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エピローグ:これからの妹の話をしよう

終わりです。ここまで読んでくれてありがとうございました。

 父さんたちが帰って来た次の日。

 まるで入れ替わるかのように妹たち……いや、彼女たちの帰宅準備が済もうとしていた。

 その日は土曜日で学校が休みだったから、その作業は朝から行われていた。

 それぞれの実家へと帰るらしい。元々、計画が円満終了してもそのつもりだったらしく、荷造りをする彼女たちの姿はまるで長旅から帰省する旅行客といった感じで、感慨深さを表情から読み取ることは出来なかった。

 茜と明。本名、(なぎさ)(あかね)(なぎさ)(あかり)の両親は交通事故で死んではおらず、この計画に積極的に参加したメンバーだそうだ。「お父さんたちは生きてるのか、良かったな」とオレは呟いたけど、「うん」とから返事されただけだった。

 そういった冷たい態度のフォローなのか、茜も明も、

「改発さんといた日々が楽しかったのは本当だよ。私、ちょっとお兄ちゃん欲しくなったかも」

「改発さんに対して、『兄貴』って言ってて、あたしはちょっと惚れたかもね」

 と言ってくれたが、それが別れの言葉となった。

 気付いた頃にはもう、あの雑然とした実験室はただの殺風景な家具置き場に戻っていて、茜と明の姿を確認することは出来なかった。

 一番長く一緒にいた妹たちなのに、「ちょっと」という申し訳程度の言葉で済まされる関係でしかなかったのかと悔しくなった。

 そしてなにより、「改発さん」と呼ばれないことが虚しさを助長させた。

 そうした中、素子もいつの間にかいなくなってしまっていた。

 基水素子。

 彼女はどこから来たのか結局、聞く間もなくどこかへと行ってしまった。

 ダンボールに入って真夜と一緒に見つけた時のことを思い出す。そのダンボールを遠くから見た時、「捨て猫かもしれない」とオレは言ったけど、まさしく野生の猫のように、誰にも告げずどこかへと去ってしまった。

 でも、猫のように人に見つからない死に場所に行くのではなく、素子なりの生きる場所へと戻ったんだろう。そう考えたい。

 そして真夜も例に漏れず、帰宅準備を着々と済ませていた。


 コンコンと真夜がいる部屋をノックする。彼女が最後に帰省する女の子になる。

「はい」

 ガチャリと開ける。そしてオレを目を合わせた途端、

「今まで騙してて申し訳なかった。計画に関してはかん口令が敷かれていたとはいえ、本当に申し訳ないことをした」

 真夜は深々と頭を下げて、謝罪の言葉を述べた。そしてなかなか頭を上げようとしない。いや、むしろしゃがみこんで地面に額をこすりつけるつもりだ。

「……そんなに謝らなくてもいいよ。頭を上げてくれ」

「あ、うん」

 そう言って頭を上げた真夜だけど、それでも何だか申し訳なさそうな顔つきだった。

「あ……あのさ、オレは真夜に謝罪してもらおうって思った訳じゃなくてさ、むしろお礼が言いたくてここに来たんだ」

「え……?」

「ほら、一杯ヒントもくれたし、オレがピンチになった時に助けてもらったし。てか、オレが助けるべき時に助けられなかったっていうのもあったか。そう考えると、こっちが謝りたいぐらいだよ」

