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シロクロPOB  作者: 滝沢美月
第4章 その関係の呼び名は?
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第26話  動き出す鼓動



 体育祭当日。梅雨入りを目前に今週はずっと天気のいい日が続いてて、今日も真夏の様な暑さになると天気予報士が言っていた。

 空には雲一つなくて、照りつける太陽が眩しすぎて嫌になる。気温の上昇もさることながら、体育祭の熱気もすごくて、ゆらゆらと校庭から熱が立ち昇っている。

 校庭には赤、青、白、黄色の四色の鉢巻きをした生徒が四列ずつ、それぞれ色ごとに分れて整列し、各色の最前列には団旗を持った団長が立っている。

 色はクラスごと縦割りで分れていて、一組が赤、二組が青、三組が白で四組が黄色。私は青組だから頭には青い鉢巻き、腕には体育委員の腕章をしている。

 開会宣言、校歌斉唱、校長先生の挨拶、その他の挨拶が終わって、最初の種目が始まる。

 最初の種目は百M走で、一年女子、男子、二年女子、男子、三年女子、男子の順で八人ずつ走り、十二レース行われる。

 私は後ろに並ぶ二年男子の中に小坂君を見つけて、話しかける。


「小坂君、おはよう」


 朝は体育委員の仕事でいつもより早く学校に来たから、小坂君と話すのは今日初めてになる。


「おはよ」


 ふんわりと優しげな笑みを浮かべた小坂君に、きゅんっとしてしまう。

 小坂君が百M走に出ることは練習の時に知っている。それでもって、小坂君の横には虎太郎ちゃんが座ってるから、不思議な感じがする。

 一年生がどんどんスタートしていき、二年生女子の一組目がスタートラインに移動していく。順番を次に控える二年女子二組目のとこに夏凛がやってきて、手に持った八本の割り箸を差し出す。


「コース決めのくじ引きして下さい」


 持久走系のスターターの仕事は陸上部員に割り当てられた仕事なんだ。で、百M走は夏凛の当番になったみたい。

 百Mは直進だからコースはどこでも良くて、私は残った最後の一本を引く。


「あっ、二レーンだ」


 うきうきとし出して、にこっと笑って夏凛にくじを返す。


「スタート地点に移動して下さい」


 言われて立ち上がった私の後ろから、小坂君が声をかけてくれる。


「芹沢さん、頑張ってね」

「うん、ありがと」


 笑顔で返すと、虎太郎ちゃんが意地悪な顔でにぃっと笑うから、眉根を顰める。

 なっ、なんか嫌なカンジー!

 陸上部員だし、百M走は専門だからね。負けるわけにはいかないっていうか、一位になりたいって気持ちが強い。まあ、いつもの練習の成果を出しきるだけなんだけど。

 スタートに立った時も、隣に立つ子達は慣れない姿勢で戸惑っているから、胸がくすぐったくなる。でも。


「位置について――」


 その掛け声で、意識を目の前のコースにだけ集中する。

 パンッ! というピストルの音に、駆けだして――

 わー、わー、って大きな声援が響く。

 余裕で一位でゴールして、一位の旗を持った人の後ろに並び、スタート地点に視線を向けると、中央、四レーンと五レーンに小坂君と虎太郎ちゃんが並んで立っているから目を見開く。

 わー、小坂君と虎太郎ちゃんの一騎打ちみたい。そんなことを思ってしまう。次の組みにくじを渡しに行く夏凛も、二人が隣同士でレースを見守っている。

 パンッ! というピストルの音に続いて、中央の二人がすごい勢いで飛び出して、周りの生徒を引き離して行く。

 上体を起こした小坂君と虎太郎ちゃんは、ほぼ横並びで五十M地点を過ぎ、七十五M地点を過ぎ……小坂君が体一つ分リードする形でゴールテープを駆け抜けて行った。

 私の後ろ、一位のとこに来た小坂君におめでとうと言う。その隣、二位の旗のとこにいる虎太郎ちゃんを向いて。


「虎太郎ちゃんって、百Mも速いんだね。小坂君とほとんどタイム変わらないなんて」


 ハードル走者の虎太郎ちゃんが小坂君と百Mを走るのは初めて見るから、感動してそう言ったのだけど。虎太郎ちゃんは、ふいと横を向いて、無愛想な声で言った。


「たまたまスタートのタイミングが良かっただけだ。俺と小坂のタイム差は大きいよ」



 午前中、私は一種目置きになにかしら競技に出ていて、当日の体育委員の仕事はほとんど出来なくて、その代わりに昼休み時間の見回りを引き受ける。で、同じクラスだからって、虎太郎ちゃんも昼休みの見回りを一緒にすることになる。

