表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/13

第二章:改発龍太の驚愕(その2)

少し更新が遅れました……後半です。

 掃除の最中は妙に会話しづらかった。

「学習机にこれ入れるから、兄貴手伝って」「ああ」

「本棚の下の方に、絵本並べてくれたら嬉しいです」「わかった」

 そのような会話は行っていたが、どうも雑談が出来ず歯痒い。

 それに、本を読んでいたさっきと違って、こちらをチラっと見てはさっと元の作業に戻るという、チラ見な行為も気になった。

 さっき明がオレに向けてた視線より、堂々とした何かを感じた。

 そんな妙な気分の中だったけど、作業は一通り済んだ。そして先ほどケーキを食ったばかりだが、夕食時となった。

 

 食事の準備が出来ている居間。

 茜はあの体操服の姿から、ロリータファッションへと戻っていた。

 そこに家族みんなが集まった時、オレはふと、さっきの薄い本の事が告げ口されちゃうんじゃないかと考えてしまった。

「お母さん、兄貴ってすごく変態なの! すごい本があって、もう危なくて一つ屋根の下で寝るなんて出来ない」「私も……お兄ちゃんには出ていってもらいたいです」

 そんな言葉が出てきたら、色々とオレはお終いだ。

 それだけは勘弁を。

 今は兄妹の絆を信頼しよう。

「あら、あなた達静かねー。疲れたのかしら?」

 と、母さんはオレ達三人に向かって言ってきた。

「うん」

 と頷く明。

 頼むから変な発言だけはしないでくれよ。

「だってね……お兄ちゃんが――」

 そう思っている矢先に、茜が何かオレのことを喋り出そうとしている。

「ストーップ!」

 手を伸ばして会話の制止に入るオレ。生死に関わる問題なので、なりふり構ってはいられなかった。

「ど……どうしたんだ、龍太?」

「いやー……何でもないよ、父さん」

 しかしながら力及ばず。

 そして茜が再度、口に含んだサラダをのみこんでから喋り出した。

「あのー……お兄ちゃんが掃除を手伝ってくれたんだけどね、その時――」

 その先を言ってはいけない。オレの沽券に関わる――。

 しかし茜は言葉を続けた。

「絵本の話に乗ってくれたから、すごく嬉しかった。絵本が好きな人が少ないっていうのは知ってたし、興味を持って話を聞いてくれる人も前の学校とかではいなかったの。でも、今日掃除をしている時のお兄ちゃんは興味を持って話を聞いてくれたの。私、その時すごく嬉しかった。ちょっとそのことを思い出していたの」

 ――あれ?

 むしろすごーくいい話になってないか?

「そうそう、あと兄貴って結構すごいって言うか面白い所があって、隅から隅まで、掃除を丁寧にやるんだよ。それも兄貴自身が意識してないっていうのがすごいなあと、あたしは思ってたりするんだ。……まあ、なんていうか、最初は正直頼りない兄貴かもなんて考えちゃったけど、こうやって接してきたことで、理想の兄貴だなって思えたんだ」

