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シロクロPOB  作者: 滝沢美月
第4章 その関係の呼び名は?
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第24話  もどかしい想い



「ごめん、俺のせいでまた芽依に怪我させて……」

「別に虎太郎ちゃんのせいじゃないよ」


 本当にそう思うのに、虎太郎ちゃんがあまりにも気にして沈んだ声を出すから困ってしまう。

 昼間に叩かれた私の頬は少し赤みが引いたけど、まだ腫れている。


「私も少し興奮しちゃって、向こうが一方的に悪い訳じゃないから」


 放課後の教室で、私と虎太郎ちゃんは隣に並んで座って、声を落として話していた。


「芽依にしては、言い返すなんて珍しいんじゃないか?」


 確かにそうかも。いつもだったら面倒事には関わらない様にして、聞き流す事も出来た。


「だって――理解できなかったから。好きなのにその気持ちを伝えないで、ただ見てるだけで満足してるなんて。そんな人に、あーだーこーだって、口出しされたくなくて」


 虎太郎ちゃんのファンクラブの子が虎太郎ちゃんを好きなのは当たり前だけど、本人を目の前に好きだとか言ってしまって、はっとする。だけど横に座る虎太郎ちゃんの表情が曇っていて、首をかしげる。


「芽依はまっすぐだからな……気持ちを素直に伝えられて、それが普通だと思える事が羨ましいよ。だけど、好きだから伝えられない――そういう好きもあるんだ」


 あまりにも切ない顔で言うから胸が締め付けられて、何も言えなくなってしまう。

 虎太郎ちゃんは、そういう気持ちを知っているのだろうか……

 だって、私には理解できないから。好きなのに、どうしてその気持ちを伝えないでいられるの――?

 好きなのに気持ちを押し殺して、その閉じ込めた想いは、どこに向かうの――

 考え込んでしまったんだけど、教室内の喧騒に顔を上げる。


「それにしても――」


 そこで言葉を切り、前方に視線を向ける。

 教壇に立った体育委員会委員長と副委員長、一番前の席に座った役員。その後ろでクラスの体育委員がすごい勢いで手を上げたり意見を発言したりで、すごい熱気に満ちている。私と虎太郎ちゃんは教室の一番後ろの席に座ってその様子を、他人事のように眺めている。

 今は体育委員会の会議中。体育祭まで一ヵ月を切り、慌ただしく準備が始まる。

 体育祭までの期間、体育委員は何度も会議を重ね、種目やルールの決定・確認、景品決めから購入、備品確認、当日のタイムスケジュールの作成、係決めエトセトラ……

 やらなければならないことはたくさんあって、まあ、半分ほどはもう決まってるんだけど、今は当日までの係と当日の係を決めているところで。


「皆、すごい気合いが入ってるね……」


 いつも一緒に体操をしている三組の矢内さんまで積極的に手を上げて分担を受けもってるし、みんなのあまりのやる気にちょっと引いてしまう。だって私はもともとジャンケンで負けてなりたくて体育委員になった訳じゃないし、体育委員ってすごく大変ってイメージがあるから、あまり自分からなりたがる人っていないじゃない? 係決めでだいたい最後まで決まらない委員会のトップ三なんだよ。

 そういえば、虎太郎ちゃんはジャンケンで負けて仕方なくとかじゃなくて、自分から体育委員になったんだよね。どうしてだろう?


「まぁ、体育委員になるやつって、やる気があるやつとぜんぜんないやつの両極端だよな?」


 私はやる気のない方に分類されるけど、なったからにはちゃんとやろうとは思ってるよ。ただ、私と一緒に傍観者を決め込んでる虎太郎ちゃんは、どっちに分類されるんだろう――


「でも今年は、前者が圧倒的多数を占めてる感じだな……」


 そんなことを客観的に分析して、苦笑してる虎太郎ちゃん。


「虎太郎ちゃんはどうして体育委員になったの? 自分で立候補したんだよね?」

「ああ……」


 なんだか歯切れの悪い言い方をする虎太郎ちゃんをまじまじ見ると、気まり悪そうに口元に手を当てて肘をつく。

 ん――?


