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第一章:龍太と、その妹(その2)

システムをイマイチ理解出来てないまま投稿していました。ただ本作はこのまま投稿していこうかと思います。

 学校の近くには駅があり、その周辺を覆うようにして大型マンションが林立している。片道二車線の道路には車が無数に行き交っており、バスがその合間を縫う感じに何台も通っている。比較的、人で賑わっている街だ。

 そしてそんな街から電車で数駅行くだけで、市内最大のセンター街へと足を運ぶことが出来る。パッと見て都会といった感じだ。センター街には外食チェーン店が多数あり、アパレルショップも大小様々な店が出店していて、それぞれに強固な需要が確立されている。また、アニメ専門店からフィギュア専門店、それに同人ショップと、所謂オタク向けの需要についても文句がないほど充実している。

 オレは様々なお店の中でもオタク向けなお店には特に、色々とお世話になっていたりする。おかげさまで『森林ドットコム』では集まらないような薄い本を大量に家で保存することが出来た。

 ちなみに、そんな買い物に行く時はオレ一人じゃなくて大親友のトベも一緒だ。だいたいは休日だが、テストなどで疲れた日にも時々行っている。

しかし、本日のトベは裏切りものだった。

 帰宅する道すがら知ったことだが小説家のサイン会があったらしい。

 携帯のアプリ『ツブヤイったー』を見ている時、フォローしてあったtobe-143(トベのツブヤイったー上の名前)の書き込みの中に、

「サイン会でサインゲットなう」

といった呟きと、もらったサインの画像が表示されているのをオレは見た。

 そのサインはあの人気ライトノベル『俺も妹もそんなにカワイイ訳がない』の作者のサイン会だ。滅多に人前に顔を出さないことでも有名だったりする。

 さらにメッセージを遡っていくと、学校から直接サイン会の会場に行ったこと。そして、その前の日はもちろん準備をしていて、その前の週から色々と心待ちにしていたらしい。

 ちなみに「らしい」と言うのは、この事をオレはトベから何も聞かされていなかったかだ。

 知らない小説家や漫画家のサイン会なら、確かにトベに言われても行かなかっただろう。でもこの小説家のサイン会となれば、興味を持たない人の方が珍しく、オレも例外ではないはずなのだが、何故か誘われていない。

 世界の中心で「チクショー!」と叫びたくなるほど悔しくなった。

 しかしトベの呟きを見るに今から急いで行った所で、サイン会に間に合うとは到底思えない。

 そのままオレは駅に行くこともなく、残念と裏切りの両方の気持ちを持ちながら、その周辺にあるマンション群の通りを抜けて、住宅街へと足を運んだ。

 周りのどこを見ても二階立てぐらいの同じ家が立ち並び、通る車も見当たらなくなった家の密集地帯の中、オレは庭付き家の前で足を止めた。

 扉の横にある表札には「改発」とオレの名字が書かれている。

 ここがオレの家だ。

 誰もいないらしく、ドアノブを回すだけで扉は開かない。

 オレは鍵を鞄の中から取り出し、玄関扉の鍵を開け「ただいま」と家の中へと入っていった。

 家の中には誰もいない証拠に、全く明りがなかった。

 とりあえず、玄関から廊下の明りを順番につけていきながら、居間にあるソファーを見つけるやいなや、ゴロンと横になった。

 その姿勢のままテレビの電源を入れ、レコーダーの電源を入れる。

 テレビ画面に表示されるのは、レコーダーのHDDの中に録画された番組のリストだ。

 

『機動戦艦ガムダンAEG:39話』

『逆転無頼アガギ:14話』

『もしも経済学を学ぶ学者が女子高校生のケータイ小説を読んだら:9話』

『俺も妹もそんなにカワイイ訳がない:15話』

『青の錬金術師:13話』


 ……とまあ、何個も録画リストは表示されてはいるが、このほとんどはアニメばかり。

 そう。オレは妹好きでもあるがアニメ好きでもある――というのは、オタク向けの店で買い物する様子からして、わかることだろうけど。

 そして、生物に関して研究をする父さんもそうだが母さんも同じ職種の研究職に携わっているので、二人して日常生活はとても忙しく、今日のように家を留守にすることはしょっちゅうだ。