 明も茜の言葉に追随する形でオレを持ち上げてくれた。

「龍太、偉いのねえー」

「龍太。お前、掃除に関してそんなマジメな所があったとは、驚いたなあ。父さんも見習わなきゃいかんな」

 家族のみんなは、オレを褒めながら談笑した。

 オレ自身も笑ってしまうっていうか、嬉しくて涙が出てきそうになる。

 他愛もないことかもしれないけど、オレの中で、こんなに褒められるとか、なかったからなあ。

 さすがは我が妹たち、と言った所か。

 そんな感じで食事中の歓談は、「宴もたけなわですが……」という言葉が親父の口から出るほどに盛り上がった。

 すごく心地よい雰囲気だったし、食べ物も美味しく喉を通った。

 あの薄い本の件についてはどうでも良かったと考えるべきなのかな。


 パーティーの時から夕食まで、オレはずっと妹二人と一緒にいた。夕食が終わってからはそれぞれの部屋へと戻る。

 茜と明は先ほど掃除が完了した部屋へ。オレは自室へ。

 その辺から何と言うか、やっといつも通りの生活が取り戻せた感じになった。

 いや、妹たちが何か悪いことをしたって訳ではなく、少し振り回される所が多かったなと、落ち着いて考えてみただけだ。そして、やたらと自意識過剰に反応しちゃったなあと。

 口拭きも純然たる兄としての行動の一つ。キスはただのお礼。

 そしてそこからの事故。

 薄い本に対しては、特にお咎めなく「なるほど」の一言。

 妹たちに振り回されているようで、勝手にオレが回っていただけだと思う。

 ただそれは正直、仕方がないことのように思えた。

 今日の夕方まで「妹が欲しい」と言っていたオレに妹が二人も出来た。しかも『俺も妹も』の妹たちそっくりの。

 そんなありえない環境の変化に対する焦りが一つ。

 女の子とのスキンシップは杜若を除いてほぼ皆無に等しいので、その辺の慣れがなかったという点も一つ。

 これからは一体どうなることやら。

 まあ慣れるだろって思うけどね。

 しかし心配なことがある。

 今日のキス……しかもマウストゥーマウスのキスのようなことが度々起こった時、オレはどうなってしまうのか?

 正直、理想中の理想だな、なんて感じていたりするかもしれない。

 しかしその一方で、相手は妹とはいえ血の繋がってない女の子だ。何度もやられると気が変になるかもしれない。

 まあ兄として、節度をわきまえればいいと思うんだけど。

 そう色々と水滴の音しかしない、風呂の中で考えていた。

 今のオレは入浴タイム中だったりする。

 ほら、あの人も言ってたじゃん。「風呂は命の洗濯よ」って。

 命とまではいかなくても本当にオレはそう思っていて、実際、自室にはパソコンだったり漫画だったりの誘惑が多すぎる。洗濯どころか、色々と考え込むにはあまり向いてないなーなんて考えるので、風呂場で考えを整理することが多い。

 しかし家族が増えた分、風呂にずっと浸かっていては後がつかえるな。

 そしてよく考えたら、まだ体も洗ってないし頭も洗っていない。考えすぎていたか。

 さて、さっさと洗うか。

「お兄ちゃん、お湯加減はどうですか?」

「おう。それほど熱くもなく、そして冷めてもおらず、丁度いい感じって――」

 ええ!?

 すりガラスが貼ってある扉越しではっきりとは見えてないが、茜の声だ。

「茜……お前、何やってるんだよ!?」

「なにって、それは……」

「兄貴、明もいるよー」

「何で二人ともいるんだよ!?」

 確かにすりガラスの向こう側にうっすらと見える人影は、一人分じゃなくて二人分だ。

 待ちくたびれてしまったのだろうか。

 それなら悪いことをしたとは思うが、出るまで待って欲しい。

「あーちょっと待っててくれ。体洗って頭も洗ったらすぐ出るから、とりあえず居間の方でオレが風呂からあがるのを待っててくれないか?」

「え、兄貴はもうあがるの?」

 なぜそこで疑問形?

「ああ、だって待ってるんだろ? 風呂に入るの」

「それはそうだけど、兄貴がいなくちゃ意味ないよ!」

「明の言う通りだよ。お兄ちゃんが入ってなきゃダメなんだよ」

 風呂に入っていないとダメとまで言われてしまった。

 そして扉越しから、何かがすれる感じの音が微かに聞こえてきた。

 バサッ。

 扉の向こう側から見える人型のシルエットが、除々に肌色に染まっていく。

 ……まさか。

「おい、二人とも。もしかして、今から風呂に入るって訳じゃないよな?」

「え? そうだけど」

 明は当然といった感じに応えてきた。明の発言に続けて茜も言う。

「だって、私たちって兄妹だし……お兄ちゃんとお風呂に入るのって、当たり前かなあって思うの」

「待て待て、茜。その理屈はおかしい。中学生の妹二人と高校生の兄が一緒にお風呂に入ることが当たり前だなんて、どこの世界にそんなものがある」

「兄貴の漫画で!」「お兄ちゃんの絵本で!」

 オレの漫画、絵本――。

 ……もしかして、薄い本を一生懸命読んでいたのは、あの本を欲望の渦とは見ず、教養や一般常識の本として読んでいたってことなのか?

