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シロクロPOB  作者: 滝沢美月
第3章 それぞれの恋愛事情
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第21話  明かされた真相 <秀斗side-4>



 くすりと笑って俺の肩に手を置いた田中が、俺だけに聞こえる声で囁いた。


「安心しろよ、俺と芽依はただの幼馴染で付き合ってないし、俺には彼女いるからさ。俺は芽依の兄貴分みたいなもんだから……泣きつかれると弱いんだよな、だからもう泣かせるなよ。勝負のことは俺たちだけの秘密ってことで、まっ、せいぜい仲良くやれよ」


 俺は思わず田中を睨み返したが、田中のその一言で、それまで張りつめてたものが解け、穏やかな気持ちになれたんだ。

 おまけに、わざとらしく鼻で笑って。


「芽依をかけて勝負? ふんっ。芽依は小坂と付き合ってるんだろ。なのに、なんで俺が小坂と勝負するわけ? 芽依のことは別に好きじゃないし?」


 さりげなく、でも確実に噂を打ち消す言動をして去って言った。



 その後姿を見送り、俺は晴れやかになった心に、一つの確信を抱く。

 田中はもしかして芹沢さんを――だから、あんなことを言ったのか――

 もし本気で田中が芹沢さんに向き合ったら、今回のようには俺は勝てない――そう感じて、好きな子のために本気になれる田中が格好良く見えて、悔しくなる。



「なぁ、ほんとに、勝負してたんじゃないのか?」


 福田は一人納得がいかないというように、俺に詰め寄ってくる。

 俺は苦笑して、仕方なく田中の言う通りに勝負の話なんかなかったことにする。


「どこでそんな話聞いたの? 田中とはただお互いに自己ベストを越せるかって話してただけだよ」


 本当は芹沢さんのための勝負だったけど――そう思うと、自然と芹沢さんに視線が向く。



  ※



 一週間前――


「しばらく、朝一緒に行くのやめよう……」


 冷静になる時間が必要だと思ったからそう言って。

 次の日――


「俺も本気で芽依のこと狙うよ?」


 余裕たっぷりの笑顔の田中に言われて、田中への嫉妬心とどうしても芹沢さんを失いたくないという気持ちで、頭にかぁーっと血が上って思わず言っていた。


「わかった、それなら勝負しよう。俺と田中の足の早さはほぼ互角だろ? だから、来週の体力測定で負けた方が身を引くっていうのはどう?」


 それからは意地になって、田中と決着がつくまでは芹沢さんと話さないと決めて――

 あれから一週間、こんなに長い間芹沢さんと話さなかったのは初めてかもしれない。



  ※



 ずっと話していなかったから気まずい雰囲気が流れたけど、俺は早く芹沢さんと元通りになりたくて、どうしたらいいかと迷って――笑顔で話しかける。

 芹沢さんが足の怪我を黙ってたのは俺を心配させまいとしてだって、冷静になれば理解できたことも、あの時は、ただふがいない自分に苛立ってて――

 でも今は、そのことで芹沢さんを泣かせてしまったことのほうが悔しくて。だから、もうそんなことがないように、俺は芹沢さんに笑いかける。


「芹沢さん、今日、一緒に帰ろう?」


 ちょっと顔が引きつっていたかもしれないけど。

 そしたら芹沢さんが瞳にいっぱいの涙を浮かべるから慌てたんだけど、芹沢さんが泣きながらも俺に笑顔を向けるから、胸がぎゅっと締めつけられて。

 グラウンドにいるということも、体力測定で周りに生徒がたくさんいるということも忘れて、思わず芹沢さんを抱きしめていた――



 すぐに、なんて大胆なことをしてしまったんだと赤面したが、俺と芹沢さんが付き合ってることを周りに認識させるには絶大な効果を与えた。

 まあ、そんなことを考えての行動じゃないけど――棚ぼた的なおまけで。

 とにかく俺は、腕の中に感じる芹沢さんの温もりをもう絶対に離さないと――

 これからも芹沢さんと一緒にいたいと――

 噂ぐらいで揺らがずもっとどっしりと構えると――決めたんだ。

 例え、どんなことが起きても――




第17話の秀斗視点です。

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