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シロクロPOB  作者: 滝沢美月
第2章 その関係はタブー?
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第8話  交錯する視線



 うーん、どうしよう。

 ちょんちょんっと、つま先をついて左足首をまわしてみる。動かすと、ズキンっと鈍い痛みが走る。

 部活まではおとなしくしてようって決めてたけど、大好きな体育の授業、一時間もぼーっと座ってるなんて退屈すぎる。あー、出たい! どうしよう……

 体操着に着替えて体育館に向かう途中。


「芹沢さん、今日はバスケの試合だって」


 私にそう言ったのは、三組の体育委員の矢内さん。体育は二クラス合同で女子と男子に別れてする。うちの二組は三組と合同だから、授業の時は矢内さんと協力して体育委員の仕事をするんだ。

 体育委員って、体育祭や球技大会の運営の他に授業の準備や連絡もするし、授業の最初にみんなの前に出て大きな声で掛け声をかけながら体操しないといけなくて……

 委員会でもあって、教科の係でもある――なんとも大変な委員会なんだよ。

 だから、体育委員になりたがる人は滅多にいなくて、だいたい最後まで決まらない委員会のトップ三なんだよね。はぁー。そういえば、虎太郎ちゃんはどうして、こんな大変な体育委員になったんだろう? 私はジャンケンで負けて仕方なくだけど……

 そんなことを考えながら、矢内さんに言う。


「もう聞いてきてくれたんだね、ありがと」

「どういたしまして」


 矢内さんはにこりと笑うと、体育館の中央にいる友達の方に駆けて行った。


「芽依ぃ~、どうするの? 見学しないの?」


 見学するなら、生徒手帳にそのことを書いて、体育教官室にいる先生に言いに行かなければならないから、いちお生徒手帳は持ってきたけど……

 私は、手に握った手のひら大の生徒手帳をみつめる。

 バスケの試合なら、交代でコートに入るし、あんまり動かなければ大丈夫そう……だよね。


「うん、たぶん大丈夫」


 私は眉を寄せる夏凛に笑いかけた。



  ※



 体育館の中央には緑色のネットが引かれ、舞台側に男子、入り口側に女子が、それぞれ並び準備運動をする。私は矢内さんと二人、女子が並ぶ前に出て、一、二、三、四……って掛け声をかけながら体操をする。

 体操を終えると、二組チームと三組チームに別れてそれぞれ五人ずつがコートに立つ。倉庫から出したボールの入った籠からバスケットボールを一つ取ると、コートの中央に立った審判役の子が、ボールを天井めがけて、高く投げ上げた。

 最初の試合が始まり、まだ出番ではない私と夏凛はネットの近くに座る。試合を見ながら喋ってたんだけど、横にいた女子達の黄色い声に、振り返る。

 ネット越し、舞台側にいる男子達もバスケの試合をしていて、虎太郎ちゃんがシュートを決めたところだった。


「キャー! 田中君、カッコイイぃー!!」


 ほとんどの女子が虎太郎ちゃんを見て、声援を送ったり、きゃっきゃと騒いでる。


「おぉー、相変わらず、田中君はモテモテねぇ」


 にやりと笑って夏凛が言う。だけどその言葉に頷く前に、コートにいる人物に気づき、夢中で手を振る。


「あっ、小坂君も試合中なんだ。小坂くーん、頑張って」


 頬を染めて、ネットにかじりつくようにして男子側に体の向きを変えた私を、夏凛が隣で白けた視線で見つめてくる。

 だけど、そんな視線は、無視無視!

 私の声に気づいた小坂君は、こっちを見てにこりと笑った。

 わぁー、なんて素敵な笑顔なんだろう。

 小坂君に見とれてたんだけど、ちょうど小坂君の側にいた虎太郎ちゃんが視界に入り、虎太郎ちゃんが私を凝視してることに気づき、瞬く。

 虎太郎ちゃんは、声を出さずに口だけ動かして何か言っていた。

 ん?

 だいじょうぶなのか――かな?

 私は大丈夫って意味を込めて、虎太郎ちゃんに笑顔を作って手を振った。その瞬間。


「イヤーっ!」


 悲鳴のような囁きが聞こえて、振り返ると、女子の視線があちこちから突き刺さって、目をぱちぱちと瞬かせる。

 えっ、なに? そう思った瞬間。


「キャー、田中くーんっ!!」


 またまた虎太郎ちゃんへの黄色い歓声が体育館に響く。

 私は訳が分からず、首を傾げて男子コートに視線を戻すと、虎太郎ちゃんと小坂君がボールを取り合っていた。ボールを持った虎太郎ちゃんの前に小坂君が立ちはだかり、ボールを奪おうとする。虎太郎ちゃんはドリブルで交わすそぶりを見せてフェイントをかまし――シュートを放ったボールは、綺麗な弧を描き吸い込まれるようにゴールに落ちていった。

 シュートを決めた虎太郎ちゃんは有沢君とハイタッチをして、一瞬、私を見てコートの中央に戻って行き――シュートを防げなかった小坂君はボールを拾ってきたクラスメイトの福田君に肩を叩かれ、スローインするためにコートの外に向かって歩きながら、一瞬、私の方をちらりと見た、ような気がした。


「うーん、複雑なカンジになってきたわね~」


 隣で夏凛がしみじみと、瞳を輝かせて言っていて、私は意味がわからなくて首をかしげる。そんな私を見て、夏凛はにやりと意地悪な笑みを浮かべて、ふふんっと鼻で笑ったのっ!