 それならすべて納得がいく。

 今のこの状況だけでなく、咎められなかった理由も。

 薄い本。

 それは妄想の世界が当たり前のものとして描かれているフィクションならではの産物。

 妹づくしのオレの薄い本の束。探せば、お風呂に入って妹と遊ぶジャンルなんて、何冊でも見つかるだろう。

 妹たちはそれを現実の世界の当たり前のものとして読んで学び、それを今、実践しようとしているのか。

 いや、しかしこれは憶測でしかない。

 妹たちの常識に期待したい。

 ここからの妹たちへの切り返しが重要だ。発言しながら一字一句考えていこう。

「いや、あの本はその――妄想の産物っていうか、フィクションなんだよ。そもそも男女の混浴なんてものはペリー来航と明治政府設立によって――」

 ガラララ。

 何の迷いなく、そしてオレの混浴の歴史の話なんて聞こえていないそぶりで浴室に入ってきた。

 妹たちの常識は何かレベルが違う。

 急いで壁にかけてあった小さいタオルを手にして、風呂の中でそのタオルを手で押さえてアレを隠す。

 例えアレがどうにかなったとしても、気付かれないはずだ。たぶん。

 一方の茜と明も、一応二人ともタオルは巻いて隠しているものは隠していた。

 ……が、ギリギリ隠れている申し訳程度のサイズでしか巻かれていない。

 胸が大きめの茜は谷間がくっきりと見える。それに突き出る胸がタオルの表面積を奪っているのか、どことなく短く窮屈な感じだ。見えている足の部分はブルマを穿いていた時と変わらない面積で、この場合はとても危険な格好だ。

 そして明も明で、危険な格好だ。胸の谷間はほとんど見えないのはいいが、同じくバスタオルが短く感じられ、足がひざまでくっきりと見える。さらに明の格好は巻き方が茜と違ってとても雑で、バスタオルを片手で押さえているからいいものの、もしその手を離せば……。

 自宅の浴室に緊張が走る。二人の様子を見るに主にオレの中だけのようだが。

「明、この風呂結構広いぞ!」

「そうだね。一人で入ると何だか心細くなりそう」

 おいおい。なんてのんきなんだ。本当に混浴に抵抗がないと言うのか。

 その様子に驚いている間もなく――じゃぱあん。

「はー。あったまるぅ~」

「お兄ちゃんがあれ以上駄々をこねてたら、私、風邪ひくところでした……」

「いや、あれは駄々なんかじゃない。あと、狭い!」

 確かに家の風呂は結構広いかもしれない。でも三人一緒に入るのは無茶苦茶だ。

 オレは見ないように、そして見られないように妹たちとが背を向けた感じにしゃがみこんだ。

 しかしそれでもお互いに背中合わせになるし、少し動くだけで肩と肩がぶつかり合う。

 それに一人は背中からタオルの感触が直に伝わってくるし、もう一人は背中と背中がピッタリ合わさっている感触も伝わってくるし――うん?

 確か二人ともタオルは巻いていたはずだが、なぜ背中と背中が合わさるんだ?

 誰のタオルが取れている?

 そう思ったオレは、後ろを振り向く……のは躊躇われた。

 しかし、

「おー! やっぱりタオルで空気を包んで、水の中で泡を出すって面白いな~」

 タオルで遊んでいることから確定。タオルを取っているのは明だ。

「茜も遊んでみたら? 童心に返って、こういう遊びをしてみると案外面白いぞ」

「じゃあ……遠慮なく」

 そう言って、タオルを取る茜。茜が巻いていたタオルがしゅるると、体からとれていく。オレの背中に茜のタオルが密着しているので、それが直に伝わってくる。

 そして肌と肌が合わさる。

 つまり今、妹二人はオレの後ろで、一糸纏わぬ姿でいるということになる。

「あっ、お兄ちゃんもこっち向いて一緒にやってみる? 三人のタオルで大きな泡をつくると面白いと思うよ?」

「――って、兄貴の本にも描いてあったね」

 オレの本、すごく細かい所まで読みこまれているな。

 しかし、さっきからオレの本が引用されまくっているけど、「風呂に入る」「泡で遊ぶ」の次の段階まで茜と明は真似するつもりなのだろうか。

 今はまだ前戯の段階。

 常識ならばその先は考えられない。

 しかし、兄妹とはいえ今日出会ったばかりの女子中学生二人と男子高校生一人が一緒に風呂につかるこの状況が、既に常識からはずれている。

「兄貴ー。後ろばかり向いてないで、一緒に遊ぼうよー」

 ここで後ろを振り向いてしまえば、たぶん取り返しのつかないことになる。

 自分のタオルの方の状況も含めて。

「いや、オレは風呂から出るわ。のぼせそうな感じがするし。んじゃ、お先に!」

 妹たちに見せず、妹たちを見ず。そして一目散に出よう。

 オレは立ちあがろうとした。

 その時、誰かがオレの腕をつかんできた。ギュッと強くむしろ引っ張る勢いで、どうしても動くことが出来ない。振り返る訳にはいかない。

 振りほどこうと少し動くと、腕に少しだけやわらかいモノが当たってくる。そこまで大きくなさそうと失礼ながら感じる辺り、つかんでいるのは明だろう。

「兄貴……さっきあたし達が入る前に、『体と頭を洗ってから出る』って言ってたよね? それはつまりまだ洗えてないってことじゃない? 風呂にとりあえず浸かっただけ……それはちょっと、不潔じゃないかな」