 よって、このレコーダーのHDDの中は必然的に、オレ専用となっていた。

 また、この家の中にオレだけしかいないという時間も結構あったりする。

 特にここ数ヶ月は忙しすぎるらしく時々帰ってこない日なんてあったりするしね。

 自由でひたすら伸び伸びと出来る訳だが、そんな気にさせられるのは家が割と広いというのもある。

 一階の居間とかを見ても、やけに広々としている。普段は両親とオレとの三人で、テレビを見ながら飯を食べる空間でしかない。ソファーが二つあったりもするし、それでも何もない空間はたくさんある。やったことないけど、パーティーで人を呼んでも良いかもしれない。

 二階は両親の寝室やオレの部屋がある。研究も兼ねた親父の特別な部屋も二階にあったりする。まあ、本が大量にある部屋なだけだけど。

 基本的にそんな三部屋が使われていたりするのだが、それ以外にも二階には三部屋も物置と化した部屋がある。たぶん家を建てる前は使う気満々だったが、いざ建ててみると使い道がなかったそんな部屋の数々。

 誰も使わないということを逆手にとってオレは、大量にある薄い本や趣味な本達を、そんな使われない部屋の中に隠していたりする。

 自室に隠すのが躊躇われるというか、隠した所で母親の掃除などで見つかってしまう可能性があるかもしれないからだ。

 たぶんこの家を最大限活用しているのは、オレだろう。

 オレはそんなことを考え、家を色々と使わせてもらっていることに対し、両親に感謝の意を示しながら、録画したアニメの何を見ようかとテレビに表示されるリストに注視した。

 今のオレは掃除を長時間やらされ、大親友にも裏切られ、非常に疲れている。

 そう考えると、やっぱり癒されそうなアニメが見たいと思った。

 リストの一つの作品に目をやる。

 サイン会のトベのことを思い出し、少しイラッとしつつもピッと、それに該当しそうなアニメの項目でボタンを押す。


<『俺も妹もそんなにカワイイ訳がない:15話』>


 このアニメは発売当初から話題沸騰のライトノベルを原作にしたアニメ作品。出来あがった作画も原作に忠実で驚くばかり。声優も人気の人を選びまくっている上に、イメージもピッタリ。

 簡単にあらすじを言ってみると、こんな感じだ。


『異性だけでなく同性にも好かれてしまう風貌を持つ、カワイイ中学生、キョウ。

 キョウにはカワイイの妹であるマナとカナの二人がいた。

 学校でモテまくる三人。

 しかしマナもカナも、大好きなのは兄にあたるキョウだったのだ。

 ただ、その妹二人の気持ちに全く気付かないキョウ。

 そんな日常の中、キョウのことを狙うある男子生徒が現れた――』


 言ってしまうと、一巻完結モノのラブコメもの。

 それでもオレが好きなのは、マナとカナの可愛いイラストもそうだけど、マナとカナが兄であるキョウに対して一途な所だ。

 そして見せ場は毎巻最後の方で、キョウと少し甘酸っぱく兄妹愛を確かめ合うというシチュエーションがあることだ。このラストの場面は何が来るかわかっていたとしても、いつも読んでいてイヤらしい笑みを浮かべてしまう。

 さすがにこの笑顔ばかりは気持ち悪いと自覚しているので、電車の中や授業中にこの作品は読まないようにしている。

 そんな訳で、この『俺も妹も』は大好きな作品だったりする。

 そしてアニメ本編を再生した。

 今回の話はキョウを狙った男子生徒のトウ君が、キョウと一緒にいたマナとカナ両方に一目ぼれしてしまった所からの続きである。

 キョウと一緒に歩くマナとカナがカワイイ。歩いているだけでカワイイ。萌える、いやブヒれる。

 マナはロングヘアーが特徴的で、黒を基調としたロリータファッションを着た妹で、大人しい女の子だ。一方カナは、ショートカットが似合う活発な女の子で、オシャレに気を使うより動かしやすいシャツだとかパンツを穿いている。ちなみに髪の色はマナもカナも両者ともに茶色だ。

 そんな二人の大きく無垢なエメラルドグリーン色に輝く瞳は、パソコンの壁紙にすると吸いこまれそうになる。

 ホント、キョウが羨ましくて仕方がない。

 そんなことを考えていると、テレビの画面の方ではトウ君がついにカナの方へと告白アタック。「マナさん、僕と付き合って下さい!」……名前を間違ってしまっている。

マナとカナは姉妹とはいえ、そっくりさんではない。それに大人しかったり、活発だったり、挙動も言動も違うんだよな――と思っている間に、15話のエンドロールが始まった。

