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シロクロPOB  作者: 滝沢美月
第5章 その関係はピンチ!?
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第29話  ホライズンブルー



 クラス対抗リレーは、一年が赤組、二年が白組、三年が青組一位で、白組と青組との総合得点の差は埋まらなかったけど、棒引きや騎馬戦で追い上げを見せ、最後の四色対抗リレー、青組か白組か、勝った方が総合一位になる。

 四色対抗リレーは体育祭最後の種目で、応援団がフィールドに入り、それぞれ四つのコーナーで応援をする。走るのは六人で、この結果で優勝が決まると言っても過言ではないリレーに、全生徒がクラス席から注目して見つめている。

 私は本日二回目の、虎太郎ちゃんにバトンを渡す。バリバリ陸上部のバトンパスを披露して、見事一位に。総合でも青組が優勝することが出来た。



  ※



 一騒動あった体育祭も無事終わり、優勝も出来て担任がハーゲンダッツのカップのアイスを一人一個ずつ奢ってくれた。学校から出る景品の学食無料券十枚綴りも嬉しくって、言うことなしに学校生活を満喫してる――はずなんだけど。

 私の横には浮かない顔をした人が二人いる。

 体育祭が終わってから五日経った部活中。

 今日はあいにくの雨で体育館で練習。バレー部やバスケ部が練習する体育館の二階にあるキャットウォークを走り舞台横の階段を下りて一階を走り、反対側の舞台横の階段を上がってキャットウォークを走る――のコースを十周を走り終えて、筋トレをするべくトレーニングルームに向かう途中。夏凛は眉間に深い皺を刻んでぶつぶつ何か呟いてて、虎太郎ちゃんは無表情だけど纏っているオーラが苛立たしげに尖ってる。


「柴田さん、どうかしたの?」


 小坂君の横を歩く福田君がこっそりと私の耳元で尋ねるから、私は首をかしげる。


「分かんない、体育祭終わってから日に日に空気が張り詰めていって」


 福田君につられて小声になっていた私の声に被さって、夏凛が叫び声を上げる。


「あー、もう嫌っ! 中間試験まであと一週間なんてっ」


 正確には十一日だけど、今そんなこと言ったら確実に鋭い視線で睨まれると思って、口を引き結ぶ。


「そーいえば、月曜日に顧問に呼び出されてたね?」


 夏凛に聞くと、わーっと頭を左右に勢いよく振って、耳の下で切り揃えられた短い髪が激しく揺れる。


「中間の成績が悪かったら、試験明けの大会に出さないって言われた……」


 ぼそりと暗く沈んだ声で言われ、私と小坂君と福田君は顔を見合わせる。

 言うまでも無く、小坂君は学年トップの成績――もちろん虎太郎ちゃんも。

 私と福田君は上の下くらい? 頭が良いとは言えないけど、悪くはない。

 で、夏凛は――赤点ギリギリ……

 夏凛に視線を向けると、肩を落として俯いてて、どんよりとさらに暗い空気を纏ってる。しばらく黙っていた夏凛がぱっと顔を上げ、力強く拳を握りしめる。


「私、今絶好調なんだよねっ! 自己ベスト更新したし、思う様にタイムが伸びて。だから今度の大会に賭けてるのに……」


 夏凛が大会にどうしても出たい気持ちが伝わってきてどうにかしてあげたくなるけど、こればかりはどうすることもできなくて、困ってしまう。


「あっ、じゃあさ」


 トレーニングルームに着いて、扉を開けながら福田君が言う。


「部活後にみんなで図書館で勉強するってのはどう? 俺も数学は今回やばくて、小坂に聞きたい所があるんだ」

「それ、いい!」


 私のTシャツの袖を掴んで夏凛が言い、じぃーっと私の顔を見る。


「芽依、みんなで勉強しようよ。ってか、私に教えてぇっ!」


 縋りつくような瞳で見つめられて、尻込みしつつも頷く。


「う、うん。いいよ、私で教えられるとこなら」

「俺もいいよ」


 小坂君と視線が合って、ふわりと優しい笑みを浮かべる。


「仲間だしね、大会に出たい気持ちは分かるから」

「虎太郎ちゃんも来るでしょ?」


 今日はずーっと黙っている虎太郎ちゃんに視線を向けると、暗い瞳がギラッと鋭く光る。


「俺は遠慮しておく」


 不機嫌な声でそう言うと、一人で筋トレを始めてしまった。

 夏凛が浮かない顔をしていた理由は中間考査のことだったけど、虎太郎ちゃんが浮かない顔をしている理由も同じとは思えなくて、なんで不機嫌なのか分からなくて首をかしげる。