 ハハっとオレは元気なく笑う。

「これから……真夜も家に帰るのか」

「ああ、計画に失敗したから叱られるだろうけど、茜……渚たちと同じで、私もちゃんと両親もいるし、家もある。ここより大きい家だったりするんだ」

「……それは何だか……羨ましいな。ちなみにあの時、放課後に見せてくれた写真は……」

「すまん、あれも嘘だ。……写真の合成技術はすごいものだな。パッと見るぐらいでは、区別がつけられない」

 そう言って真夜は拳をギュッと握りしめる。

「兄さん……」

「無理せず、改発でいいよ」

 正直、この場の空気は湿っていてどんよりとして、気分を落ち込ませるには充分すぎるぐらいだった。

 真夜が何とかして場の空気を和ませようとしていることはわかってはいた。けれども、お互いにそういう気分になれない。

「改発……別れる前に一つ言っておきたいことがある。聞いてくれるか?」

 オレは無言でうなずく。

「えっと……渚たちが改発に告白している中、私が告白しなかった理由がまだ言えてなかったからここで言うよ」

 真夜は一呼吸おく。そして、


「私は、普通に、男の子として、改発龍太のことが、好きになっちゃったんだよ!」


 廊下だけじゃなくて、一階にまで届く、いや空にだって届く。そんな大きな声で真夜は己の心中をぶちまけた。

 その瞬間、真夜の目からドッと涙が出てくるのも見えた。

「え……ええ?」

 そしてその言葉は、オレの心にももちろん届いて、鼓動がだんだんと早くなるのがわかった。

「私が妹じゃなければとか言ったのは、計画とは無関係に、ただただ本当に好きで好きで仕方がなくて、一度は諦めたりしたんだけど、でもやっぱり好きって気持ちは諦められなかったんだ! だからもう一度言う! 改発、好きだ!!」