 そう。明の言う通り、確かに洗ってない。でもこのままじゃ、別の意味で不潔になってしまうかもしれないんだ。理解してくれ、明よ。

「汗臭かったら朝起きてシャワー浴びるのもいいし、どうってことなければそのまま学校へ行くさ」

 オレはぞんざいな感じに明の手を振りほどこうとした。

 だが明は手を離さない。

「漫画の話じゃなくて、これは兄妹としての話だけど……もしかして、あたし達とお風呂に入るのってそんなにイヤなの……?」

 少しだけすすり泣くような感じの声が、浴室に響いてきた。

 きっと今、明は目に涙を浮かべているのだろう。

 イヤとかそれ以前に、兄妹でお風呂っていうのにオレは抵抗がある。

 しかし、泣かれるのは嫌だ。妹に泣かれるなんてもっと嫌だ。

 オレは風呂から上がったが、浴室のある小さなプラスチックのイスに座った。

「いや、別にイヤとかじゃないぞ。本当だ。今まで風呂は一人で入ってたから、慣れてなくて……そう、口が滑ったんだ! 本当にゴメンな」

 なんと苦しい言い方。

 だが、明はずっとつかんできた手を離してくれた。

「ゴメンね、兄貴。その……あたし、兄貴が兄妹風呂に慣れてないってことに全然気付けてなくて……」

「悪いのは私の方だよ、明。そもそもお風呂一緒に入ろうって言ったのは、私の方なの! お兄ちゃん、ゴメン!」

 予想だにしなかった、茜と明の、心からの謝罪。

 何だかその空気は、オレに罪の意識を感じさせるには充分だった。

「そんなに深刻に考えなくて良いよ。慣れてないものは繰り返していくうちに慣れてくるから、大丈夫。たぶんこれからも三人一緒に暮らしていくにあたって、一杯そういう齟齬は生まれていくと思うけど、何とか……慣れていこう。オレは今から、そうするよ」