 イ・ヤ・な、カンジー!

 私は唇を尖らせて、眉を顰めて夏凛を睨むと、ぺちんっとおでこにデコピンされた。


「まっ、せいぜい頑張りなさい」


 なにを頑張れって言われたのか、本当にその時は意味がわからなかった。


「さっ、私達の試合の番よ」


 そう言った夏凛は立ちあがるとコートに向かい、私は慌ててその後を追いかけた。

 試合が始まると、足の痛みも忘れて、バスケに夢中になってしまった。案外、走ってる時は平気で、立ちはだかる三組の生徒の間をすり抜けるように素早く、ゴールに向かってシュートを放つ。

 シュートの際、軽く飛び、着地した瞬間に、ビリっと痛みが走って、私は眉をしかめた。


「ナイッシュー!」


 夏凛が手を掲げたので、私は笑顔でパチンと手を合わせる。でも、ハイタッチの僅かな衝撃で左足に思いっきり体重がかかり、腰をかがめて、痛む左足に手を当てる。

 三組によってスローインされ、試合が再開する。夏凛はボールを追いかけてコートを下がっていく。

 私は左足首の痛みにしばらく身動きが取れず、目だけでボールを追いかけ試合の流れを追う。

 三組の子が放ったシュートは、夏凛にカットされ、ドリブルしながら攻め上がってくる。何度かクラスメイトにパスを出し、手元に戻ってきたボールを持った夏凛の前に二人がディフェンスに入る。夏凛がドリブルで強行突破しようとした時、私と目が合い。


「芽依――」


 言うと同時に、夏凛が私目がけてボールを放った。

 私の位置はゴールの真下。シュート後、ぼーっと突っ立てた私の周りには三組の生徒はいない。夏凛の意図を受けて、飛んできたボールを取ろうと手を伸ばしたんだけど、踏み込んだ瞬間、足に強烈な痛みがはしり、ぐらりと視界が歪む。

 ボンッ!

 ボールは無情にも私の顔面に当たり、遠のく意識の中、床に向かって体が傾いでいった――



  ※



 気がつくと、私は保健室のベッドの中だった。

 足にひんやりとした感覚を感じて起き上がり、布団を捲って左足に触れる。湿布が新しく取り返られてて冷たく、靴下が脱がされ裸足だった。痛みは治まっていたので、とりあえず教室に戻ろうと思って立ちあがると、ぐらりと目眩がして床にしゃがみこむ。

 捻挫で足が痛いはずなのに、目眩と腹痛の症状が――なんで? そう思った時、そおっとベッドの周りに引かれていた純白のカーテンが開かれ、夏凛が顔をのぞかせた。


「芽依、大丈夫? 突然、ぶっ倒れるから、心配したよ」

「うん……ごめん」


 私はしゃがんだ格好のまま、顔だけ夏凛に向ける。痛むお腹に手を当て、縮こまるように体を丸める。


「着替えと鞄持ってきたよ。それから、コレ」


 そう言って夏凛が差し出したのは、ショーツの入った小さな白い箱とナプキン。私はしばらくそれを呆然と眺めて、腹痛と目眩の原因に思い至る。


「芽依、生理になったみたい。ジャージのお尻のとこ、少し汚れてるから、保健の先生がコレ使いなさいって」

「そっか……目眩がすると思ったら、生理か……」


 原因が分かってなんだかほっとする。


「足痛いのに、無茶するからだよ」

「ごめん……」

「今日は部活休んで帰りなよ。もう、帰りのホームルーム終わったから」


 そう言って夏凛は私の制服と鞄をベッドの上に置くと、私が立ちあがるのを手伝ってくれた。


「夏凛、ありがと。荷物と、ここまで私を運んでくれたのも夏凛なんでしょ」


 お礼を言う私に、夏凛は一瞬、目を見開いて、うーんって渋い声を出す。その視線が泳いでいて、私は首をかしげる。

 夏凛は口に手を当てながら。


「言っていいの……?」


 とか言うから、私は先を促す。


「何?」

「芽依を保健室まで運んだの、私じゃないんだよね……。芽依が倒れた時、真っ先に駆けつけてきたのが田中君でね。他にも男子が何人か女子コートに来て――小坂君もいたかな。でも、小坂君よりも先に、田中君が芽依のこと――」


 そこで一旦言葉を切り、夏凛は眉根を寄せてじーっと私を見て、視線をそらして一気に言った。


「お姫様抱っこして運んでいった――」


 はいぃ――!? お姫様抱っこ(・・・・・・)




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