「今週もブヒブヒできたぜブヒ!」

 誰もいないのを良いことに、自虐めいた萌えオタクっぽい発言を部屋の中で叫んでみた。

 もちろん、誰も聞いてはいない。

 ただ、『俺も妹も』のマナとカナが今週もカワイイと心の奥底から感じたのは確かだ。

 しかし兄であるキョウが「うるさいよー」と愛くるしい妹たちを足蹴にする場面が少しあったので、その点に関しては不愉快だった。

 原作通りなんだけどね。

 そんなアニメを毎週オレは見ているのだが、このアニメの最新話を見る度に思う。

 いや、このアニメに限ったことではなく、妹が出てくるアニメ全てを見る度に思う。


「願わくは、オレの下にも妹たちを――」


 現実は理解しているつもりだ。

 あり得ない話だと。

 オレは一人っ子だし、今から両親が子どもを作るなんて考えられない。

 それに万が一、今、生まれてきたとしても、妹が育った頃にはオレは学生ではなく社会の歯車として日々働き続けていて、家庭を持つかどうかが最大の問題として立ちはだかると思う。

 だけど、あり得ないからこそ考えてしまう。

 そしてアニメを見て妄想したり羨ましがったり、学校でつい理想の妹について考えたり、時には喋ったりもする。

 理想の妹がいれば、どんなに幸福なんだろう。

 いや、いたとすればオレはどうするだろう。

『俺も妹も』のキョウのように、足蹴にすることは絶対にしない。オレはすべてを受け入れようと思う。

 そして各エピソード最後の場面のように、少し甘酸っぱい兄妹愛を満喫するだろうと思う。

 じゃあその先はどうか。いや、どうなるか。

 それは禁断の愛なんて呼ばれたりする訳だけど、いざとなったらオレはその一歩手前で立ち止まれるかどうか。

 ……双方の同意があれば?

 一瞬だけそう考えたが、これ以上の考えは頭が変になるだけだ。

 オレは妹をそういう眼で見たい訳じゃないんだ。

 愛でたいんだ。素直にそして純粋に兄弟として。

 それだけで充分。充分すぎるんだ。

 そう己の欲望と対話しながらも、オレは次々と溜まっていたアニメを消化していった。

 そのアニメは、二足歩行の巨大ロボットに乗った主人公が、三世代に渡って宇宙人と戦う話であったり、豆粒程度の主人公が頑張って国家の犬になる話だったり、血を抜かれながら麻雀で大逆転する話であったり、マネジメントの観点からケータイ小説の素晴らしさを力説する学者のサクセスストーリーであったり、ジャンルも世界観も見事にバラバラだった。

 

 オレは二階へ上がり、自室に入った。

 部屋の窓際に配置された学習机。その机の上にはノートパソコンが真ん中に置かれ、その隣には学校のプリントの束がひとかたまりになって、まとまって置かれている。

 ベッドは朝起きた時にぐちゃぐちゃにした布団がそのままになったいたので見かねたオレは早速、布団をきちんとたたむ。

 何というか妙に几帳面と自分自身で感じるが、学校の手厚い始動のおかげだろうな。

「学校の宿題がそういえばあったかなあ」

 とオレは呟きながらも、私服に着替えて、色々な本が置かれている本棚からライトノベルを取り出し、そのまま本を片手にゴロンとベッドの上で寝そべりながらライトノベルを読んだ。

 今度は原作版『俺も妹も』だ。

 しかしこのライトノベルを読んでいると、またサイン会とトベのことを思い出した。

 そういえば、裏切りのトベに対して何も言ってなかった。何か文句でも言ってやろうか。

 そんなオレはとりあえず携帯で、『ツブヤイったー』を開く。

 しかしながら今更文句を言っても、虚しくなるだけというのはわかっていたので、何も返信はせず、携帯を閉じた。

 まあ、後日サインを見せてもらうということで、手を打とうではないか。

 そういや杜若は、泣いてどこへ行ってしまったのだろう。

 いや、さすがに居間は家にいるだろうけど少し気になった。

 ちなみにまだオレの両親は帰宅してこない。

 そろそろ夕飯時だから帰ってくるのだろうなあと考えながら、『俺も妹も』を片手に、ベッドの上でウトウトと睡魔に襲われはじめた。

 