「俺、将来は体育教師になりたくて……」


 大きな手に隠された頬が僅かに赤く染まってる事に気づいて、ビックリしてしまう。

 黙ったままじぃーっと見つめてると視線が合って、虎太郎ちゃんが眉を顰める。


「どうせ、似合わないとか思ってんだろ?」


 卑屈に言うから、私は慌てて首を振る。


「違う、そんなこと思ってないよ。ただ……将来の事とかもう考えていて、すごいなって思っただけ」


 私なんて、将来の事なんてぜんぜん考えた事もない。


「ただ、今より少しでも早く走れるようになってるといいな――そんなことしか考えた事がなくて、なんだか恥ずかしいな」


 そう言うと虎太郎ちゃんがふっと目元を和ませて。


「ぜんぜん考えてないわけじゃないじゃん?」


 って言うから、なんだか胸がくすぐったくなる。

 将来の私は何してる――

 未来の私の隣でも、こんな風に虎太郎ちゃんは笑っているだろうか――



  ※



 委員会で種目が発表され、週明けのロングホームルームで誰がどの種目に出るか決めることになった。まあ、これが結構大変な作業なんだよね。


「各種目と出場人数をいま黒板に書いたから、どれに出るか考えて。一人最低一種目は出ること――」


 虎太郎ちゃんが種目選びの説明をしている間、私は黒板に種目を書いていく。百M走、二百M障害物競走、ムカデ競走、二人三脚パン食い競走、綱引き、騎馬戦、棒引き、玉入れ。それ以外にリレーが、学年対抗スウェーデンリレー、四色対抗リレー、クラス対抗リレー、それから部活対抗リレーがある。


「とりあえず、先にリレーのメンバーを決めようと思うんだけど、いいかな?」


 虎太郎ちゃんに言われて、先日の体力測定のクラスの結果一覧を出す。参考にするのは五十M走のタイムだけなんだけど。


「じゃ、まずはクラス対抗は12人。男女それぞれ上位6人でいいか? 名前呼ぶから、もし出たくなければ言ってくれ――」


 そんなこんなでリレーを決め、他の種目を決め、埋まってない種目を立候補や推薦で決めていった結果――

 百M走、二百M障害物競走、ムカデ競走、二人三脚パン食い競走、クラス対抗リレー、四色対抗リレー……が私の出場種目。

 百M走、ムカデ競走、騎馬戦、棒引き、クラス対抗リレー、四色対抗リレー……が虎太郎ちゃんの出場種目。

 平均して一人二~三種目が普通なんだけど、私と虎太郎ちゃんは体育委員会だってことと陸上部だってことで、徒競走系の種目と人数が足りない種目を優先的に出させられて、一人六種目――約二人分出なければいけなくなってしまった。

 体育祭は楽しみだし、いろんな競技に出られるのはいいんだけど、当日、体育委員は進行や審判で忙しい。その上、二人分の競技にでないといけないなんて――体力がもつか心配だ。

 それに同じ陸上部の夏凛が三種目なのに納得がいかない。平凡すぎ!

 まぁ、私も虎太郎ちゃんも体力測定の五十M走のタイムがクラス一位だったから、仕方がないのかな……



 それからはもう大忙し。体育の時間は体育祭の練習だし、週に一回は委員会があって備品を確認して整備して、入場門とかの紙の花を全部作り替えて、看板も作り直す。当日の進行の確認もして、景品の買出しに行ったり。

 部活の方は部活の方で六月末に大会があるからそれに向けて少しずつ練習量が増えるし、授業だって六月末の中間考査に向けて慌ただしくなる。

 六月一日。三日後に体育祭を控えて、最終準備に入る。

 女子の分担だった入場門の花作りの自分の担当分が出来上がったから、虎太郎ちゃんの手伝いに行ったんだけど――それが諸悪の根源だった。




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