 そう言った真夜はギュ~ッとオレを力強く抱きしめてきた。ポタポタと落ちる大粒の涙はオレの肩を湿らせるのには充分すぎる程で、そんなオレの肩に真夜は顔をうずめた。

 真夜の胸から伝わってくる、真夜の心臓のバクバクと早い鼓動は、オレの鼓動にシンクロしていたと思う。

 そんな真夜とオレの抱擁は乾ききろうとしていたオレの心に真水のごとく染み込ませてくれる、そんな感じだった。

 そんな中、オレは少し落ち着いて、この真夜の告白のことを考えてみた。

 元兄さんなんだけど、人生初の女の子からの告白か……。

 だけど、

「もう、お別れなんだよな」

 時間はもうない。

「うん。イヤって思ってもそれだけは避けられない。だから兄さん……いや、改発。一つだけ約束してくれないか?」

「……何でも言ってみろ、真夜」

「今度は堂々と風呂に入ろう。恋人同士として」

「うん」

 そう、オレと真夜は言葉を交わして、互いの唇を重ね合わせた。

 そんなやりとりがあった一時間後。

 真夜はオレとオレの両親三人にお辞儀をして、黒光りする高級車に乗ってどこかへと行ってしまった。

 日は暮れ、闇夜が空を覆いはじめている。そろそろ夕食の時間だ。


 家族で食べる食事は久しぶりだった。無難すぎる家庭料理の代表作、肉じゃがが今夜のメニューだった。

 手を合わせて「いただきます」と三人合わせて言う。

「いやあ、久しぶりだな。家族で食べる食事って。これからは毎日食べていこうな」

「そうねえ~」

 本当は喜ぶべき所なのかもしれない。いや、久しぶりの一家団欒なんだ。喜んだり、楽しまない方がおかしい。

 でも今のオレにはそれが出来ない。

 明日も明後日も、当然そこにいるだろうと思っていた妹……いや、彼女たちがいなくなって、この広々とした居間がムダに広いとさえ感じるし、違和感すら覚える。

 本当は食欲すらないのかもしれない。でも、作ってもらったからには食べないと。

 そう思ってオレはジャガイモを口に入れた。

 …………。

 普通の、そしておいしい母の味だ。

 けれど最初に感じたのは、茜の料理じゃないってことだった。

 それと同時に、茜の最後の素っ気ない態度が頭に浮かびあがるけど、茜のあの味は本物の旨さだった。

 あの料理をオレは二度と食べることが出来ない。

「おいどうしたんだ、龍太。そんなに母さんの料理が旨いのか?」

 気付いたらオレは、肉じゃがに涙をボロボロとこぼしていた。

「旨いけど……別にそういう訳じゃ」

「……父さん、龍太は色々と疲れてるんだよ。そっとしてあげなさい」

 その時の母さんの言葉の優しさには感謝したくても出来なかった。

 今いる家族よりオレは、今いない偽りだった家族のことを考えてしまっていたのだから。

「うん……まあそうか。でも妹達はみんな帰ったみたいだし、これからはいつも通りの日常に戻れるんだから、今までみたいに無理はするんじゃないぞ」

 父さんがその言葉を言った瞬間、脳裏にピリっと来るものがあった。

 父さんはみんな帰ったと言ったけど、一人だけ別れを見てない妹がいる。

 うちのクラスの委員長でオレの幼馴染で妹の杜若花音だ。


 オレは肉じゃがを食べたらすぐ外へ出た。

 今度はちゃんと靴も履いて、杜若の家へと向かった。

 川沿いにある杜若の家は、まだ一二時も回っていないのに明りが灯っていなかった。早く寝たとは考えられなくて、玄関のチャイムを鳴らす。

 何度も何度も、杜若か家族の人、誰かが出てきてくれるまでこれでもかという風にオレはチャイムを鳴らしまくった。

 だけど、誰も出てこなかった。

 オレは慌てながらも持ってきていた携帯電話を取り出して、杜若の番号に電話をかけた。

 プルルルと電話の音が鳴って「よし」とガッツポーズを繰り出した。

 しかし、

「――現在、電波の届かない場所にあるか、電波が入っていないためわかりません――」

 と、事務的なアナウンスが流れてくるだけだった。

 オレは番号が間違ったとか、名前一覧で別の人の名前をプッシュしたんだとか、色々な可能性を考えてみたけど、オレがかけたのは間違いなく杜若花音の電話番号だった。

 お別れの言葉も言えてないし、お別れの言葉も言わないで、去ってしまったのか。

 帰り、オレは川辺で「わーーーー」と大きな声で叫び、その辺の石をとにかくムチャクチャな感じに川へ投げまくった。

 ただ、それはムシャクシャしたオレの感情を落ち着かせるどころか、虚しくする一方だった。

 何も出来ない無力さを背に、オレはトボトボと家に帰った。

 

 自室にて風呂が沸くのを黙って待っていた。『ツブヤイったー』を開くとトベの呟きが見れるが特に今日も反応したいこともなく、ただROM専に徹する。布団の傍にあるライトノベルを読むのも、自室に持ち込んだままだった薄い本を読むのも、何の気力も起きない。

 すべて偽りだったとしても、過ごしてきた数ヶ月の感情は本物で、すごく充実して幸せだった。それは否定できない。だから今のオレの日常は喪失感でしかない。

もう、どうしようもないことだけはわかっていた。

 開き直る気力はないけど、だからといって何もしない訳にはいかない。

 明日は学校があるんだ。

 とりあえず学校の準備をして、寝よう。


「お兄ちゃーーん」

 タッタッタと黒髪ロングヘアーで、白いTシャツを着て、青のショートパンツを穿き、ペタンコサンダルで歩み寄ってくる女の子っぽいシルエットが見えてきた。

 ……なんだこの既視感は。デジャブか?