 だから、お昼休憩になってすぐに、私はお弁当を広げ、なるべく早く食べる努力をする。本当は小坂君と一緒に食べたかったけど、ゆっくりしている時間もなくて、クラス席でお弁当を食べてたんだけど、私の隣にはなぜか――夏凛じゃなくて虎太郎ちゃんが座っている。

 夏凛は両親が見に来てるからって保護者席にいっちゃって、一人でさびしくご飯……って思ったら、虎太郎ちゃんが隣にいるんですが……なぜ?

 もの問いたげな視線を投げかけると、大きなお弁当箱の中身がすでに半分以上空になってる虎太郎ちゃんが私の視線に気づいてこっちを見る。


「今日は母さんが見に来てるから、後で保護者席に顔見せに来てくれって言ってた」

「えっ、おばさん来てるの?」

「ああ。母さん、こういうイベント好きだから」

「へー、そうなんだ。分かった、見回り終わったら、行こう」


 言いながら、一個目のおにぎりを食べ終えて、おかずをつまむ。普段、私はご飯食べるのがすごく遅くて、だから今日は食べやすいようにおにぎり二つと小さなタッパーにおかずを少しだけ入れてもらった。

 お昼休みになって五分程しか経ってなくて、周りの生徒はまだ、どこでお昼食べようかとかざわざわしている。


「田中くーん!」


 甘ったるい女子複数の声がして、虎太郎ちゃんと同時に、思わず私まで声のする方を振り向いてしまう。

 そこには虎太郎ちゃんのファンクラブの子達十人程が立っていて、この前私と言い争ったロングヘアの子がいて、彼女と視線が合ってギラッと鋭い視線で睨まれて、苦笑して眉尻を下げる。

 確かにこの前、いちゃもんつけられて頭に来て言い返したけど、だからって彼女の事を嫌っている訳じゃない。それが一方的に敵意を向けられては、苦笑するしかないでしょ。

 まぁね、彼女が敵視する理由は分かるよ。好きな人の側に女の子がいたらいい気分はしないだろうけど、私と虎太郎ちゃんはただの幼馴染なんだから。ってか、同じ体育委員で仕事があるから仕方なく一緒にいるだけなのに……


「一緒にお昼ご飯食べましょ~」


 ちらっと横の虎太郎ちゃんのお弁当を覗くと、もうほとんど食べ終わってる。


「ああ、だけど」


 虎太郎ちゃんが断ろうとした言葉よりも早く、ファンクラブの子たちは虎太郎ちゃんを取り囲むように空いている椅子に陣取ってしまう。

 もちろん、隣に座っている私もその輪に囲まれてしまって、すごく居心地が悪い。

 虎太郎ちゃんが私に視線をよこし、膝の上に広げたお弁当がまだ半分残ってるのを見て、ふぅーっとため息をつく。

 私は慌てておかずの半分残ったタッパーの蓋を閉じ、その上におにぎりを乗せてナフキンで包んで鞄に突っ込む。


「さっ、さぁーて、体育委員の見回りに行こうかな……」


 独り言にしてはぎこちなく言ってがばっと立ち上がり、クラス席から体育委員本部に向かって歩き出す。


「あっ、田中君、どこに行くの?」

「俺、これから委員の仕事で見回りだから」


 素っ気なく言って虎太郎ちゃんが私の後ろ、五歩の距離を開けてついてくる。


「待って、私達も一緒に……」


 お弁当を食べ始めようとしていたファンクラブの子たちは慌てたように立ち上がる。

 体育委員本部で見回り表を受け取って、見回りを始めたんだけど……

 ちらっと横目で後ろを振り返る。私の後ろにはもちろん虎太郎ちゃんがついてきてて、さらにその後ろをファンクラブの子がぞろぞろと付いてくる。いつの間にか、ファンクラブの子の数が増えてて、まるで大名行列の様な大人数で会場内を歩き回り、周りから注目を集めていた。

 なんなの、これ!?

 虎太郎ちゃんは体力測定で総合一位になった小坂君がモテモテになるって言ってたのに、表彰式の日にクッキーを渡しに来た子以外、小坂君に好意を示している子を周りで見かけることはなかった。

 気鬱で済んでよかったけど、これじゃあまるで、キングは虎太郎ちゃんみたいじゃない――




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