 本日寝るのは二度目となるのか。

 そう落ち着いて感がれられる程、オレは夢の中で意識をしっかりと保っていた。何と言うか、微妙ながらこれはオレの特技の一つだったりする。他の人がどうかは知らないけど。

 今回はどうしよう――と考えたけど、やっぱり妹と戯れたいと思った。

「お兄ちゃーーん」

 ほら。望めばもうやってきた。

 夢の中では現実の法則に束縛されることはなく、ましてやご都合主義さえも超える。それでいて妙に現実的だ。

 まぶたを半分閉じて、遥か彼方からやってくる『妹』を注視する。

 そう『妹』と言っても存在としては曖昧で、何というか妹の概念と言った感じではあるんだが、オレはそんな『妹』を妹として認識している辺り、夢のすごさを実感する。

 顔はまだ見えてこないが黒髪ロングヘアーで、白いTシャツを着て、青のショートパンツを穿き、ペタンコサンダルで歩み寄ってくる姿が見える。その姿は夏を連想させ、なおかつ活発で元気な妹のように思えた。

 だんだんと近寄ってくる『妹』。そろそろ顔が見えてきそうだ。

 嗚呼、愛くるしい我が妹よ。早くオレの胸へと飛び込んでこい。お兄ちゃんが頭ナデナデしてあげる。

 その想いが伝わったのか、オレの胸へと飛び込んで来る勢いで、『妹』は歩みを早めた。

 そう、そういう勢いが良いよね。

「ちゃんと掃除は終わったかな、お兄ちゃん?」

 勢いだけじゃなくて身辺の掃除もキチンと管理してくれる辺りも良いよねって、掃除?

『妹』の声が突然聞こえたかと思うと、もう既に目の前にいた。

 さすがは夢の世界、何でもありだな。

 そんな『妹』はしゃがみ込んでいて、両手をひざの上にのせていた。顔だけ下を向いている。

 その顔を上げれば、オレは『妹』の顔を視認出来る。

 あともう少しだ。

「ねえ、お兄ちゃん」

「なんだ、何か悩みでもあるのか?」

 オレはそっと、勘付かれないように、しかし大胆にやさしく『妹』の肩に触れようとした。

 その瞬間――。

 ぱあっと『妹』のTシャツから着ているものすべてが、光を反射する粒子のような物になり、それらが上空へと飛散していった。

 ものすごい光で、オレは目をそらす他なかった。

 そして、次に見た時には、

「ねえ、お兄ちゃん。私って、改発お兄ちゃんの妹にはなれないのかな?」

 その声、そしてその顔立ち。

 それは明らかに杜若そのものになっていた。

 座り込んでいた杜若は立ちあがり、こちらをジッと見る。

 掃除中のあの鋭い視線ではなく、見開いた目で、すごくやさしい視線を感じる。

 服も先ほどの白いTシャツや青のショートパンツではなく、今日オレが学校で見た時のブラウスにチェックのスカートと学校の制服にいつの間にかなっていた。

「ねえ、改発お兄ちゃん?」

 さっきから同じようなことを繰り返してくる杜若。

 ここは夢の中。それはわかっているけど、妙な気分になる。

「お、お兄ちゃん言うな、杜若! た、確かにオレとお前は幼馴染だけど、お前は今、クラスの委員長だ! 逆立ちしたって、杜若はオレの妹になんてなれない!」

「じゃあ、実際に逆立ちしてみるね」

 杜若は両手を上げて、左足を少し地面から離す。

 次の瞬間、地面に飛び込むかのような勢いで体を前に倒し、しかし上手いタイミングで地面に両手をつけ、その勢いとバランスでお尻と両足が持ち上げる。そのまま地面と上手く垂直になり、頭が下につま先が上となってピンとした逆立ちが形成された。

 何やっているんだ、この夢の中の杜若は。

「これで少しは妹に近づいた?」

「いや、近づくも何もねーから」

 そうオレが言って杜若を見た時、視線上に白い布が丸見えになった。杜若のパンツだ。清潔感漂う純白の色をしている。

 逆立ちしたことで重力には逆らえないスカートは、本来の機能を果たさなくなってしまい、スカートの中が丸見えとなってしまった。まあ、この夢の中には重力なんて概念は存在しないに等しいんだけど。