 いやそれよりこれは夢の中っぽいな、どうも。

 顔ははっきりと見えてこないけど、『妹』っぽい。

「久しぶりだね! お兄ちゃん、あそぼ?」

 首をかしげて、こちらを見上げてくる『妹』。

 だけどオレはそんな気分じゃない。

「すまんな、今日は遊びたくもない。そして妹をオレはもう見たくないんだ」

「ふーん、なんで? 嘘をつかれたから?」

「いや……まあそれもショックだったけど、何というか、いざ妹が出来たら理想とは全然違うんだなあとか、理想通りにはならないんだなあって思わされてさ」

「まあ、仕方ないよ。二次元と三次元。創造物と人間。相手は人間だもの」

 そう割り切れる物でもないだろうと、首をかしげながら顎をしゃくった。

「ふ~ん……じゃあさ、またあえて聞くけど、どんな妹が欲しいの?」

「だから、妹はもういいって!」

「でも今日はずっと、すべてが空虚に感じたっていうことは、妹の必要性を日常で感じてしまったってことでしょ? 本音では妹が欲しいって思ってるんだよ、きっと」

「それは詭弁だよ……たぶん」

 オレが弱々しくそう答えると、ニヤニヤしながら『妹』はこちらを覗きこんできた。

 いや、概念の『妹』だから覗きこんでくるのが何となくわかったという感じか。

「あえて言ってみてよ」

 オレはしばし、熟考。そして頭の中に浮かんだ言葉をそのまま吐き出すように喋った。

「理想と現実は違うものだから、ベタベタな妹は二次元だけにしておくよ。でも、たまにはデレっとしてる瞬間があってもいいと思う。ただその間に、怒ってる瞬間もあれば苦悩してる瞬間もある。そしてオレが見ない所では嫌なこともしてる。つまり、オレが欲しいって思う妹は、理想から離れている妹だと思うんだ。今なら『俺も妹も』のキョウのような足蹴にすることも理解出来る」

「へー……でも、それって苦労したりしない? 嫌にならない?」

「……なるかもしれない。でも、それを褒めたり叱ったりして、兄妹の絆を繋ぐ。それこそが本来の妹というか、兄妹だとオレは思う。そういう妹なら欲しい」

 それを聞いた『妹』は、

「――なら、いるっぽいじゃん。明後日、教室で話してみれば?」

 フッフッフとほくそ笑んで言った。

「え? 誰のこと言ってるんだよ」

「そんなの、一人ぐらいしかいないでしょ?」

 そう言って、『妹』はその一人の姿になった。

 その瞬間にオレは目が覚めた。

 何だったんだ、今のは?


 オレは何事もなかったかのように登校をした。

 いや、緊張して少し鼓動が早くなっていた。

 一昨日の夢のお告げが気になるからな。

 バカバカしい話かもしれないけど、三ヶ月前に『妹』が出た時に言ったオレの願いが現実になった。だったら三ヶ月ぶりに見た夢の『妹』の話も、もしかしたら、もしかするのかもしれない。

