をする。

 少し躊躇しそうになったが、オレはゆっくりと歩み寄る。

 その動作やそぶりからは何だか誘惑を込めた魔性の空気が漂ってきて、オレは今までのような軽はずみな素振りをしていいのかどうか一瞬迷った。

 いや、それはただ真夜がオレと同じ年齢で成長した女の子だから感じたことなのだろうとは思う。

 それに本当はしてはいけないのだろうけど、何だかここまで来たら、もう許される気がしてきたし、それほど不思議ではないかなと思えてきた。

 以前、明が言っていた「慣れ」というやつがこれにあたるのか。

 それに妹たち三人とは現にお風呂に入っているし、茜と明とは何度も寝ている。やましいことは一切しないことを条件にしていけば、ここまでは許されていいはずだ。よそはよそ、うちはうちという言葉もある。

 あと、アニメなら時々よくあるシチュエーションだから、そうおかしくはないはずだ。

「兄さん。私の方が、先に寝るぞ……」

 ふぁあ、と大きなあくびをする真夜。

 考え込んでないで、オレも寝るか。

 そう決めたオレは、ゆっくりと真夜の邪魔にならないようにベッドで横になる。

 オレの半径数センチの近さで、真夜の吐息と、髪からの香りがすごく漂ってきた。

 それに、何だか香水もつけている感じもする。

「なあ、兄さん」

 真夜はそう言うと突然、こちらの方を向いてきた。

 顔が近い……本当に近い。

「な、なんだ?」

「もし私が妹ではなかったら、私とお風呂に入ったり、一緒に寝たりすることはなかったのか?」

 屋上で打ち解けるまでは、妹と思えなかった女の子の発言。

 そんな妹の「妹でなかったら」の仮定の話は、何か怖いものがあった。

 でも今は実の妹だ。素直に言ってもいいだろう。

「まあ、そうだろうな。実の妹じゃなければ、そんな勇気持てなかったかもなあ。ただ恋人同士とかだったらもうちょっと普通に入ってたかなと思っちゃうけど、恋人なんていた試しがないから、よくわからないな」

「……恋人となら、堂々と入るのか?」

「たぶん……色々な流れを考えると」

「妹の方がやっぱり、そういうのは不利なんだな」

「いや、有利不利の話じゃないと思うよ。それぞれの愛とかある訳で……真夜、突然どうしたんだ?」

「じゃあ恋人に……いや、何でもない。忘れてくれ」

 そう言って真夜はオレのいる方向と逆の方を向いて、そのまま寝てしまった。

 何だかその言動は変だと少し思ったけど、まあ特に何もなさそうでよかった。

でも、オレに恋人が出来るということは、本当にありうるのだろうか。


 妹たちとの四人暮らしがはじまり、無事試験も終えて、晴れて高校生最大の休暇期間、夏休みへと突入した。

 以前なら夏休みと言えば、オレとトベが一緒にセンター街へと出向いて、オタク向けなお店で色々な物を物色していたと思う。男同士で遊園地なんて考えつかなかった。

 だが、今年ばかりは一人っ子だったオレにも真夜、茜、明と三人もの妹が出来たので、そんなセンター街よりも、遊園地や市民プールなどによく行ったと思う。その間、トベには何度か遊ぶお誘いに対してお断りのメールを送った。「つれねぇやつ」といった返事が来た気がするが、まあ気にはしなかった。

 遊園地では一緒にマスコットキャラと写真を撮ったり、オレは個人的に苦手なジェットコースターやお化け屋敷にも行ってみたりした。まあ、一番苦手そうにしてたのは意外にも明だったが。

 そしてプールでは巨大スライダーに乗ったり、流れるプールで流れに逆らったりしてはしゃぎまくり、無駄に日焼けしてみたりして、帰りには花火も見た。

 もう夏という夏を満喫しまくった気がする。

 あとは宿題をやればいいというのは、どこのライトノベルの話だったか。

 まあそれと似たような感じで、オレと妹たちは夏休みの終わり頃から急いで宿題に取りかかった。

 茜と明はお互いに役割を分担し、オレと真夜も役割を分担して宿題に挑んだ。

 その時の真夜のスピードは驚くほど遅くてびっくりしたが、真夜本人曰く、オレが早いのだと言う。そういや、茜も明もオレの宿題スピードに驚いていたな。まあ何というか、客観視することなんて今までなかったものだから「そうなのか」と少しその意見には新鮮さを感じた。両親の血のおかげか……だと面白いなあ。

 そして夏休みが終わる頃には全ての宿題が終わったので結果オーライという気分だった。

 結局の所、毎日が同じような休みという点では、いつも通りの夏休みだった。

 しかしながら、オレと妹たちの間は少しだけ変化があった。

 一時期は刺激的だった妹との交流も実に大人しいものになった。

 やましいことなど一切なかった。

 それどころか一緒に寝ることもお風呂に入ることもなかった。

 何事もないかのように思えたが、何事もない所が実に奇妙だったと言わざるを得ない。

 そしてまだ、両親は帰宅していない。

 そんな中、夏休みの最終日に一つの変化が起きた。

 どこからかけてきたのかわからない番号からのファックスで、ビビビと一枚の紙が突然送られてきた。

 母さんからだった。

 これまたどこで知ることが出来たのかわからないけど、こんなことが書いてあった。


「真夜っていう妹が出来たんだってね。仲良くしてあげてね。ところで仕事が忙しくて全然帰れる目途が立ってないの。とりあえず銀行にはお金を振り込んでおいたからそのお金でしばらく生活してちょーだい。

あと、もう一人妹がそっちに向かっているんだって。そろそろ会えると思うから、仲良くしてあげてね。

母より」


 もう一人の妹が出来る。

 その文面を見たオレも妹たちも驚いた表情を隠しきれないといった感じだった。

 オレは喜びという感情の中に、戸惑いが混ざって不協和音を奏でていたようだった。

 この妹が増え続ける状況。

 今更なことかもしれないけど、何かの縁というには力が強すぎる気がする。

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