 そう言ってオレはシャワーから水を出し、シャンプーで頭を泡だてはじめた。

 これでいいんだ、これで。

 否定しすぎず、また肯定しすぎない。

 妙なバランス感覚の上に立っているけど、これが今の最善だ。

「兄妹になってまだ一日なんだから、私達の方も合わせて慣れていかなきゃならない部分って多いかもしれない。いや、実際に多いんだ」

「そうだね、茜。あたし達はこれから兄貴と一緒に歩んでいくんだから、気付ける部分には気付いてあげないとね」

 その口調を聞くに、もう落ち込んではいなさそうだ。

 よかった。

「「だから、お詫びとして、慣れてもらうように努力しなくちゃ!!」」

 二人が仲良くハモったかと思うと、風呂からじゃばんと飛び出してきて、オレの背中をタオルで擦り始めた。

「ええ、ちょっ。二人とも、今さっきの話、聞いてたか!?」

「うん。『繰り返していくうちに慣れていくだろう』って」

「あと、『オレは今からそうする』とも」

 ああ、すっごい肯定的に捉えられたのね、さっきの言葉。

 色々と複雑な思いもしているという風に言ったのに、ここまで真っ直ぐに捉えられるとは夢にも思ってなかった。

 そして、今のこの現状が夢のようだ。

 妹たちに背中を洗ってもらっている。二人の手が、四つの掌からの小さな力がタオルを通じ、オレの背中にあたっていることが感じ取れる。

 ちなみにオレはシャンプーの泡で目が開けられなく、妹たちを見ようと思っても見られないでいる。まあ、見るつもりはないけどね。

 とりあえず、これぐらいの関係が丁度いい感じなのかな。

 ……いや、少し気になる所があるな。

「あの……茜……かな? その胸のさ、鋭角的な部分が背中にたま~に当たるんだけど、それ、何とかならないかなあ」

「それも慣れです。お兄ちゃん」

「は……はい?」

 その後、オレはシャワーで泡を全身から流し落とした。

 ちなみに体前方のアレは、頭の泡を洗いながす前に自分で洗った。さすがに妹たちにこれをやらせてしまうのは、慣れ以前の問題だ。

「「私たちの体も洗ってね」」

 と、二人は言ってきたが、「慣れるには段階が必要だ。そして今、オレは本当にのぼせそうだ」とか何とか言って、オレはその場を去った。

 もちろん何も見せてはいないし、何も見てはいない。

 そしてこれは、その場しのぎの誤魔化しでしかない。

 今後どうやってこの妹たちとの兄妹風呂をやっていくか。オレは熟考しなければいけないのかもしれない。


 風呂上がりに牛乳を一杯。

 そして、自室に入って明日の学校の準備をして、床に就く準備をする。

 ただし、寝るには早すぎるのでパソコンを開いてサイトや『ツブヤイったー』を巡回。

 なになに……『新作のアニメのPVが公開!』『主役にあの人気声優が決定!』『ビジュアルコミック連載漫画、遂にアニメ化、TV版、劇場版も同時製作!』

 どれも嬉しい情報ばかり。テレビと映画、両方同時製作という手法は新しいかも。

 そして、『ツブヤイったー』は……ああ。トベの家庭内の愚痴しかない。ドメスティックな話題を、何くそと呟かれてもこっちは反応に困る。元々反応はしないけど。

 ちなみにオレは見る専門。所謂、ロム専。特に呟くようなことは、普段ないからね。

 ――いや、今日に限ってはあるのか。

 呟きたいことと言うか、今すぐにでも喋りたいこと。

 養子として二人の妹がやってきたこと。

 そして、その妹たちは何だか少し不思議な所がある。何というか常識とちょっと違っている所。

 兄妹間のキス。薄い本の熟読。兄妹風呂。

 そしてすべてにおいて、恥じらいというものが全く感じられなかった。

 おかしいなとは思う。

 でも今考えると、みんなオレが理想としてきた妹像の再現なんだよなあ。

 無垢で純朴。蠱惑的でもあるぐらいに可愛い。困ったら助けてあげたくなる。それは禁断の一歩を踏み越えたくはないと葛藤してしまう点においても理想そのもの。

 しかしながら、いざ現実になるとオレは「慣れてない」と言ってその場から退避。

 足蹴にするアニメの兄貴の気持ち、少しだけわかったかもしれない。あくまで少し。

……って、いかんいかん。絶対呟けないぞ、こんなこと。

 ただ、同じ学校に通う限りはすぐに妹が出来たことがバレるだろうとは思っている。

 しかしオレの学校での存在感はある意味濃く、ある意味薄い所があるので、バレた所で大したことはないだろうなと思った。ツッコミを入れてくるとしても、トベぐらいだろう。

 そんな一緒の学校通いも明日からか……。

 通学路で何かしでかさないか不安で仕方がない。

 また薄い本の影響で妙なことを考えたりしないだろうか。

 よし。予習を兼ねて、薄い本でも読むか!