 そして夢の中の杜若は不自然なぐらい全く恥ずかしがることもなく、逆立ちのまま言葉を続けた。

「でも、妹は欲しいっていうのはあるんでしょ?」

「ああ、それはあるな」

「イチャイチャしたい?」

「もちろんさ。頭をなでてみたり、少し甘酸っぱく兄弟愛を確かめたいとも思う。あーでも、良識の範囲内でな。それとオレは『俺も妹も』のキョウのように足蹴には絶対しないし、そもそもしたくない。妹からのものは全部受け止めてやりたい」

「ふ~ん……で、どんな妹がいいの?」

 現実であった質問と、似たような質問が出てきた。

 その時オレの中で思い浮かんだ妹像は、目の前にいる杜若じゃなくて『俺も妹も』のマナとカナだ。

 気付けば逆立ちの杜若の他に、マナとカナがオレの傍にいた。

 意識する間もない刹那の瞬間に、彼女たちは現れていたのだ。

 大きなエメラルドグリーン色の四つの瞳が、オレを覗いてくる。

 マナとカナ。本来は二次元の存在で、杜若もオレも三次元の存在なのだが、ここでは奇妙なことにその差異に対する違和感は、ほとんどなかった。

 それどころか、北桜ケ丘学園の制服を着こなしているので、クラスメイトというか後輩という感じに思えてしまう。

 いやしかし所望通りの妹なんだから、ここは一緒の学校に通う妹たちということなんだろう。

「「改発お兄ちゃん」」

 マナとカナの両方が屈託のない笑顔で、声優を介さないアニメ声でオレを呼んでくれた。

 その瞬間、ときめく何かがオレの胸を貫いた。

 恋心……というものは『彼女イナイ歴=年齢』のオレにはよくわからないが、それに似た崇高なる感情。本能からくすぐってくる心境変化。

 愛でたい。

 この二人を愛でたい。

 そう思って、思い切って抱きつい――。


「帰ったぞー」「帰ったよーただいまー」

 玄関から2階の自室まで聞こえる大きな声。

 両親の声だ。

 オレの二度目の夢は、健全な男子高校生の妄想の域から飛び出ることはなく、遮られてしまう結果となった。

 抱きつくことぐらい、してもいいじゃないか。

 とりあえず寝起きで頭がボ~っとする状態から脱するため、1階の洗面所へと向かう。

 二階から一階へ降りて洗面所へ行く。

 その時、チラッと居間の様子を見ることが出来た。

 毎日のことなので、これといって面白いものなんてない――。

 ……んん?

 何だか居間に女の子が二人いる。

 しかも妙に見覚えのありそうな感じだった。

 ……いや、まだ夢を見ているな。

 まさか寝ぼけて幻覚を見るという経験をするとは思わなかった。

 とりあえず洗面所まで来たオレは、いつもより入念に、すべての眠気を洗いながす感じで顔を洗う。

 眠気も吹っ飛び、今朝から帰宅するまでの疲れも全部なくなったので、気分は爽快となった。

 清々しい気分になったから、とりあえずお茶を一杯飲みたい。

 それに「おかえりー」って、言い返してなかったな。

 そう考えながら、オレは居間と廊下を隔てる扉を開く。

「おかえ……りぃ!?」

 オレは驚きのあまり、声がひっくり返ってしまった。

 情けない声だが、これは仕方がないだろう。

 居間にいるのは、両親二人だけじゃなくて、女の子二人もいるのだから。

 まだ幻覚を見ているのか。

 いや、違う。

 これは幻覚なんかじゃなくて現実。本物の女の子。

「父さん、この子たちは一体……うちの親戚の子か誰かなの?」

「まあ、そんな感じだな。母さん」

「ええ。でもちゃんと言うとね、今日から龍太の妹になる女の子たちよ。龍太、仲良くしてやってね」

 深々とお辞儀をする女の子二人。

 オレもつられた形でお辞儀をする。

 エメラルドグリーン色の四つの大きな瞳がこちらをジッと見てくる。

 これは……えーっと。

 念願かなって、オレに妹が出来たってことなのかな??

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