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シロクロPOB  作者: 滝沢美月
第2章 その関係はタブー?
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第7話  ため息の訳



 一限目を終えた休み時間、再び特別棟の廊下で、私は虎太郎ちゃんに詰め寄る。

「あれは、どーいうこと!?」



 あれ――っていうのは、約一時間前。

 教室に戻ると、虎太郎ちゃんの親友の有沢君が言ったのだ。


「ふーん、田中って芹沢さんと付き合ってたんだね」


 って!

 すると、教室にいた他の子がみんなこっちを見て。


「やっぱり、噂は本当だったんだ……」


 って、興味津々顔で見る男子とか。


「えー、嘘ぉー」


 って、悲しそうな顔をする女子とか。

 噂とか、私は何のことかわからなくって、口をぱくぱくさせて、ただ虎太郎ちゃんを見ることしかできなくて。

 そうこうしているうちに、予鈴が鳴り、担任が教室に入ってきて「席に着けー」って言うから、渋々席に座ると、後ろの席の夏凛が背中を叩き、「どーゆうこと?」って耳打ちしてきたけど、私にも状況が理解できなくて、首を傾げた。



 それで、一限目を終えると、私は虎太郎ちゃんを引っ張って再び特別棟の廊下に来たというわけ。

 はぁーっと、大きなため息をついた虎太郎ちゃんは、眉根を寄せて憂いのある顔で私を見る。

 なんか、馬鹿にされてるみたいで、嫌なカンジ!


「こんなとこで話してると、また噂になるぞ」

「だから、その噂ってなんなの!?」

「あー、昨日……」


 虎太郎ちゃんはめんどくさそうに言って話し始めた。


「俺と芽依が一緒に帰ってるのを見た生徒が、俺達が『付き合ってる』って勘違いして噂したらしい。俺も今朝、有沢から聞いて、なんだそれって思ってたんだ。だから、その噂はでたらめだって言おうとした時に……」


 そこで一度言葉を切り、虎太郎ちゃんは大きなため息をつく。


「芽依が“虎太郎ちゃん”なんて呼ぶからだろ……」

「待って!」


 私は首を傾げて、虎太郎ちゃんの話を遮る。


「付き合ってる、の噂から、どうして、呼び方の話になるの?」

「だからっ!」


 虎太郎ちゃんは眉を吊り上げて勢いよく言い、またまたため息をつくと、うんざりした口調で続ける。


「芽依がそう呼んだのを聞いて、有沢は噂が本当だと思ったんだよ。俺のこと、下の名前で呼ぶヤツはこの学校にいないからな」

「そうなの?」


 突っ込むとこはそこか? って、虎太郎ちゃんが呆れた視線を向ける。


「そうなの」


 呆れながらも、虎太郎ちゃんは私の疑問を肯定する。


「でも、一緒に帰ったぐらいで、どうして付き合ってるって噂になるの? おかしくない? 普通、友達同士だって、二人で帰ったりするよね?」


 そうだな、って視線で虎太郎ちゃんが言う。


「おそらく……噂の出所は見当ついてるけど……」


 そう言った虎太郎ちゃんの声はあまりに小さくて聞こえなくて、首をかしげると、虎太郎ちゃんがじーっと私の足元を見た。


「なに?」

「足……」

「えっ?」


 つられて視線を足元に向け、虎太郎ちゃんが言おうとしてることに気づく。


「ああ、()ね。昨日一晩湿布したから、もう痛くないよ」


 両手を胸の高さでぐっと掲げて、大丈夫なことをアピールしたんだけど、虎太郎ちゃんは胡散臭そうな視線でちらりと私を見ると、歩きだしてしまった。

 教室棟に着いた時、チャイムが鳴り、教室に入るとすでに先生が来ていて、扉を開けた虎太郎ちゃんと私にみんなの視線がつきささる。私はその視線に圧倒されて体を固くしてたんだけど、虎太郎ちゃんは「すみません」って言って、何食わぬ顔で席に着いてしまった。



  ※



 昼休み。夏凛に詰め寄られ、昨日と今朝の出来事を洗いざらい(・・・・・)喋らされた。つまり、虎太郎ちゃんと“幼馴染”だってことも、つい勢いで言ってしまったの――

 仕方ないよね……

 それに虎太郎ちゃん、あまり人には言わないでほしいって言ってたんだよ。言っちゃダメとは言ってないもの!


「えっ、田中君と幼馴染っ!?」


 あまりの夏凛の声の大きさに、私は慌てて夏凛の口を押さえる。


「しーっ! 夏凛、声が大きい!」


 屋上の隅の方、夏凛と二人でお弁当を食べながら話してるんだけど、屋上には他にも生徒がちらほらといる。あんまり大きい声を出したら聞こえちゃうよっ。


「だって、芽依、昨日は『田中君って誰?』とか言ってたのに、今日になったらいきなり幼馴染ですって言われて……はいそうですかって納得がいくわけないでしょっ」


 興奮冷めやらぬ勢いで、でも、さっきよりも小さな声で夏凛が言う。私はその意見に同感で、苦笑が漏れる。

 お説ごもっともで、返す言葉もありません……


「私もね、幼馴染だっていうのは昨日知ったの。三歳の頃まですぐ隣に住んでたらしいんだけど、虎太郎ちゃんが引っ越して行っちゃって……」

「それっ!」


 私の言葉を遮って、夏凛が私の顔の前に人差し指を立てる。


「覚えてないって言う割には、いきなり下の名前、しかもちゃん付けって、どうなの?」

「えっと、それは、口になじむから、というか……」


 言い訳じみた答えをすると、夏凛の視線が鋭くなる。


「そんなんだから、付き合ってるーなんて噂になっちゃうのよ、芽依!」


 お弁当のおかずのミートボールを口に放り込みながら、夏凛が言う。


「気をつけなさいって言った矢先から、ファンクラブに呼び出されたんでしょ? 委員会が同じってだけで。それが名前で呼んでる!? 確実に、ファンクラブに睨まれるわよっ!」


 夏凛のその言葉に、今朝、渡り廊下で私を睨んできた女の子のことを思い出し、ぶるりと背筋を震わせる。


「やっ、やだ……」


 それはなんだか、めんどくさそぉー……


「でっしょー? 田中君は遠くから見てるには格好良いし目の保養になるけど、お近づきになるには毒が強すぎるのよっ!」


 うんっと頷いて、夏凛が一人で納得する。


「でもさ、委員会も同じだし、部活も同じなんだよ。喋らないわけにはいかないじゃない?」

「あんた……一年間同じ部活だったのに田中君と喋ってないどころか、存在も認識してなかったくせに」


 ぽそりと呟いた夏凛を、口をとがらせて睨む。


「そうだけど! 今はもう、ちゃんと認識してるし、話さないわけにはいかないよ」

「ん、まっ、せいぜい気をつけることね」


 所詮は他人事と手をひらひら振って、夏凛はデザートのヨーグルトを頬張り、幸せそうに目を細める。

 うー、人事だと思って……

 とりあえず、ファンクラブのことは、なんとかしないと……


「それよりさ、足、大丈夫なの?」


 今頃、思い出したように夏凛が言う。


「うん、湿布してるし、部活まではおとなしくしてれば大丈夫でしょ」

「えっ、ちょっと、芽依? 五限目体育だって、忘れてるの?」


 あっ……忘れてたっ!




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