 まあ、願掛けのようなノリでしかないんだけど、オレはそれに賭けてみる。

 そして一階正面玄関に来ると、トベがこちらに向かって走ってくるのがわかった。

「ういーす、改発。……ってあれ、今日は一人なの? いつも両手に花みたく、妹たちと一緒に登校してるのに。茜ちゃんたちとか中ノ原はどうしたんだ?」

「ああ……妹達なら引っ越したよ」

 オレは寂しさを悟られないように、笑顔で返す。

「引っ越し!? ……っておいおい、それは急すぎるっていうか、お前は残るのか?」

「うん、まあそんな所だ。オレは元通り。妹達は一人暮らしって感じかなあ」

 たぶんこういう質問はこれから色々と聞かれるだろうなとは思うけど、計画の概要を知っているクラスメイトはまずいないので、適当にはぐらかすのが吉だろう。

 嘘だらけだけど、たぶんバレない。嘘が心苦しいのは承知の上だけど。

 そうしてオレはトベと他愛もない、昨日みたアニメの話とかアニメ化される作品がどうだとか、そういう話をしながら教室の前まで来た。

 しかしオレはそこで一度歩みを止める。

「ん? どうしたんだ改発?」

 夢では『教室で話しかけてみれば』なんて『妹』に言われた。つまり妹が一人、学校にいるかもしれないんだ。

 そう考えるとオレは扉の前で立ちすくんでしまった。

「気分でも悪いのか? だったら保健室行っとけよな。先、教室に入るぜ」

「ま、待って。別に気分悪くないし、オレも入る」

「……一緒に教室に入るっていうのも、変な気はするけどな」

 そう言って、オレとトベは一緒に教室の中へ入った。

 トベが自分の席に座ろうとする中、オレは座らず教室中を見渡した。

 中ノ原真夜。

 彼女はこの教室にいない。

 彼女にもいて欲しかったけど、一昨日の別れからそれは期待出来なかった。

 あと、この教室にいるとすれば杜若花音だ。

 クラスの委員長でオレの幼馴染で妹の杜若花音。

 杜若にはまだお礼も言えてないし、別れの言葉も交わせてないじゃないか。

 ……いや、もしかしたらここから見えないだけで、例えば机の下に隠れているのかもしれない。

 呼びかけてみよう。

「おーい、杜若いるかー!」

 大きな声を出しすぎてしまったか。

 ざわめいてた教室が一瞬にして静まりかえって、オレの方に冷ややか視線が飛んで来るのを感じ取った。

「……あ、いないのか。そうかーそうかー」

 今のが戯言と思われるように、わざと教室中に聞こえるよう、下手な芝居めいたセリフを言ってみた。

 ちくしょう、本当にいないのかよ!

 そう悔しい表情を露骨に顔に出しながら、そしてその表情が周りの人の恐怖心をかきたてつつ、オレは自分の席へとついた。

 そして朝礼の開始を告げるチャイムが鳴った。

 結局、杜若は教室に現れなかった。

 他の妹を信頼したのと同様、杜若に信頼するっていうのもまたバカなことだったのか?

 サラブレッドなんて呼ばれたらしい男なのに情けない。

 教室の扉が開くと担任の三出先生がやってきた。

 まず先生は、中ノ原真夜が家庭の事情により転校したという話をした。その話が出た瞬間、みんなオレの方へと視線を向けたが、オレは知らんぷりを決め込んだ。

 そのざわめきが終わると、三出先生はオホンと咳払いをした。

 次に先生が言うのも転校生の話だろう。

 杜若花音が転校したと喋るに違いない。

 そうオレは身構えていたが……先生は出席簿を開き、出欠確認をし始めた。

 杜若の話はどうしたんだと思った瞬間、ガララと教室の扉が開いた。

「先生、遅刻してしまいました。すみません」

「いや、まだ出欠取る直前だから遅刻にはしない……けど、今度から気をつけるように。杜若委員長」

 杜若がやってきた。

「か……杜若! お前、転校したんじゃなかったのか!?」

 オレは立ち上がり椅子を倒しながら、杜若に向かって言った。

「転校……なにそれ。私はそんな予定ないけど」

 よかった、よかった……心からそう思った。衆人環視の教室の中ではではさすがにな気ことは我慢したけど、瞳が潤んでいることぐらいは誰かに気付かれたかもしれない。

 でも、そんなことがどうでもいいってぐらい、オレは嬉しかった。

「あー……何を喜んでるのかは知らんが、改発龍太。さっさと座りたまえ」


 放課後の教室にて、オレはまた掃き掃除を一人残ってやっていた。

 今日はワザと遅く掃除をしている。

 この掃除の時間が二人っきりになれる、一番早い時間だとオレが考えたからだ。

「……改発はいつも以上に掃除が遅い気がするんだけど、それは私に対してのイジメか何か? それとも掃除中に一杯話したいことがあったり?」

 さすがは委員長。オレの気持ちをもう察してくれていた。

 なら、オレは心おきなく話が出来るという寸法になるな。掃除もしながらだけど。

「まあ、杜若に話っていうか、話したかったのは一昨日のことなんだけど……妹達、あのケンカのあと、みんな帰っちゃったんだ。仲違いとかそういう訳じゃなくて、結果だけ言えばオレの妹じゃなかったから……このクラスの中ノ原真夜も含めてね。で、妹じゃなかったからみんな帰ったんだけど、じゃあ杜若はどうなるんだって思って電話したんだよ。そしたら繋がらなくて、家に行っても真っ暗で……オレ、その時はどうにかなっちゃいそうだったんだよな」