「ちゃーっす。兄貴、もう寝ちゃった?」

「わわっ!?」

 すかさず薄い本を隠すオレ。いや、もう読まれた後なんだけど、やっぱり女の子の前というのか妹の前だと隠すのが自然な流れだろう。

「なんだ明か。まだ寝てないけど、ノックぐらいして入ってくれよ」

「そっかーゴメンね、兄貴」

 それにしても明はまた妙な服装をしている。

 明は、自身の体格にしてはかなり大きめのYシャツを着ている。両手が上手いこと袖から出ていないし、下に穿いているものも短いのか隠れてしまっている。

 タッタッタッと、こちらに寄ってきたかと思いきや、オレの布団に明はダイブ。

 その時、大胆に見えた。下に穿いているものは短いというより、下着そのものだ。

 子どもっぽい白のパンツ。またもけしからん格好と言える。

 明はそんな格好のまま、ベッドに顔を押しつけながらもごもごと言った。

「あー……今日はここで寝たいかも」

「いや、そこはオレが寝るから……って言うか、自分の部屋のベッドがあるだろ」

 今日掃除したばかりの部屋のベッド。ちゃんと寝れるぐらい綺麗になったはずだ。

 その時、コンコンとノックをする音がした。

「あの~……茜です。今日は何だか、お兄ちゃんと一緒に寝たいなぁなんて思ってるんだけど……」

「茜かー。あたしもお兄ちゃんと一緒に寝ること考えてたんだ。奇遇だね」

「おい。なんで一緒に寝ること前提になってるんだ?」

「え? そこに明がいるの、お兄ちゃん」

「あぁ、いるぞ。何だかさっきやってきて――」

 その瞬間、「バン」という大きな音を立てながら、部屋の扉が開いた。

「私も一緒に……寝る」

 そう言って入ってきた茜の服装はネグリジェだった。

 薄くはないが、目を凝らすと少し下着が見えてきそうになるそんなネグリジェ。その服にもレースが使われていることで、ロリータファッションを好んで着る茜らしいセンスを感じる。

 茜も先ほどの明と同じように、オレのベッドにダイブしてうつぶせになる。

「私も明と同じように、お兄ちゃんと寝たいの」

「でもそれ、一人用のベッドだぞ? 三人で一緒に寝るって難しいと思うけど」

「でも、『難しい』ってことは不可能じゃないんだよね? ものは試しで、みんなで並んでみようよ」

 明がそう言うので、オレもベッドの中へしぶしぶ入ることにした。

 少し転がるだけで落ちそう……とは思いつつも、確かに寝られないことはない。

「そういえば、これ。兄貴のベッドだよね?」

 そう言って立ちあがった明は一度ベッドから降りる。そしてオレの肩をつついて、

「兄貴。これは兄貴のベッドなんだから、一番寝やすい位置に寝るのは兄貴であるべきだと思うの」

 つまり、真ん中で寝ていいってことなのか。

 真ん中の方が確かに寝やすいし、それはありがたい。

 オレは明に言われた通り、ベッドの真ん中で仰向けになってみた。

 右手には茜がいる。そして、明が左手にやってくる。

 あー……。寝やすいとかそういう話じゃないな、これ。

「確かに寝れるな。すごく窮屈だけど」

「窮屈だけど私は幸せかも。兄妹仲良く寝るっていうの」

「一緒に横になることで、あたしは安心感が出てくるかなー」

 思い思いに言う二人。いやオレ含め三人。

 やっぱりオレは別の場所で寝ようかな、なんて考えた。

 でも何だかここまでされたら、「じゃあオレは布団敷くから、ベッドで二人寝なよ。そしたら窮屈じゃなくなるな」とは言えない。

 川の字になって布団に寝っ転がる三人。

 近くに茜も明もいる。実は本日一番の急接近のような気がしてならない。

 そんな妹たちからは、シャンプーの良い香りが残ったままの髪の臭いと、小さな吐息が聞こえてきた。

 なんだかここにきて、改めて兄妹なんだなあと感じてきて、二人のことをむしょうに抱きしめたくなるほど愛おしく見えてきた。

「そういや朝になって、この三人のうち誰かが起きていれば、寝坊して遅刻することもなくなるんだね」

「そうだな」

 茜の問いかけにオレが答える。静かな夜だし、声がよく響く。

「誰が早く起きるか、競争しない?」

 と、明。

「無論、オレが先に起きるとは思うから、競争にならないと思うぞ」

 なんせ、今まで一人で寝起きをしてきたからな。その辺では負けない自信はある。

「兄貴が負けない? ……ふふふ。その自信、崩してみるよ」

「おう、明。やれるもんならやってみろ!」

「私もそれ、参加してみようかなあ」

「茜は……いつも見てきたからわかるけど、お寝坊さんだから、無理じゃないかな」

「茜はお寝坊さんなのか?」

「そ……そんなことないです! 私は近所のお爺さんおばあさんぐらい、起きるのは早いです!」

「それは少し早起きすぎるな……」

 そんな他愛もない話をしている最中、ふと思い出したことがあった。

 茜と明の、ここに来るまでの話だ。

 やってきた当初、すぐ聞こうとは思っていた。

 だけど、父さんに口止めされた上、そこからずっと驚くことの連続だったから、ここに来るまで忘れていた。

 今なら聞ける――そう思ったけど。

「スースー」

「ガーガー」

 二人ともすっかり寝てしまっていた。

 そりゃそうだ。オレも色々とあったけど、劇的な変化があったのは妹たちの方なんだもんな。疲れるのも無理はない。

 明日じゃなくてもいい。

 むしろ、妹たちが話しかけてくるというのが理想だ。

 その時まで、少し待ってみよう。

 大丈夫、時間はある。オレたちの暮らしはこれからなんだから。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