 それぞれ筋トレメニューをこなして部室に着替えに戻る。いつもだったら十八時まで練習があるけど雨の日の練習は早く終わるから、まだ十七時にもなっていない。

 完全下校時間まで二時間あるから、学校の図書館に行くことにする。

 着替え終わって部室から出ると、小坂君と福田君の二人が屋根のある場所で待っていた。


「田中君は?」


 夏凛が聞くと、福田君が苦笑して答える。


「帰るって言って、帰っちゃった」

「そうなんだ、じゃ、四人で図書館に行こうか?」


 さっき行かないって言っていたから、特に気にした様子ではなく夏凛が言い、図書館に向かって歩き出した。



  ※



 次の日の金曜日は部活が長引いて最終下校時間になっちゃって図書館には行けなかった。

 週が明け、中間試験一週間前で全部活が休止になり、放課後は図書館で待ち合わせて中間試験の勉強会をした。

 基本的には個人で問題集を解いて、分からない問題があると小坂君か分かる人に聞くって感じで、人生で一番ってくらい試験前に勉強をして一週間が経つ。今日は金曜日で、月曜日には中間試験が始まる。図書館での勉強会を終え、国府台駅に向かって歩く帰り道。


「あー、なんか勉強のしすぎで頭が痛くなってきた……」


 夏凛が伸びをしながらぼやいて肩をもむように触り、夏凛の隣を歩く福田君が相槌を打つ。


「俺も……こんなに勉強したの初めてかも」

「でも、これで赤点は免れそうで安心」


 一週間前と比べると、すっきりした顔をしている夏凛を見て、思わず笑ってしまう。


「あとは土日にしっかり復習すればばっちりだね」


 そう言うと、夏凛が眉間に深い皺を刻んではぁーっとため息をつく。


「せっかくの休みなのに勉強するの……?」


 ふてくされて言いながらも、勉強しないとダメか……って一人頷く夏凛。


「今週の土日だけ頑張って、中間試験頑張ろ? そしたら来週は大会だよ」


 すべては大会に出る為に頑張って勉強したのだから、成果をしっかり出して、大会でも頑張りたい。

 四人で目を見合わせて頷き合う。

 改札をくぐって、夏凛は一番ホームへと行き、私と小坂君と福田君は二番線で電車を待つ。一番線に先に電車が来て手を振って夏凛を見送り、入れ違いに来た電車に乗り込む。

 席が空いてたから、小坂君を真ん中に三人で座る。福田君は鞄の中からサンデーを取り出して読みだす。


「小坂君、勉強教えてくれてありがとね。なんか私達が聞いてばかりで、集中できなかったんじゃない?」


 私も夏凛も福田君も分からない問題はだいたい小坂君に聞くから、小坂君は自分の勉強がほとんど出来てなかったと思う。


「そんなことないよ。教えながら、復習してるから」


 ふわりと言う小坂君に和んで、一緒に笑う。それから私から視線を正面に向けた小坂君が、少し掠れた声で言う。


「今週の土日はどうする――?」


 小坂君と付き合いだしてから――部活が休みの土曜か日曜のどちらかを一緒に過ごすようにしている。平日の放課後は部活で忙しくて二人で出かけることは出来ないから。


「試験前だし、勉強するよね? 今週は会うのやめようか――?」


 尋ねられて、口元に手を当てて考え込む。

 小坂君は頭いいから勉強しなくてもいいかもしれないけど、私はしっかり勉強しなければいけない。でも、小坂くんと一緒にも遊びたくて、どうしたらいいか迷って口ごもってると。


「うち……来る?」

「えっ?」


 驚いて小坂君を仰ぎ見ると、艶ぽい瞳で見つめられてドキドキしてしまう。

 いままでデートって言っても、映画に行ったり、ショッピングモールでぶらぶらしたりで、お互いの家には行った事がない。小坂君の家に誘われて、鼓動が速くなる。


「うちで、一緒に勉強する?」


 一瞬前の艶っぽい表情から、いつものふわりとした笑みで笑う小坂君に、即答で頷いていた。


「うん、小坂君の家、行ってみたい」

「じゃあ、日曜日に谷津駅で」

「うんっ」


 日曜日に小坂君の家で勉強する約束をして、私は海神駅で電車を降りた。




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