 正直、その時のムシャクシャした気持ちを思い出すとたまらなくなってきた。

 でも、杜若に会えた今、その気持ちを表に出す必要はないと思いオレは堪えた。

「……ほんとゴメン。二日間、祖母の家に行ってたの。携帯が繋がらない不便な所で、帰ってきたのが昨日の夜中だったんだ。でもまさか、その間に改発の妹達が帰っちゃってたなんて……」

 両手を合わせてゴメンと謝罪のポーズを取る。

「でも、出かけてたならしょーがないよ。オレにわざわざ出かけるかどうか何て、言う必要ないからね」

「改発……でもそれだと、私は改発を応援のつもりで色々と言った言葉は、結果として意味がなくなったんじゃないかな? だとすればすごく申し訳ないよ」

「いやいや。オレがバカみたいに妹の理想像なんて求めすぎた結果だと思う。それはそれで好きなんだけど、実際にはそう都合いいことはないよねって気付くべきでさ。でも、杜若が色々と言ってくれたおかげで分かったことがあるんだ。それについても話したかった……だからオレは、これからの妹の話をしようと思う」

 オレはホウキを壁にかけ、杜若の方へ向いた。

 そのオレの突然の行動に、少し姿勢が固くなる杜若。

「……何、改まっちゃって。一応聞くけど、これからの妹って私のこと?」

「いいじゃんか、たまにはこうやってカッコつけても……これからオレは杜若の兄になるんだから」

「つまり、私を妹として迎えたいってこと?」

「うん」

「でも、私が妹だと今まで改発が理想としてた妹像から離れすぎてない? それでも大丈夫なの?」

 ツンツンとひじでオレの腰の部分を、杜若は笑顔でイタズラっぽく小突いてきた。

「……理想から離れてるかもな。でも、これからオレが迎える妹っていうのは、杜若が良いんだよ」

 そうオレが言うと杜若は小突く動作をやめて、頭から湯気が出るくらいに顔を真っ赤にした。

 妹を迎えることは、お互いの家庭の事情とかで色々あるかもしれない。

 でもオレは何があっても、どんな形であっても迎えようと思う。

 そして、顔を真っ赤にした杜若はこう言った。

「でも、掃除はさっさと終わらせてね。お・に・い・ち・ゃ・ん」

 

【終わり】


終わりです。

長編でしかも他の小説と比べると改行がなく、結構圧迫感があったとは思いますが、それでも読んでくれた方には感謝。

お気に入り登録や評価、PV(最後の最後で2000PV超え)はすごく気になってたり、また数が増えると嬉しかったりしました。


初めて書いた長編どころか、初めて書いた小説。最初にも書きましたが去年の今頃、MF文庫に投稿した作品です。一次落ち。いま覚えば、「まぁそりゃそうだよね」といった感じに見えます。

いま、この作品を書くとまた違った文章になったりするんだろうなぁとか、内容やヒロインも変えるだろうなぁとか思いつつも、それならそれで、新作を書いてみようと思う感じだったりします。

しかしアンチテーゼ……初めて書く内容としては、ちょっと敷居が高かったかな。

でも書いてて楽しかったし、愛すべき作品だなとは今も感じています。


次は一つ短編を載せます。

少し間があいたので、リハビリとして書いたものです。これは来週か再来週にでも。

そのあとにはVRMMORPGっぽい長編を一つ載せたいなと考えています。1話4000字。しかしながらプロットが完成しただけなので、いつ載せるかとか考えてませんし、まったりと考え、まったりと載せようかと。

もう一つはガガガ文庫に投稿予定の長編。これは今、一生懸命になって書いているやつなんですが、ただ投稿予定だったりする分、載せて数ヶ月したら消さなきゃならないというのはどうなんだろうと思っている最中です。

完成したら日をあまりまたがずに、全編載せたい所ですね。


それでは、また。

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